【死因】

お花

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第三話 【絞殺】

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 殺してやる、とぼくは呟いた。
 殺してやる。絶対にあいつを殺してやる。
 泣き叫んだって許さない。あいつの死に顔を晒して、踏みにじって、それでもぼくは絶対にあいつを許さない。
 泣いて、縋って、土下座したって、その上から脳天を蹴り潰してやる。
 殺してやる。
 絶対に。

 ーー時計が夜の八時を指した。
 あいつが家に来るまで後一時間。それまでに全てを整えよう。行き当たりばったりなあいつのようになってはならない。全て計画通りに行わなければ。
 さて、とぼくはつけっぱなしのテレビを消した。雑音がない方が物事を考えるのには効率がいい。
 台風が近づいているのだったか、テレビを消したことで窓の外の風音が余計に際立つ。
 あいつを殺す日としては、今日は最悪だ。
 いや、こんな最悪な日こそ、あいつを殺すのに相応しいのかもしれない。最低なあいつを殺すのには。
 ぼくは部屋の中をぐるぐると回りながら、あいつを殺す方法を考える。
 まず目についたのは、スーツと共に掛けられたネクタイ。大学の入学祝いにとあいつと揃いで買ったものだ。
 そうだ。このネクタイで首を締めるのはどうだろう。揃いのネクタイで締め殺されれば、あいつだって。
 いや、駄目だ。
 文化部育ちのぼくにあいつが締め殺せるはずがない。反射神経が兎と亀ほど違うのだ。ネクタイが首に到達する前に気づかれて終わりだろう。
 じゃあ、包丁で刺し殺すのはどうだ。
 ……これも駄目だろう。
 反射神経は先ほど述べた通りだし、それより何より、刺殺は後処理が面倒だ。今からじゃ大掛かりな準備をする暇もない。殺してそれからどうしようなんて、あいつみたいなことは絶対にしたくない。
 それじゃあどうしたらいいのか。
 どうしたら。
 ああ、頭が痛い。そういえば朝から熱っぽかったような。
 額に手を当てれば、どこか熱いような気がする。微熱くらいはあるかもしれない。
 今日はやめてしまおうか。
 駄目だ。そんなことできない。
 発熱程度で止められる感情なら、理性でどうにかしているだろう。どうにかできないからこそ、ぼくはこういて叫び出したい感情をどうにか抑えているというのに。
 馬鹿馬鹿しい。いっそ本当に叫んでしまおうか。叫びとともにあいつへの感情が出て行ってくれるのならば。
 残らず吐き出したとしても、今ならばこの罵詈雑言も風と目の前を通る電車の走行音が全てかき消してくれることだろう。
 声だけじゃなく、あいつごとかき消してくれればいいのに。
 
 ーーああ。その手があったじゃないか。
 あいつの命を確実に奪い、尚且つ、もう二度と顔すら見ないですむ方法が。

 あいつは今夜、酒に酔ったことにより誤って線路に侵入し、死ぬ。
 それだけだ。

 このアパートの前には、緩やかなカーブを描く線路が敷かれている。自殺の名所として名高い場所だ。死人が1人や2人増えたところでで誰も気にはしないだろう。
 今日ぼくはあいつと酒を飲みながら、あのカーブで先週も飛び込みがあったと愚痴を溢す。帰り道、酒の力も手伝って感傷的になったあいつは、フラフラとその場所に吸い寄せられて、そして……。
 なんて、素敵な筋書きじゃないか。
 酔ったあいつを歩道橋から突き落とすなんて、首を締めるよりも何倍も簡単だ。何よりも、があった後だ。誰もあいつが自ら飛び込んだことを疑わないだろう。ぼくに容疑がかかることは、きっとない。
 その上、ぼくの立ち回り次第では、あいつは悲劇の主人公になり、ぼくはその友人として哀れみ受けることができる。みんな、友人の自殺を止められなかったと打ちひしがれるぼくを腫物のように扱ってくれるだろう。
 それでいい。それでいいんだ。
 ぼくに必要なのは時間だ。ぼくの人生を立て直す時間が。のことも、のことも、全て消し去ってしまえる時間が。あいつはそのための犠牲だ。仕方がない。あいつが悪いんだ。あいつがいるから。あいつを見ると思い出してしまうから。あいつが。あいつのせいで。そうすれば。きっと。
 行為も嫌悪も、ぼくの殆どを占めるこの感情をなくして、ゼロからスタートし直すために。お願いだ。

 だって、ぼくたち、友達だろう?

 ピンポン、と聴き慣れたチャイムが鳴る。
 あいつを迎えるためにドアを開けた、その瞬間ーー

「ぼくは、お前が嫌いだったよ」

 ーーぼくの首に、揃いのネクタイがかけられた。






 (殺されるのは、 ぼ く のほうだったのか)
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