生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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誤解

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sideルシアス

キジャは遠慮のない奴だが、今朝の空気の読めなささには俺も驚いた。


「団長。他人の恋愛をとやかく言うつもりはないですけど、順番くらい守ってくださいよ。リラに手加減してあげてください。」


順番?


「何の順番だ?」


それに手加減?


手加減なら毎日してるが…

「え…………。あんまりそう言うの気にしない人ですか?」


だから何のことだ??


「団長は王族ですからね…聞いた俺が悪かったですよ。」

「さっきから何の話をしてるんだ?」


俺が王族なのはそうだが、それとリラと何の関係が?

「だから、子供の話ですよ。」


…………は?


「子供?どこの?」

俺らにしては珍しく話が噛み合ってないな。


「いや、団長とリラの。」


は??


「アイツ妊娠してんのか?俺の子!?本当か!?それ!!」


俺は嬉しさのあまりキジャの肩を掴んだ。


「は!?いや、してるんじゃないんですか??いきなり結婚ってそういうことでしょ?」



キジャは上げて落とすのが上手い。


「んだよ、そういう事か。あーーーーー、期待して損した。」


ん?

期待ってなんだ?


「///////////」


1人で浮かれて俺は何やってるんだ。


「団長………そんな純粋な部分が残っていたなんて。俺は夢にも思いませんでしたよ。」


失礼か、コイツは。


「あぁ、お前と違って俺は純真無垢な男だからな。お前のその真っ黒な腹の中とはまるで違うんだ。」



心にもないことを言えばキジャは俺を鼻で笑う。


「腹の中までどす黒い団長が何言ってんですか。怖いですよ。」


「いや、どす黒くはねぇだろ。」


そこまでいってるか?俺は。


「真っ黒ですねー。リラで中和されたらいいんですけど。」


中和って……


「薬品じゃねぇんだから。」


薬品か…。


俺とリラはそれはもう相性ぴったりだろうが、俺とキジャは混ぜるな危険、だな。



*******************

sideリラ

ルシアス様が出かけて1時間が経った。


私はすることがなくてリビングでボーッとしてる。


ルシアス様がいなくちゃつまらない。


私、あと2日で死ぬのか…


そのことばかり考えてしまう。


死ぬ瞬間は苦しくないって言ってた。


けど具合は悪くなるって言ってたな。


熱でも出るのかな?


魘されながら死ぬのは嫌だ。


贅沢を言い過ぎかな?


ルシアス様に死ぬとこは見られたくない。


ルシアス様が私の死を受け入れられなかったらどうしよう。


私は償い切れない。


3日目の夜にどこかに逃げようかな。


ルシアス様に見つからないどこかに。

そして1人で………



1人で?


私、そんなこと出来る?


1人であっさり誰にもお別れを言えずに死ぬの?


1人寂しく死んでしまうの…?


「っ……」


ダメだよ、何弱気になってるの?


もう決めたじゃない。


私に流れる血を完全に断つ。


子孫なんか絶対に残しちゃいけない。


私は絶対、死ななくちゃいけない。


本音を言えばまだ生きたい、好きな人ルシアス様と一緒にいたい。


子供だってほしい。


私、全部全部投げ出して死ぬ道を選んだ。


何もかも捨ててしまうんだ。


涙が止まらなくなってきた。


怖い。


体の震えが止まらない。


死にたくない。


何も感じなくなってしまうのが怖い。


嫌だ…怖い。


1人で死ぬなんて…嫌だ。


私は恐怖のあまり泣き叫んだ。


恐怖を吐き出すように何度も叫んで、このどうにもならない絶望をどこかに捨てたくて、気がついたらお屋敷を飛び出していた。


こんなの馬鹿げてる。


自分で選んだ道なのに。


今更怖がるなんてルール違反だわ。


覚悟はできていた、そう思っていたのに……














あれ……?


ここはどこ?


私は錯乱して、お屋敷を飛び出て森の中で迷ってしまった。


散々走って、転んで、泣いて、やっと少し落ち着いたのに。


冷静になった頃には自分がどこにいるのかすら分からなくなっていた。


気が付けばもう月が出ている。


どれだけ走り回ったんだろう。


それよりも、完全に1日が過ぎた。


私が昨日、毒入りキャンディーを食べたのはこのくらいの時間。


着々と迫ってきてる。


私は膝を抱えて夜風と恐怖に震えていた。


そんな私に追い討ちをかけるように、雨が降り出す。


ついてない、本当についてない。


だけど丁度いい。


この雨の音で私の声をかき消してよ。


こんな姿、誰にも見せられない。


「リラ!」


嫌だ、誰にも見られたくない。

今は放っておいて。

お願いだからそばに来ないで。


「お前こんなとこで何やってんだ、大丈夫か?」



ルシアス様、今はダメ。


まだ心の準備ができてないの。


「ひぐっ…ひくっ…うっ…あっぢ…いって…」


まだ、あなたに上手に笑いかけられないの。


「どうした?何があったんだ?」


ルシアス様は着ているジャケットを脱いで私の頭に被せた。


「なんかあったにしても急にいなくなるな、心配するだろうが。…とにかく帰るぞ。」


ルシアス様は私を軽々抱き上げた。


仕事で疲れているはずなのに。


ルシアス様は訳もわからず泣いている私を怒ったりしない。


その優しさが今はつらかった。
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