『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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1章 いざ、花学へ!

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 今日はなんか疲れたな。まあ、学園の敷地内を三十分以上歩いていたりしていたので仕方ないと思う。元々体力もないし。

 ということで持ってきた服をクローゼットに仕舞い終えた辺りで今日はもう早めに寝てしまうことにする。早めと言ってももう夜中の十二時なんだけど。

「ふあ……」

 ここに来て数時間しか経っていないが、住みやすそうだと思う。実際今眠くなっているところを見てもそう言える。初めての場所では眠気すらも起きないのに。今日は比較的眠れそう。

「さて、と。」

 もう寝るのなら『これ』を取って……

 鏡の前で黒いカラコンを外し、更には腰まである長さの黒髪のウィッグも外す。

「……気持ち悪い。」

 鏡に写った自分の姿に嫌悪する。鏡の向こうの自分も嫌そうな顔をしている。

 肩につくくらいの真っ白な髪に灰色の目。生まれつき私はこうなのだ。

 何色にも染まらない白。それが嫌でいつも隠している。髪を染めようと何度か試みたこともあるけど、全くその色に染まってくれず白いままだったので、諦めて今はウィッグを被って隠しているのだ。

 こんな自分が大嫌い。容姿もそうだが『エートス』であるということも嫌い。


 この世界には特殊な能力を持った人間が少数ではあるが存在し、その人達は『エートス』と呼ばれている。そしてエートスが持つ能力は人それぞれ違うらしい。

 私が知っているエートス情報はこれだけ。私は他のエートスと会ったことがないので真偽は分からないが。

 ちなみに私、花蘇芳 藍は、

『視界に入れたモノを浮かせたり動かしたり出来る能力』

を持つエートスだ。
 主に手の届かない高い場所に置いてあるものを能力を使って取る。それくらいしか使い道がない能力だ。実際そのようにしか使っていない。

「こんな能力、要らなかった。」

 それに私はこの容姿のせいで嫌われてきたのだ。だから嫌われないように隠している。エートスだということはあの人一人にだけバレて……それから……

「それにしても今日は焦ったなあ。」

 出会って早々にエートスの話題を振られるとは思わなかった。エートスは少数派なのであまり話題にもならない。それにここでは能力も使ってないし、そんな雰囲気すら出していなかったはずなのに。どういうことでしょう。

「ねむ……」

 まあ、今日は眠いから明日以降考えるとしよう。ベッドにダイブしてそのまま目を閉じた。







 ふっと意識が浮上する。あれ、今何時……? 時計を見ると、

「四時半……」

 微妙な時間だった。しかしながら目が覚めてしまっては二度寝は無理だね。

 朝ご飯は六時半かららしいのであと二時間はあるなあ……

「勉強するか。」

 花学は勉強の進み具合が早いと聞いたことあるし、今出来ることをしっかりやっていかなければ。

「まずは……」

 バッグに入れていた問題集を取り出して机に広げる。







「……っと、そろそろ六時かな。」

 勉強の手を止め時計を見ると、そろそろ準備した方が良さそうな時間。ということで制服に着替え、ウィッグを付け、カラコンを付け。スクールバッグにも物を詰めたのであとは持っていくだけ。

 一階に降り洗顔を終えて廊下に出る。まだ誰も起きていないのか、とても静かだ。

 カチャリとリビングに続く扉を開けると、ふわりとコーヒーのいい匂いが私を包む。

「おはようございます、花蘇芳さん。」

 山吹さんは左手にマグカップを持ち、右手には紙を持ってソファに座っていた。

「花蘇芳さんも何か飲みますか? 作りますよ。」

 山吹さんはコトリとマグカップを置いて立とうとしている。何か作業をされていたみたいだし、邪魔は出来ない。それにこれくらいは自分で出来る。なんたってこの前まで喫茶店でバイトしていたのだから。

「自分で淹れるので大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「そうですか。」

 自分で淹れると宣言したのでキッチンに立ち、コーヒーを淹れることにした。コーヒーの良い香りがキッチンに漂う。

「砂糖は……」

 私は甘くないとコーヒーは飲めないので砂糖が必須なのだ。砂糖を探してキョロキョロと辺りを見回してみると、棚の上に砂糖と書かれた瓶が置かれていた。

 背伸びをして手を伸ばしてみるが全然届かない。うう、もう少し身長が欲しかった。さてどうしよう。

 ……仕方ない。山吹さんはこっちに背を向けているから大丈夫かな。

 砂糖が入った瓶に能力を使って私の手にふわりと動かす。こういう時に私の能力は便利なのだ。まあ、これくらいしか出来ないけど。

 砂糖を付属のスプーン三杯分コーヒーに入れ、元あった場所へと能力を使って戻す。よし、完璧。

 出来上がったコーヒーを持って山吹さんの向かいに座り、ちびちび飲む。

「花蘇芳さん、昨日の夕飯の量がとても少なかったようですけど足りましたか?」
「はい。寧ろあれくらいの量がギリギリです。」
「そうですか。」

 昨日の夕飯は唐揚げだった。なんとか食べきったが、あれ以上の量は食べられない。美味しかったけど。

「では今日もあれくらい盛りますね。」
「はい。お願いします。」

 昨日の夜の様子を見るとキッチンで作業するのは山吹さんだけのようだ。他の皆さんはテーブルに並べたりしていた。

 やっぱり寮長さんは仕事が多いらしいね。私に出来ることは手伝おうと決意する。

「さて、そろそろご飯にしましょうか。」
「手伝います。」

 朝夕の二食は寮に運ばれてくるのを食べるのだと聞いた。それに対してお昼は事前に言っておけばお弁当が出るが、学食でも食べられるようなので各自好きにしているらしい。まあ、私にはあまり関係のない話かな。お昼はいつも食べないし。だからお弁当が欲しいとの連絡はしていない。

「ありがとうございます。ではこれらを持って行って貰えますか?」
「はい。」

 能力を使えば一度に全て持っていけるが、エートスとバレてはいけないので普通に手で運ぶ。

「はよー。」
「おはようございます、茜。」
「おはようございます。」

 とてつもなく眠そうな柊木さん。まだ半分くらいしか目が開いていない。

「んあ、藍起きんの早えな。」
「そうですか? 私としてはこれが普通ですので。」
「ほーお。」
「茜、皆を起こしてきてください。もうご飯の準備が出来そうですから。」
「はいはい。」

 欠伸をしながらリビングを出ていった。怖そうな雰囲気の柊木さんに指示を出せるなんて……山吹さんは凄い人に違いない。

「皆が起きてくる前に準備終わらせてしまいましょう。」
「はい。」







「おはよー!」
「おあよー……」
「……。」

 桃さんは降りてきたときには既にテンションが高かった。それと対照的なのが藤さんと福寿さん。福寿さんなんて立ったまま寝ている。器用だね。

「今日のご飯はお肉ですから早く起きてください。」
「お肉!!」

 桃さんは目を輝かせながら椅子に座る。藤さんはゆっくり座り……あれ、藤さんも目が開いていない気がする。

「ほら、椿早く起きてください!」

 リビングの扉の前で立ったまま寝ている福寿さん。ここまでどうやって来たのだろう。あの場所に立った瞬間に寝たの……かな。不思議だ。

「椿起きろ。」

 福寿さんの背中を押して席に座らせる柊木さんの姿を見ると、ただの自分至上主義な人では無いのかも……?

「揃いましたね。ではいただきます。」

 山吹さんの掛け声に続き、それぞれが挨拶をして食べ始める。

 山吹さんと柊木さんは食べ方が綺麗で、桃さんはとても美味しそうに食べ、藤さんは半分寝ながらゆっくり食べ、福寿さんは一切手をつけずに寝ている。

「椿起きろっつってんだろ! 今日から学校だから時間ねえんだよ!」
「……。」

 こっくりこっくりと船を漕ぐ福寿さんには、柊木さんの声は多分聞こえていないのだろう。

「つばっちー、つばっちつばっちつばっちつばっちつばっち!」
「…………煩い。」

 薄ら目を開けた福寿さんは桃さんを睨む。確かに私もそう思ってしまった。煩いと。

「桃煩い。もう少しテンション落として。煩い。ゴリラ。煩い。」

 藤さんも桃さんを睨む。暴言と共に。昨日のふわふわした雰囲気はどこいったのだろう。

「二人とも今にも寝そうなのが悪いんでしょー? 僕なんて朝から元気元気!」

 そんな二人からの睨みに動じない桃さんは何者だろうか。……いや、もしかしたら毎日こうだから慣れたのかもしれない。それはすごい。

「ほら、藤も椿もさっさと食べないと遅れますよ?」
「ういー……」
「……。」

 お、遅い。ナマケモノ並に遅い。これでは一時間経っても食べ終えないかもしれない。私は皆さんよりも盛り方が少ないので、あと少しで食べ終わりそうなんだけど。

「ごちそうさまでした。」

 準備を終わらせてもまだ時間がありそうなので、もう十分程は勉強していよう、そう決めたのだった。
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