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その頃の王子様

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 ああ! 今日も清々しい良い天気だ! 天さえも私を祝福している!

 機嫌良く書類を捌いていると、傍から声が掛けられた。

「最近ご機嫌ですね殿下。仕事の進みも良いですよ。お陰で補佐の私にも余裕があります」

「おお、ドミトリー。これも全ては我が婚約者、カーシャのお陰だ。彼女が今も私の為に頑張ってくれていると思うと、やる気が漲ってくるんだ」

 執務室に柔らかな空気が流れる。皆も私達を祝福してくれているのだ。

「大変結構な事ですが、根を詰め過ぎてもいけません。少し休憩にしましょうか」

「そうだな。皆も休憩してくれ」

 補佐官達が口々に礼を言い、茶の準備を頼んで雑談を始める。
 私も茶を口に運び、ドミトリーと話していると、侍女長が取り次いできた。新しい侍女を紹介したいらしい。

「新しく殿下付きの侍女となりましたエレーナです」

 エレーナはまあまあ見れるくらいの礼をとり、微妙に震える声で口上を述べ退室していった。
 まあ可愛いかな? 私のカーシャの方が断然癒されるがな!

「そう言えばカーシャ嬢との馴れ初めを伺った事はありませんでしたね。デビュタントで出逢われたそうですが」

 ドミトリーも、先程の同じ年頃の侍女を見て連想したのだろう。
 一年後の婚姻準備に皆わき立ち、未来の話はしても、彼女と私の運命的出逢いについて詳しく語った事はなかったな。運命だとは言ったがな!

「ふふふ、いいとも。君も私が羨ましくなるに違いない」

 皆興味があるのだろう。注目が集まる。苦しゅうない!

「舞踏会が行われたあの日、私は――――」

 ハッキリ言って飽きていた。この日はデビュタントの女性が主役だ。第二王子の私も添え物だ。王の小慣れすぎて何となく気持ちの込もらない寿ぎ。デビューの女性は初めてだろうが、私は何度も何度も聞いている。坊主の説教並みの有難さだ。ん? これだと『有難い』と言ってる事になるのかな。まあいいか。

 揃って白のドレスを着て、揃いのラウンドブーケを手にした令嬢達は、良く言えば粒揃いの真珠の様だった。つまり一粒一粒の区別がつかなかった。

 普通は極端な……なんというか……こう、もう少し体型に差があったり、ドレスの型も自分に合わせて個性を出そうとするものだろう?
 今年はどういう訳か揃い過ぎていた。

 そんな中で彼女だけは違ったんだ。

 特に変わった令嬢は居なかったって? ああ、あの時参加してたのか。ふふふ、見る所が違うんだよ。

 今年のブーケは、花以外も入っていただろう。何かの穂のようなものが。しっかり固められているので、殆ど揺れない。いいアクセントになっていたと思うよ。

 私が彼女に目を留めたのは、彼女だけが違ったからだ。
動く度に穂がピコピコ。動かなくてもピコピコピコピコ。もうずーっとピコピコしてるんだ! 一度父親に預けた時は動かないのに、彼女が持つとまた!! ああ、可愛かった。癒されたなあ……!

 え、休憩は終わり? いつもよりも早い気がするな。
 まあ皆の心と体も癒された事だろう。今日もあと一息。よろしく頼む。
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