3 / 14
いち (2)
しおりを挟む
久し振りに学校に来たAは、ここに自分がいてもいいのだろうかと迷っていました。
何せ自分には記憶がないのだから周りの人にも迷惑をかけるのでは、と考えていましたが……
「陽だまり、大丈夫だった?」
「ええと、あなたは……?」
「私はZ。あなたの友達だよ。」
「そうでしたか……。すみません、覚えていません。」
とても申し訳なさそうに謝るA。覚えていないことに罪悪感を感じているのだろう。
「無理しなくていいんだよ。」
そう言ってZはAに笑いかけます。今までいつも笑ってくれていたAに向けて。
「思い出すのはゆっくりでいいよ。今はただ楽しもう?」
「楽しむ、ですか?」
「うん!」
今までAに助けられてきた恩返しをするかのように、Zは話し掛けます。
そのZの言葉を聞いていた周りの人間も、Aの周りに集まってきました。
「じゃあ楽しむってことで、何の話するー?」
「あ、この前新しく出来たクレープ屋さんの話はどう?」
「あ、それいいかもー!」
Aはひたすら周りの人間の話を聞いていました。どれくらいの距離感で話に加わればいいのか分からずに。
「ほら、陽だまり。どうするー?」
ワイワイ、ガヤガヤ。
皆が皆楽しそうにAに話し掛けます。その優しさに触れたAはといえば。
ぽろ、と涙を一粒零したのでした。
「なんで……記憶を無くした私に……こんなに優しくしてくれるんですか……?」
一粒、また一粒、Aの目から涙は零れる。
「私は、もう昔の私とは違う人物になってしまったのでしょう? 記憶を無くして人格も変わってしまったのでしょう? それなのに……なんで……」
皆さん、私に笑いかけてくれるの……?
最後は言葉にもならず、口の中で言葉が消えていったのでした。
しかし周りの皆は最後の言葉まで理解し、言葉を重ねます。
「なんでって言われてもなあ……。」
「そうだねぇ、一つ確かなのは、陽だまりに皆救われてんだよ。陽だまりの存在全てに。だから記憶が無くても陽だまりは陽だまりだし、陽だまりが今辛いなら皆で助け合わないと!」
「そうそう! それに助け合うことを教えてくれたのは陽だまりだったんだよ!」
「ね! だから今度は私達の番!」
今までのAの言動が、今の空気を作っていたのです。
「ねえ、陽だまり。」
「……はい?」
ZはAに向き合い、真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「そんなに自分を追い詰めなくていいんだよ。確かに記憶がなくなって今までの陽だまりとは違くなって、それに対してほんの少しだけ寂しい気持ちも無くはない。」
「やっぱり……」
「だけど、ここに陽だまりがいてくれることが大事なの。階段から落ちた時、陽だまりを失うんじゃないかってことが一番辛かった。だから記憶があろうが無かろうが、そこに存在しているだけでも嬉しいんだよ。」
「……。」
「陽だまり、生きていてくれてありがとう!」
Zはその勢いのままAに抱きつきました。ありがとうを全身で伝えるように。
その想いはどうやら伝わったらしい。
「……こちらこそありがとう!」
泣きべそかきながらも今までの中で一番の笑顔をAは浮かべ、とても嬉しそうな声でここにいる全員に感謝したのでした。
何せ自分には記憶がないのだから周りの人にも迷惑をかけるのでは、と考えていましたが……
「陽だまり、大丈夫だった?」
「ええと、あなたは……?」
「私はZ。あなたの友達だよ。」
「そうでしたか……。すみません、覚えていません。」
とても申し訳なさそうに謝るA。覚えていないことに罪悪感を感じているのだろう。
「無理しなくていいんだよ。」
そう言ってZはAに笑いかけます。今までいつも笑ってくれていたAに向けて。
「思い出すのはゆっくりでいいよ。今はただ楽しもう?」
「楽しむ、ですか?」
「うん!」
今までAに助けられてきた恩返しをするかのように、Zは話し掛けます。
そのZの言葉を聞いていた周りの人間も、Aの周りに集まってきました。
「じゃあ楽しむってことで、何の話するー?」
「あ、この前新しく出来たクレープ屋さんの話はどう?」
「あ、それいいかもー!」
Aはひたすら周りの人間の話を聞いていました。どれくらいの距離感で話に加わればいいのか分からずに。
「ほら、陽だまり。どうするー?」
ワイワイ、ガヤガヤ。
皆が皆楽しそうにAに話し掛けます。その優しさに触れたAはといえば。
ぽろ、と涙を一粒零したのでした。
「なんで……記憶を無くした私に……こんなに優しくしてくれるんですか……?」
一粒、また一粒、Aの目から涙は零れる。
「私は、もう昔の私とは違う人物になってしまったのでしょう? 記憶を無くして人格も変わってしまったのでしょう? それなのに……なんで……」
皆さん、私に笑いかけてくれるの……?
最後は言葉にもならず、口の中で言葉が消えていったのでした。
しかし周りの皆は最後の言葉まで理解し、言葉を重ねます。
「なんでって言われてもなあ……。」
「そうだねぇ、一つ確かなのは、陽だまりに皆救われてんだよ。陽だまりの存在全てに。だから記憶が無くても陽だまりは陽だまりだし、陽だまりが今辛いなら皆で助け合わないと!」
「そうそう! それに助け合うことを教えてくれたのは陽だまりだったんだよ!」
「ね! だから今度は私達の番!」
今までのAの言動が、今の空気を作っていたのです。
「ねえ、陽だまり。」
「……はい?」
ZはAに向き合い、真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「そんなに自分を追い詰めなくていいんだよ。確かに記憶がなくなって今までの陽だまりとは違くなって、それに対してほんの少しだけ寂しい気持ちも無くはない。」
「やっぱり……」
「だけど、ここに陽だまりがいてくれることが大事なの。階段から落ちた時、陽だまりを失うんじゃないかってことが一番辛かった。だから記憶があろうが無かろうが、そこに存在しているだけでも嬉しいんだよ。」
「……。」
「陽だまり、生きていてくれてありがとう!」
Zはその勢いのままAに抱きつきました。ありがとうを全身で伝えるように。
その想いはどうやら伝わったらしい。
「……こちらこそありがとう!」
泣きべそかきながらも今までの中で一番の笑顔をAは浮かべ、とても嬉しそうな声でここにいる全員に感謝したのでした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる