生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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もう一つの果実

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sideクロウ

「本当に微量だがな。基本、禁断の果実は女にしか宿らない。」


ルシアスはわざわざ基本という言葉を使った。


「でも、ごく稀にあったんだ。アダムの直系の子孫に禁断の果実が宿ることが。」


そのごく稀がルディということか。



「アダムの直系の特徴はオッドアイ。ルディの瞳はたしかに珍しいとは思っていたけど、まさかアダムの直系だったなんて。」


ライアスも全てが腑に落ちたように呟く。


「でもルディは人狼だ。ルディが本当にアダムの直系ならルディは人間のはずだろう。」


リラだって人間だったんだから。


「禁断の果実の情報は機密事項、クロウが知らないのも無理はない。」


ルシアスはそう言ってライアスを見る。



「もうこの際話そうか。隠すことでもないよ。」


ライアスとルシアスは一体なにを知っているんだ?



「禁断の果実はたしかにイブの体に宿り、ほぼ女性にだけ継承されてきた。そして、その血は禁断の果実と同じ効果を持つ血になった、ここまでは知ってるよね?」


ライアスがそう俺に聞いたから俺は頷いた。


「次はアダムの話。禁断の果実を食べたアダムは男だったからもちろん子供は産めない。その力が自分自身だけに宿るようになると、特殊能力が使えるようになったんだ。」


特殊能力?


まさか……


「人間でありながら狼に変身する…とか?」


まさかそれが人狼の起源か?


「そう、その通り。人狼の始祖は人間の始祖であるアダムだよ。」



衝撃すぎる事実に俺は言葉を失った。


まさかそんな事がありえるなんて。


「じゃあラルフは….」



まさかあいつも禁断の果実か?



「ラルフはただの人狼だよ。オッドアイではないからね。元を辿れば確かにアダムに辿り着くだろうけど、その血の濃さは一滴にも満たないものだよ。」


イブと同じ原理だ。


禁断の果実の血は子孫が増えれば増えるほど薄くなり、次第にただの人間が増えて行く。


人狼もその原理で増えていったんだろう。


いや、そんなことより…



「これからルディはどうなる?」


そこが一番気になるところだ。


まさか殺されるのか?


「命の保証はできない。」


ルシアスは嘘をついたり誤魔化したりはしない。

こういった、残酷な選択や切羽詰まった時は絶対にそうだ。


「だったら今すぐに助けに行こう、見殺しにはできない。」



俺がそう言うとライアスがやりきれない表情をする。



「それはできないよ、クロウ。僕らは今人質を取られている状態なんだから。運良くルディとリラを助け出せたとしても、ラルフとダリアまで守り切れる保証はない。」


全員をこの状況下で助けるのは無理だと言うのか……


「だがルディが殺されてからじゃ遅い。」


俺の生徒だ。


絶対に死なせたくない。



「もちろん、分かってるよ。でも今は殺されない、大丈夫。ルディの身に何かあれば僕らが許さないのもあのろくでなしは知っているから。
僕らはとにかくアイツの招待を待とう。今下手に動いた方があの子たちの命が危険に晒される。」


なんて不利な状況なんだ。


「クロウ、大丈夫だ。ルディは死なせない。もちろんリラもダリアもラルフも全員生きて取り返す。
今はまだ堪えてくれ、頼む。」



ルシアスが真剣に頼むと俺に言った。


本気の頼み事だってことくらいはわかる。


「はぁ……全く。」


俺はどうしようもない状況に頭を抱えた。



******************

sideルディ


アダムとイブの子供たちって言ったな、このおっさん。


「出鱈目言うな、俺は人間じゃない。」


アダムは最初の人間だろう。


そもそも起源が違う。


「アダムは禁断の果実を口にして狼に化ける特殊能力を身につけた。人狼の起源はそこから来ている。
それに、そこの元禁断の果実と血を合わせたら色が変わっただろう。それが全ての証明だ。」



このおっさん、なに言ってるかさっぱりだけどさ…


「リラはもう禁断の果実じゃない、俺が仮にアダムの子孫かなんかだったとしてもリラの血に反応する方がおかしいだろ、騙そうとしても無駄だ。」


俺が食ってかかるとおっさんは笑った。



「その頭には脳みそが詰まってるのか?いくらそこの女がヴァンパイアに変異しても血は血だ。その体を流れる血が禁断の果実だということに変わりはない。」



「じゃあ……私は……」



リラは絶望したらしい。


声にそれが滲み出ている。


「あぁ、そうだ、小娘。お前は確かにヴァンパイアではある。だが同時に禁断の果実でもあるんだ。
そうそう簡単に手放せるものではない、死なない限りはその力は継承される。」



リラがまた泣いた。


リラは口には出さないけど、禁断の果実の血を誰よりも嫌っている。


そんなリラに突きつけられたこの真実は残酷すぎた。



「皮肉にも、そこの犬のおかげでそれが証明された。まさかとは思いお前たちを呼びつけたが正解だった。」


勝ち誇ったように笑うおっさん。


リラは絶望の淵にいる。


「さて、ここからは大切な話だ。嘘偽りなく話そう、まだ日取りは決めないがお前たち2人を処刑する。
喜べ、小娘。禁断の果実は俺がこの手で摘み取ってやる。こんな不運な人生を送るのはお前たちが最後だ。」
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