××の十二星座

君影 ルナ

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一章

六十一

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 あの後、結局パイシーズは(渋々)アリーズに付いた水分を取ってあげていた。

 私はというと、疲れが最高潮まで来てしまってその場に座り込んだくらいかな。体力の限界を超えた感じ。超疲れた。

「マロン、これくらいでへばっているようじゃあ……ね。体力作りのメニューを増やしてもらった方が良いんじゃない?」

 ニッコリ笑顔でアリーズにそう言われるけど、なんだろう……他の人に言われるなら素直に聞き入れると思うのに、アリーズに言われるとなんか癪。

 そんな考えが顔に出ていたのだろう、アリーズは片手で私の両頬を掴む。

「うにゅ……いででででっ!?」

 何故だんだんその指に力を入れてきた!? ほっぺ潰されるぅっ!?

 なんか怒らせることした!?

「またアリーズがマロンを虐めてる! 成敗っ!」

 そんな私を見かねてか、キャンサーが私を助けに来てくれたみたいだった。ああ、キャンサーならきっと助けてくれるっ! そう感動していたのだが。

 私達に向かって走ってきたキャンサーはハサミを振り上げて……

 ガキンッ……!!

 何かを弾き返した。まるで虚空を切るように見えたそれに既視感を覚えたので、ふとアリーズの手──それも私の頬を掴んでいない方の──に目を動かしてみる。

 するとその手には案の定銃が握られていた。さらに銃口から煙が上がっているところからして、多分キャンサーに向けて一発撃ったのだろう。いつ取り出したんだか。

 というかアリーズってすぐ銃を人に向けるよねー。人としてどうかと思……

「マロン、何か考えてた?」
「うにゅにゅ」

 今何を考えていたかって? そんなの馬鹿正直に話したらきっとまたアリーズに銃口突きつけられる。そう理解した私は首を横に振る。

「ふーん、そう。まあいいけどね。」

 アリーズは特に気にした様子もなく私の頬を掴み続ける──


 いや、ほっぺは離してくれよ!






「いやぁ……散々だった。」

 部屋に戻ってきた私は独りごちる。しんと静まり返った部屋にその言葉は響いた。

 あの後どうにかこうにかアリーズの手を振り払い、パイシーズの背後に隠れた。そうしたらパイシーズとキャンサーがアリーズに対して魔法を展開し始めたり武器を構え出したりしていた。

 私はというと『喧嘩は良くないよー』と言いながらも内心『アリーズざまぁ(笑)』だなんて考えてしまった。私はきっと性格が悪いんだろうな。

「あー、もう少し可愛い性格になりたいn……」

 最後まで独り言を呟けなかった。殺気を感じてね。私はバッと三歩程後退し、天井を睨んだ。
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