いぬがみとうま🐾短編集

いぬがみとうま🐾

文字の大きさ
6 / 41
(異ファ)『呼吸をした:経験値+100』『瞬きをした:スキル獲得』

第1話 努力アレルギーの俺、呼吸しただけで伝説になる

しおりを挟む
「適性職業……『なし』。測定不能、魔力……『なし』。以上だ、お前は帰って……『よし』」

「『なし』みたいに『よし』って言うなーーッッ」

 神殿の冷ややかな石畳の上で、俺の悲痛な叫びが響いた。
 周囲を取り囲む同級生や、期待に胸を膨らませていた大人たちから、一斉に失笑と侮蔑のため息が漏れる。

「うわ、マジかよアイツ……『なし』って」
「測定不能って、魔力がゼロすぎて水晶が反応しなかったってことだろ?」
「プッ、生きてる価値ねーじゃん。穀潰し確定だな」

 憐れみ、嘲笑、優越感。
 無数の視線が、中央に立つ黒髪の少年――アレンに突き刺さる。
 普通なら、絶望で膝をつく場面だ。あるいは、悔し涙を流して「今に見てろ」と歯を食いしばる場面かもしれない。

 だが、アレンの内面は、周囲の予想とは真逆に歓喜で震えていた。

(よっしゃああああああ!!)

 アレンは、こみ上げるガッツポーズを必死に堪えていた。
 適性なし。最高だ。魔力ゼロ。極上だ。

 つまりそれは、「勇者として戦場に駆り出されることもなければ、宮廷魔導師としてブラック労働させられることもない」ということを意味する。

 アレンには夢があった。
 一日中布団にくるまり、太陽が中天に昇るまで惰眠を貪り、腹が減ったら適当な木の実をかじる。そんな「究極の自堕落ライフ」を送ることだ。
 努力? 勝利? 友情? パンチラ?
 面倒くさい、面倒くさい。カロリーの無駄だ。息をするのも億劫なのに、なんで汗水垂らして働かなきゃならないんだ。

「……あー、はい。すんません、ゴミで。じゃ、帰ります」

 アレンはわざとらしく肩を落とし、演技たっぷりに背中を丸めて神殿の出口へと向かう。
 背後からは「負け犬が」という罵声が飛んでくるが、アレンにとっては勝利のファンファーレにしか聞こえない。

(これで晴れてニート確定! 親には勘当されるだろうけど、森の廃屋でも見つけて寝て暮らそう。あー、最高。人生あがりだ)


 アレンは輝かしいニート生活への第一歩を、力強く踏み出した。

 その、瞬間だった。

『ピロン♪』

 脳髄を直接撫でられるような、軽快で電子的な音が響いた。
 と同時に、アレンの視界のド真ん中に、半透明の青いウィンドウがポップアップした。

「……は?」

 アレンが間の抜けた声を上げる。
 そこには、明朝体の太文字で、デカデカとこう書かれていた。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ㊗ 実績解除:【 はじめての歩行 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 
 ▷ 偉業を達成しました!
 ▷ 報酬:【 敏捷性(AGI)ランクS 】 を獲得
 ▷ ボーナス経験値:500,000 EXP

「……んん?」

 幻覚か?
 アレンは目をこすった。
 一歩歩いただけだ。それが偉業? 敏捷性S?
 だが、困惑するアレンを置き去りにして、その「現象」は雪崩のように押し寄せた。

『ピロン♪』
『ピロリロリン♪』
『ジャラララララララッ!!』

 まるでパチンコで大当たりを引いた時のような、脳が溶けるような効果音が連続して鳴り響く。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ㊗ 実績解除:【 瞬き 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 ▷ 眼球を潤しました。素晴らしい生存本能です!
 ▷ 報酬スキル:《 神の眼(ゴッド・アイ) 》 を獲得
 ▷ ボーナス経験値:1,000,000 EXP

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ㊗ 実績解除:【 呼吸 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 ▷ 酸素を取り込みました。歴史的偉業です!
 ▷ 報酬スキル:《 大気支配 》 を獲得
 ▷ ボーナス経験値:10,000,000 EXP

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ㊗ 実績解除:【 困惑 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 ▷ 感情を抱きました。魂の高潔さが認められました!
 ▷ 報酬:全ステータス+10000

「うっわ、ちょ、ま……見えねえ! 邪魔!」

 視界がウィンドウで埋め尽くされる。
 通知は止まらない。心臓が動いただけでファンファーレ。汗をかいただけでレベルアップの音が鳴り響く。
 
 LEVEL UP!! LEVEL UP!! LEVEL UP!!
 LEVEL:1 → 45 → 99 → 350 → 1200……

 数字の桁がおかしい。
 壊れたカウンターのようにレベルが跳ね上がっていく。体の中に、熱い奔流が満ちていくのがわかる。だるかった体が、重力すら感じない。

「うるさい、うるさいって! 通知オフ! 設定どこだよこれーーッッ!」

 アレンは虚空を両手で払った。


「グルルルルッ……!」

 その時、草むらから低い唸り声が聞こえた。
 飛び出してきたのは、体長二メートルはある「レッドウルフ」。
 初心者冒険者ならパーティ全員で挑んで、運が良ければ生き残れるレベルの魔獣だ。

 牙を剥き出しにした狼が、地面を蹴ってアレンに飛びかかる。
 鋭い爪が、アレンの喉元へと迫る――。

 アレンは狼を見もしなかった。
 視界を埋める『レベルアップしました!』のポップアップを消すのに忙しく、目の前の害獣に対し、虫を追い払うように適当に手を振っただけだった。

 ――ため息交じりの、裏拳。

 ドォォォォォォォォォォンッ!!!!

 轟音。

 狼がいた場所から、遥か後方の山肌まで、一直線に木々が消滅し、地形が変わる。

「……は?」

 アレンは自分の手と、更地になった森を見比べる

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ㊗ 実績解除:【 手を振る 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 ▷ 圧倒的な暴力! まさに神の御業!
 ▷ 報酬スキル:《 破壊神の腕力 》 を獲得
 ▷ 獲得称号:『 一撃の神 』



「……なんでだよ」



 働きたくない。
 目立ちたくない。
 ただ寝ていたいだけなのに。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...