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(異ファ)宮廷料理人、間違えて魔王軍との最前線に配属される
第4話:恍惚の女騎士と、森の野営飯
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一度包丁を握ってしまえば、そこからは俺の独壇場だ。
(落ち着け、俺。これはただの「出荷」だ。母さんならもっと手際よくやるはずだぞ)
俺は震える指先で、ジェネラルオークの解体を進めた。
魔銀の刃が分厚い皮膚を音もなく滑り、極上の肉塊が次々と切り分けられていく。
断面から溢れ出す、透き通った脂。
筋肉の奥まで入り込んだ、細やかなサシ。
「……すごい。本当にこれ、やっぱり豚肉の最上級部位を超えてるじゃないか」
俺はパニックを忘れるため、無我夢中で手を動かした。
荷物の中から取り出したのは、緊急用の小型魔導コンロと、研修で使い古した愛用の小鍋。
そして、命の次に大切な母さんお手製の「熟成味噌」だ。
じゅう、と肉を焼く音が静かな森に響く。
脂の焼ける香ばしい匂いが、冷え切った夜気に溶け込んでいく。
鍋に森の湧き水を張り、根菜を刻んで放り込む。
仕上げに味噌を溶き入れた瞬間、そこは戦場から「王宮の厨房」へと変貌した。
(よし……。これ一食で、俺の乱れた精神を立て直すんだ……!)
「……だれ、か……」
突如、背後の茂みから弱々しい声が聞こえた。
俺が反射的に牛刀を構えて振り返ると、そこにはボロボロになった銀の鎧を纏った女騎士が倒れていた。
「な、なんだ、人間か……!? びっくりさせないでくれよ!」
彼女の腹部には、鋭い爪で引き裂かれたような深い傷がある。
顔色は土色で、今にも魂が抜け落ちそうなほど衰弱していた。
(ここで死なれたら目覚めが悪いな。罪悪感を背負って生きていくなんて障害は、今のうちに排除……いや、救済しなきゃ!)
俺は慌てて彼女に駆け寄り、手持ちの清潔な布で傷口を固く縛った。
「おい、しっかりしろ! 傷を治すには栄養をつけるのが一番だ!」
俺はまだ熱い豚汁を木皿に盛り、彼女の口元に運んだ。
「ほら、飲め! 飲むんだ! これを食べれば気力も回復するだろう!」
カレンと名乗った女騎士は、朦朧とした意識の中で、おずおずと口を開いた。
じゅわり。
温かい汁が彼女の喉を通り、胃に落ちていく。
「……っ、ぁ……」
カレンの瞳が、カッと大きく見開かれた。
口の中に広がるのは、魔物の肉とは思えないほど上品で濃厚な旨味。
甘い脂が舌の上で溶け、熟成味噌の深みが疲弊した体に染み渡っていく。
野菜の優しい甘みと、隠し味の生姜が、凍りついていた彼女の血を呼び覚ます。
「なんだ、これは……!? 今まで食べてきた泥水のような軍用食は一体何だったんだ……」
カレンの頬に、みるみるうちに赤みが差してくる。
彼女はむせ返りながらも、夢中で豚汁を啜り始めた。
「う、うまい……。なんだ、この温かさは……。魂が、洗われるようだ……!」
死を覚悟した戦場で、突如として差し出された宮廷最高峰の味。
それは彼女にとって、神からの救済に他ならなかった。
最後の一滴まで飲み干すと、カレンは信じられないものを見るような目で俺を見上げた。
彼女の目には涙が溜まり、月光に反射してキラキラと輝いている。
「貴公は……。貴公は、もしや天から遣わされた聖者なのか……? 私のような負け犬に、これほどの慈悲を……」
「は? 聖者? 違うよ、俺はただの料理人だ」
俺が呆れて言い返すと、カレンはふらつく体で立ち上がり、深く、深く頭を下げた。
「恩に着る。私は……私はまだ、戦える。貴公のこの一食が、私に生きる理由をくれた。この恩、必ずや戦場で返そう」
「いや、戦場じゃなくて王宮に帰る手伝いをしてほしいんだけどーーッッ」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、カレンは凛とした表情で闇の中へと消えていった。
(……まあいいか。とりあえず一命は取り留めたみたいだし)
俺は残った豚汁を胃に流し込み、空になった鍋を見つめた。
(さて、明日こそは砦に戻って、誰かに配属ミスを認めさせなきゃな。俺の平穏な余生は、まだ諦めてないぞ!)
焚き火の爆ぜる音だけが、静かな森に虚しく響いていた。
(落ち着け、俺。これはただの「出荷」だ。母さんならもっと手際よくやるはずだぞ)
俺は震える指先で、ジェネラルオークの解体を進めた。
魔銀の刃が分厚い皮膚を音もなく滑り、極上の肉塊が次々と切り分けられていく。
断面から溢れ出す、透き通った脂。
筋肉の奥まで入り込んだ、細やかなサシ。
「……すごい。本当にこれ、やっぱり豚肉の最上級部位を超えてるじゃないか」
俺はパニックを忘れるため、無我夢中で手を動かした。
荷物の中から取り出したのは、緊急用の小型魔導コンロと、研修で使い古した愛用の小鍋。
そして、命の次に大切な母さんお手製の「熟成味噌」だ。
じゅう、と肉を焼く音が静かな森に響く。
脂の焼ける香ばしい匂いが、冷え切った夜気に溶け込んでいく。
鍋に森の湧き水を張り、根菜を刻んで放り込む。
仕上げに味噌を溶き入れた瞬間、そこは戦場から「王宮の厨房」へと変貌した。
(よし……。これ一食で、俺の乱れた精神を立て直すんだ……!)
「……だれ、か……」
突如、背後の茂みから弱々しい声が聞こえた。
俺が反射的に牛刀を構えて振り返ると、そこにはボロボロになった銀の鎧を纏った女騎士が倒れていた。
「な、なんだ、人間か……!? びっくりさせないでくれよ!」
彼女の腹部には、鋭い爪で引き裂かれたような深い傷がある。
顔色は土色で、今にも魂が抜け落ちそうなほど衰弱していた。
(ここで死なれたら目覚めが悪いな。罪悪感を背負って生きていくなんて障害は、今のうちに排除……いや、救済しなきゃ!)
俺は慌てて彼女に駆け寄り、手持ちの清潔な布で傷口を固く縛った。
「おい、しっかりしろ! 傷を治すには栄養をつけるのが一番だ!」
俺はまだ熱い豚汁を木皿に盛り、彼女の口元に運んだ。
「ほら、飲め! 飲むんだ! これを食べれば気力も回復するだろう!」
カレンと名乗った女騎士は、朦朧とした意識の中で、おずおずと口を開いた。
じゅわり。
温かい汁が彼女の喉を通り、胃に落ちていく。
「……っ、ぁ……」
カレンの瞳が、カッと大きく見開かれた。
口の中に広がるのは、魔物の肉とは思えないほど上品で濃厚な旨味。
甘い脂が舌の上で溶け、熟成味噌の深みが疲弊した体に染み渡っていく。
野菜の優しい甘みと、隠し味の生姜が、凍りついていた彼女の血を呼び覚ます。
「なんだ、これは……!? 今まで食べてきた泥水のような軍用食は一体何だったんだ……」
カレンの頬に、みるみるうちに赤みが差してくる。
彼女はむせ返りながらも、夢中で豚汁を啜り始めた。
「う、うまい……。なんだ、この温かさは……。魂が、洗われるようだ……!」
死を覚悟した戦場で、突如として差し出された宮廷最高峰の味。
それは彼女にとって、神からの救済に他ならなかった。
最後の一滴まで飲み干すと、カレンは信じられないものを見るような目で俺を見上げた。
彼女の目には涙が溜まり、月光に反射してキラキラと輝いている。
「貴公は……。貴公は、もしや天から遣わされた聖者なのか……? 私のような負け犬に、これほどの慈悲を……」
「は? 聖者? 違うよ、俺はただの料理人だ」
俺が呆れて言い返すと、カレンはふらつく体で立ち上がり、深く、深く頭を下げた。
「恩に着る。私は……私はまだ、戦える。貴公のこの一食が、私に生きる理由をくれた。この恩、必ずや戦場で返そう」
「いや、戦場じゃなくて王宮に帰る手伝いをしてほしいんだけどーーッッ」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、カレンは凛とした表情で闇の中へと消えていった。
(……まあいいか。とりあえず一命は取り留めたみたいだし)
俺は残った豚汁を胃に流し込み、空になった鍋を見つめた。
(さて、明日こそは砦に戻って、誰かに配属ミスを認めさせなきゃな。俺の平穏な余生は、まだ諦めてないぞ!)
焚き火の爆ぜる音だけが、静かな森に虚しく響いていた。
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