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いっしょう
1-52 己の魔法
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ギィィ……と音を立てて書庫の扉を開ける。すると現れたのは、孤児院の書庫とは比べるまでもないくらいたくさんの本がギッシリ収められた本棚の群れだった。
「はわぁ……ここが天国か……」
思わず感嘆の声が漏れ出るほどの本の量に、私はウットリとしてしまう。私、ここに住みたい。だなんて願望すら抱いてしまうほど。
「……ハッ、いけないいけない。空色のカゲロウ魔法について調べなきゃ。」
頭を振ってペチンと頬を叩き、気合いを入れ直す。この空間は誘惑が多すぎるから、ヴァイス属性の魔法について書かれている書物だけを自室に持って帰ろう。そう決めて書庫の中を探っていく。
「ヴァイス属性魔法について、みたいな題名を探せばいいかな。」
ツツツ、と本の背に指を滑らせながら題名だけを斜め読みしていく。チラホラ見たことのない文字らしきもので書かれたものもあり、これもいつか読みたいな、と一瞬気が逸れる。
「だから今日は魔法の本だけなの!」
魔法の本だけ、魔法の本だけ……お経のようにその言葉をブツブツ呟いて邪念を払っていく。
「魔法の本だけ魔法の本だけ魔法の本だ……おや?」
滑らせ続けた指が、一つの本で止まる。題名は『ヴァイスについて』。まさに探していたやつではなかろうか、とソレを本棚から抜いてパラパラと開いてみる。
「ええと、これは……」
まだ最初のページしか見ていないが、どうやら探していた『ヴァイス属性魔法について』書かれたものらしいことは分かった。ただ、日記調で書かれていることに疑問は浮かんだが。
まあ、そんな些細な疑問は置いておいて。お目当てが見つかったのなら、一刻も早くこの場所から出なければ。他の本の誘惑を完全に断ち切るためにも!
そんな強い気持ちと本を持って、早足で書庫を後にする。
…………
部屋に戻ってきて早速椅子に座り、持ってきた本を膝の上で広げていく。
「ええと、なになに……?」
『ヴァイス属性魔法を秘匿し、歴史の片隅に葬り去ることにした。しかし未来、この属性を知る必要が出てきた時の為にこれを書き残す。』
……やはり、ヴァイス属性は意図的に隠されたものだったのか。だがこれを読み解けば、もしかしたら何故ヴァイス属性が秘匿されるに至ったか、知ることができるかもしれない。そんな淡い期待すら抱き、また続きを解読していく。
『ヴァイス属性は七つの魔法を操ることが可能だ。それは他の属性にはない、稀有なものであり、白髪を持っていたとしてもその当人に適正がなければ扱うことはできない。』
その言葉に私はゾッと背筋が凍る思いだった。白髪を持っていても、ヴァイス属性を扱えない可能性もあったなんて。もしそうなっていたとしたら、即効で白花家を追い出されていただろうから。
……いや、ちょっと待てよ? むしろ適正がないからこそ、黄色の閃光魔法やら白の浄化魔法を扱えない、という見方はできないだろうか?
「いやいやいや、違う。きっと、違う。だって、そうじゃないと、私は……」
カタカタと震える手をギュッと握って抑え、漠然とした不安を押し殺していく。そうでもしないと、いつ用済みと捨てられるか分かったもんじゃない。こんな恐怖を取り払うためにも、一刻も早く読み進めていかなければ。
『ヴァイス属性の魔法には、それぞれ難易度がある。その中でも黄色、空色、白色は魔法のコントロールをするのに相当な鍛錬が必要となる。これは偏に他者を害する可能性が高い魔法だからだ。』
「他者を……?」
おかしい。黄色の閃光魔法はガイストにしか効かないはずだ。ツユクサさんがそう言っていたし。それに白の浄化は呪いを浄化するもの。他者を害するとは到底思えない。空色のカゲロウはちょっとまだ良く分かっていないけれども。
『黄色の閃光魔法は、その光で人や物に関わらず何もかもを焼き殺すことができる。空色のカゲロウは幻影を見せては人を惑わせ、そして白の浄化は人の精神を白く塗り替えることができる。だからこそこれらの魔法はコントロールするのも大変だ、とのこと。』
「ひっ……!」
思わず日記を手放してしまった。聞いていた魔法の特徴とは全く違うものが記されていたから。
「そんな、私の魔法にそんな恐ろしいものが……」
これは習得してもいいものなのか、それも分からなくなってしまう。それほど強烈な文字列だった。
「ガイストにだけ効くものだと思っていたのに……あれ?」
恐怖に慄いていたのもそれまでで、とあることに気がついた。
「コントロールするのも大変だ、『とのこと』って……これを書いている人はヴァイス属性ではなかったのかな?」
だってそうだろう。己の魔法だったらこんなに伝聞風に書かない。
「じゃあ、一体誰がこれを書いていたの……?」
その疑問に対する答えが出ることはなかったのだった。
…………
それからも読み進めていくと、それぞれの魔法の詳細も書かれていた。そうだ、これが欲しかったんだ、と当初の目的を思い出してはパラパラとページを捲っていく。
「あった。空色のカゲロウ魔法は、っと……」
『空色のカゲロウ魔法は、幻影を見せるもの。何かを隠すために良く用いているようだ。アイツはいつも己の風邪を誤魔化すために使っている。いい加減隠すなっていっているのに。そんなに俺が信用ならないのか、と詰りたくもなる。』
……何だろう、さっきまでとは打って変わって愚痴混じりの文面になったぞ? もしかして他の魔法のページも同じような感じなのだろうか。ここまで来たら習得済みの魔法についても読んでみたくなった私は、個別の魔法について書かれている章の最初まで戻って目を通す。
『赤のライト魔法はその名の通り明かりをつけるだけ。でもアイツは暇ができれば一日中でも本を読み耽るから、結構重宝している、とのこと。魔法の無駄遣いなような気がしてならない。』
わあ、どうやら過去のヴァイス属性持ちさんも読書がお好きなようだ。一気に親近感が沸いた。
『緑の太陽光魔法は、グリュンの奴と植物談義する時くらいしか使っていないとのこと。実に平和でいいが、やっぱり魔法の無駄遣いでしかないと俺は思う。』
あ、はい、太陽光はそれくらいしか使い道がないっぽい。私よりも熟練のヴァイス属性持ちですらそんな使い方しかしていないのなら、ね。何か納得してしまった。
『青の治癒魔法は、まあ、軽症の怪我くらいしか治せないらしい。この前足を欠損した村人を治そうとして出来なかったと歯噛みしていた。村人は恩知らずにも何故治せないのかとアイツに詰め寄っていたが、軽い怪我が治ること自体が奇跡だろうに。そこら辺を弁えない奴に心を痛めることはないと俺は思う。』
ああ、そうだよね。そんな重症を治せたら、もはやヴァイス属性持ちを人の括りに入れていいのかすら分からなくなるだろう。むしろ軽症を治す程度だからこそ人間の範疇でいられるのではないだろうか。
『赤紫の毒無効化魔法は、その名の通りどんな毒をも無効化する。どちらかと言えば青の治癒よりも精度が高いと思う。そんでリラの奴なんて最初はそれを聞いて「毒が効かないなんて」だなんて絶望していたが、いつの間にか毒が効かないならくっついていてもいいよね、とか言いやがってアイツにずっと引っ付いてやがる。いつか俺の魔法で呪い殺してやる。アイツに浄化されて終わるだろうけど。』
恨みがましい言葉が連なっていて、他の魔法の説明よりも長くなっている。というか、
「これ書いているのって、シュヴァルツ属性持ちでは!?」
呪い殺すってそんな物騒な、とも思ったが、結局浄化されたのならヨシとしようか。まあ、この日記の持ち主とその時のヴァイス属性持ちに対して私が今心配しても、きっともう死んでいるだろうし。頭を振って気持ちを切り替えてページを捲る。
『黄色の閃光魔法は、発動者の意図したモノを焼き殺す魔法である。だがこれはアイツでも毎回毎回安定的に発動はできないらしい。どうも、「殺したいほど憎むこと」がトリガーだと言っていたっけ。アイツは元々優しい奴だからそこまでの気持ちを抱えることができず、毎回毎回安定的に発動させることができないのだと俺は思う。』
なるほど、確かに私もほとんど憎む感情を持ったことはないものね。発動するわけがなかったのだ。孤児院時代に苛められた時でさえ、他への憎しみよりも己の無価値感への怒りの方が大きかったから。
『白の浄化魔法は、その名の通り浄化する。その対象は多岐にわたる。俺の呪いも勿論、他の魔法も無効化できるらしい。これだけ聞くと、赤紫の毒無効化の存在意義が揺らぐと思う。……ああ、それは野暮ってやつか。今のナシ! 後は人間に向けて使えば悪感情を主に消してくれるらしい。真っ白な善人の出来上がりって感じだな。』
うわぁ、これは想像以上に危険な魔法だな。ちょっと習得するのを躊躇するかもしれない。
とはいえ、己の属性魔法について知ることが出来たのは大きな収穫だったとは思う。その内容がちょっと怖いものだったとしても。
「はわぁ……ここが天国か……」
思わず感嘆の声が漏れ出るほどの本の量に、私はウットリとしてしまう。私、ここに住みたい。だなんて願望すら抱いてしまうほど。
「……ハッ、いけないいけない。空色のカゲロウ魔法について調べなきゃ。」
頭を振ってペチンと頬を叩き、気合いを入れ直す。この空間は誘惑が多すぎるから、ヴァイス属性の魔法について書かれている書物だけを自室に持って帰ろう。そう決めて書庫の中を探っていく。
「ヴァイス属性魔法について、みたいな題名を探せばいいかな。」
ツツツ、と本の背に指を滑らせながら題名だけを斜め読みしていく。チラホラ見たことのない文字らしきもので書かれたものもあり、これもいつか読みたいな、と一瞬気が逸れる。
「だから今日は魔法の本だけなの!」
魔法の本だけ、魔法の本だけ……お経のようにその言葉をブツブツ呟いて邪念を払っていく。
「魔法の本だけ魔法の本だけ魔法の本だ……おや?」
滑らせ続けた指が、一つの本で止まる。題名は『ヴァイスについて』。まさに探していたやつではなかろうか、とソレを本棚から抜いてパラパラと開いてみる。
「ええと、これは……」
まだ最初のページしか見ていないが、どうやら探していた『ヴァイス属性魔法について』書かれたものらしいことは分かった。ただ、日記調で書かれていることに疑問は浮かんだが。
まあ、そんな些細な疑問は置いておいて。お目当てが見つかったのなら、一刻も早くこの場所から出なければ。他の本の誘惑を完全に断ち切るためにも!
そんな強い気持ちと本を持って、早足で書庫を後にする。
…………
部屋に戻ってきて早速椅子に座り、持ってきた本を膝の上で広げていく。
「ええと、なになに……?」
『ヴァイス属性魔法を秘匿し、歴史の片隅に葬り去ることにした。しかし未来、この属性を知る必要が出てきた時の為にこれを書き残す。』
……やはり、ヴァイス属性は意図的に隠されたものだったのか。だがこれを読み解けば、もしかしたら何故ヴァイス属性が秘匿されるに至ったか、知ることができるかもしれない。そんな淡い期待すら抱き、また続きを解読していく。
『ヴァイス属性は七つの魔法を操ることが可能だ。それは他の属性にはない、稀有なものであり、白髪を持っていたとしてもその当人に適正がなければ扱うことはできない。』
その言葉に私はゾッと背筋が凍る思いだった。白髪を持っていても、ヴァイス属性を扱えない可能性もあったなんて。もしそうなっていたとしたら、即効で白花家を追い出されていただろうから。
……いや、ちょっと待てよ? むしろ適正がないからこそ、黄色の閃光魔法やら白の浄化魔法を扱えない、という見方はできないだろうか?
「いやいやいや、違う。きっと、違う。だって、そうじゃないと、私は……」
カタカタと震える手をギュッと握って抑え、漠然とした不安を押し殺していく。そうでもしないと、いつ用済みと捨てられるか分かったもんじゃない。こんな恐怖を取り払うためにも、一刻も早く読み進めていかなければ。
『ヴァイス属性の魔法には、それぞれ難易度がある。その中でも黄色、空色、白色は魔法のコントロールをするのに相当な鍛錬が必要となる。これは偏に他者を害する可能性が高い魔法だからだ。』
「他者を……?」
おかしい。黄色の閃光魔法はガイストにしか効かないはずだ。ツユクサさんがそう言っていたし。それに白の浄化は呪いを浄化するもの。他者を害するとは到底思えない。空色のカゲロウはちょっとまだ良く分かっていないけれども。
『黄色の閃光魔法は、その光で人や物に関わらず何もかもを焼き殺すことができる。空色のカゲロウは幻影を見せては人を惑わせ、そして白の浄化は人の精神を白く塗り替えることができる。だからこそこれらの魔法はコントロールするのも大変だ、とのこと。』
「ひっ……!」
思わず日記を手放してしまった。聞いていた魔法の特徴とは全く違うものが記されていたから。
「そんな、私の魔法にそんな恐ろしいものが……」
これは習得してもいいものなのか、それも分からなくなってしまう。それほど強烈な文字列だった。
「ガイストにだけ効くものだと思っていたのに……あれ?」
恐怖に慄いていたのもそれまでで、とあることに気がついた。
「コントロールするのも大変だ、『とのこと』って……これを書いている人はヴァイス属性ではなかったのかな?」
だってそうだろう。己の魔法だったらこんなに伝聞風に書かない。
「じゃあ、一体誰がこれを書いていたの……?」
その疑問に対する答えが出ることはなかったのだった。
…………
それからも読み進めていくと、それぞれの魔法の詳細も書かれていた。そうだ、これが欲しかったんだ、と当初の目的を思い出してはパラパラとページを捲っていく。
「あった。空色のカゲロウ魔法は、っと……」
『空色のカゲロウ魔法は、幻影を見せるもの。何かを隠すために良く用いているようだ。アイツはいつも己の風邪を誤魔化すために使っている。いい加減隠すなっていっているのに。そんなに俺が信用ならないのか、と詰りたくもなる。』
……何だろう、さっきまでとは打って変わって愚痴混じりの文面になったぞ? もしかして他の魔法のページも同じような感じなのだろうか。ここまで来たら習得済みの魔法についても読んでみたくなった私は、個別の魔法について書かれている章の最初まで戻って目を通す。
『赤のライト魔法はその名の通り明かりをつけるだけ。でもアイツは暇ができれば一日中でも本を読み耽るから、結構重宝している、とのこと。魔法の無駄遣いなような気がしてならない。』
わあ、どうやら過去のヴァイス属性持ちさんも読書がお好きなようだ。一気に親近感が沸いた。
『緑の太陽光魔法は、グリュンの奴と植物談義する時くらいしか使っていないとのこと。実に平和でいいが、やっぱり魔法の無駄遣いでしかないと俺は思う。』
あ、はい、太陽光はそれくらいしか使い道がないっぽい。私よりも熟練のヴァイス属性持ちですらそんな使い方しかしていないのなら、ね。何か納得してしまった。
『青の治癒魔法は、まあ、軽症の怪我くらいしか治せないらしい。この前足を欠損した村人を治そうとして出来なかったと歯噛みしていた。村人は恩知らずにも何故治せないのかとアイツに詰め寄っていたが、軽い怪我が治ること自体が奇跡だろうに。そこら辺を弁えない奴に心を痛めることはないと俺は思う。』
ああ、そうだよね。そんな重症を治せたら、もはやヴァイス属性持ちを人の括りに入れていいのかすら分からなくなるだろう。むしろ軽症を治す程度だからこそ人間の範疇でいられるのではないだろうか。
『赤紫の毒無効化魔法は、その名の通りどんな毒をも無効化する。どちらかと言えば青の治癒よりも精度が高いと思う。そんでリラの奴なんて最初はそれを聞いて「毒が効かないなんて」だなんて絶望していたが、いつの間にか毒が効かないならくっついていてもいいよね、とか言いやがってアイツにずっと引っ付いてやがる。いつか俺の魔法で呪い殺してやる。アイツに浄化されて終わるだろうけど。』
恨みがましい言葉が連なっていて、他の魔法の説明よりも長くなっている。というか、
「これ書いているのって、シュヴァルツ属性持ちでは!?」
呪い殺すってそんな物騒な、とも思ったが、結局浄化されたのならヨシとしようか。まあ、この日記の持ち主とその時のヴァイス属性持ちに対して私が今心配しても、きっともう死んでいるだろうし。頭を振って気持ちを切り替えてページを捲る。
『黄色の閃光魔法は、発動者の意図したモノを焼き殺す魔法である。だがこれはアイツでも毎回毎回安定的に発動はできないらしい。どうも、「殺したいほど憎むこと」がトリガーだと言っていたっけ。アイツは元々優しい奴だからそこまでの気持ちを抱えることができず、毎回毎回安定的に発動させることができないのだと俺は思う。』
なるほど、確かに私もほとんど憎む感情を持ったことはないものね。発動するわけがなかったのだ。孤児院時代に苛められた時でさえ、他への憎しみよりも己の無価値感への怒りの方が大きかったから。
『白の浄化魔法は、その名の通り浄化する。その対象は多岐にわたる。俺の呪いも勿論、他の魔法も無効化できるらしい。これだけ聞くと、赤紫の毒無効化の存在意義が揺らぐと思う。……ああ、それは野暮ってやつか。今のナシ! 後は人間に向けて使えば悪感情を主に消してくれるらしい。真っ白な善人の出来上がりって感じだな。』
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