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第17章 聖奈の完全敗北と喜べない女子団体優勝
焦りと孤独の狭間で――見守ることしか、できないのか?
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だが翌日、思わぬ事態が起こった。バーチャルシステムに異常が見つかり、試合は急きょ翌日に延期となった。
この知らせに、恭弥たちは一瞬ほっとした。少しでも休める時間ができたことで、聖奈の気持ちも落ち着くのではないかと期待したからだ。
だが――その期待は裏切られる。
「……なぜ、今日じゃないの……。」
聖奈は誰に向けるでもなく呟き、そのまま練習場へと向かった。
朱星光月焔を手に取り、静かに素振りを始める。その動きには、明らかに焦りがにじんでいた。鋭さを失った剣筋、乱れる息遣い、無理に抑えた力がかえって体に負担をかけているのが見て取れる。
(この延期……逆効果にならなければいいが……)
その様子を、いつの間にか外から見守っていた恭介と修輔は目を合わせ、小さくうなずき合った。
「……今日はもうやめよう。少し気分転換もしないとな。」
恭介が静かに言うと、修輔も頷いた。
「そうだな。バーベキューの準備、手伝ってくれないか。皆も集まってるし。」
聖奈は手を止めず、一瞬だけ二人を見た。だがその視線はすぐに地面へと落ちた。
「……少しだけ、やってから行く。」
その言葉に、恭介は無理に止めることなく背を向けた。
「わかった。でも無理はするな。」
その夜、家族が全員そろったのを機に、朱里と修輔が急きょバーベキューを提案した。聖奈の気持ちを少しでも軽くしようと願ってのことだった。
「今日は修輔兄の奢りだから、好きなだけ食べてね!」
朱里が明るく声をかけると、月華がぽそりと呟いた。
「……お父さん、お小遣い大丈夫なの?」
月詠も苦笑しながら頷く。
ようやく練習場から戻ってきた聖奈も輪の中に加わっていたが、どこか上の空だった。ときおり無意識に指先が小さく震えているのに気づいた恭介と修輔は、視線を交わし合い、過去の話を切り出すことにした。
「俺がまだ高校一年の頃の話だけどな……文化祭の準備中に、妖邪衆が突然襲ってきたんだ。」
「またその話? 何度も聞いてるよ。父さんがダメダメだったことは知ってる。」
月詠が茶化すように口を挟もうとしたが、修輔が手で制して話を続けた。
「そのとき、朱里を守れなかった自分が情けなくて……それで、晃介に頭を下げて弟子入りしたんだ。けど、訓練中に恐怖を刻まれる出来事があった。晃介が、命懸けで俺を守ってくれたんだ。」
その話を初めて聞いた月詠と月華は目を丸くし、聖奈も思わず聞き入っていた。
「そりゃ、父さんの唯一の汚点だからな。そんな話、そうそう人前で話すもんじゃないさ。」
月詠がからかうように言った。
修輔は照れ笑いを浮かべながら続けた。
「そのあとは……ずっと部屋にこもってた。三日か、四日くらいだったかな。自分が怖くて、外に出られなかった。」
朱里が補足するように頷いた。
「修輔兄、本当に出てこなかったの。でも、晃介さんが支えてくれて……ようやく立ち直れたの。」
「恐怖を克服するには、全部を受け入れる覚悟が必要なんだ。」
今度は、恭介が静かに言い添え、聖奈の方へと視線を送る。
だが――聖奈はその視線を受け止められなかった。
彼女はわかっていた。父に打ち明けることで、きっと気持ちは楽になるだろう。
けれど今の自分は、チームの柱であり続けなければならない立場にある。ここで弱音を吐いたら、期待してくれている皆の絆にヒビが入ってしまう――そんな恐怖が、心を縛っていた。
(……パパに話せたら、どんなに楽か。でも今、そんなことしたら……皆に迷惑をかけるだけ。)
こみ上げるものを、聖奈は無理やり押し込めた。
唇をかみしめ、手をぎゅっと握る。
聖奈は、唯一甘えられるはずだった存在にさえ、本音を吐くことができなかった。
こうして、心の叫びを誰にも伝えられないまま――彼女は翌日、豊葦原鷹籠学園中等部との準決勝に臨むことになるのだった。
この知らせに、恭弥たちは一瞬ほっとした。少しでも休める時間ができたことで、聖奈の気持ちも落ち着くのではないかと期待したからだ。
だが――その期待は裏切られる。
「……なぜ、今日じゃないの……。」
聖奈は誰に向けるでもなく呟き、そのまま練習場へと向かった。
朱星光月焔を手に取り、静かに素振りを始める。その動きには、明らかに焦りがにじんでいた。鋭さを失った剣筋、乱れる息遣い、無理に抑えた力がかえって体に負担をかけているのが見て取れる。
(この延期……逆効果にならなければいいが……)
その様子を、いつの間にか外から見守っていた恭介と修輔は目を合わせ、小さくうなずき合った。
「……今日はもうやめよう。少し気分転換もしないとな。」
恭介が静かに言うと、修輔も頷いた。
「そうだな。バーベキューの準備、手伝ってくれないか。皆も集まってるし。」
聖奈は手を止めず、一瞬だけ二人を見た。だがその視線はすぐに地面へと落ちた。
「……少しだけ、やってから行く。」
その言葉に、恭介は無理に止めることなく背を向けた。
「わかった。でも無理はするな。」
その夜、家族が全員そろったのを機に、朱里と修輔が急きょバーベキューを提案した。聖奈の気持ちを少しでも軽くしようと願ってのことだった。
「今日は修輔兄の奢りだから、好きなだけ食べてね!」
朱里が明るく声をかけると、月華がぽそりと呟いた。
「……お父さん、お小遣い大丈夫なの?」
月詠も苦笑しながら頷く。
ようやく練習場から戻ってきた聖奈も輪の中に加わっていたが、どこか上の空だった。ときおり無意識に指先が小さく震えているのに気づいた恭介と修輔は、視線を交わし合い、過去の話を切り出すことにした。
「俺がまだ高校一年の頃の話だけどな……文化祭の準備中に、妖邪衆が突然襲ってきたんだ。」
「またその話? 何度も聞いてるよ。父さんがダメダメだったことは知ってる。」
月詠が茶化すように口を挟もうとしたが、修輔が手で制して話を続けた。
「そのとき、朱里を守れなかった自分が情けなくて……それで、晃介に頭を下げて弟子入りしたんだ。けど、訓練中に恐怖を刻まれる出来事があった。晃介が、命懸けで俺を守ってくれたんだ。」
その話を初めて聞いた月詠と月華は目を丸くし、聖奈も思わず聞き入っていた。
「そりゃ、父さんの唯一の汚点だからな。そんな話、そうそう人前で話すもんじゃないさ。」
月詠がからかうように言った。
修輔は照れ笑いを浮かべながら続けた。
「そのあとは……ずっと部屋にこもってた。三日か、四日くらいだったかな。自分が怖くて、外に出られなかった。」
朱里が補足するように頷いた。
「修輔兄、本当に出てこなかったの。でも、晃介さんが支えてくれて……ようやく立ち直れたの。」
「恐怖を克服するには、全部を受け入れる覚悟が必要なんだ。」
今度は、恭介が静かに言い添え、聖奈の方へと視線を送る。
だが――聖奈はその視線を受け止められなかった。
彼女はわかっていた。父に打ち明けることで、きっと気持ちは楽になるだろう。
けれど今の自分は、チームの柱であり続けなければならない立場にある。ここで弱音を吐いたら、期待してくれている皆の絆にヒビが入ってしまう――そんな恐怖が、心を縛っていた。
(……パパに話せたら、どんなに楽か。でも今、そんなことしたら……皆に迷惑をかけるだけ。)
こみ上げるものを、聖奈は無理やり押し込めた。
唇をかみしめ、手をぎゅっと握る。
聖奈は、唯一甘えられるはずだった存在にさえ、本音を吐くことができなかった。
こうして、心の叫びを誰にも伝えられないまま――彼女は翌日、豊葦原鷹籠学園中等部との準決勝に臨むことになるのだった。
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