95 / 123
第十七話 それぞれの夏休み・胎動編(Part 3)
しおりを挟む
アキとカトリーナが立ち去ったのを見届け、ハルが口を開いた。
「カトリーナさんだったかい。良い娘だ、気配りも出来るし。アキには勿体ない友達だよ」
「えぇ、ですから私も彼女を信頼できる部署に」
「だろうね。それで、話ってのを聞かせて貰おうかい」
「・・・心を落ち着かせてお聞き下さい」
弾は神妙な面持ちであった――
「そうかい、そうだったのかい。あの橘先生もねぇ」
弾の話を聞き終わったハルは、フウゥゥゥッと深く息を吐いた。
弾がハルに語ったのは、自分と橘ゆかりもミネルヴァの血を引いている事、姪に当るアキはその事を全く知らない事。
自分の双子の姉にもその事実を伝えて居ない事、そして桔流竜馬の存在など――
「温水先生を担任として学園に残らせたのは、私の我儘え。大変、申し訳ありませんどした」
「アキに担任なんて勤まるのかと心配でしたけどねぇ」
「立派にやってますえ」
「アキにはこれからもっと強く生きて貰わないといけない。あたしだってそう長くは無いんだからねぇ。それにしても・・・」
ハルはゆっくりと天井を見上げた。
「因果だねぇ・・・。あの夏生とアキ、アンタと関わるなんて」
そう言うと、ハルは立ち上がり小型の冷蔵庫からポットに入ったアイスコーヒーを取り出すと氷を入れたグラスに注ぎ自分と弾の前に置く。
「学園長さん。ひとつ、あたしの話も聞いてくれるかい」
グラスの中の氷がカランと音を立てた。
ハルは、峰流馬が幼い夏生を連れてここに来た事、そして夏生を実子同様に育てた事、アキの母親・芙由子とのなれそめと非業の死、二月会襲名の経緯などを一気に話した。
互い胸の内を吐露したハルと弾――
「女将さん、有難う御座いました。生徒達の御指導、宜しくお願い致します。温水先生・・・、アキとは積る話もありますやろ?」
憑き物が落ちたかの様に爽やかに笑った弾が立ち上がり、退室しようとするのをハルが呼び止めた。
「学園長・・・、いや松永さん。夏生の弟って事は、アンタもあたしの息子みたいなもんだ。嫌な事があったら、いつでもここにおいで。それから、アキの事はアンタに任せる。くれぐれも頼んだよ」
いつものハルからは想像も出来ない優しい笑顔であった。
「松永さん、聞いていいかい? ミネルヴァは何を企んでいねのかねぇ?」
ハルの表情が変わっていた。
「申し訳有りまへん。今は・・・」
「そうかい。アンタが話してくれるまで待つとしようじゃ無いか。いつか、お姉さんにも話せる日が来るさね」
「そうなったら、ええんですけど・・・」
そう言って軽く頷くと、弾は部屋を出て行ったのである。
大広間へと戻った弾――
「皆はん。女将さんとの話は終わりましたよって、俺と神宮寺はんは先に東京へ戻りますえ」
「え~っ、椿さん帰っちゃうんですかぁ」
「せめて、一泊くらいしていって下さいよぉ」
いつの間にか、椿は3期生達の人気者になったらしい。
(ほう、もしかしたら温水先生よりも神宮寺はんの方が素質が有りそうや)
悪戯っぽく見つめる弾の視線に椿は微笑みをもって返す。
(学園長もっ?)
(そんなぁ~)
弾のファンである、透桜子と紬は更に寂しそうである。
「実習、頑張って下さい! 皆さんのお帰りを東京で待ってますからね!」
そう言って、椿は弾の側に寄り添う様に立つ。
「それじゃあ、皆はん、おきばりやす。神宮寺はん、行きまひょか」
「はい」
そのまま大広間を後にした弾を、慌てて追い掛けたアキが廊下で呼び止める。
「学園長!」
「何え? 温水先生?」
「あ、あの。お婆ちゃんとはどんな話をされたんですか?」
不安気な顔のアキに、弾はカラカラと笑って答えた。
「何や、気になりますんか? たいした事やおへん。温水先生をビシバシ鍛えておくれやすって言うただけや。精々、おきばりやす」
「はぁ・・・」
あまりにも簡潔な返事に二の句が継げなくなるアキを残して、弾と椿は足早に立ち去ったのである。
「アキ、何してるの?」
振り向くとカトリーナが笑っている。
「生徒達が待ってる。早く戻って」
「うん」
気を取り直、大広間へと戻ろうとした時、ふとした違和感をアキは感じた。
「ん?」
「アキ、どうかした?」
「カトリーナ。今、気付いたんだけど」
「何?」
「お婆ちゃん、わたしの事を【アンタ】って呼んでた気がして」
「そう呼んでたけど?」
「今までは【お前】って呼んでたんだよ。どうしてなんだろ?」
(へぇ・・・)
何かを感じた様にカトリーナが微笑んでいた。
「カトリーナさんだったかい。良い娘だ、気配りも出来るし。アキには勿体ない友達だよ」
「えぇ、ですから私も彼女を信頼できる部署に」
「だろうね。それで、話ってのを聞かせて貰おうかい」
「・・・心を落ち着かせてお聞き下さい」
弾は神妙な面持ちであった――
「そうかい、そうだったのかい。あの橘先生もねぇ」
弾の話を聞き終わったハルは、フウゥゥゥッと深く息を吐いた。
弾がハルに語ったのは、自分と橘ゆかりもミネルヴァの血を引いている事、姪に当るアキはその事を全く知らない事。
自分の双子の姉にもその事実を伝えて居ない事、そして桔流竜馬の存在など――
「温水先生を担任として学園に残らせたのは、私の我儘え。大変、申し訳ありませんどした」
「アキに担任なんて勤まるのかと心配でしたけどねぇ」
「立派にやってますえ」
「アキにはこれからもっと強く生きて貰わないといけない。あたしだってそう長くは無いんだからねぇ。それにしても・・・」
ハルはゆっくりと天井を見上げた。
「因果だねぇ・・・。あの夏生とアキ、アンタと関わるなんて」
そう言うと、ハルは立ち上がり小型の冷蔵庫からポットに入ったアイスコーヒーを取り出すと氷を入れたグラスに注ぎ自分と弾の前に置く。
「学園長さん。ひとつ、あたしの話も聞いてくれるかい」
グラスの中の氷がカランと音を立てた。
ハルは、峰流馬が幼い夏生を連れてここに来た事、そして夏生を実子同様に育てた事、アキの母親・芙由子とのなれそめと非業の死、二月会襲名の経緯などを一気に話した。
互い胸の内を吐露したハルと弾――
「女将さん、有難う御座いました。生徒達の御指導、宜しくお願い致します。温水先生・・・、アキとは積る話もありますやろ?」
憑き物が落ちたかの様に爽やかに笑った弾が立ち上がり、退室しようとするのをハルが呼び止めた。
「学園長・・・、いや松永さん。夏生の弟って事は、アンタもあたしの息子みたいなもんだ。嫌な事があったら、いつでもここにおいで。それから、アキの事はアンタに任せる。くれぐれも頼んだよ」
いつものハルからは想像も出来ない優しい笑顔であった。
「松永さん、聞いていいかい? ミネルヴァは何を企んでいねのかねぇ?」
ハルの表情が変わっていた。
「申し訳有りまへん。今は・・・」
「そうかい。アンタが話してくれるまで待つとしようじゃ無いか。いつか、お姉さんにも話せる日が来るさね」
「そうなったら、ええんですけど・・・」
そう言って軽く頷くと、弾は部屋を出て行ったのである。
大広間へと戻った弾――
「皆はん。女将さんとの話は終わりましたよって、俺と神宮寺はんは先に東京へ戻りますえ」
「え~っ、椿さん帰っちゃうんですかぁ」
「せめて、一泊くらいしていって下さいよぉ」
いつの間にか、椿は3期生達の人気者になったらしい。
(ほう、もしかしたら温水先生よりも神宮寺はんの方が素質が有りそうや)
悪戯っぽく見つめる弾の視線に椿は微笑みをもって返す。
(学園長もっ?)
(そんなぁ~)
弾のファンである、透桜子と紬は更に寂しそうである。
「実習、頑張って下さい! 皆さんのお帰りを東京で待ってますからね!」
そう言って、椿は弾の側に寄り添う様に立つ。
「それじゃあ、皆はん、おきばりやす。神宮寺はん、行きまひょか」
「はい」
そのまま大広間を後にした弾を、慌てて追い掛けたアキが廊下で呼び止める。
「学園長!」
「何え? 温水先生?」
「あ、あの。お婆ちゃんとはどんな話をされたんですか?」
不安気な顔のアキに、弾はカラカラと笑って答えた。
「何や、気になりますんか? たいした事やおへん。温水先生をビシバシ鍛えておくれやすって言うただけや。精々、おきばりやす」
「はぁ・・・」
あまりにも簡潔な返事に二の句が継げなくなるアキを残して、弾と椿は足早に立ち去ったのである。
「アキ、何してるの?」
振り向くとカトリーナが笑っている。
「生徒達が待ってる。早く戻って」
「うん」
気を取り直、大広間へと戻ろうとした時、ふとした違和感をアキは感じた。
「ん?」
「アキ、どうかした?」
「カトリーナ。今、気付いたんだけど」
「何?」
「お婆ちゃん、わたしの事を【アンタ】って呼んでた気がして」
「そう呼んでたけど?」
「今までは【お前】って呼んでたんだよ。どうしてなんだろ?」
(へぇ・・・)
何かを感じた様にカトリーナが微笑んでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる