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二章 六月のほたるい

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シスイside

「そうだ。過剰に傷つけている。そしてそれを生徒会長サマが自覚出来ていないのが最も駄目な所だ。例えとして挙げるなら、怪我をした時とか分かりやすいだろう。怪我をしているのに痛みを感じなかったら最悪死ぬだろう? それと同じだ。」

 紅蓮さんに断言され、私はポカンと呆けてしまった。そんな私を置いていくかのように話は続く。

「さて珈夜、生徒会長サマ……いや、茨水の人助けエピソードをいくつか挙げてくれ。」

 はて、私が理解する前に話題は変わってしまったのだろうか。急に話の方向性がガラリと変わる。私はまだ理解出来ずに眉間に皺を寄せてしまう。

「もちろんですとも! 今日の朝は道路に飛び出そうとしている子を体を張って引き留め、昨日の放課後はチンピラに絡まれていた人を助け一発殴られてでも仲裁し、その日の昼には生徒の失せ物探しを手伝い……」
「ああ、それくらいで良い。」

 私の記憶にも残っているそれぞれのエピソード達。だがそれがどうしたと言うのだ。話の繋がりも分からないというのに……?

「もう! まだまだ覚えてますから話せますよ!」
「そういう問題じゃあない。」

 エピソードを語り尽くせなかったとプンスコ怒る珈夜さん。それを紅蓮さんは窘め、私に向き直る。

「さて茨水。その自己犠牲とも取れる人助け、それは自分には適用されないのか?」

 それは自分に対して人助けのようにしろ、ということだろうか。

「……? それは必要なことですか?」
「ああ、必要だ。」
「何故?」
「最悪、お前が死んでしまうからだ。」

 紅蓮さんは深刻な顔でそう言う。私が死ぬ? そんなことはないはずだ。だって……

 紅蓮さんの言いたいことが分からず眉間に皺を寄せながら言葉を紡ぐ。

「休息……は置いておいて、必要な栄養は摂っているし、怪我なんて以ての外。ほら、死なないです。」

 私のその発言が気に食わなかったのだろうか。紅蓮さんは泣きそうにくしゃりと顔を歪め、大声をあげる。

「死なないです、じゃない! お願いだ、自分の状態をきちんと把握しろ! お前は今、死ぬ直前と言われてもおかしくないんだぞ!」

 珈夜さんも緑さんもフッと顔を曇らせる。そんなに悪い状態ではないと思うのだが……自分の状態を把握していないだなんて考えられない。

 だってストレスすらもコントロール出来ている程体調管理は徹底しているし。

「根拠はあるんですか?」
「……蛍涙病。その名前に聞き覚えは?」

 病、と付いている程だから何かしらの病いなのだろう。だが聞き覚えはない。

「無いです。すみません、最近医療関係の書物は読んでいませんでしたから……」
「お前はそれの症状が出ている。ストレス過多が原因だ。」
「っ……」

 息を飲んだ音が聞こえた。それが自分のものなのか、はたまた周りにいる誰かのものなのか、私は分からなかった。紅蓮さんの言葉を聞いてあまりにも混乱してしまっていて。
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