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強かな少女
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とある街にある小さな酒場。昼間から多くの冒険者たちで賑わっているようです。
しかしその喧騒の中、帳場の前では不穏な空気が流れていました。
「ここは子供の来るような場所じゃないんだ。帰った帰った」
少々強面な冒険者が薄ら笑いで掌を返しています。
彼の足元には、二人の子供──兄妹でしょうか?
少々色の薄い肌と白い髪、赤い目が特徴的な怯えた様子の少女と、幼いながらに冒険者を鋭く睨む茶髪の少年。……あまり似てはいませんね。
しかし、冒険者の言葉に腰は引けつつも、怯える妹を庇うお兄ちゃん、というのはかっこいいですね。それにしても、何があったのでしょう?
「そんなのはわかってるんだ! だけど……ちょっと水を分けてほしいだけなんだ」
「水も貴重な資源なんだよ。金もない子供にやれるほど余裕はねぇ」
確かに、冒険者の言うことも一理あるかもしれません。しかし、その割にはこの酒場の方々はお酒ですら大切にしているようには見えないのです。少なくとも、この酒場内であれば水に困っている様子は窺えませんが……。
「……っ。お願いします……少しだけでいいので──」
「しつこいやつだな……早く出て行け!」
冒険者の怒鳴り声と言うのはうるさいもので、子供からしたら恐怖しか感じないでしょう。怯えて縮こまってしまいました。
更に、事もあろうに冒険者は握りしめた拳を持ち上げ、彼に向かって振り下ろすじゃないですか! なんて無法者なのでしょう。
しかし冒険者の拳が男の子に届くことはなく、途中で小さな掌によって止められてしまいました。
当然、そんな状況では周囲の方々もざわめくばかりです。
「子供相手におとなげないなぁ。お水くらいあげればいいのに」
頭の左側で馬の尻尾のように結われた、長く綺麗な栗色の髪に兄妹を見つめる目はとても大きく、宝石のように輝く青い瞳が、褐色の小さな顔と合わさってとても可愛い少女。
冒険者の拳を片手で止めれるとはとても思えないほど小柄な彼女は一体何者でしょうか?
「ごめんね? こんな大人ばかりじゃないから、気を悪くしないでね」
兄妹二人に微笑みかけるその笑顔がとても似合っています。
「おいてめぇ、どこから湧いてでやがった! 俺の邪魔し──」
「ちっちゃいなぁ」
ため息混じりに呟くその言葉に、冒険者の顔がみるみる苛立っています。彼女も少し挑発しすぎじゃ……。
「あ? 誰の何がちっせぇだとぉ!」
もう一度振り上げた拳を、彼女の顔に向けて振り下ろしました。無抵抗の少女の顔に殴りかかるなんて、万死に値しますね。
彼女は彼女で、焦った様子もなく更に大きくため息を溢しました。
後ろを振り返ることもなく冒険者の拳を最小限の動きで避け、自分の小さな掌でしっかりと捕まえると、冒険者を睨みつけます。
「まず、この拳。君の稼業を考えるとすこーし残念だよね」
中々手痛い言葉でしょう。冒険者もその顔を更に引きつっています。
そんな彼の拳を彼女が引っ張ると前のめりに倒れかかってしまいます。
それを踏ん張ろうとした冒険者の脛に、彼女が軽く踵で小突いてしまえば、そのまま転倒するしかないですよね。
「ぐっ──」
「次に、こんな可愛らしい子供への態度。その心の器が極小だよね」
倒れていく冒険者の鳩尾に掌打を食い込ませる。……痛そうですね。
当然のように冒険者はそのまま床に突っ伏し、動く気配がなくなりました。
周囲のざわめきも静まり返っていて、全ての視線が彼女に向いています。
「後、相手との力量計るその脳みそも小さい──て言うか無い?」
それなりに辛辣なことを言いつつも、可愛らしく首を傾げて見せます。
「それから──」
まだ何かあるのでしょうか──あ、それはだめです。……既にぴくりとも動かない冒険者のこ──ま……足と足の間を軽くつま先で突いていしまいました。
「うん、やっぱり」
口にしなかったことは英断だと認めますが、年頃の乙女であろうことを考えれば、少々下品に思いますよ?
「ああ……オネがあんな事をするようになってしまうとは……」
「何を言っているんですかあなた。私たちの娘なんだから、あのくらい強かで当然ですよ」
酒場の入り口から二人、この状況でのお客さんでしょうか。
顔の皺の深さから見ても、おそらくいいお年で、でもとても精悍な顔立ちの男性。黒に近い茶色の髪は周囲と見比べても少し浮いている気はしますが、何よりも号泣するその姿に目がいってしまいます。
もう一人は、栗色の髪、青い瞳、小さく可愛らしい雰囲気。髪の長さと目の小ささを差し引けば、先ほど冒険者の男をねじ伏せた女の子と瓜二つな女性です。
酒場内の雰囲気もなんのその、ゆっくりと帳場まで歩いていくじゃないですか。彼らもまた強かと言うやつですね。
「お父さん、相変わらず泣き虫だぁ」
「私は泣き虫ではない! ただ涙脆いだけだ……」
世間ではそれを泣き虫と言うのですが……気にしないでおきましょう。
しかし、彼女がお父さんと呼んだと言うことは、もう一人の女性はやはり──。
「お母さんも、ごめんなさい。でも、酒場の中がなんか騒がしかったから、何かあったのかな──て。ね?」
申し訳なさそうに首を傾げる彼女もまた、相変わらずの可愛らしさですね。先ほどの行動がなければ、本当に愛らしい少女なのですが……とても残念です。
「何を言っているのオネ。あなたはそれでいいの。必要な時はお父さんが体を張って止めてくれますから」
少女のことをオネと呼び、男性に微笑みかける。男性の方も涙を止め、オネに真剣な眼差しを向けました。
「そうだな。本当に止めるべき時ならそうしてるさ。ただ──最後のはちょっと今後やめよう。な?」
まるで懇願するようにオネを見つめる雰囲気は弱々しく、父親としての威厳もあったものじゃないですね。
「はいはい。さ、こんなところ長居しても詰まらないから早くでよでよ。君たちも、ね」
オネは四人を引き連れて酒場を出て行きます。
粛然とした酒場内の雰囲気が彼女たちを見送っていました。
しかしその喧騒の中、帳場の前では不穏な空気が流れていました。
「ここは子供の来るような場所じゃないんだ。帰った帰った」
少々強面な冒険者が薄ら笑いで掌を返しています。
彼の足元には、二人の子供──兄妹でしょうか?
少々色の薄い肌と白い髪、赤い目が特徴的な怯えた様子の少女と、幼いながらに冒険者を鋭く睨む茶髪の少年。……あまり似てはいませんね。
しかし、冒険者の言葉に腰は引けつつも、怯える妹を庇うお兄ちゃん、というのはかっこいいですね。それにしても、何があったのでしょう?
「そんなのはわかってるんだ! だけど……ちょっと水を分けてほしいだけなんだ」
「水も貴重な資源なんだよ。金もない子供にやれるほど余裕はねぇ」
確かに、冒険者の言うことも一理あるかもしれません。しかし、その割にはこの酒場の方々はお酒ですら大切にしているようには見えないのです。少なくとも、この酒場内であれば水に困っている様子は窺えませんが……。
「……っ。お願いします……少しだけでいいので──」
「しつこいやつだな……早く出て行け!」
冒険者の怒鳴り声と言うのはうるさいもので、子供からしたら恐怖しか感じないでしょう。怯えて縮こまってしまいました。
更に、事もあろうに冒険者は握りしめた拳を持ち上げ、彼に向かって振り下ろすじゃないですか! なんて無法者なのでしょう。
しかし冒険者の拳が男の子に届くことはなく、途中で小さな掌によって止められてしまいました。
当然、そんな状況では周囲の方々もざわめくばかりです。
「子供相手におとなげないなぁ。お水くらいあげればいいのに」
頭の左側で馬の尻尾のように結われた、長く綺麗な栗色の髪に兄妹を見つめる目はとても大きく、宝石のように輝く青い瞳が、褐色の小さな顔と合わさってとても可愛い少女。
冒険者の拳を片手で止めれるとはとても思えないほど小柄な彼女は一体何者でしょうか?
「ごめんね? こんな大人ばかりじゃないから、気を悪くしないでね」
兄妹二人に微笑みかけるその笑顔がとても似合っています。
「おいてめぇ、どこから湧いてでやがった! 俺の邪魔し──」
「ちっちゃいなぁ」
ため息混じりに呟くその言葉に、冒険者の顔がみるみる苛立っています。彼女も少し挑発しすぎじゃ……。
「あ? 誰の何がちっせぇだとぉ!」
もう一度振り上げた拳を、彼女の顔に向けて振り下ろしました。無抵抗の少女の顔に殴りかかるなんて、万死に値しますね。
彼女は彼女で、焦った様子もなく更に大きくため息を溢しました。
後ろを振り返ることもなく冒険者の拳を最小限の動きで避け、自分の小さな掌でしっかりと捕まえると、冒険者を睨みつけます。
「まず、この拳。君の稼業を考えるとすこーし残念だよね」
中々手痛い言葉でしょう。冒険者もその顔を更に引きつっています。
そんな彼の拳を彼女が引っ張ると前のめりに倒れかかってしまいます。
それを踏ん張ろうとした冒険者の脛に、彼女が軽く踵で小突いてしまえば、そのまま転倒するしかないですよね。
「ぐっ──」
「次に、こんな可愛らしい子供への態度。その心の器が極小だよね」
倒れていく冒険者の鳩尾に掌打を食い込ませる。……痛そうですね。
当然のように冒険者はそのまま床に突っ伏し、動く気配がなくなりました。
周囲のざわめきも静まり返っていて、全ての視線が彼女に向いています。
「後、相手との力量計るその脳みそも小さい──て言うか無い?」
それなりに辛辣なことを言いつつも、可愛らしく首を傾げて見せます。
「それから──」
まだ何かあるのでしょうか──あ、それはだめです。……既にぴくりとも動かない冒険者のこ──ま……足と足の間を軽くつま先で突いていしまいました。
「うん、やっぱり」
口にしなかったことは英断だと認めますが、年頃の乙女であろうことを考えれば、少々下品に思いますよ?
「ああ……オネがあんな事をするようになってしまうとは……」
「何を言っているんですかあなた。私たちの娘なんだから、あのくらい強かで当然ですよ」
酒場の入り口から二人、この状況でのお客さんでしょうか。
顔の皺の深さから見ても、おそらくいいお年で、でもとても精悍な顔立ちの男性。黒に近い茶色の髪は周囲と見比べても少し浮いている気はしますが、何よりも号泣するその姿に目がいってしまいます。
もう一人は、栗色の髪、青い瞳、小さく可愛らしい雰囲気。髪の長さと目の小ささを差し引けば、先ほど冒険者の男をねじ伏せた女の子と瓜二つな女性です。
酒場内の雰囲気もなんのその、ゆっくりと帳場まで歩いていくじゃないですか。彼らもまた強かと言うやつですね。
「お父さん、相変わらず泣き虫だぁ」
「私は泣き虫ではない! ただ涙脆いだけだ……」
世間ではそれを泣き虫と言うのですが……気にしないでおきましょう。
しかし、彼女がお父さんと呼んだと言うことは、もう一人の女性はやはり──。
「お母さんも、ごめんなさい。でも、酒場の中がなんか騒がしかったから、何かあったのかな──て。ね?」
申し訳なさそうに首を傾げる彼女もまた、相変わらずの可愛らしさですね。先ほどの行動がなければ、本当に愛らしい少女なのですが……とても残念です。
「何を言っているのオネ。あなたはそれでいいの。必要な時はお父さんが体を張って止めてくれますから」
少女のことをオネと呼び、男性に微笑みかける。男性の方も涙を止め、オネに真剣な眼差しを向けました。
「そうだな。本当に止めるべき時ならそうしてるさ。ただ──最後のはちょっと今後やめよう。な?」
まるで懇願するようにオネを見つめる雰囲気は弱々しく、父親としての威厳もあったものじゃないですね。
「はいはい。さ、こんなところ長居しても詰まらないから早くでよでよ。君たちも、ね」
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