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10章 冬休み その一
62 竜胆side
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「やめて、ごめんなさい、やめて! お母さん! お父さん!」
そう叫んだ藍さんの力がふっと抜けた。足から崩れ落ちるのを支えるが、どうやら意識が無くなったようだ。
もしかしたら思い出してしまった可能性もあるかもしれない。駄目だ、思い出したら辛い思いをするのは藍さんなのだから。
「ふん、自分の罪を思い出すんだな。」
そう言って父さんはリビングを出ていった。引っ掻き回すだけ引っ掻き回して……何を考えているんだ、あの人は。これ以上藍さんが傷付くのを見たくなんてないのに。
しん、と静まったリビング。その沈黙を破ったのはあかねだった。
「で、それぞれ知ってることを話してくれるよな。母さん、りん。」
「……。」
あかねは無理にでも聞こうとするだろう。しかしあまり言いたくはない。
「……分かったわ。じゃあ皆も座って。話は長くなるわよ。」
「母さん!」
もしかしたら母さんも知っているのだろうか。藍さんの母親が小さな藍さんにしていたことを。
「まずは藍ちゃんを寝せてから話すわ。りん、藍ちゃんが泊まってる部屋に運んであげてちょうだい。」
「……分かりました。」
藍さんを抱き上げ、部屋へと向かう。
目覚める気配はない。
リビングに戻ってくると母さんが紅茶を淹れていた。皆の分の紅茶を淹れ終え、さて、と話し始める。
「……ああ、その前に花家と花三家について話しておくわ。それが関係しているのだから。まあ、りんとあかねはなんとなく知っているかしら。」
「まあな。」
「ええ、まあ。」
ん? 何故ここでその話が出てくるんだ?
「はないえ? はなさんけ?」
「……??」
皆首を傾げている。まあ、普段過ごすのにこの情報はあまり必要でもないからね。花三家やそれに近しい人間なら知っていた方がいいが、そうでないなら知らなくてもおかしくはない。
ここにいる皆が皆一応花家の人間であるということを。
「まずは花家について。その名の通り、花の名前が苗字となっている家々の総称よ。」
「じゃあ俺の酸漿も?」
「僕の雪柳も?」
「……福寿も?」
「そうよ。花家は思っている以上に多いわ。そして花三家というのは花家の中でも位が高い一族……具体的に言えば『山吹家』『杜若家』『空木家』の三家のこと。」
「杜若って……学園長?」
「ええ。龍彦さん元気?」
「元気だよー。ずっと患ってた腰痛も治って一層元気になったって。」
「それは良かったわ。」
「待って、もう一つの空木家って……空木 いちごちゃんの?」
「そうね。あなた達あの子のことも知ってるのね。」
「藍ちゃんのお友達だよ。」
「そう……」
やっぱり空木さんは花三家の空木だったか。確証がなかったので今まで口に出したこともなかったが、薄々そうではないかと思っていた。
「それで、花三家とそれに近しい花家の一族は代々『その苗字の花言葉に囚われる』宿命があるのよ。まあ、たまにそれよりも下の家でも花言葉に囚われることもあるみたいだけれども、それでも一代限りよ。ちなみに山吹家は代々『気品』という言葉に囚われているわ。」
「そうなんだ……」
「そして花蘇芳家は花三家のすぐ下に位置する一族だから代々花言葉に囚われているの。そして花家の中でも異質なのよ。囚われている花言葉が、ね……」
花蘇芳家が花三家のすぐ下だということは初めて知った。今までそんな話は一度も聞いたこともなかったから。
何故聞いたこともなかったのだろう。
「──だっけ。」
「ええ。」
「それとあいさんは何が関係してるの? 花言葉に囚われているって言っても……」
「それ以上は私も知らないわ。知っているとしても……噂くらいね。」
ふっと母さんの表情に影が差す。あまり良い噂ではないことが推測出来た。
「噂?」
昨日藍さんが自己紹介した時にも母さんが呟いていた噂とやら。一体どんなものなのだろう。
「そう。その噂はね、『囚われている花言葉が作用したことによって、藍ちゃんのお父様は亡くなった。』というものなのよ。」
「え……?」
その言葉を聞いて皆固まる。あまりにも衝撃的だったから。
「事故だったらしいわ。そしてその事故後からぱったりとお母様と藍ちゃんも表に姿を出さなくなった、とも言われているの。中には家族全員死んだと噂する人もいるくらい。」
ならば私が見た過去は父親の事故直後の出来事なのだろうか。父親が亡くなったことでヤケになった可能性もあるかな。しかし多分だが母親ももう既に……
「りんなら何か知ってるんじゃない?」
「……私、ですか。」
思い耽っていて返答が遅れる。
「ええ。何か知ってますって顔してるわよ。」
さすが母さんだ。少しの表情変化も見過ごさない。
「そうですね。しかし私も詳しくは知りませんが……」
これは藍さんも知らない過去。まあ、この一件で思い出してしまう可能性もあるけど。
「りんどうくんは何を知ってるの?」
「私は……藍さんが記憶を失う原因だろう出来事を、能力を使って見ました。」
使って、というよりも勝手に使われた、という方が事実に近いが。まあ、細かいことはいいとして。
「文化祭二日目、藍さんが幼子になった時、頭に包帯を巻いていたのを皆見ていたでしょう?」
「ああ、俺が悟られないように治したやつね。」
「やっぱりあの時治してたんですね。頭の撫で方がどうも不自然でしたから、そうなんだろうと思ってました。」
「俺怪我をしている人を見過ごせるような人間じゃないしー。」
「へー、あの時あいさん怪我してたんだね。なんで包帯巻いてんのかなー、って僕ずっと気になってたんだよ。」
「藍ちゃんの頭を撫でたら熱を感じたからね。これは怪我してるって分かったんだよ。」
「アポステリオリの制限のおかげだね!」
「あーまあね。」
「っつうかりん、やっぱり能力使ってんじゃねえか! 嘘ついたな!」
あかねは嘘だと分かってて深く聞いてこなかったと思ってたが違ったのか?
「これくらいの嘘見破れなかったんですか?」
「いや、まあ嘘ついてるくらいは分かってたが……」
「ねー、そんでどんな過去見たのさー。」
「それが……」
私が見た過去をぽつぽつと皆にも話す。それを聞いた皆はとても驚いていた。椿だけは苦しそうに顔を歪めて。
────
ヤマブキ
「気品」
そう叫んだ藍さんの力がふっと抜けた。足から崩れ落ちるのを支えるが、どうやら意識が無くなったようだ。
もしかしたら思い出してしまった可能性もあるかもしれない。駄目だ、思い出したら辛い思いをするのは藍さんなのだから。
「ふん、自分の罪を思い出すんだな。」
そう言って父さんはリビングを出ていった。引っ掻き回すだけ引っ掻き回して……何を考えているんだ、あの人は。これ以上藍さんが傷付くのを見たくなんてないのに。
しん、と静まったリビング。その沈黙を破ったのはあかねだった。
「で、それぞれ知ってることを話してくれるよな。母さん、りん。」
「……。」
あかねは無理にでも聞こうとするだろう。しかしあまり言いたくはない。
「……分かったわ。じゃあ皆も座って。話は長くなるわよ。」
「母さん!」
もしかしたら母さんも知っているのだろうか。藍さんの母親が小さな藍さんにしていたことを。
「まずは藍ちゃんを寝せてから話すわ。りん、藍ちゃんが泊まってる部屋に運んであげてちょうだい。」
「……分かりました。」
藍さんを抱き上げ、部屋へと向かう。
目覚める気配はない。
リビングに戻ってくると母さんが紅茶を淹れていた。皆の分の紅茶を淹れ終え、さて、と話し始める。
「……ああ、その前に花家と花三家について話しておくわ。それが関係しているのだから。まあ、りんとあかねはなんとなく知っているかしら。」
「まあな。」
「ええ、まあ。」
ん? 何故ここでその話が出てくるんだ?
「はないえ? はなさんけ?」
「……??」
皆首を傾げている。まあ、普段過ごすのにこの情報はあまり必要でもないからね。花三家やそれに近しい人間なら知っていた方がいいが、そうでないなら知らなくてもおかしくはない。
ここにいる皆が皆一応花家の人間であるということを。
「まずは花家について。その名の通り、花の名前が苗字となっている家々の総称よ。」
「じゃあ俺の酸漿も?」
「僕の雪柳も?」
「……福寿も?」
「そうよ。花家は思っている以上に多いわ。そして花三家というのは花家の中でも位が高い一族……具体的に言えば『山吹家』『杜若家』『空木家』の三家のこと。」
「杜若って……学園長?」
「ええ。龍彦さん元気?」
「元気だよー。ずっと患ってた腰痛も治って一層元気になったって。」
「それは良かったわ。」
「待って、もう一つの空木家って……空木 いちごちゃんの?」
「そうね。あなた達あの子のことも知ってるのね。」
「藍ちゃんのお友達だよ。」
「そう……」
やっぱり空木さんは花三家の空木だったか。確証がなかったので今まで口に出したこともなかったが、薄々そうではないかと思っていた。
「それで、花三家とそれに近しい花家の一族は代々『その苗字の花言葉に囚われる』宿命があるのよ。まあ、たまにそれよりも下の家でも花言葉に囚われることもあるみたいだけれども、それでも一代限りよ。ちなみに山吹家は代々『気品』という言葉に囚われているわ。」
「そうなんだ……」
「そして花蘇芳家は花三家のすぐ下に位置する一族だから代々花言葉に囚われているの。そして花家の中でも異質なのよ。囚われている花言葉が、ね……」
花蘇芳家が花三家のすぐ下だということは初めて知った。今までそんな話は一度も聞いたこともなかったから。
何故聞いたこともなかったのだろう。
「──だっけ。」
「ええ。」
「それとあいさんは何が関係してるの? 花言葉に囚われているって言っても……」
「それ以上は私も知らないわ。知っているとしても……噂くらいね。」
ふっと母さんの表情に影が差す。あまり良い噂ではないことが推測出来た。
「噂?」
昨日藍さんが自己紹介した時にも母さんが呟いていた噂とやら。一体どんなものなのだろう。
「そう。その噂はね、『囚われている花言葉が作用したことによって、藍ちゃんのお父様は亡くなった。』というものなのよ。」
「え……?」
その言葉を聞いて皆固まる。あまりにも衝撃的だったから。
「事故だったらしいわ。そしてその事故後からぱったりとお母様と藍ちゃんも表に姿を出さなくなった、とも言われているの。中には家族全員死んだと噂する人もいるくらい。」
ならば私が見た過去は父親の事故直後の出来事なのだろうか。父親が亡くなったことでヤケになった可能性もあるかな。しかし多分だが母親ももう既に……
「りんなら何か知ってるんじゃない?」
「……私、ですか。」
思い耽っていて返答が遅れる。
「ええ。何か知ってますって顔してるわよ。」
さすが母さんだ。少しの表情変化も見過ごさない。
「そうですね。しかし私も詳しくは知りませんが……」
これは藍さんも知らない過去。まあ、この一件で思い出してしまう可能性もあるけど。
「りんどうくんは何を知ってるの?」
「私は……藍さんが記憶を失う原因だろう出来事を、能力を使って見ました。」
使って、というよりも勝手に使われた、という方が事実に近いが。まあ、細かいことはいいとして。
「文化祭二日目、藍さんが幼子になった時、頭に包帯を巻いていたのを皆見ていたでしょう?」
「ああ、俺が悟られないように治したやつね。」
「やっぱりあの時治してたんですね。頭の撫で方がどうも不自然でしたから、そうなんだろうと思ってました。」
「俺怪我をしている人を見過ごせるような人間じゃないしー。」
「へー、あの時あいさん怪我してたんだね。なんで包帯巻いてんのかなー、って僕ずっと気になってたんだよ。」
「藍ちゃんの頭を撫でたら熱を感じたからね。これは怪我してるって分かったんだよ。」
「アポステリオリの制限のおかげだね!」
「あーまあね。」
「っつうかりん、やっぱり能力使ってんじゃねえか! 嘘ついたな!」
あかねは嘘だと分かってて深く聞いてこなかったと思ってたが違ったのか?
「これくらいの嘘見破れなかったんですか?」
「いや、まあ嘘ついてるくらいは分かってたが……」
「ねー、そんでどんな過去見たのさー。」
「それが……」
私が見た過去をぽつぽつと皆にも話す。それを聞いた皆はとても驚いていた。椿だけは苦しそうに顔を歪めて。
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ヤマブキ
「気品」
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