それは呪いか祝福か

川獺

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邂逅

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 今日も良く晴れた記録的な猛暑日。照り付ける日差しは強く、雲一つ無い快晴。
 家で待つと言った健斗に留守番を頼み、人で賑わう駅前通りまで足を運んだ。ハンディファンで風を顔に当てながら歩く高校生位の女子達と擦れ違い、時代は進化して行くなと柄にも無く物思いに耽る。一定の速度で歩き続け、目的地に辿り着くと鞄を漁り一枚の招待状を取り出す。
 手にした招待状に書かれた住所はこのファッションビルの名前で間違いない。こんなご立派なビルの中でテナントとしてやって行けているのを考えてもやはりそれなりに人気なのだろう事が伺える。
 自動ドアを抜けてビル内に入ると空調が効いていて温度も丁度良い。フロア案内を確認してエスカレーターの場所まで行くと後は人の波に乗って上がって行くだけだ。八階なのだからエレベーターの方が良かったか?と思わないでもないが空いているとも限らないのでこの選択を良しとする。
 目的の八階まではそう掛からず、人の波から抜け出して近くのフロアマップを眺める。現在地を示す赤い印から右の角へ向かうだけ。これなら迷う事は無いと安堵して右方向へと歩き出せばひそひそと嬉しそうに小声で喋る二人組の女性達が見えた。来た方向からして占って貰った後の客なのだろう。その楽し気な様子にまぁ占いも考え様によっては悪い物でも無いんだろうと思わされた。
 フロアマップの通りに右の角へ向かうと完全に区切られたひとつのブースとして存在している占いの館が現れる。時間帯が丁度良かったのか並んでいる人数は少なく、その最後尾に並んで暇潰しにスマートフォンをポケットから手に取りネットニュースを確認した。
 芸能人の熱愛報道や交通事故、政治の話にビジネス関係と様々。適当に流し読みして行き、女性客が出て行くと共に列が進むと自分も一歩前に出て暫く待つ。ブースの壁に掛けられている案内を見るに如何やらこの占いの館にはメインのステラだけでは無く数人の占い師が居るらしい、それぞれ西洋占星術やタロット等役割分担している様だ。それなら思いの外進みが早いのも頷ける。
 順番が近付き、占いの館のブース内をチラリと覗けば会計兼案内人らしい女性スタッフが一人と防音と思われる小さな個室が三つ。それぞれに担当の占い師名の札が掛けられている。噂に聞く占い師のイメージはパーテーションやカーテンで区切った程度の最小限の設備しかない物だとばかり思っていた為に此処まで金を掛けている事に驚いた。
「お待たせ致しました、今日はどの占いをご希望ですか?」
「あ、招待状貰ってて……これなんですけど」
「確認させて頂きました、七森様ですね。では此方の部屋にお入り下さい」
「はい」
 自分の順番が回ってくると女性スタッフに招待状を渡して見せる。すぐに向こうも把握した様子で一番手前の個室――ステラと書かれた札が掛かっている場所に案内され、扉を数度ノックした後に開いた扉の中へと入ったと同時に女性スタッフによってゆっくり扉が閉まった。中は薄暗く上からぶら下がった照明がひとつ。
「ようこそ、七森包サン」
「げっ」
「まぁまぁそう嫌そうな顔しないで。どうぞ座って下さい」
 前を向いた途端目が合ったのはにこにこと擬音が付きそうな程に胡散臭い笑顔を浮かべた派手な金髪の青のカラコンをしたホストみたいな男。昨日健斗が怖がっていたまさにそいつだ。
「ステラってお前かよ……てか男かよ……」
「男の占い師だって沢山居ますよォ?さて、此処にお呼びしたのはアナタと少~しお話させて頂きたかったからです」
「俺は用事ねぇけど」
「釣れませんねェ~?七森包サン、二十五歳、誕生日は八月八日で獅子座のO型。ご職業はウェブデザイナー、ご兄弟は弟さんがお一人……まだまだありますよ?」
「何で……」
 渋々椅子に座ると両手の上に顎を乗せテーブルに肘を付いたステラが此方を見透かす様に青い眼を向けて来る。つらつらと俺のプロフィールを述べ始めるこいつに冷や汗が一筋伝った。その反応に気を良くしたらしいステラは続けて口を開く。
「ああ、これは占いで言い当てている訳ではありません。此処まで個人情報視えたら流石に怖いですからネ!ちょーっとしたツテを使って調べただけです」
「普通に最悪じゃねぇか」
「まぁそう言わずに!つい先日アナタの職場にウェブデザインのご相談をしに行かせて頂きまして。其処でついつい包サンに一目惚れを」
「猶更タチ悪ぃわ!」
 この僅かほんの数分間だというのにどっと疲れが込み上げる。相変わらず胡散臭いが顔がやたら良いのが更に腹立つ要因だ。ホストに絶対こんな奴居る。間違いない。
「でもですねェ……どうやらアナタには邪魔なモノが憑いている様で。いやぁ困りました」
「…………」
「ボク、表面上は占い師やってますけど神社の家系の次男でして」
「何が言いてぇんだよ」
 ほんの少しの不機嫌を感じ取ったのだろうステラがすっと目を細める。心の奥底まで見通そうとする視線が居心地の悪さを加速させた。
「ではそうですね、回りくどいのは辞めて単刀直入に言いましょう。ボクは霊能力者の側面も持っています。つまり浄霊も出来ると言う事ですね」
「……必要ねぇし」
「ではこうお話しましょうか、成仏出来ないでいる霊は不成仏霊と言って放って置けばいつか悪霊になってしまいます」
「そんなの信じられるかよ」
 信じたくない、というのが正しいのかもしれない。だがあの健斗の怯え方から察するにこの男が言っている事は多分間違いないんだろう。でもそんな事認められない。
「未練や執着でこの世に残り続けるのは正しい事ではありません。そんな事が罷り通ってしまえば霊で溢れてしまいますからね」
「そもそも大体、俺が決めて良い事じゃねぇんだよ……」
「来週から丁度お盆ですね。あの世に送るには丁度良いかと思いますが?」
「何度も言わせんな、俺が決めていい事じゃねぇんだって」
 何を言っても正論で返される、いい加減うんざりして来た所でステラがふむと何か考える素振りを見せた。
「余程あの霊に御執心な様で」
「恋人の幽霊を祓いますって言われて、はいそうですかなんて言える訳ないだろ」
 相も変わらず腹が立つ程の笑顔で言われたかと思えば俺の返答にステラが急に真顔になった。それは圧を感じる程で何となく息苦しくなる。さっきまでの和やかなこいつは何処に行ったのかと問いたくなる位だ。
「妬けますね。よりによって幽霊が恋敵なんて」
「恋敵って」
「ボクはこう見えて本気ですよ?顔も良いし金もあるし尽くしますし浮気もしなければセックスも上手い。優良物件だと思いません?」
「触んな、つーか自分で言うかよ普通……」
 一切笑っていない目で見据えられ、不意に立ち上がり近付いて来たステラに頬を撫でられ至近距離まで詰められると耳元で囁かれる。ふわりと柑橘系の香水の匂いがした。手を払って拒否するが健斗の手もこんな風に暖かかったなと少しでも考えてしまった自分が嫌になる。
「仕事中じゃなければキスしてしまいたかった所ですが、今日はこの位で」
「充分職権濫用してんじゃねぇか」
「では折角なので占って行きますか?」
「んな気分になるかっつーの。もう行くし……っておい!?」
 椅子から立ち上がると同時に引き寄せられて腰元から尻に掛けてを撫でられゾワゾワした感覚に思わずステラを引き剥がす。すっかり最初と変わらない胡散臭い笑顔に戻っていたこの男の考える事がさっぱり分からない。
「また会いましょうね、包サン」
「セクハラで訴えんぞ!……もう会わねぇ」
「いいえ、アナタは必ずボクに会いに来ます」
「どんな自信だよ……じゃあな」
 踵を返して扉を開けて個室から出て行く。三十分に満たなかったが凄く疲れた気がする。そこからどうやって帰ったのかはよく覚えていない。
 今日の話が本当だとしたら健斗は本当は居てはいけない存在なのだろう。成仏出来ずに幽霊として其処に居る。感覚がマヒして当たり前の様に思っていたが本当はそうじゃない。お盆は来週、それまでにこの気持ちが整理できるかと思うと気が遠くなった。
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