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透明な魔女
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「ハンナー、どんなのが読みたい?」
「だから私は読めない……やさしいお話がいい」
ハンナも実際のところは、御伽話というものが好きなんだと思います。
子供は皆好きなものですからね。やさしいお話、というのはいかにも彼女らしいと言えるでしょう。
「優しいお話かぁ……魔女のお話はどれも悲しいのばかりだからなぁ」
読書をあれほど嫌っていた割に、オネも存外御伽話については詳しそうですね。子供の頃は好きだったりしたのでしょうか?
「本当なら、お姉さんのお話聞かせたいんだけどね……今回の目的は違うからね──あ、これとかどうかな」
オネが書架から取り出す一つの絵本。
表紙は、どこか優しい雰囲気の女性が描かれており、ぼやけた白の背景が幻想的に見える作品。
標題には『透明な魔女』と書かれています。著者の記載が無いというのは、少し気になりますね。
「なんか優しそうだよ。これにしよう」
表紙で選ぶのもどうかと思うのですが、まあオネですからね。
二人は『透明な魔女』を持ち、壁際に腰を下ろしました。人が多いとはいえ、書架から離れた場所であれば空いた場所もあるようですね。
「じゃあ読んでみようか」
「うん……でも──」
「こうすればいいんだよ」
遠慮がちになるハンナの気持ちなど気にした風もなく、オネは彼女を抱き上げて自分の足と足の間に座らせました。
ハンナは何があったのか分からずに困惑していますね。
微笑んで見せるオネは、そのまま手に持つ本を開き、ハンナの前に構えます。
「透明な魔女」
「へ?」
「むかし、とある森の中にとても綺麗な女の人が住んでいました」
驚くハンナをよそにオネは周りに迷惑がかからない程度の声で、朗読を始めました。
※
むかし、とある森の中にとても綺麗な女の人が住んでいました。
白い綺麗な髪は誰しもが「美しい」と言います。
女の人も自分の髪が大好きで、毎朝丁寧にとかしていました。
彼女には、とても不思議な力があります。
見る人みんなを幸せにするのです。触れた人みんなに幸運が訪れるのです。
そのため、多くの人からは『純白の聖女様』と呼ばれ、人気者だったのです。
深い森の中に住んでいたのですが、毎日のようにお客さんが現れては、彼女とお話をしていきます。
彼女もまた、そのことを喜んでいて、来る人みんなとお話する毎日を楽しんでいました。
しかし、世の中には悪い人がいたのです。
彼女のその不思議な力を自分たちだけのものにしようと、森の中から連れ出そうとした人がいました。
見れば、触れれば幸せに。彼らにも不思議な力は起きてしまいます。
彼女は森から連れ出されてしまったのです。
しかし、いつものようにお話ができなくなってしまった彼女は、とても悲しみました。
彼女が悲しむと、幸せは無くなってしまいます。
連れ出した人たちは痛い思いをしたのです。
それでも彼女が森に戻ることはできませんでした。
ずっと、ずっと……泣き続けていたのです。そんな彼女を見た人はみんな不幸になってしまいます。
触れた人はみんな大変な目に遭うのです。
いつしか、彼女は『白き魔女』と呼ばれ、近づこうとする人はいなくなりました。
それでも世の中には優しい人はいます。
悲しむ彼女を助けようとする人がいました。
しかし、彼女に触れてしまえば大変な目に……何人も、何人もが悪い目にあってしまったのです。
彼女は誰にも会いたくないと願いました。
それ以来、誰にも遭うことはなくなりました。
彼女は誰の目にも映らなくなってしまったのです。
彼女の心には何も映らなくなってしまったのです。
※
「……ごめん。ちょっと悲しいお話だったね」
最後まで読み終えたオネは、落ち込んでしまいました。
「うう、かわいそうなおんなのこ……」
「せいじょさまはどうなったの?」
「へ?」
彼女が夢中になって朗読している間に、どうやら知らない子供たちまで集まってしまったようです。
オネは困惑し、ハンナは何故か呆然としています。
「えーっと……ごめんね? 私もどうなったか分からない……私も知りたいよ」
子供たちの涙にオネも少し涙を浮かべていますね。
しかしハンナの様子は変わりません。どうしたのでしょうか?
「ハンナ? やっぱり悲しかったよね……ごめんね。もっと楽しいお話探そうか」
「──あ、ごめんなさい。読んでくれてありがとう、おねえちゃん。とても悲しいおはなしだったけど、なんだか聞けてよかった気がする」
ハンナの不思議な発言にオネも首を傾げます。
「ハンナ──」
「でも、ちょっと悲しい気持ちがのこってるから、楽しいお話も聞きたいな」
「──そだね」
静かに涙を流すハンナの笑顔に、オネが悲しくなります。
それを解消したい気持ちもあるのでしょう。すぐに立ち上がり、『透明な魔女』を書架に戻して、新しい本を探しました。
彼女の朗読を聞いていた子供たちは、次々に読んで欲しい本を持ってくるので、オネがハンナに呼んであげたい本を探す余裕はないようです。
ハンナの承諾も受け、子供たちが持ってきた本を次々と朗読することになった様です。
彼女たちの本来の目的は果たせそうにありませんね。
「だから私は読めない……やさしいお話がいい」
ハンナも実際のところは、御伽話というものが好きなんだと思います。
子供は皆好きなものですからね。やさしいお話、というのはいかにも彼女らしいと言えるでしょう。
「優しいお話かぁ……魔女のお話はどれも悲しいのばかりだからなぁ」
読書をあれほど嫌っていた割に、オネも存外御伽話については詳しそうですね。子供の頃は好きだったりしたのでしょうか?
「本当なら、お姉さんのお話聞かせたいんだけどね……今回の目的は違うからね──あ、これとかどうかな」
オネが書架から取り出す一つの絵本。
表紙は、どこか優しい雰囲気の女性が描かれており、ぼやけた白の背景が幻想的に見える作品。
標題には『透明な魔女』と書かれています。著者の記載が無いというのは、少し気になりますね。
「なんか優しそうだよ。これにしよう」
表紙で選ぶのもどうかと思うのですが、まあオネですからね。
二人は『透明な魔女』を持ち、壁際に腰を下ろしました。人が多いとはいえ、書架から離れた場所であれば空いた場所もあるようですね。
「じゃあ読んでみようか」
「うん……でも──」
「こうすればいいんだよ」
遠慮がちになるハンナの気持ちなど気にした風もなく、オネは彼女を抱き上げて自分の足と足の間に座らせました。
ハンナは何があったのか分からずに困惑していますね。
微笑んで見せるオネは、そのまま手に持つ本を開き、ハンナの前に構えます。
「透明な魔女」
「へ?」
「むかし、とある森の中にとても綺麗な女の人が住んでいました」
驚くハンナをよそにオネは周りに迷惑がかからない程度の声で、朗読を始めました。
※
むかし、とある森の中にとても綺麗な女の人が住んでいました。
白い綺麗な髪は誰しもが「美しい」と言います。
女の人も自分の髪が大好きで、毎朝丁寧にとかしていました。
彼女には、とても不思議な力があります。
見る人みんなを幸せにするのです。触れた人みんなに幸運が訪れるのです。
そのため、多くの人からは『純白の聖女様』と呼ばれ、人気者だったのです。
深い森の中に住んでいたのですが、毎日のようにお客さんが現れては、彼女とお話をしていきます。
彼女もまた、そのことを喜んでいて、来る人みんなとお話する毎日を楽しんでいました。
しかし、世の中には悪い人がいたのです。
彼女のその不思議な力を自分たちだけのものにしようと、森の中から連れ出そうとした人がいました。
見れば、触れれば幸せに。彼らにも不思議な力は起きてしまいます。
彼女は森から連れ出されてしまったのです。
しかし、いつものようにお話ができなくなってしまった彼女は、とても悲しみました。
彼女が悲しむと、幸せは無くなってしまいます。
連れ出した人たちは痛い思いをしたのです。
それでも彼女が森に戻ることはできませんでした。
ずっと、ずっと……泣き続けていたのです。そんな彼女を見た人はみんな不幸になってしまいます。
触れた人はみんな大変な目に遭うのです。
いつしか、彼女は『白き魔女』と呼ばれ、近づこうとする人はいなくなりました。
それでも世の中には優しい人はいます。
悲しむ彼女を助けようとする人がいました。
しかし、彼女に触れてしまえば大変な目に……何人も、何人もが悪い目にあってしまったのです。
彼女は誰にも会いたくないと願いました。
それ以来、誰にも遭うことはなくなりました。
彼女は誰の目にも映らなくなってしまったのです。
彼女の心には何も映らなくなってしまったのです。
※
「……ごめん。ちょっと悲しいお話だったね」
最後まで読み終えたオネは、落ち込んでしまいました。
「うう、かわいそうなおんなのこ……」
「せいじょさまはどうなったの?」
「へ?」
彼女が夢中になって朗読している間に、どうやら知らない子供たちまで集まってしまったようです。
オネは困惑し、ハンナは何故か呆然としています。
「えーっと……ごめんね? 私もどうなったか分からない……私も知りたいよ」
子供たちの涙にオネも少し涙を浮かべていますね。
しかしハンナの様子は変わりません。どうしたのでしょうか?
「ハンナ? やっぱり悲しかったよね……ごめんね。もっと楽しいお話探そうか」
「──あ、ごめんなさい。読んでくれてありがとう、おねえちゃん。とても悲しいおはなしだったけど、なんだか聞けてよかった気がする」
ハンナの不思議な発言にオネも首を傾げます。
「ハンナ──」
「でも、ちょっと悲しい気持ちがのこってるから、楽しいお話も聞きたいな」
「──そだね」
静かに涙を流すハンナの笑顔に、オネが悲しくなります。
それを解消したい気持ちもあるのでしょう。すぐに立ち上がり、『透明な魔女』を書架に戻して、新しい本を探しました。
彼女の朗読を聞いていた子供たちは、次々に読んで欲しい本を持ってくるので、オネがハンナに呼んであげたい本を探す余裕はないようです。
ハンナの承諾も受け、子供たちが持ってきた本を次々と朗読することになった様です。
彼女たちの本来の目的は果たせそうにありませんね。
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