『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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10章 冬休み その一

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「あれが我が家です。」

 冬休みに入り何日か経った今日は、山吹さんと柊木さんのお家へお邪魔する日。目的地まで歩いていた私達は山吹さんが指さした方を見て言葉を失った。

 そう、そこにあったのは豪邸だったのだ。……凄いね。語彙力が無くなるくらい驚いている。

 大きいとは事前に聞いていたが想像を上回る大きさだった。

「帰ったー。」
「ただいま戻りました。」

 その豪邸になんの躊躇もなく入っていく二人に倣って恐る恐る玄関に入る。

 わあ、玄関も広かった。六人入っても余裕の広さ。ここでもこの広さなら部屋の中とかどうなってるんだろう……

「お帰り、りん、あかね。元気だった?」

 そんな風にオロオロしていたら一番手前の扉から一人の女性が出てきた。とても優しそうな雰囲気のその女性はふうわり笑った。あ、その笑い方山吹さんに似てる。

「ええ、もちろん。」
「ああ。……母さん、音霧の皆で来たぞ。」
「皆もいらっしゃい。」
「お邪魔します。」

 もしかして山吹さんのお母様かな?

 そう考えているとその女性と目が合う。その瞬間にその女性は瞠目した。なんだろう。何か口元についてるかな。

 拭ってみるが何もなかった。じゃあどうしたんだろう。

「ちょっと! りん! あかね! こんなに可愛い子がいるってこと、なんで黙ってたの!」

 バシバシと山吹さんの肩を叩くその女性。どこか興奮しているみたいだ。叩かれている山吹さんは痛い痛いと声を出している。

「いたっ、事前に連絡しましたよね。」
「あらそうだったかしら?」
「……とにかく家ん中入らせろよ。ずっとここにいてもあれだろ?」
「そうね。さ、皆も入って。」

 そう言って女性が出てきた部屋へと案内される。そこは広いリビングだった。置かれている家具なども見て、これは部屋という一つの芸術か、とまで考えてしまったところで。

「好きな所に座っていいぞ。」

 柊木さんにそう言われるが、どこに座っていいか分からない。どこか隅っこに……

「あなたは私の隣よ!」

 そんな考えを見通したのか、女性はぽんぽんと自分が座るソファの隣を叩く。そ、そこに座るのね。言われた通りに座り、一呼吸。

「はじめましてよね。私は竜胆と茜の母、山吹 小雪よ。是非名前で呼んでちょうだいね。……あなたのお名前は?」
「花蘇芳 藍です。よろしくお願いします。こ、小雪さん。」

 本当に名前で呼んでもいいのかと考えたが、本人の希望なのでその通りに。

 しかし小雪さんは何故かとても驚いた表情を浮かべていた。

 名前で呼ばれたことに驚いてる? いや、小雪さん自らのお願いだったのだ、そんなはずは……

「あなたが……」

 はて、私は何か驚かせるようなことをしてしまっただろうか。思い当たる点はないけどなあ。

「いえ、でもそんな子じゃなさそうよね。ならあの噂は……?」

 小雪さんは一人ぶつぶつと自問自答しているみたいだ。皆さんも頭の上にハテナを浮かべている。山吹さんや柊木さんまでも。二人にすらも通じない話を一人でしているようだった。

「なあ、母さんは一体何の話をしてんだ?」
「藍さんに何かあったんですか?」
「あ、いえ……なんでもないのよ。ええ。なんにも。」

 敢えて何もないことを強調するということは、きっと何かあったのだろう。見当はつかないが。

 しかし教えてはもらえないような雰囲気なので黙るしかない。

「他のお友達の紹介もしてもらいましょうか。」













 あれから皆さんも自己紹介し、すぐに打ち解けた。小雪さんが呟いていた『あの噂』が何なのか気になるが、聞けるような雰囲気ではない。いつかは聞いてみたいけど……。ここにいる間に聞ければいいな。

 もぐ、と夕ご飯を食べながらそんなことを考えていた。あ、この焼き魚も美味しい。

「ねえ、藍ちゃん。お母様はお元気?」
「え……? 私の母のこと、ご存知なんですか?」

 全く覚えていない私の母。声も姿も何一つ覚えていない。小さな頃からマスターに育ててもらったし。

「ええ、まあ。何度か話したりしたわ。亡くなったとは聞いていないからお元気かどうか気になって。」
「母さん! その話は!」
「どうしたの、りん。」
「……なんでも、ないです。でも、その話題は……」
「……分かった。深く聞かないことにするわね。」
「ありがとう、ございます。」

 山吹さん、なんか知ってる? でも何を……?

「山吹さん?」
「……なんでもないですよ。ただ、覚えていないのならそれでいいと思いまして。」
「覚えていないなら? どういうことですか?」
「……黙秘します。」

 その言葉を最後に、黙々とご飯を食べ始めた。なんか私だけ除け者にされている気分。山吹さんも小雪さんも何を知っているのだろう。本当気になる。

「あ、このサラダのドレッシング美味しい!」
「本当だ。」

 少し離れた席で楽しそうに話す桃さんと藤さん。福寿さんは相変わらず無言で食べていた。私もそっちの話に入りたいなー。小雪さんも山吹さんも柊木さんも何も喋らないんだもん。もぐ、とご飯を口に入れる。あ、このお米甘くて美味しい。



 二人が隠している事柄が何かを知ったのは、その次の日のことだった。
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