カピバラになりたい牛

9.

しばらくして、飼育員さんがたまに見る人を連れて戻ってきた。多分獣医さんね。
でも、獣医さんの出番はきっとないわよ。だってただ気分が沈んでいるだけだもの。

飼育員さんってば案外心配性なのね…ふふっ
でも今はあんまり嬉しくないわ。そっとしておいて欲しいんだもの。

何か二人で話してるし、私の体を獣医さんがチェックしている。
しなくていいわよ、そんなこと。
それよりあなた、私とその位置かわりなさい。私だって飼育員さんとお話したいわ

「─────、────……」
「…────……」

何か話してるみたいだけど、私は寝るわ。ふて寝よ。だってずるいもの。見せつけるように2人でお話するなんて。見たくないわ。牛だって嫉妬くらいするわよ。

「ヤナ？……ねるのか？──…」

“ヤナ”。あー確か私の名前だったっけ…もうほとんど呼ばれないから忘れちゃってたわ。
初めの方は聞き取れたけど、眠りに入ってしまって、飼育員さんの言葉を最後まで聞けなかった。
飼育員さんの言葉は一言一句聴き逃しなくなかったけれど、今日はいいの。今日だけはダラダラしたいの。そんな日なのよ。