脳筋ヒーラー(回復職)は入ったパーティーを絶対回復しない。

あすぴりん

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力こそ最強であり、正義だとヒーラーは世に示す。

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 ――わたくし、絶対にPTパーティーの回復はしませんわよ。

 そう言ってわたくし、ミリア・エスニアは所属したてのPTの皆様に伝えると、早々にモンスター達の群れへと駆け出し、戦闘職が使う大型ハンマー片手に襲い掛かった。

 このマグリット草原では、わたくしを新しく入れた4人PTで、ゴブリンと戦闘を始めようとしていた。
理由はゴブリン掃討依頼をここのリーダーが受諾したから。最近までいた回復職ヒーラーが移籍したらしく、よって回復職ヒーラーの足りていないこのPTに、わたくしは誘われたってわけ。

「あの、ミリアさん、いくら何でも回復職ヒーラーの人が前衛は危険です。下がって下さい!」

 そうわたくしに注意をしてきたうるさい男はリーダーの剣士エミール。しかしそんな事を言われたところで、わたくしには全く意味がないわ。ちなみにこのPTには剣士、盾使い、補助魔法使いがいる。

「ううさいわね、あんた。今良いところだから黙ってなさい!」

 エミールを黙らせて、わたくしは手に持っている大型ハンマーで6体の小型ゴブリンを軽く振り回し殴り飛ばす。殴り飛ばされたゴブリンは、そのまま動かなくなり倒れた。完全に仕留めたと、わたくしは確信した。決して回復職ヒーラーがもつ力とは思えないと誰もが思うけど、このわたくしはその常識は通じないの。

「どうなってるんですか、あの人!?」

 勝手に驚いている女は補助魔法使いのシオン。基本的に補助魔法使いは前衛に能力強化バフをかけるのが役割ね。だから後衛で仲間の補助をする。だからわたくにも必要なわけね。そう一番に必要なの。

「シオン! わたくしに強化魔法を使いなさい。あの図体のでかいラストのホブゴブリンを仕留めるわ」

 わたくしの眼前には3メートルはある巨大なホブゴブリンが立ちはだかって来た。いい度胸ね。これだから図体だけがでかい馬鹿はいつまでも馬鹿なのよ。わたくしの事を舐めているのか、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 わたくしがさぞかし美味しいエサにでも見えているのかしらね。身の程知らずも良いところ。今そのデカイだけの図体に巨大な風穴を通して差し上げますわ。

「わ、分かりました。マナオフェンスライザ力強化アップ!」

 シオンがわたくしに強化魔法をかけてくれる。

 一番に必要と先程言いましたけど――、実を言います、とこれ以上わたくしの攻撃力は上昇しないのよ。既にステータス上では力999でカンストしているから。ではどうして強化魔法を頼んだのか? それはわたくしの身体に赤いオーラ―がまとわせ、いかにも強くなりましたって見た目になるからなのよね。だってこれでより強者感を出せて、わたくしが強いって分かってもらえるでしょ?

 だからと言って眼前に立つホブゴブリンは、回復職ヒーラーにそんな事をしても意味がないと思っているらしく、その憎たらしい顔を崩す事はないらしい。あくまでわたくしを簡単に捻り潰せるとおもっているようね。これだから雑魚は。失笑よ、失笑。

 ――ガアァァァァァ!

 ホブゴブリンは丸太の如き右手に持つ棍棒で、わたくしに襲い掛かって来る。右手を大きく横降りするが、わたくしのステータスは力以外はそこまで高くなく、平均以下。だからシーフや戦士のようにかろやかにかわして、背後から隙を突いて一撃を入れる事は出来ないのは自分でも分かっている。

 だから――、そのまま片手で持っている大型ハンマーで受け止める。

 カツンッ!

 棍棒と大型ハンマーがぶつかり合う。その力は拮抗していると思われた。が、これはただのパフォーマンス。

「そーーーーっれっと!」

 わたくしが気合いとともに、右手に持つ大型ハンマーに少し力を入れて振り上げると、ホブゴブリンの棍棒と右腕ごと棒の如く吹き飛ばせる。腕と棍棒はあらぬ方向へ飛んでいき、そのまま思い切り仰け反った後、ホブゴブリンは呻きながら昏倒した。さすが力999のパワーね。自分でも惚れ惚れしちゃう。

 いやーざまぁないわね。図体だけでかいくせに、全くなってないわ。そのまま吹き飛ばしたホブゴブリンの腹に大型ハンマーの持ち手部分で風穴を開ける。

「さようなら、おデブちゃん。これで少しは痩せましたでしょ? 良かったですわね。うふふ」

 そんな不敵な笑みを浮かべているわたくしの行動に対し、唖然とPTの3人は固まっていた。リーダーのエミールとシオン、そして盾役のガイストは腰を抜かすほどだ。

「ホブゴブリンを一撃で倒しちゃうなんて、どうなってるんですか、ほんと!?」

 シオンはまるで夢でも見ているのか目を何度も擦っている。しかし依頼されたコブリン達の残骸はしっかりと草原に転がっているのは事実。わたくしは自分の仕事振りに今日も満足、とは言い難いわね。なにせ雑魚ばっかりで歯応えがないモンスターばかりだったのだから。

「さぁな。しかしあの回復職ヒーラーのミリアさんは普通の回復職ヒーラーじゃないのは確かだな……」

 苦笑して盾役のガイストはわたくしをいぶかしげに見つめてくる。

 まっ、そりゃわたくしも逆の立場なら度肝を抜かすところね。ほんと、わたくしもこんな脳筋回復職ヒーラーになるとは、少し前までは露程も思わなかったんですから。
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