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第二十一話 町には着いたものの……

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 俺は人の町に行くべくラフィアと二人、空を飛んでいた。

《マスター、ラフィア様、そろそろ降りて、徒歩で向かいますよ》

「分かった」

 俺たちはアルルのナビに従って、移動手段を徒歩にする。

「長距離の空の旅って意外と気持ちよかった」

「そうですね。でも、人前ではあまり出来なさそうですけどね」

「かもね。名のある魔法使いならいざ知らず……」

 ラフィアと、あれが出来そう、あれが出来なさそう、などあれこれ会話をしながら歩みを進める。既に日は高く、間もなく正午だろうか……

「晴成さん、そろそろお昼にしませんか?」

 ラフィアも頃合いと見たようだ。俺は断る理由も無いので、レジャーシートを広げ、準備を進める。

「なんだかピクニックだね」

「そうですね。こうして二人きりで出かけて、外で食事というのもいいものですね」

 あれ、二人だけで外で食事って初か?

「そういえば、外で二人きりは初めてかな?」

「ええ。いつもは半日工程で、食事は家でしてましたから、こういう風なのは初めてですね」

 ラフィアが楽しそうに微笑んでる。

「はい、どうぞ。おしぼりです。因みにお昼はサンドイッチです」

「ありがとう。ますますピクニックだね」

 俺はおしぼりで手を拭き、サンドイッチに手を伸ばした。

◇◆◇◆


「さて、食後の休憩もとったし、そろそろ町に向かいますか」

「はい」

 俺たちは荷物をしまい、町への移動を再開した。
 しばらく歩くと立派な城壁が目に入った。高さは3~4mという所か。あれだけの高さを囲むような城塞都市なら、それなりに大きい街なのであろう。

《マスター、あの町が目的地だよ》

「なるほど。思ったよりも大きくてびっくりだ……」

 程無くして城門が見えてきた。此の城門からは街道がのびて無いせいもあって、特に並んでいる人もいない。その所為もあってか、こちらの門兵は、片方はオドオドしており、もう一方は欠伸をしていた。
 ……暇なのか? 確かに長閑な気はするが……

「ちょっと待ちな。お前たちは何者だ」

 欠伸をしていた方の門兵が声をかけてきた。
 なんだか柄が悪そうな……ヤンキー系はそりが合わないんだよなぁ……

「こんにちは。俺は晴成。ユーリさんに呼ばれてきました」

 務めて平静を装いながら、俺はセバンから受け取った封書を見せる。

「! 坊主、これをどこから盗んだ?」

 ム? 言いがかり系か?

「こんなもの盗めるわけ無いでしょ。先日あったセバンさんが渡してくれたんだよ」

 俺は怒りを堪えながら言う。もっとも、ラフィアは殺気立っていたが……

「なに~? このガキぃ~!」

「セ、先輩……それ先日連絡があった件では……」

 オドオドしていた方が口を挟んだ。

「うるさい、お前は黙ってろ。分かった、ガキ、これは確認のために預かっておく。それと、入門料で銀貨五枚な」

 あ、お金? 持ってないわ。銀貨、と言っているんだから、円では無いよね……拠点に居るときはDPしか使わなかったからなぁ……

(アルル、銀貨五枚ってどの程度?)

《ゴメ~ン、マスター。人の相場までは分からないや……》

(……あっそう)

「あ~、ごめんなさい。お金持ってなくて……代わりの物でもいいですか?」

「あん? 金持ってねぇだぁ? じゃぁ、ここは通せねぇな。でも、物次第では考えてやらなくてもない」

 マジで銀貨五枚ってどの程度だ? ワイバーンほどでは無いにしろ……う~ん……
 俺は以前狩ったオオカミの毛皮と、イノシシの毛皮を【次元収納】から取り出した。

「お、お前、今どこから出した……」

 あ、しまった。この手のやつは見せていけないんだっけ?

「どこからって、ただの手品だよ」

「て、手品かぁ……だよなぁ……」

 ふぅ……この世界にも“手品”が有ってよかった。

「ま、まぁ……こいつらなら銀貨五枚程度の価値はあるかな……」

 どうやら通してくれるようだ。今一つ相場が分からんが、まぁ良しとしよう。

《ねぇ、マスター、ひょっとして払いすぎたんじゃない? 片方のオドオド君、顔が青くなってるよ?》

(あ、ほんとだ……まぁ、良いんじゃない? あれ使い道無いし……)

《まぁ、お肉以外、特に要らなかったもんね》

「あ、それで一つ聞きたいんですけど、お勧めの宿屋って有ります?」

「宿屋だ~?」

 ヤンキー系は受け答えは何でこうも面倒なんだ。
 それに、そろそろラフィアの堪忍袋の緒が切れかねない。だって、今までに見たことない顔してるんだもの……
 俺がラフィアの事でハラハラしていると、ヤンキー兵士は、何かを思いついたらしい顔をした。

「ここを出て、二本先の道を右に曲がって道なりに行くと“スズメの宿”ってぇのがある。お勧めだぜ?」

 ニヤニヤしているのが気にはなるが、早くここを離れよう。俺も胃が痛くなってきた……

「分かりました。では、セバンさんには“スズメの宿”に行くと伝言お願いします」

「あ~、分かった、分かった。伝えといてやるから早くいけよ」

 何だか、ぞんざいな扱いだが、俺たちは軽く頭を下げて街に入った。
 しかし、疲れた……入国検査? 入門検査? は、あれが普通なのか? ラノベと随分と違ったが……水晶のチェックとかなかったし……

 それはそれとして、問題は……爆発寸前のラフィアを宥めなければ!

「……ラフィア、さっきの事は忘れよう。精神的に悪い。気分変えて、手をつないで歩こうか」
 
 俺は彼女の手を握って歩き出す。ラフィアは、さっきの怒りと、今の嬉しさを交互に顔に出しながらつられて歩き出した。
 あ、そういえばセバンさん、封書は見せて、と言っていたような……でも、今更戻れないなぁ。戻ったら確実にラフィアが爆発する。まぁ、セバンさんには会ったときに事情を説明するか……

◇◆◇◆


 とりあえず、あのヤンキー兵士の進めた“スズメの宿”へと向かう。が、合っているのか? 宿屋なんだから看板位出てるだろうと、思っているのだが、それらしい影も形も見えないんだけど……

 まだかなぁ、と考えつつ歩いていると、道に座り込む少女が目に入る。
 丁度いい、あの子に聞いてみよう。

「ねぇ、君、ここら辺に“スズメの宿”があるって聞いたんだけど知らない?」

 突然声をかけられた少女はびっくりした様子だったが、こちらを見ると首を傾げて言った。

「お兄ちゃんたち誰? スズメの宿はここだよ?」

 少女は目の前の家を指さした。それは看板も壊れて外れている、朽ちかけた二階建ての家だった。
 お、おすすめ? あの野郎! 俺も堪忍袋の緒が切れそうだ!
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