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5巻
5-2
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「そっか、カオツはケントのためを思って、嫌われる覚悟できつい言葉を投げつけてたんだね」
でも、カオツさんはそれを肯定することなく再び鼻を鳴らした。
「あ? 別にそんなつもりは一切なかったし、こんな奴に嫌われてもなんとも思わねーよ」
「え?」
「んん?」
クルゥ君も僕も、思っていた答えと違くて驚いてしまう。
「それに、冒険者のくせして武器を持つのは怖いみたいな甘ったれたことを言うから、早く出て行って欲しかっただけだ」
ポカンと口を開けたままの僕達に、カオツさんはそう言う。
その皮肉混じりのカオツさんらしい言葉は、僕を遠ざけようとした理由を全て知った今となっては、キツいだけのものには聞こえなくなっていた。
すると、クルゥ君が今度は僕に尋ねてきた。
「ケントはさぁ、カオツにあんな風に言われて、嫌じゃなかったの?」
うーん、と俺は頭を悩ませる。
「確かに、嫌みを言われていた時はキツかったし、苦手意識はあったかな」
でも……それは、あの時の僕がカルセシュさん達のおかげで、ダンジョン内で怖い思いを一度も経験したことがなかったからこその考えだ。
暁に入って弱い魔獣から強い魔獣まで幅広く戦闘を経験したが、冒険者とは死と隣り合わせの仕事だと分かった今、カオツさんがあんなに怒っていたことに納得出来ている部分もある。
そう思いながら、僕は言葉を続けた。
「でも色々経験を積んでからは、カオツさんの気持ちも少し分かるような気がしたから、今はそれほどでもないっていうか……」
僕がそう言えば、クルゥ君も確かにという表情で頷いたのだった。
そんな僕達の会話を聞き、カオツさんは口を挟んだ。
「あの時のお前は武器を持つことに恐怖心を抱いていたようだったから、絶対冒険者には向いてねぇと俺は思っていた。それに、そんなことなら冒険者自体やめちまえっ! てイライラしてたな」
「確かに……あの時は、魔獣と戦うなんて絶対に無理だって決めつけてましたね」
「だから、お前が使役獣を持つBランク冒険者になったって聞いた時は、冗談だろって半信半疑だった……でも、この前一緒の依頼を受けて、本当に驚いた。剣もろくに握ってこなかったやつが、魔獣を倒すなんて、ってな。しかも、今評判の魔法薬師でもあるっていうんだ……ほんと、ありえねぇって感じだったよ」
そういえば、グレイシスさんとのダンジョン探索の前にも、カオツさんと別の依頼で一緒になったんだった。
そこで魔獣と戦っていた時は、詰めが甘いなんて怒られた気がするけど、内心では驚いてくれていたのか。
それにそこで判明したことだが、カオツさんは僕が作っていた魔法薬を、そのことを知らずに重宝していたお得意様だった……今では僕から直接買ってくれているんだけどね。
なんだかんだ言いつつも、ちゃんと僕の成長を認めてくれているから嬉しい。
そんなことを思いながら、ふとあることを思い出した。
「あの、カオツさん……どうしてリーダーのカルセシュさんから引き継いだ龍の息吹を解散させちゃったんですか?」
僕がそう聞けば、カオツさんは難しい顔をしながらジーッと僕の顔を見詰めた。
え? 急に顔を見るなんて……僕の顔になにか付いてますか?
頬をさすっていると、カオツさんは溜息を吐く。
「お前が持つ特殊能力に気付いた今だからこそ言えるが……お前が龍の息吹を抜けて少ししてから、ようやくAランクに合格した奴らが、徐々にボロを出すようになってきたんだ」
僕の料理には、食べると何らかの効果が現れるという能力がある。その力は、カオツさんが暁に入って以降、暁の皆には『レア特殊能力』という扱いで理解されるようになった。
でも龍の息吹にいた頃は、それほど付与効果はなかったはずだし、そもそも僕自身でさえほとんど気付いていなかったレベルだ。
「それって……」
僕が考えを言うより早く、カオツさんは話を続けた。
「龍の息吹には、あともう少しでAランクになれるっていう奴が多数在籍していたんだが……たぶん、お前の特殊能力が、あいつらのあとちょっとの部分を補っていたんだろうな。お前がいなくなって半年もしないうちに、元の実力に戻った」
その後も、カオツさんはその時の状況を丁寧に説明してくれる。
僕が予想していた通り、付与効果自体はそれほど大きくないし、ちょっとだけ能力を上げる程度のものだったらしい。
それでも、僕が抜けて少ししてから、皆が使っている武器や防具に変化が表れてきたそうだ。
命中率が少し落ちるようになった弓矢、切れ味が若干落ちて錆びやすくなった剣や斧。今までは魔草に毒液を吹きかけられても穴が開かなかった装備も、あっさり穴が開くくらい脆くなった。
さらに主力メンバーであるカルセシュさん達まで抜けてしまった。
「Aランクの依頼は、Bランクの依頼とは比べ物にならないくらい危険度が増す。そんな危険な依頼に、実力が伴っていない奴らが行けばどうなるか」
残った人達だけでAランクの依頼を受けても、徐々に失敗ばかりが目立つようになり、依頼の達成が困難になってきたらしい。
そこでカオツさんは、僕が来る以前から元々Aランクであった人達を除いた、Aランクになったばかりのメンバーを集めて、彼らを試すことにしたんだって。
具体的にはギルドで受けたAランク昇級試験と同じ内容の魔獣を倒すように課題を出した。
結果は誰一人として魔獣を全て倒すことが出来ず、全員不合格だった。
「それから、パーティ内で大小様々ないざこざが起きるようになってな。メンバー内の仲が険悪になると、ダンジョンでお互いの命を安心して預けることなんて出来ない。だから、いっそのこと龍の息吹を解散するか……ってなったんだ」
「そう……だったんですね」
龍の息吹に在籍していた時間はそんなに長くはなかったけど、それでもメンバーの皆とは少なからず交流があったから、そんな話を聞いて少しだけ寂しい気持ちになった。
ただ、別々にはなったけど今も皆頑張って冒険者をしているそうで、ホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ……もうこの話はいいだろ」
そう言って、カオツさんがベンチから立ち上がり歩き出したので、僕達も慌ててその後を付いていく。
そしてクルゥ君が尋ねる。
「ねぇねぇ、カオツ、あともう一つ聞いてもいい?」
「あぁ……なんだよ」
嫌そうな顔をしながらも、ちゃんと僕やクルゥ君の話を聞いてくれるし、答えてくれる。
ほんと、良い人だよね。
「暁に入る切っかけって、ホントのところは何だったの?」
クルゥ君の興味津々な顔を見下ろしながら、カオツさんは溜息を吐く。
「それは、あの女に連れて来られたからだ。あの女は俺との出会いは偶然だと言っていたが……あれは絶対に待ち伏せをしていた!」
そう言うカオツさんの顔は引きつっていた。
よほど嫌な思い出のようだ。
「ケントのことで話があるって人の腕を突然掴んだかと思えば、近くの食堂に入って、いろんなことを根掘り葉掘り聞いてきた」
「へぇ~、どんな話をしたの?」
「今お前らにした話と全く同じことを話したな」
「ほぅほぅ……で、フェリスはどんな反応だった?」
「それは……」
遠いところを見詰めながら、カオツさんは話し出した。
◇ ◇ ◇
「あなた、カオツって言ったかしら……あまり褒められたやり方ではないけど、思っていたよりかなりまともな性格をしてるのね。それに、私達とはまた違った考え方も持っているし」
フェリスと名乗る女は、俺がケントについての話をひと通り話した後、何やら考え込みはじめた。
「だったらなんだって言うんだよ」
「……ふ~ん。ねぇ、どこのパーティにもまだ入っていないんだったらさ――ウチに入らない?」
突然の誘いに、俺は素っ頓狂な声を出してしまう。
「はぁっ!?」
そんな俺にかまうことなく、フェリスは話を続けた。
「ウチのパーティ、どうしても子供達を甘やかしちゃう癖がついちゃっててさ、なかなか厳しく指導出来ないのよね。その点、貴方ならあの子達をビシバシ鍛えてくれそうだし!」
「どうしたら今までのケントとの関わり方の話を聞いて、俺があんたのパーティに入ってガキの面倒を見るなんていう提案が出来るんだよ……ったく、そういうのなら他を当たってくれ!」
ケントのような戦えない冒険者がいても邪魔になるから、というような話をした後に、暁に加入させようと考える思考回路が分からない。
突き放すような言い方をしつつ、俺が座っていた椅子から立とうとしたら、腕を掴まれた。
華奢で細い女の手だから、さっと振り解けると思ったが、力を入れても全然離れない。
こいつのどこにそんな力があるのか……見かけによらず怪力なのか?
フェリスは俺の腕を強く握ったまま、ニコニコと俺への勧誘を続ける。
「まぁまぁ、そう言わずに! ウチに入ったら、天才料理人が作る美味しいご飯が毎日食べ放題だよ?」
「興味がない」
「私も入れて三人もいる魔法薬師に、効果抜群の魔法薬を超絶格安価格で作ってもらえるよ?」
「……普通に店で買えるだけの収入はある」
「エルフである私がいろんな国で手に入れた、通常ルートでは絶対に手に入らない稀少なお酒がたくさんあるわよ?」
「…………っ」
ここまで鋼の意思で拒否しようとしてきたが、さすがに気持ちが揺らいだ。
そんな俺の反応を見て、フェリスは微笑む。
「うふふふ。それに、私達からすると、あなたがいてくれたらウチにいる臆病な魔族ちゃんにとっても良い影響になると思うのよ。だから来てくれるとこっちとしても助かるなって……どう?」
あまりの押しの強さに根負けし、俺は座り直した。
とはいえ、こっちとしてもすんなり入ってやるつもりはない。
そう思い、俺は一つの条件を口にする。
「はぁ……あんたも、なかなかしつこいな。それに俺は、自分よりも弱い奴がリーダーになっているようなパーティに入るつもりはない」
そう俺が言った途端、女は今までと違う雰囲気の笑みを浮かべた。
「分かったわ。それじゃあ最後に私と腕相撲をしましょ? それであなたが勝ったらスッパリ諦める……それでどう?」
その言葉と笑みに、もしかして俺はとんでもない相手に勝負を挑んでしまったんじゃ……と思うのだった。
◇ ◇ ◇
ひと通り話し終えると、カオツさんは深い溜息を吐いた。
腕相撲の結果は、一瞬のうちに負けたそうだ。
その後も納得出来ずに何回か勝負を挑んだけど全敗だったんだとか。
話を聞いていたクルゥ君が揶揄うように言う。
「でも腕を掴まれた時にビクともしなかったなら、腕力はそれなりにあるって分かったんじゃ……?」
「その時は不意をつかれた感じだったし、本気出して女に負けるとは思わないだろ……なんなんだよ、あの怪力ゴリラは」
「カオツ、それ本人の目の前で言ったらダメだよ? フルボッコにされるから」
「うるせぇ」
不貞腐れたような顔で前を歩くカオツさんに、僕とクルゥ君は顔を見合わせるようにして笑ってしまう。
そんなカオツさんの横に並んで、僕は声をかけた。
「カオツさん、暁に入ってみてどうですか?」
「……そうだな、居心地は決して悪くない。なんであの実力を持っててAランクに昇格しないのか分からないがな。あいつらはそれ以上の力を持ってるだろうし……特にフェリスは兄貴と同じ匂いがする。たぶん、あいつは戦う時に半分の力も出してないはずだ」
「えっ、そうなの?」
「ほぇ~……フェリスさんって本当は凄い人なんですね」
僕達がそんな反応をすると、そんなことも分からないのかといった目で見られてしまった。
「それに、お前は気付いていないみたいだが……この前一緒に行ったダンジョンでグレイシスの魔力が暴走した時があっただろ?」
「え? あぁ……確かにありましたね」
多分グレイシスさんが元の姿に戻る直前にいくつもの稲妻が迸った時のことを言っているのだろう。
そういえば、あの時魔族の血を引いていたカオツさんが何ともなかったのはともかく、同じくらい近くにいた僕も無傷で済んだのは不思議なような……
僕の考えを察したカオツさんが答えてくれる。
「あれも多分、フェリスの力だ。お前、あいつから守護魔法か何かかけてもらわなかったか?」
その言葉に首を傾げていたところで、ふと、ある光景を思い出した。
確か、ダンジョンに行く前にフェリスさんが保険だと言ってビー玉みたいなようなものをくれた。
不思議な呪文をフェリスさんが唱えたら、手のひらにあったビー玉が溶けるようにして皮膚に吸収されだんだよね。
そのことをカオツさんにそのまま説明すると、じっと見詰められた。
「ふーん……それのお陰で、お前は怪我もせずにいられたんだろうな。本当に、あいつはただのエルフってだけじゃなさそうだな……あぁ、それと剣の腕でいえばケルヴィンも相当強いんじゃないか? まぁ、本気で手合わせをしたことがないから分からんが」
そしてこちらをちらりと見る。
「まぁ、お前ら二人を抜かしたら、Aランクパーティに速攻でなれるだけの実力者がうちには揃っているな」
カオツさんはそう太鼓判を押すのだった。
暁の皆って普段はダメダメな部分も多いけど、本当に凄い人達が揃っているんだな……と、嘘を言わないカオツさんの言葉を聞いて、僕は本気でそう思うのであった。
それからも三人で町の中を見て回り、クルゥ君お目当てのアイテムを探すべく、何箇所かお店を覗く。
あまり収穫はなかったけど、二時間くらい経った頃、カオツさんが僕達の買い物の付き合いに飽きだしてきたので、そろそろ家に帰るかということになった。
ただ、僕は魔法薬を調合するのに必要な素材があったことを思い出し、ギルドに寄ってから帰ると伝え、クルゥ君とカオツさんとはその場で別れるのだった。
不思議な依頼書
ギルドの前に辿り着き、扉を開ける。
本当は素材屋で購入してもいいんだけど、どうせなら依頼を通じて素材と報酬を手に入れた方が得だと思ったのだ。
「おぉ、今日もギルドは盛況だね」
ギルドに入って依頼が張り付けられているボードに向かえば、たくさんの依頼が書かれた紙が張り付けられている。
いつもであれば、手前に張られている依頼を見て決めるんだけど、今日はそのエリアの依頼書が少ない。
ふと気になったのもあって、普段ならあまり見ない奥の方に張られている依頼書を見ることにした。
「A、A、S、A、S、A……うわぁ~、奥の方に張られている依頼って、ほとんどAかSランクしかないのか。凄いな」
とてもじゃないけど一人で受けられるようなものはなかった。
よく見れば、重なった依頼書の奥に張られているものほど、かなり危険な魔獣の討伐依頼らしく、依頼書の下には失敗回数も記入されている。
いろいろな依頼書を捲りながら見ていると、ふと一番下の端の方に、普通の依頼書とは違った小さな紙があるのに目が留まる。
「なんだろう、これ?」
ボードからその紙を剥がして手に取ってみる。
最強冒険者達と一緒に行く、上級ダンジョン『ロルドレック山脈の亡霊』への旅☆
※先着一名様のみ
これは一応依頼書……なのかな?
詳細は一切書かれていないし、突っ込みどころはたくさんあるけど、ちょっと気になる。
聞くだけならタダと思い、この依頼書をまずは受付に持って行く。
「こんにちは~」
「あら、ケント君! 今日は討伐依頼の受付でしたか?」
受付窓口に行くと、いつも僕の対応をしてくれるミリスティアさんが、ニコニコ顔で声をかけてきた。
「あ、実はこれなんですけど……」
「こっ、これはっ!?」
僕が手渡した紙を見たミリスティアさんが、口に手を当てて驚いた表情をする。
え、その反応はどういったものなんでしょうか!?
「……ケント君、ちょっとここでは詳しくお話出来ませんので、別室で詳細を説明させていただいてもいいでしょうか?」
「え? あ、はい」
僕は改まった口調で話すミリスティアさんに驚く。
ミリスティアさんは隣にいた職員さんと一言二言何か話した後、受付から出てきた。
そして、僕は前を歩くミリスティアさんに付いて、建物の中を歩いて行く。
職員しか入れない通路を歩くだけでもドキドキしちゃって、意味もなくキョロキョロと辺りを見てしまう。
長い廊下を歩いた後に階段を上がり、ようやく目的の部屋に着いた。
「こちらの部屋です」
そう言われて部屋に入ると、一人の男性が僕を待っていた。
ミリスティアさんはその男性の後ろにスッと移動する。
淡い金色の長い髪と若葉色の瞳を持つ男性は、座っていた椅子から立ち上がるとニコリと笑いながら口を開く。
「初めまして、ケント・ヤマザキ君。私はここのギルドマスター、シーヘンズです」
柔らかな口調で喋るシーヘンズさんは、二十代前半ほどのひ弱そうな若者に見える。
言われなければ、ここの最高権力者であるギルマスとは気付けなさそうだ。
「よろしくお願いします!」
ピシッと挨拶をする僕に、手を顔の前でフリフリ振りながらシーヘンズさんは笑った。
「あはは、そんな畏まらなくてもいいんですよ」
そう言ってくれたんだけど……最高権力者の方を相手にそんなの無理です。
シーヘンズさんは僕に椅子に座るように勧めつつ、自らも向かい側の椅子に座った。
僕はありがたく腰かけた後、そろりとシーヘンズさんを見る。
視線に気付いた彼は、なぜか微笑みを返してくれた。
よく見れば、普通の人間よりも尖っている耳や、どことなくフェリスさんと似ている雰囲気がある。シーヘンズさんもエルフ族なのかもしれないな。
そんな風に思っていると、シーヘンズさんは後ろにいるミリスティアさんから紙を受け取り、僕をこの部屋に呼んだ経緯を説明してくれた。
話によると、どうやらこの紙は、ギルドが数年に一回依頼用の掲示板に紛れ込ませている普通の依頼書とは別の紙なんだって。
そして、この紙を持って受付に行くと、ギルマスであるシーヘンズさんがおススメする上級ダンジョンへ、ギルド職員と一緒に旅行へ行けるらしい。
通常の依頼と違うのは、ギルド職員の中でも戦闘力がずば抜けて高い数名が同行者となって、ダンジョン内を楽しく観光出来るように案内してくれる点だ。
しかも嬉しいことに、上級ダンジョンでしか獲れないような魔獣や魔草、そのダンジョンにしか自生していない植物など、いろんな物をお土産としてお持ち帰り出来る特典付きなんだとか。
こう聞くと、メリットしかない美味しい話だ。
「君はまだBランク冒険者ということなので、安全面を考慮して旅行に同行する者はSランク、またはそれに準ずる職員を付ける予定です」
「えっ、そんな凄い方を!?」
「ふふふ。当ギルドでも滅多にいない、魔法薬師の資格――それも魔法薬師協会会長お墨付きのエメラルドまで持つ冒険者ですからね。丁重に護衛しなければ、こちらが怒られてしまいます。かすり傷一つつけないとお約束いたしますよ」
「ほぇ~」
まさかそんな好待遇を受けられるとは! と驚いていたところで、コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
ドアの方を振り向くと、廊下から二人の男女が部屋の中に入って来る。
一人はミリスティアさんと同じくよく受付で担当してくれている、長い黒髪が特徴的なアリシアさん。もう一人は男性で、あまり話したことはないんだけど、いつも眠そうな顔をしている若い職員さんだ。
部屋に入って来た二人がミリスティアさんの横に並び、何が始まるのかと思っていると……
「この三人が、今回の旅行でケント君に同行する職員です。受付の二人はケント君も知っていると思いますが、もう一人の職員はリークと言います」
リークさんは、金髪碧眼で長い髪を後ろに緩く結んでいて、王子様のような整った顔立ちだった。
シーヘンズさんに紹介された後、リークさんは僕の方に来て手を差し出す。
でも、カオツさんはそれを肯定することなく再び鼻を鳴らした。
「あ? 別にそんなつもりは一切なかったし、こんな奴に嫌われてもなんとも思わねーよ」
「え?」
「んん?」
クルゥ君も僕も、思っていた答えと違くて驚いてしまう。
「それに、冒険者のくせして武器を持つのは怖いみたいな甘ったれたことを言うから、早く出て行って欲しかっただけだ」
ポカンと口を開けたままの僕達に、カオツさんはそう言う。
その皮肉混じりのカオツさんらしい言葉は、僕を遠ざけようとした理由を全て知った今となっては、キツいだけのものには聞こえなくなっていた。
すると、クルゥ君が今度は僕に尋ねてきた。
「ケントはさぁ、カオツにあんな風に言われて、嫌じゃなかったの?」
うーん、と俺は頭を悩ませる。
「確かに、嫌みを言われていた時はキツかったし、苦手意識はあったかな」
でも……それは、あの時の僕がカルセシュさん達のおかげで、ダンジョン内で怖い思いを一度も経験したことがなかったからこその考えだ。
暁に入って弱い魔獣から強い魔獣まで幅広く戦闘を経験したが、冒険者とは死と隣り合わせの仕事だと分かった今、カオツさんがあんなに怒っていたことに納得出来ている部分もある。
そう思いながら、僕は言葉を続けた。
「でも色々経験を積んでからは、カオツさんの気持ちも少し分かるような気がしたから、今はそれほどでもないっていうか……」
僕がそう言えば、クルゥ君も確かにという表情で頷いたのだった。
そんな僕達の会話を聞き、カオツさんは口を挟んだ。
「あの時のお前は武器を持つことに恐怖心を抱いていたようだったから、絶対冒険者には向いてねぇと俺は思っていた。それに、そんなことなら冒険者自体やめちまえっ! てイライラしてたな」
「確かに……あの時は、魔獣と戦うなんて絶対に無理だって決めつけてましたね」
「だから、お前が使役獣を持つBランク冒険者になったって聞いた時は、冗談だろって半信半疑だった……でも、この前一緒の依頼を受けて、本当に驚いた。剣もろくに握ってこなかったやつが、魔獣を倒すなんて、ってな。しかも、今評判の魔法薬師でもあるっていうんだ……ほんと、ありえねぇって感じだったよ」
そういえば、グレイシスさんとのダンジョン探索の前にも、カオツさんと別の依頼で一緒になったんだった。
そこで魔獣と戦っていた時は、詰めが甘いなんて怒られた気がするけど、内心では驚いてくれていたのか。
それにそこで判明したことだが、カオツさんは僕が作っていた魔法薬を、そのことを知らずに重宝していたお得意様だった……今では僕から直接買ってくれているんだけどね。
なんだかんだ言いつつも、ちゃんと僕の成長を認めてくれているから嬉しい。
そんなことを思いながら、ふとあることを思い出した。
「あの、カオツさん……どうしてリーダーのカルセシュさんから引き継いだ龍の息吹を解散させちゃったんですか?」
僕がそう聞けば、カオツさんは難しい顔をしながらジーッと僕の顔を見詰めた。
え? 急に顔を見るなんて……僕の顔になにか付いてますか?
頬をさすっていると、カオツさんは溜息を吐く。
「お前が持つ特殊能力に気付いた今だからこそ言えるが……お前が龍の息吹を抜けて少ししてから、ようやくAランクに合格した奴らが、徐々にボロを出すようになってきたんだ」
僕の料理には、食べると何らかの効果が現れるという能力がある。その力は、カオツさんが暁に入って以降、暁の皆には『レア特殊能力』という扱いで理解されるようになった。
でも龍の息吹にいた頃は、それほど付与効果はなかったはずだし、そもそも僕自身でさえほとんど気付いていなかったレベルだ。
「それって……」
僕が考えを言うより早く、カオツさんは話を続けた。
「龍の息吹には、あともう少しでAランクになれるっていう奴が多数在籍していたんだが……たぶん、お前の特殊能力が、あいつらのあとちょっとの部分を補っていたんだろうな。お前がいなくなって半年もしないうちに、元の実力に戻った」
その後も、カオツさんはその時の状況を丁寧に説明してくれる。
僕が予想していた通り、付与効果自体はそれほど大きくないし、ちょっとだけ能力を上げる程度のものだったらしい。
それでも、僕が抜けて少ししてから、皆が使っている武器や防具に変化が表れてきたそうだ。
命中率が少し落ちるようになった弓矢、切れ味が若干落ちて錆びやすくなった剣や斧。今までは魔草に毒液を吹きかけられても穴が開かなかった装備も、あっさり穴が開くくらい脆くなった。
さらに主力メンバーであるカルセシュさん達まで抜けてしまった。
「Aランクの依頼は、Bランクの依頼とは比べ物にならないくらい危険度が増す。そんな危険な依頼に、実力が伴っていない奴らが行けばどうなるか」
残った人達だけでAランクの依頼を受けても、徐々に失敗ばかりが目立つようになり、依頼の達成が困難になってきたらしい。
そこでカオツさんは、僕が来る以前から元々Aランクであった人達を除いた、Aランクになったばかりのメンバーを集めて、彼らを試すことにしたんだって。
具体的にはギルドで受けたAランク昇級試験と同じ内容の魔獣を倒すように課題を出した。
結果は誰一人として魔獣を全て倒すことが出来ず、全員不合格だった。
「それから、パーティ内で大小様々ないざこざが起きるようになってな。メンバー内の仲が険悪になると、ダンジョンでお互いの命を安心して預けることなんて出来ない。だから、いっそのこと龍の息吹を解散するか……ってなったんだ」
「そう……だったんですね」
龍の息吹に在籍していた時間はそんなに長くはなかったけど、それでもメンバーの皆とは少なからず交流があったから、そんな話を聞いて少しだけ寂しい気持ちになった。
ただ、別々にはなったけど今も皆頑張って冒険者をしているそうで、ホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ……もうこの話はいいだろ」
そう言って、カオツさんがベンチから立ち上がり歩き出したので、僕達も慌ててその後を付いていく。
そしてクルゥ君が尋ねる。
「ねぇねぇ、カオツ、あともう一つ聞いてもいい?」
「あぁ……なんだよ」
嫌そうな顔をしながらも、ちゃんと僕やクルゥ君の話を聞いてくれるし、答えてくれる。
ほんと、良い人だよね。
「暁に入る切っかけって、ホントのところは何だったの?」
クルゥ君の興味津々な顔を見下ろしながら、カオツさんは溜息を吐く。
「それは、あの女に連れて来られたからだ。あの女は俺との出会いは偶然だと言っていたが……あれは絶対に待ち伏せをしていた!」
そう言うカオツさんの顔は引きつっていた。
よほど嫌な思い出のようだ。
「ケントのことで話があるって人の腕を突然掴んだかと思えば、近くの食堂に入って、いろんなことを根掘り葉掘り聞いてきた」
「へぇ~、どんな話をしたの?」
「今お前らにした話と全く同じことを話したな」
「ほぅほぅ……で、フェリスはどんな反応だった?」
「それは……」
遠いところを見詰めながら、カオツさんは話し出した。
◇ ◇ ◇
「あなた、カオツって言ったかしら……あまり褒められたやり方ではないけど、思っていたよりかなりまともな性格をしてるのね。それに、私達とはまた違った考え方も持っているし」
フェリスと名乗る女は、俺がケントについての話をひと通り話した後、何やら考え込みはじめた。
「だったらなんだって言うんだよ」
「……ふ~ん。ねぇ、どこのパーティにもまだ入っていないんだったらさ――ウチに入らない?」
突然の誘いに、俺は素っ頓狂な声を出してしまう。
「はぁっ!?」
そんな俺にかまうことなく、フェリスは話を続けた。
「ウチのパーティ、どうしても子供達を甘やかしちゃう癖がついちゃっててさ、なかなか厳しく指導出来ないのよね。その点、貴方ならあの子達をビシバシ鍛えてくれそうだし!」
「どうしたら今までのケントとの関わり方の話を聞いて、俺があんたのパーティに入ってガキの面倒を見るなんていう提案が出来るんだよ……ったく、そういうのなら他を当たってくれ!」
ケントのような戦えない冒険者がいても邪魔になるから、というような話をした後に、暁に加入させようと考える思考回路が分からない。
突き放すような言い方をしつつ、俺が座っていた椅子から立とうとしたら、腕を掴まれた。
華奢で細い女の手だから、さっと振り解けると思ったが、力を入れても全然離れない。
こいつのどこにそんな力があるのか……見かけによらず怪力なのか?
フェリスは俺の腕を強く握ったまま、ニコニコと俺への勧誘を続ける。
「まぁまぁ、そう言わずに! ウチに入ったら、天才料理人が作る美味しいご飯が毎日食べ放題だよ?」
「興味がない」
「私も入れて三人もいる魔法薬師に、効果抜群の魔法薬を超絶格安価格で作ってもらえるよ?」
「……普通に店で買えるだけの収入はある」
「エルフである私がいろんな国で手に入れた、通常ルートでは絶対に手に入らない稀少なお酒がたくさんあるわよ?」
「…………っ」
ここまで鋼の意思で拒否しようとしてきたが、さすがに気持ちが揺らいだ。
そんな俺の反応を見て、フェリスは微笑む。
「うふふふ。それに、私達からすると、あなたがいてくれたらウチにいる臆病な魔族ちゃんにとっても良い影響になると思うのよ。だから来てくれるとこっちとしても助かるなって……どう?」
あまりの押しの強さに根負けし、俺は座り直した。
とはいえ、こっちとしてもすんなり入ってやるつもりはない。
そう思い、俺は一つの条件を口にする。
「はぁ……あんたも、なかなかしつこいな。それに俺は、自分よりも弱い奴がリーダーになっているようなパーティに入るつもりはない」
そう俺が言った途端、女は今までと違う雰囲気の笑みを浮かべた。
「分かったわ。それじゃあ最後に私と腕相撲をしましょ? それであなたが勝ったらスッパリ諦める……それでどう?」
その言葉と笑みに、もしかして俺はとんでもない相手に勝負を挑んでしまったんじゃ……と思うのだった。
◇ ◇ ◇
ひと通り話し終えると、カオツさんは深い溜息を吐いた。
腕相撲の結果は、一瞬のうちに負けたそうだ。
その後も納得出来ずに何回か勝負を挑んだけど全敗だったんだとか。
話を聞いていたクルゥ君が揶揄うように言う。
「でも腕を掴まれた時にビクともしなかったなら、腕力はそれなりにあるって分かったんじゃ……?」
「その時は不意をつかれた感じだったし、本気出して女に負けるとは思わないだろ……なんなんだよ、あの怪力ゴリラは」
「カオツ、それ本人の目の前で言ったらダメだよ? フルボッコにされるから」
「うるせぇ」
不貞腐れたような顔で前を歩くカオツさんに、僕とクルゥ君は顔を見合わせるようにして笑ってしまう。
そんなカオツさんの横に並んで、僕は声をかけた。
「カオツさん、暁に入ってみてどうですか?」
「……そうだな、居心地は決して悪くない。なんであの実力を持っててAランクに昇格しないのか分からないがな。あいつらはそれ以上の力を持ってるだろうし……特にフェリスは兄貴と同じ匂いがする。たぶん、あいつは戦う時に半分の力も出してないはずだ」
「えっ、そうなの?」
「ほぇ~……フェリスさんって本当は凄い人なんですね」
僕達がそんな反応をすると、そんなことも分からないのかといった目で見られてしまった。
「それに、お前は気付いていないみたいだが……この前一緒に行ったダンジョンでグレイシスの魔力が暴走した時があっただろ?」
「え? あぁ……確かにありましたね」
多分グレイシスさんが元の姿に戻る直前にいくつもの稲妻が迸った時のことを言っているのだろう。
そういえば、あの時魔族の血を引いていたカオツさんが何ともなかったのはともかく、同じくらい近くにいた僕も無傷で済んだのは不思議なような……
僕の考えを察したカオツさんが答えてくれる。
「あれも多分、フェリスの力だ。お前、あいつから守護魔法か何かかけてもらわなかったか?」
その言葉に首を傾げていたところで、ふと、ある光景を思い出した。
確か、ダンジョンに行く前にフェリスさんが保険だと言ってビー玉みたいなようなものをくれた。
不思議な呪文をフェリスさんが唱えたら、手のひらにあったビー玉が溶けるようにして皮膚に吸収されだんだよね。
そのことをカオツさんにそのまま説明すると、じっと見詰められた。
「ふーん……それのお陰で、お前は怪我もせずにいられたんだろうな。本当に、あいつはただのエルフってだけじゃなさそうだな……あぁ、それと剣の腕でいえばケルヴィンも相当強いんじゃないか? まぁ、本気で手合わせをしたことがないから分からんが」
そしてこちらをちらりと見る。
「まぁ、お前ら二人を抜かしたら、Aランクパーティに速攻でなれるだけの実力者がうちには揃っているな」
カオツさんはそう太鼓判を押すのだった。
暁の皆って普段はダメダメな部分も多いけど、本当に凄い人達が揃っているんだな……と、嘘を言わないカオツさんの言葉を聞いて、僕は本気でそう思うのであった。
それからも三人で町の中を見て回り、クルゥ君お目当てのアイテムを探すべく、何箇所かお店を覗く。
あまり収穫はなかったけど、二時間くらい経った頃、カオツさんが僕達の買い物の付き合いに飽きだしてきたので、そろそろ家に帰るかということになった。
ただ、僕は魔法薬を調合するのに必要な素材があったことを思い出し、ギルドに寄ってから帰ると伝え、クルゥ君とカオツさんとはその場で別れるのだった。
不思議な依頼書
ギルドの前に辿り着き、扉を開ける。
本当は素材屋で購入してもいいんだけど、どうせなら依頼を通じて素材と報酬を手に入れた方が得だと思ったのだ。
「おぉ、今日もギルドは盛況だね」
ギルドに入って依頼が張り付けられているボードに向かえば、たくさんの依頼が書かれた紙が張り付けられている。
いつもであれば、手前に張られている依頼を見て決めるんだけど、今日はそのエリアの依頼書が少ない。
ふと気になったのもあって、普段ならあまり見ない奥の方に張られている依頼書を見ることにした。
「A、A、S、A、S、A……うわぁ~、奥の方に張られている依頼って、ほとんどAかSランクしかないのか。凄いな」
とてもじゃないけど一人で受けられるようなものはなかった。
よく見れば、重なった依頼書の奥に張られているものほど、かなり危険な魔獣の討伐依頼らしく、依頼書の下には失敗回数も記入されている。
いろいろな依頼書を捲りながら見ていると、ふと一番下の端の方に、普通の依頼書とは違った小さな紙があるのに目が留まる。
「なんだろう、これ?」
ボードからその紙を剥がして手に取ってみる。
最強冒険者達と一緒に行く、上級ダンジョン『ロルドレック山脈の亡霊』への旅☆
※先着一名様のみ
これは一応依頼書……なのかな?
詳細は一切書かれていないし、突っ込みどころはたくさんあるけど、ちょっと気になる。
聞くだけならタダと思い、この依頼書をまずは受付に持って行く。
「こんにちは~」
「あら、ケント君! 今日は討伐依頼の受付でしたか?」
受付窓口に行くと、いつも僕の対応をしてくれるミリスティアさんが、ニコニコ顔で声をかけてきた。
「あ、実はこれなんですけど……」
「こっ、これはっ!?」
僕が手渡した紙を見たミリスティアさんが、口に手を当てて驚いた表情をする。
え、その反応はどういったものなんでしょうか!?
「……ケント君、ちょっとここでは詳しくお話出来ませんので、別室で詳細を説明させていただいてもいいでしょうか?」
「え? あ、はい」
僕は改まった口調で話すミリスティアさんに驚く。
ミリスティアさんは隣にいた職員さんと一言二言何か話した後、受付から出てきた。
そして、僕は前を歩くミリスティアさんに付いて、建物の中を歩いて行く。
職員しか入れない通路を歩くだけでもドキドキしちゃって、意味もなくキョロキョロと辺りを見てしまう。
長い廊下を歩いた後に階段を上がり、ようやく目的の部屋に着いた。
「こちらの部屋です」
そう言われて部屋に入ると、一人の男性が僕を待っていた。
ミリスティアさんはその男性の後ろにスッと移動する。
淡い金色の長い髪と若葉色の瞳を持つ男性は、座っていた椅子から立ち上がるとニコリと笑いながら口を開く。
「初めまして、ケント・ヤマザキ君。私はここのギルドマスター、シーヘンズです」
柔らかな口調で喋るシーヘンズさんは、二十代前半ほどのひ弱そうな若者に見える。
言われなければ、ここの最高権力者であるギルマスとは気付けなさそうだ。
「よろしくお願いします!」
ピシッと挨拶をする僕に、手を顔の前でフリフリ振りながらシーヘンズさんは笑った。
「あはは、そんな畏まらなくてもいいんですよ」
そう言ってくれたんだけど……最高権力者の方を相手にそんなの無理です。
シーヘンズさんは僕に椅子に座るように勧めつつ、自らも向かい側の椅子に座った。
僕はありがたく腰かけた後、そろりとシーヘンズさんを見る。
視線に気付いた彼は、なぜか微笑みを返してくれた。
よく見れば、普通の人間よりも尖っている耳や、どことなくフェリスさんと似ている雰囲気がある。シーヘンズさんもエルフ族なのかもしれないな。
そんな風に思っていると、シーヘンズさんは後ろにいるミリスティアさんから紙を受け取り、僕をこの部屋に呼んだ経緯を説明してくれた。
話によると、どうやらこの紙は、ギルドが数年に一回依頼用の掲示板に紛れ込ませている普通の依頼書とは別の紙なんだって。
そして、この紙を持って受付に行くと、ギルマスであるシーヘンズさんがおススメする上級ダンジョンへ、ギルド職員と一緒に旅行へ行けるらしい。
通常の依頼と違うのは、ギルド職員の中でも戦闘力がずば抜けて高い数名が同行者となって、ダンジョン内を楽しく観光出来るように案内してくれる点だ。
しかも嬉しいことに、上級ダンジョンでしか獲れないような魔獣や魔草、そのダンジョンにしか自生していない植物など、いろんな物をお土産としてお持ち帰り出来る特典付きなんだとか。
こう聞くと、メリットしかない美味しい話だ。
「君はまだBランク冒険者ということなので、安全面を考慮して旅行に同行する者はSランク、またはそれに準ずる職員を付ける予定です」
「えっ、そんな凄い方を!?」
「ふふふ。当ギルドでも滅多にいない、魔法薬師の資格――それも魔法薬師協会会長お墨付きのエメラルドまで持つ冒険者ですからね。丁重に護衛しなければ、こちらが怒られてしまいます。かすり傷一つつけないとお約束いたしますよ」
「ほぇ~」
まさかそんな好待遇を受けられるとは! と驚いていたところで、コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
ドアの方を振り向くと、廊下から二人の男女が部屋の中に入って来る。
一人はミリスティアさんと同じくよく受付で担当してくれている、長い黒髪が特徴的なアリシアさん。もう一人は男性で、あまり話したことはないんだけど、いつも眠そうな顔をしている若い職員さんだ。
部屋に入って来た二人がミリスティアさんの横に並び、何が始まるのかと思っていると……
「この三人が、今回の旅行でケント君に同行する職員です。受付の二人はケント君も知っていると思いますが、もう一人の職員はリークと言います」
リークさんは、金髪碧眼で長い髪を後ろに緩く結んでいて、王子様のような整った顔立ちだった。
シーヘンズさんに紹介された後、リークさんは僕の方に来て手を差し出す。
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