八ツ色物語〜失われたヴァイス属性魔法を駆使して平和を掴み取ってみせる!〜

君影 ルナ

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いっしょう

1-20 暗闇との出会い

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 サクラさんに連れられやってきたのは、この世界において最重要の場所、ブント城。ここは所謂王族のご住居であり、つまり黒鳩さんや華橋さんのお家とも言える。

 しかし何故ここなのだろうか。シュヴァルツの方がどうのこうのと言っていたが、それとブント城がどう関係しているのだろうか?

「エンレイ、今からシュヴァルツのお方の住居に向かいますわよ。でも覚悟して頂戴ね。今のシュヴァルツの方は魔法を制御できていないご様子ですの。呪い殺されないように。」

 そんなサクラさんの忠告に私は内心首を傾げてしまった。というのも、精神的に未成熟な若者や酷い風邪を引いた時、はたまた急激な精神的負担。それくらい滅多なことがない限り、魔法が制御できないことなんてありえないからだ。

 さらに言えば、シュヴァルツ属性持ちともなればその魔法特性からして相当魔法制御に関して綿密な訓練を積むはず。だから誰よりも、どの属性よりも、シュヴァルツ属性持ちは魔法制御に優れているはずなのだ。そんな彼、あるいは彼女が魔法を制御できないなんて、相当特殊な状況であるのだろう。今一度気を引き締める。

 それと同時にふと思いついてしまった事柄があった。私は死ねない体質だけれども、シュヴァルツ属性魔法、つまり『呪い』なら死ねるのだろうか、と。

 そんな思いつきを胸に秘めながら、サクラさんの背中を追うことに集中する。

「クロユリ様のご様子は?」

 城を通り抜け、敷地内の外れの方にある一つの塔。そこの前にいた使用人らしき制服を着た人にサクラさんは話しかけていく。

「それが……城にいたカナカ軍の方々が……その……」

「いいからハッキリ言いなさい!」

「その、クロユリ様を罵倒されて……」

「はぁ、カナカ軍にはまだ命知らずがいたのね。もう一度鍛えなおさないといけないのかしら?」

「ええ、そうなさってください。」

「分かったわ。でもその前に、この状況をどうにかしないといけないわね。」

 塔の外からでも分かる禍々しさ。これがシュヴァルツ属性魔法の呪いなのだろうか。

「サクラ!」

「ツユクサ様! それとギンヨウ!」

 塔の中へと向かっていこうとしたその時、ツユクサさんとヨウさんがこちらに走ってきた。彼女の焦った様子を初めて見た、とどこかアサッテな方向に思考が逸れながら、ああ、いや、こんなことを考えている場合ではないなと己を律する。

「今どういう状況?」

「ワタクシ達も今到着して、軽く状況を聞いていましたの。ちゃんとエンレイも連れて来ましてよ?」

「感謝するわ。」

「ではツユクサ様、いつも通りに……」

「いえ、今日は違う方法を使うわ。……エンレイ、あなたに頼みたいの。」

 サクラさんとツユクサさんの会話をただひたすら聞いていただけの私だったが、急に話題の中心へと引っ張られた。

「わ、私ですか?」

「ええ、そうよ。あなたにしか出来ない方法で、解決してもらうわ。」

「ツユクサ様……?」

「そうね、これを解決できたらエンレイを次期総指揮官として正式に発表するわ。」

「……!!」

 それは、あのことを許してくれるってこと? 役目を与えてくれるってこと? 捨てないでくれるってこと?

「やります!!」

 そんなの、やるっきゃないでしょう! 俄然やる気が出た。

 ……は、いいけど、どうやって解決すればいいんだ? そもそもシュヴァルツ属性の方とは面識もない。初対面の人間にどう解決すればいいのだろうか?

 頭を使ってウンウン唸って解決策を見つけようとするが、しかし良い案は見つからない。どうしよう。

「エンレイ、考えているところ悪いけれども、あなたが知らないことを使って解決してもらうわよ。」

「へ?」

「ちょっと順番が前後するけれども、先に三色魔法、つまり白属性魔法を覚えて使ってもらうわ。」

「白……」

「そう。それはあなたにしか使えない魔法『浄化』。つまりシュヴァルツ属性の呪いを浄化する魔法よ。」

「呪いの浄化……」

シュヴァルツ属性とヴァイス属性が同時期に生まれるのはこの相互関係があるから、だと私は考えているわ。……私の言いたいこと、分かるわよね?」

「……」

「今まで習った魔法を応用して、あの呪いを浄化してきなさい。」

「……分かりました。」

 ──使い方は、分かるはずよ。なんたってあなたはヴァイス属性持ちなんだから。主な属性の使い方は、本能的に分かるはず。

 ツユクサさんのその言葉を背中で受け止めながら、私は一人、シュヴァルツ属性持ちがいるという塔の中へと向かった。

…………

「し、失礼します……」

 扉一枚を隔てた塔の中は、とても禍々しい空気が漂っていた。一般的にシュヴァルツ属性の呪いを浴びると、浴びた人の体はたちまち朽ちていくらしい。昔読んだ本にそう書かれていたっけ。

 まあ、私はどうやら大丈夫らしいんだけど。これだけ濃い呪いを一身に浴びてもピンピンしているところからしても、それはハッキリしている。私の本領でである(らしい)ヴァイス属性のおかげだろう。あまり実感はないけれども。

 階段の上の方からより一層濃い呪いの気配がする。それを頼りにどんどん階段を上っていく。ところどことにあるガラス窓から見えた外の景色は、ここが相当高い位置にあるんだろうことを教えてくれた。高所恐怖症には少し辛い景色だろう。

 階段もあと一段というところまで来た時、ガシャン!とガラスが派手に割れたような音が辺り一面に広がった。

「っ……!?」

 音の元だろう、唯一ある扉の先の部屋に私は急いだ。もしかしたら今のでシュヴァルツのお方は怪我をしてしまったかもしれないから。私がいくら青属性の治癒を持っていたとしても、それでも怪我は痛いから、少しでもそれはない方がいいだろう。

「大丈夫ですか!?」

 バン、と音を立てて唯一の部屋、それも呪いが一番濃い場所へと立ち入る。

 カーテンを閉め切って暗い部屋の中、床にペタンと座りこんでいる一人の男性。その髪の色はこの暗い部屋の中でも一等の漆黒。この方が、シュヴァルツ属性の……。

「……、」

「え?」

 私が来たと同時にシュヴァルツのお方はボソリと何かを呟いた。でも私にはそれが聞き取れなくて反射的に聞き返してしまった。それも初対面の人にかけるには少し態度の悪い感じで。声に出した瞬間に後悔してしまったのは秘密だ。

「出て行け。」

 しかしシュヴァルツのお方はそれに怒りもせず、ただ淡々とそう言い放った。

「いえ、そうにもいかない状況が私にもありまして! 失礼します!」

 私自身やり遂げなければならない事情もあるし、それ以上にこのお方を今一人にしたくないと思った。だから無遠慮だと分かっていてもズカズカと部屋に入っていく。

 少し離れたところにしゃがみ込み、自己紹介することにした。不審者ではないと示すために。

「はじめまして、私は白花 エンレイと申します! 今さっきガラスが割れるような音が聞こえてきたのですが、お怪我はありませんか? もしあれば私が治します!」

「……何故、死なない?」

 まず怪我の有無を知りたかったのに、そう聞かれるだけだった。まさかそう返されるとは思わず瞠目し、未だ顔を上げないシュヴァルツのお方にも分かるように言った。

「それは、私がヴァイス属性持ちだからだそうです! あとは単純に死ねない体質なだけです!」

「は?」

 そこで初めてシュヴァルツのお方は顔を上げた。暗闇に溶けてしまいそうなほどの髪と瞳。それが陽に当たったらどんなに綺麗だろう。場違いにもそう思ってしまった。

「……ヴァイス属性持ち、本当にいたんだ。何故今まで隠れていたんだ?」

「え、と……?」

 先程までとは打って変わって、言葉を畳み掛けてくるシュヴァルツのお方。一体どういう意味なのだろう。

「お前が最初から俺の元にいれば! そうすれば俺がこんな思いをしなくても良かったんだ! お前が、お前が隠れていなければ!」

 シュヴァルツのお方は切れ長の目をカッと見開いて私をそう詰る。私の肩を掴む手の震えから、切実さが窺えた。

「すみません。遅くなりました。」

「……本当だよ。遅い。」

 シュヴァルツのお方はさっきまでの勢いを無くし、私の肩に凭れ掛かってそう呟いた。私は彼を抱きとめるように手を背中に回すと、シュヴァルツのお方から漏れ出ていた呪いが霧散した。

 あれ、私が魔法使う間もなく問題解決してしまったのだが……? ツユクサさんの言い方からして白属性魔法を習得しろという意味だったんだろうけれども……え、使わなかったんだけど??

 そんな困惑と、今まで足りなかった穴が埋まったような安心感。それらが合わさって私の心はグチャグチャだった。
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