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第六話 Towards a new world (Part 11)

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 衆院選投票日――

各地の投票所には各局・各新聞の出口調査員が張り詰めている。

「誰に投票されましたか?」
「支持政党は、どこですか?」
どの局も新聞社も聞き取った情報をタブレット端末から集計所へと送る。

そして、20:00 ――
各局が特番を組んだ開票速報の第一声・・・

「東京特別区 小選挙区で如月夏生さんが当確となりました!」
アナウンサーの声が上ずっている。

「東京特別区の投票率は不在者投票と合わせて・・・。凡そ、95%強! その大半の票が如月夏生さんと予測されています!」

活気に沸く、如月の選挙事務所。
松田と多村が万歳を繰り返し、本橋が黙って笑みを浮かべる。



「やりおったか、夏生・・・。だが、これは始まりに過ぎん・・・」
顎鬚を撫でまわしながら、ミネルヴァが満足気に笑っていた。


「会長・・・。いや、如月さん。兄貴もきっと喜んでますよ」
穂波と肩を抱き合いながら、頬を濡らす洸児。
(アキ・・・。如月さん、凄いよね・・・)


「さて、これで日本も変わるだろう・・・。大統領にも・・・」
ジェームス・アデルソンがホワイトハウス直通電話の受話器を上げた。



「夏生が・・・・。あの、夏生が・・・、衆議院議員・・・」
「女将さん・・・。夏生さん、国会議員ですよ! 超有名になっちゃいましたね!」
呆然としているハルを抱きしめる弥生。



そして、ここにも・・・

「二代目・・・。いや、夏生さん・・・。俺はあんたが決めた事には異論はねえ・・・。先代も・・・。お嬢もきっと喜んでますぜ・・・」
先代の二月会若頭・鹿賀亨介も目頭を押さえていた。



「お母さん。当選したよ、お父さん・・・」
【テルマエ学園】の自室で思わず涙ぐむアキ・・・



(アキ・・・。これから、辛い事が次々と起きてしまうかも知れまへん・・・)
黙って中継を見つめる弾。

「まさかとは、思いましたが・・・」
「これから、何かが変わる・・・」
椿はそれ以上の言葉を見い出せないでいた。



この日、全国の投票率は82%を超えていた。
初めて、国勢選挙に国民の大多数が自ら意志を示したのである。



如月の当選は、政権与党だけでなく連立野党の屋台骨を大きく揺るがした。
そして、岸本代表の第二次組閣に・・・

「如月夏生君を国家保安大臣に任命します」
この一言が発せられ、数日後に皇城での認証式が行われた。



「哲也・・・。お前の二の舞はさせねえ・・・。お義父さん・・・、芙由子・・・見ていてくれ。母さん、アキ・・・、俺は俺なりにこの国を守ってみせる・・・」
川辺に立ち潺(せせらぎ)を見つめる如月に、後ろから声を掛ける者が居た。

「感無量って所ですか?」
振り返ると本橋が笑っている。

「松田、多村・・・。世話を掛けたな」
「何時でも駆けつけますよ」
「お前なら・・・。この国の政治を根本から変えられるだろう」
4人の男達が互いの手を重ね合う。

全てを賭けて闘い、勝ち上った栄光は果たして何色に輝くのであろうか・・・



フランス・マシュラン本社――

カロロス・ゴールの会長室に1人の青年と2人の女性が呼ばれていた。

「ケリアン、もう一度日本へ行って貰おう」
「ご命令なら・・・」
「そこの2人も連れてな・・・」
一瞬、ケリアンの表情が強張った。

「ふむふむ、このケリアン君と日本へ行けとは・・・。これ如何に・・・」
面白そうな表情を浮かべたのは、ヤミ・イーシャである。

「・・・」
「不服か?」
「いや・・・。別に」
隣で複雑な表情になったのは、宇月未羽(ドルゴ14)・・・

ここに集められる前、未羽は個別にカロロスに呼ばれある話を持ち掛けられていた。



「日本で一仕事して貰いたい・・・。必要なモノはこちらで揃える」
「仕事・・・?」
「ダーク・コンドーの後継者に頼むのだ・・・。分かる筈だが・・・」
カロロスがニヤリと笑った。

「・・・。誰を?」
「ミネルヴァと言う男だ」
「ミネルヴァ・・・。確か・・・」
「ケリアンには黙っておけ。報酬は言い値で構わん」
「太っ腹だな」
「成功させたら、フランス国軍外人部隊の将校に推挙してやっても良いぞ?」
「悪いが、そっちに興味は無い」
「・・・競り負けた相手は、シールズだそうだ」
「っ! そうか・・・」
沈黙が続いた。

「1,000万ユーロ・・・。成功報酬でいい」
「・・・分かった。商談成立だな」
右手を差し出すカロロス。

だが・・・

「利き手を預ける程、信用していない」
「では、後に立たない様に気を付けるとしよう」



想いにふれる未羽の顔を覗き込むヤミ。

(また面白い事になりそう・・・。ふふふっ!)

「ところで・・・、ヤミ?」
カロロスの視線がヤミへと向けられた。

「へへっ、何でやすかぁ? カロロスの旦那ぁ?」
「孫・・・、紅蘭を知っているな?」
「紅蘭ちゃん? いやー、しばらく会ってないねぇ」
「紅蘭も日本に向かっている筈だ」
「んじゃ、向こうで会ったら広東薬科大学の同級会でもしようかな~」
「そんな余裕があるとは思えんが?」
カロロスの顔に暗い笑みが浮かんだ。

「何を仰る、カロロスさん! ボクと紅蘭ちゃんはカターい友情で結ばれているんだよぉ」
「ふっ! 父を、王文を裏切って尚そう言えるとは。大したタマだ」
「チッチッチッ! 誤解しているようだけど、ボクはちゃーんと仕事してから日本を離れたんだよ。偶然、その後にあんな事になっちゃて・・・。いや、本当に気の毒だなぁ・・・」
「セルゲイの事は?」
「んっ!? なぁにい、それぇ。ボク、分かんないなぁ」
ケラケラと笑い出すヤミ。

「ケリアン! 後は任せるぞ・・・」
そう言うカロロスを見て、複雑な面持ちで頷くケリアンであった。

(カトリーナ・・・)
ケリアンの心の呟きは誰にも聞こえていない。



同じ頃、アメリカから2人の男が日本へと向かって旅立っていた。

1人はジェームス・アデルソン・・・
ラスベガスのカジノ王であり、大統領との直接話せる数少ない存在である。
そして・・・

「良かったのですか? Mr.アデルソン?」
「何がかね?」
人懐っこい笑みを浮かべて隣の男性を見る。

「確か、お嬢さんとご一緒に行かれるとお聞きしていたのですが・・・」
「あれで、ミッシェルもなかなか忙しい・・・。それより、君を先に会わせておきたい」
「Mr.ミネルヴァですか・・・」
「君ならきっと気に入るだろう」
「どちらがですか?」
「どちらもだよ・・・。ジェリー」
ジェリーと呼ばれた男の顔、果たして彼は何者なのであろうか。

風雲急を告げる中、それぞれの思惑を持った者達が動き始めていた。


※本話は、【東京テルマエ学園】『第36話 過去との惜別』・『第110話 珍道中、行先はフランス!?』・【アナザーストーリー・テルマエ学園β】の『芙由子の章(其の五)』とリンクしております ※
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