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8巻
8-3
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タッティユとの決戦!
そろそろハーネやライ、エクエスも戻ってきてるんじゃないかな。
いつの間にか昼ご飯時だし、皆もお腹を空かせている頃でしょ。
「今回はかなりいい魔草と出会えたよね」
飛びながら、僕はレーヌに話しかける。
《うむ。我もあんなに長生きな『ネル』を見たのは初めてだ。たぶん、『ネル』の中では最強ではなかろうか?》
「ほへぇ~、そうなんだ」
《我が君、あ奴からもらった精油は、特殊な方法じゃなければ使えん。『宿舎』に着いた時にでも、我が作業しようと思う》
「うん、分かった」
レーヌを肩に載せながら低空飛行で飛んでいるうちに、僕達は目的地に着いた。
《あっ、主~!》
《ご主人、お帰りー!》
《双王様! レーヌ様! お待ちしておりましたぁーっ!》
ライとハーネ、エクエスが、空から地面に降り立った僕のもとに駆け寄ってくる。
そして皆が口々に自分達がした仕事を報告してくれた。
討伐の仕方とか、成果などを興奮気味に話し出すライ達。
僕は、寄ってくる皆の頭を撫でながら、魔法薬に使う素材を受け取った。
どれも状態が良い物ばかりだ。
偉いぞ、皆!
「それじゃあ、そろそろお昼の時間だし、ご飯にしようか」
腕輪の中に素材を仕舞ってから、ライの背中に乗って皆で移動する。
空中に浮かぶ画面を確認しながら魔草や魔獣がいない安全そうな場所を探していると、廃都市と集落のちょうど中間地点に、おあつらえ向きの場所を見つけた。
《着いたー!》
ハーネが上空から周囲を見回し、敵がいないことを確認してから僕のもとへ戻ってきた。
「それじゃあ、ここでご飯にしよっか」
自分達がいる場所の周りに匂い消しの魔法粉をまいてから、お昼の準備を始める。
まず、腕輪の中からガスコンロと大きな鍋、ざるをそれぞれ二つずつ、それに塩とオリーブオイル、お皿やフォークなどを取り出しておく。
それから『ショッピング』で業務用のパスタとカニクリームソースとお水、さらにフルーツ詰め合わせの箱を数十個購入した。
鍋にお水を入れて火にかけて、沸騰してから塩を投入。
そのお湯にパスタを入れて、パスタ同士がくっ付かないようにかき混ぜる。
タブレットの画面で表示しているタイマーを確認しながら、パスタを一本取って食べてみる。茹で加減は問題なさそうだ。
パスタをざるにあけて水気をきってからお皿に盛り付け、『ハーネレンジ』で温めてもらった。ちなみにこのハーネレンジは僕が命名した、ハーネに料理の周囲を回ってもらってその熱で料理をあっためてもらう方法だ。それからパスタソースをたっぷりとかけた。
最後にフルーツをカットしてお皿に盛ったら完成だ。
《おにゃか、しゅたぁー》
ごはんの匂いを嗅ぎつけたのか、今までフードの中で寝ていたイーちゃんが起きてきた。
絶妙なタイミングだ。
僕は腕輪の中からレジャーシートを取り出して地面に敷き、その上にフルーツが盛り付けられたお皿と皆の分のパスタが入ったお皿を置く。
「はい、熱いうちに召し上がれ!」
ハーネとライ、イーちゃんがガツガツと食べ始めた。
僕は大量に購入したフルーツ詰め合わせの箱の蓋を開けて、レーヌとエクエス、それからたくさんのアーフェレスティス達に振る舞った。
今回も色々と大活躍だったからね。
瑞々しい果物を食べられて大満足な様子のレーヌ達を見ながら、僕もパスタを口に運ぶ。
いい仕事をした後の食事って、なんでこんなに美味しいのか。
お腹を満たした後、僕達は午後も魔草採取に奔走するのだった。
それから午後の仕事も一区切りついた頃――
《我が主、そろそろ『夜』が来る》
レーヌが僕にそう教えてくれた。
二日目で大体の感覚が掴めたからか、彼女に焦った様子はなかった。
「分かった!」
僕はそう答えてから、周囲の安全を確認して『宿舎』に避難した。
前回よりも慌てることなく対応出来た。
少しずつ進歩しているぞ!
主にレーヌのおかげではあるけどね。
タブレットで時間を確認すれば、昨日よりも二時間早く『夜』になっていたのが分かった。
「……これって、夜になる時間は決まってないってことなのかな?」
僕の疑問にレーヌが答える。
《ふむ……まだ二回目だからなんとも言えぬが、決まった時間というわけではなさそうだ。今回よりももっと早くなるかもしれないし、遅くなることもあるだろう》
「そうなると、今日みたいにバラバラに行動するのは危険かな」
《そうだな。午前中ならともかく、午後になってからはいつ『夜』が来てもおかしくないからな。全員で行動した方が安心だろう》
「うん、そうするよ」
《お腹空いた~》
レーヌさんのありがたいお言葉に同意していると、ライ達の腹の虫が鳴る音が響いた。
僕は思わずプッと噴き出す。
皆と一緒にいれば、どんな時も怖さや寂しさはないな。
《少しは大人しく出来ないのか、お前達は》
呆れながら皆の所へ飛んで行くレーヌの後を追いつつ、僕は『レシピ』を開いた。
翌日、『宿舎』を皆で出ると、エクエスが号令をかけた。
アーフェレスティス達がその号令で一斉に飛び立っていく。
昨日と同じような天気であるが、使役獣の皆は今日も今日とて元気だ。
今日の方針は、アーフェレスティス達が戻ってきてから、その情報をもとに組み立てる予定だ。
それまでは、とりあえずダンジョン内を探索することにした。
表層階だからか、『夜』じゃなければ、僕が倒せないような魔獣や魔草が出てくることはほとんどないんだよね。
体力を温存出来るから、悪くないけど。
たまに魔獣と遭遇しても、ハーネやライだけで簡単に倒している。
昇級試験の期間はまだ時間に余裕があるし、すでに討伐対象の一種『腐狼』を倒しているから順調だとは思うけれど、これから先も同じように進められるかは分からない。
出来るだけ早めに次の討伐対象を見つけたいな。
だけど、そんな思いもむなしく、今日は魔獣の気配がほとんどなかった。
「ん~……今日は魔獣が全然いないなぁ」
ボロボロに朽ち果てた廃墟を見回したり、画面を確認したりしても無反応だ。
《こっちもいないねぇ~》
少し遠出して索敵してくれたハーネも、魔獣をまったく見かけなかったと言って戻ってきた。
それからも、しばらくの間は探索を続けていたんだけれど、やっと見つけた魔獣も討伐対象以外だ。
この日は遭遇した魔獣を倒すだけで、これといった収穫のない一日を過ごしたのだった。
さらに次の日、魔獣の反応がほとんどなかった前日とは打って変わって、大量の魔獣や魔草に出会うことになった。
巨大な蟻の大群だったり、角が生えた巨大猿の群れだったり、それから酸を吐き出す空飛ぶ鯨のような魔獣だったりに襲われて大変だった。
一体ずつなら問題なかったんだけど、ほとんどが群れで行動する魔獣だった上に、一体一体が強いので、対処するのに手間取った。
一番面倒だったのが、『トレロ』という、空中に浮かぶ鯨に似た魔獣だった。
動き自体はゆったりしているんだけど、攻撃魔法の威力がえげつなかった。
何個もの竜巻を発生させるし、雷も落とすし、おまけに口から火も噴くのだ。
レーヌやエクエス、一緒にいたアーフェレスティス達が竜巻でふっ飛ばされたかと思えば、空を飛んで特攻したハーネも雷に撃ち落される。
僕とライは噴射される炎の攻撃から、叫びながら逃げまどった。
阿鼻叫喚といった具合だ。
『傀儡師』を起動させて、なんとかトレロの背中に乗った僕が、剣を刺したんだけど、皮が硬すぎて傷も付かなかった。
なんか、自然災害みたいで倒すのは無理だと判断し、僕達は雷に打たれてヘロヘロになっているハーネを回収して、その場から逃げることにした。
うん、勝てそうにないし、討伐対象でもないなら、撤退あるのみだ。
レーヌ達は吹っ飛ばされた後に安全な場所に避難していたようで、その後問題なく合流出来た。
『トレロ』との戦いの後も強い魔獣や魔草との戦いが続いたせいで、『夜』になって『宿舎』に入った頃には、皆口数が少なくなっていた。
かなり疲弊しているようだ。
ただ一人、イーちゃんだけは元気だったけど。
その日はスタミナを回復させるために、夜ご飯はうな丼を作って食べた。
美味しかった~。
これで明日の探索も頑張れそうだ!
二日連続で昇級試験の課題の魔獣討伐が出来なかったあたり、さすがAランク昇級試験。
一筋縄ではいかないし、討伐対象以外の強力な魔獣を倒さないと進めないしで、かなり大変だ。
「明日こそは『タッティユ』、『チュリートリー』、『ジンクヴィーダー』、『ダールウィルグス』のどれか一種類でも出てきてくれたらなぁ~」
ベッドの上でゴロゴロしながら僕が討伐対象との遭遇を祈っていると、エクエスが近づいてきた。
《双王様、ちょっとよろしいでしょうか》
「ん? どうしたの、エクエス」
エクエスがマントをバサッと動かしながら、僕の顔の横にちょこんと座る。
《実は先ほど同胞から連絡がありまして、ダンジョンの一番右端付近に『タッティユ』の巣を見つけたようです》
「え、本当!?」
《少し時間はかかりますが、せっかくですので明日は『タッティユ』の巣がある場所へ足を運びませんか?》
「うん、そうしよう!」
魔獣の種類によっては、アーフェレスティス達が見つけた後に移動しちゃって、見失う場合もある。
でも、巣を作る習性がある魔獣の場合は、その場所からあまり離れないことが多いので、その周辺に行けば必ず遭遇出来る。
表層階の全体が分かる地図を開き、『タッティユ』の巣がある場所をエクエスに聞いて確認する。
これで明日の目標が決まった。
エクエスが自分の寝床に飛んで行ったあと、僕はベッドの上で『ショッピング』を開いた。
少しでも情報を集めるために、この世界の『魔獣図鑑』を購入して、『タッティユ』のページを開く。
【タッティユ】
・見上げるほど巨大な体を持ち、弱点の頭部から背中にかけて鋭利な角が生え揃っている。
・角に刺された場合、五分ほどの麻痺状態になり動けなくなる。
・大きな体に似合わず俊敏で、敵の気配に敏感である。
・長い鼻と尻尾を鞭のように振り回して、敵を薙ぎ払う。
図鑑での説明はこんな感じだった。
隣に『タッティユ』の姿も描かれていたんだけど、巨大な象……というより、マンモスにめっちゃ似ていた。
見た目はマンモスよりいかつい。
僕は倒し方を頭の中でイメージトレーニングしてから、明日に備えて早めに睡眠をとることにした。
翌朝、朝食をとって『宿舎』から出た僕は、移動しながら今日の目標である『タッティユ』について皆に話した。
今いる場所から『タッティユ』の巣まではかなり距離があって時間がかかるので、今回はハーネの背に乗って移動する。
ハーネの頭の上にはイーちゃんが、僕の前にはライがちょこんと座っている。
レーヌとエクエスは、すっかり定位置になった僕の肩に座って、前を見据えていた。
「まず、『タッティユ』と遭遇したらライの氷攻撃で足元を凍らせて動けなくする。それから、ハーネが上空から風で攻撃して、『タッティユ』の意識を上に向けさせる。最後に、僕が『タッティユ』の体に乗って弱点である頭のてっぺんを斬る――こういう作戦でいこうと思う」
《分かった~!》
《はい!》
レーヌとエクエスには、いつも通り少し離れた場所にいてもらい、イーちゃんのお守りをお願いする予定だ。
ダンジョン内の地図と空中に浮かぶ画面を見る限り、たぶん今のハーネの速度であれば一時間ほどで目的地に着きそうだ。
移動中は、ハーネが疲れないように回復系の魔法薬を与えたり、イーちゃん達に間食を与えたりしながらまったりと過ごした。
途中変な魔獣に絡まれそうになることもあったけれど、それらも上手く回避出来て、僕達はついに『タッティユ』の巣の周辺にやってきたのだった。
巣から少し離れた場所に着陸して、まずはイーちゃんとレーヌ、エクエスを安全な場所に避難させる。
「さてと……それじゃあ討伐を開始しますか!」
ハーネの背中から降りて、周囲を確認すると、危険そうな魔獣を画面上で発見した。
でもどうやら、僕達とは真逆の方に向かっていたので、こちらから近付けなければ大丈夫そうだ。
魔法薬を補充しながら、危険を感じたらすぐに離脱するようにハーネとライに指示を出す。
『タッティユ』はとても気配に敏感らしいから、影を移動することが出来る不思議なアプリ『影渡り』を『傀儡師』と併用して、地面の中から『タッティユ』に近付こうと考えていると――
《主~!》
《『タッティユ』、出てきた!》
「えぇっ!?」
ハーネとライに言われて『タッティユ』の巣がある方へ視線を向けると、マンモス級にデカい『タッティユ』が、周囲を警戒しつつ洞窟の穴から顔を出していた。
今まで感知したことのない僕達の気配を怪しがって、出てきたのかもしれない。
視力もかなり高いのか、辺りをしばらく見回していたと思ったら、かなり離れた位置にいたはずの僕達に目を合わせた。上空で待機していたハーネも視認したようだった。
この距離でも気付かれるなんて……
これは難しい戦いになりそうだな。
僕はパシパシッと両頬を叩き、自分に気合を入れた。
「よしっ、行くぞ!」
その言葉とともに『タッティユ』がいる方へと駆け出す。
隠れていた場所から僕とライが二手に分かれて接近すると、『タッティユ』は唸り声を上げながら前足で地面をドンドンッと蹴り上げる。
同時に、『タッティユ』の足元から土で出来た鋭い棘のようなものが地面から盛り上がり、僕とライに向かってすごい速さで襲いかかってきた。
僕もライもそれを俊敏な動きで避けて、『タッティユ』との距離を縮める。
ただ、土の棘が『タッティユ』を護るように周囲にも生えていたため、容易には近付けない。
《これでもくらえ~!》
上空で待機していたハーネが超特急で突っ込んできて、小回りを利かせながら氷のブレスを吐いた。
『タッティユ』を地面に縫い付けるように、足元を凍らせていく。
ブレスを食らった『タッティユ』は大激怒して、長い鼻で足元の氷をバシバシ叩いて砕いていった。
しかしハーネも負けじと、壊れたところを片っ端から凍らせている。
ハーネが長い鼻で攻撃されそうになっている時は、ライがそれを護るように棘の外から雷攻撃を仕掛けていた。
良い連携を保っている。
その隙に、僕は『影渡り』で地面に潜り、棘になっている地面の下をスイスイと移動していく。
地上を走るより少し遅いけど、思ったより早く『タッティユ』の近くまでやってきた。
影の中から真上を見れば、ハーネとライの攻撃を受けて『タッティユ』が激しく怒りながら、鼻をぶん回している姿が目に飛び込んできた。
近くを飛ぶハーネを攻撃しているけど、彼は余裕綽々な感じで逃げ回っていた。
その様子がさらに『タッティユ』を怒らせているようだ。
ともかく、今は僕への注意がいい感じに逸れている。
今がチャンス!
僕は『タッティユ』の真後ろへ回り込むと、『魔獣合成』で背中に翼を生やした。
音を立てないように翼をそっと動かして、影の中から『タッティユ』の背中目がけて飛び出す。首の近くに着地してから、腰の剣を鞘から引き抜く。
同時に、使わなくなった『影渡り』と『魔獣合成』のアプリを閉じた。
一時的にとはいえ、『危険察知注意報』を常に開きながら『傀儡師』、『影渡り』、『魔獣合成』と一緒にアプリを起動させていたので、魔力の消費量がとんでもないことになっていたからだ。
危うく『タッティユ』を倒す前に魔力切れで倒れるところだった。
それから『タッティユ』の頭頂部目がけて剣を振り下ろしたんだけど――
硬くて厚みのある毛皮によって傷一つ付けることが出来ない。
案外すんなりと終わりそうだと期待していたのだが、これは困ったな。
それなら、と持ち方を変えて剣先を頭の上に突き立てようとしたけれど、柔らかいゴムみたいなものに弾かれて、全くダメージを与えることが出来なかった。
「嘘でしょ!?」
僕が呆然としていると、近くを飛んでいたハーネが叫ぶ。
《主、危ないっ!》
ハッと顔を上げた時には、『タッティユ』の長い鼻が鞭のようにしなって僕に襲いかかっていた。
『タッティユ』の頭から素早く離れようとしたものの、鼻が思ったより長く、すごい勢いで迫っていたので、避けることが出来なかった。
なんとか防御態勢に入ったが、それと同時に、バシンッという音と衝撃が右半身に走り、僕の身体がすごい勢いで弾き飛ばされる。
《我が主を護れ!》
レーヌの声が聞こえたと思ったら、土の棘に串刺しになりそうだった僕の体をアーフェレスティスの集団が受け止めてくれた。
そのまま僕は安全な場所に持ち運ばれる。
そろそろハーネやライ、エクエスも戻ってきてるんじゃないかな。
いつの間にか昼ご飯時だし、皆もお腹を空かせている頃でしょ。
「今回はかなりいい魔草と出会えたよね」
飛びながら、僕はレーヌに話しかける。
《うむ。我もあんなに長生きな『ネル』を見たのは初めてだ。たぶん、『ネル』の中では最強ではなかろうか?》
「ほへぇ~、そうなんだ」
《我が君、あ奴からもらった精油は、特殊な方法じゃなければ使えん。『宿舎』に着いた時にでも、我が作業しようと思う》
「うん、分かった」
レーヌを肩に載せながら低空飛行で飛んでいるうちに、僕達は目的地に着いた。
《あっ、主~!》
《ご主人、お帰りー!》
《双王様! レーヌ様! お待ちしておりましたぁーっ!》
ライとハーネ、エクエスが、空から地面に降り立った僕のもとに駆け寄ってくる。
そして皆が口々に自分達がした仕事を報告してくれた。
討伐の仕方とか、成果などを興奮気味に話し出すライ達。
僕は、寄ってくる皆の頭を撫でながら、魔法薬に使う素材を受け取った。
どれも状態が良い物ばかりだ。
偉いぞ、皆!
「それじゃあ、そろそろお昼の時間だし、ご飯にしようか」
腕輪の中に素材を仕舞ってから、ライの背中に乗って皆で移動する。
空中に浮かぶ画面を確認しながら魔草や魔獣がいない安全そうな場所を探していると、廃都市と集落のちょうど中間地点に、おあつらえ向きの場所を見つけた。
《着いたー!》
ハーネが上空から周囲を見回し、敵がいないことを確認してから僕のもとへ戻ってきた。
「それじゃあ、ここでご飯にしよっか」
自分達がいる場所の周りに匂い消しの魔法粉をまいてから、お昼の準備を始める。
まず、腕輪の中からガスコンロと大きな鍋、ざるをそれぞれ二つずつ、それに塩とオリーブオイル、お皿やフォークなどを取り出しておく。
それから『ショッピング』で業務用のパスタとカニクリームソースとお水、さらにフルーツ詰め合わせの箱を数十個購入した。
鍋にお水を入れて火にかけて、沸騰してから塩を投入。
そのお湯にパスタを入れて、パスタ同士がくっ付かないようにかき混ぜる。
タブレットの画面で表示しているタイマーを確認しながら、パスタを一本取って食べてみる。茹で加減は問題なさそうだ。
パスタをざるにあけて水気をきってからお皿に盛り付け、『ハーネレンジ』で温めてもらった。ちなみにこのハーネレンジは僕が命名した、ハーネに料理の周囲を回ってもらってその熱で料理をあっためてもらう方法だ。それからパスタソースをたっぷりとかけた。
最後にフルーツをカットしてお皿に盛ったら完成だ。
《おにゃか、しゅたぁー》
ごはんの匂いを嗅ぎつけたのか、今までフードの中で寝ていたイーちゃんが起きてきた。
絶妙なタイミングだ。
僕は腕輪の中からレジャーシートを取り出して地面に敷き、その上にフルーツが盛り付けられたお皿と皆の分のパスタが入ったお皿を置く。
「はい、熱いうちに召し上がれ!」
ハーネとライ、イーちゃんがガツガツと食べ始めた。
僕は大量に購入したフルーツ詰め合わせの箱の蓋を開けて、レーヌとエクエス、それからたくさんのアーフェレスティス達に振る舞った。
今回も色々と大活躍だったからね。
瑞々しい果物を食べられて大満足な様子のレーヌ達を見ながら、僕もパスタを口に運ぶ。
いい仕事をした後の食事って、なんでこんなに美味しいのか。
お腹を満たした後、僕達は午後も魔草採取に奔走するのだった。
それから午後の仕事も一区切りついた頃――
《我が主、そろそろ『夜』が来る》
レーヌが僕にそう教えてくれた。
二日目で大体の感覚が掴めたからか、彼女に焦った様子はなかった。
「分かった!」
僕はそう答えてから、周囲の安全を確認して『宿舎』に避難した。
前回よりも慌てることなく対応出来た。
少しずつ進歩しているぞ!
主にレーヌのおかげではあるけどね。
タブレットで時間を確認すれば、昨日よりも二時間早く『夜』になっていたのが分かった。
「……これって、夜になる時間は決まってないってことなのかな?」
僕の疑問にレーヌが答える。
《ふむ……まだ二回目だからなんとも言えぬが、決まった時間というわけではなさそうだ。今回よりももっと早くなるかもしれないし、遅くなることもあるだろう》
「そうなると、今日みたいにバラバラに行動するのは危険かな」
《そうだな。午前中ならともかく、午後になってからはいつ『夜』が来てもおかしくないからな。全員で行動した方が安心だろう》
「うん、そうするよ」
《お腹空いた~》
レーヌさんのありがたいお言葉に同意していると、ライ達の腹の虫が鳴る音が響いた。
僕は思わずプッと噴き出す。
皆と一緒にいれば、どんな時も怖さや寂しさはないな。
《少しは大人しく出来ないのか、お前達は》
呆れながら皆の所へ飛んで行くレーヌの後を追いつつ、僕は『レシピ』を開いた。
翌日、『宿舎』を皆で出ると、エクエスが号令をかけた。
アーフェレスティス達がその号令で一斉に飛び立っていく。
昨日と同じような天気であるが、使役獣の皆は今日も今日とて元気だ。
今日の方針は、アーフェレスティス達が戻ってきてから、その情報をもとに組み立てる予定だ。
それまでは、とりあえずダンジョン内を探索することにした。
表層階だからか、『夜』じゃなければ、僕が倒せないような魔獣や魔草が出てくることはほとんどないんだよね。
体力を温存出来るから、悪くないけど。
たまに魔獣と遭遇しても、ハーネやライだけで簡単に倒している。
昇級試験の期間はまだ時間に余裕があるし、すでに討伐対象の一種『腐狼』を倒しているから順調だとは思うけれど、これから先も同じように進められるかは分からない。
出来るだけ早めに次の討伐対象を見つけたいな。
だけど、そんな思いもむなしく、今日は魔獣の気配がほとんどなかった。
「ん~……今日は魔獣が全然いないなぁ」
ボロボロに朽ち果てた廃墟を見回したり、画面を確認したりしても無反応だ。
《こっちもいないねぇ~》
少し遠出して索敵してくれたハーネも、魔獣をまったく見かけなかったと言って戻ってきた。
それからも、しばらくの間は探索を続けていたんだけれど、やっと見つけた魔獣も討伐対象以外だ。
この日は遭遇した魔獣を倒すだけで、これといった収穫のない一日を過ごしたのだった。
さらに次の日、魔獣の反応がほとんどなかった前日とは打って変わって、大量の魔獣や魔草に出会うことになった。
巨大な蟻の大群だったり、角が生えた巨大猿の群れだったり、それから酸を吐き出す空飛ぶ鯨のような魔獣だったりに襲われて大変だった。
一体ずつなら問題なかったんだけど、ほとんどが群れで行動する魔獣だった上に、一体一体が強いので、対処するのに手間取った。
一番面倒だったのが、『トレロ』という、空中に浮かぶ鯨に似た魔獣だった。
動き自体はゆったりしているんだけど、攻撃魔法の威力がえげつなかった。
何個もの竜巻を発生させるし、雷も落とすし、おまけに口から火も噴くのだ。
レーヌやエクエス、一緒にいたアーフェレスティス達が竜巻でふっ飛ばされたかと思えば、空を飛んで特攻したハーネも雷に撃ち落される。
僕とライは噴射される炎の攻撃から、叫びながら逃げまどった。
阿鼻叫喚といった具合だ。
『傀儡師』を起動させて、なんとかトレロの背中に乗った僕が、剣を刺したんだけど、皮が硬すぎて傷も付かなかった。
なんか、自然災害みたいで倒すのは無理だと判断し、僕達は雷に打たれてヘロヘロになっているハーネを回収して、その場から逃げることにした。
うん、勝てそうにないし、討伐対象でもないなら、撤退あるのみだ。
レーヌ達は吹っ飛ばされた後に安全な場所に避難していたようで、その後問題なく合流出来た。
『トレロ』との戦いの後も強い魔獣や魔草との戦いが続いたせいで、『夜』になって『宿舎』に入った頃には、皆口数が少なくなっていた。
かなり疲弊しているようだ。
ただ一人、イーちゃんだけは元気だったけど。
その日はスタミナを回復させるために、夜ご飯はうな丼を作って食べた。
美味しかった~。
これで明日の探索も頑張れそうだ!
二日連続で昇級試験の課題の魔獣討伐が出来なかったあたり、さすがAランク昇級試験。
一筋縄ではいかないし、討伐対象以外の強力な魔獣を倒さないと進めないしで、かなり大変だ。
「明日こそは『タッティユ』、『チュリートリー』、『ジンクヴィーダー』、『ダールウィルグス』のどれか一種類でも出てきてくれたらなぁ~」
ベッドの上でゴロゴロしながら僕が討伐対象との遭遇を祈っていると、エクエスが近づいてきた。
《双王様、ちょっとよろしいでしょうか》
「ん? どうしたの、エクエス」
エクエスがマントをバサッと動かしながら、僕の顔の横にちょこんと座る。
《実は先ほど同胞から連絡がありまして、ダンジョンの一番右端付近に『タッティユ』の巣を見つけたようです》
「え、本当!?」
《少し時間はかかりますが、せっかくですので明日は『タッティユ』の巣がある場所へ足を運びませんか?》
「うん、そうしよう!」
魔獣の種類によっては、アーフェレスティス達が見つけた後に移動しちゃって、見失う場合もある。
でも、巣を作る習性がある魔獣の場合は、その場所からあまり離れないことが多いので、その周辺に行けば必ず遭遇出来る。
表層階の全体が分かる地図を開き、『タッティユ』の巣がある場所をエクエスに聞いて確認する。
これで明日の目標が決まった。
エクエスが自分の寝床に飛んで行ったあと、僕はベッドの上で『ショッピング』を開いた。
少しでも情報を集めるために、この世界の『魔獣図鑑』を購入して、『タッティユ』のページを開く。
【タッティユ】
・見上げるほど巨大な体を持ち、弱点の頭部から背中にかけて鋭利な角が生え揃っている。
・角に刺された場合、五分ほどの麻痺状態になり動けなくなる。
・大きな体に似合わず俊敏で、敵の気配に敏感である。
・長い鼻と尻尾を鞭のように振り回して、敵を薙ぎ払う。
図鑑での説明はこんな感じだった。
隣に『タッティユ』の姿も描かれていたんだけど、巨大な象……というより、マンモスにめっちゃ似ていた。
見た目はマンモスよりいかつい。
僕は倒し方を頭の中でイメージトレーニングしてから、明日に備えて早めに睡眠をとることにした。
翌朝、朝食をとって『宿舎』から出た僕は、移動しながら今日の目標である『タッティユ』について皆に話した。
今いる場所から『タッティユ』の巣まではかなり距離があって時間がかかるので、今回はハーネの背に乗って移動する。
ハーネの頭の上にはイーちゃんが、僕の前にはライがちょこんと座っている。
レーヌとエクエスは、すっかり定位置になった僕の肩に座って、前を見据えていた。
「まず、『タッティユ』と遭遇したらライの氷攻撃で足元を凍らせて動けなくする。それから、ハーネが上空から風で攻撃して、『タッティユ』の意識を上に向けさせる。最後に、僕が『タッティユ』の体に乗って弱点である頭のてっぺんを斬る――こういう作戦でいこうと思う」
《分かった~!》
《はい!》
レーヌとエクエスには、いつも通り少し離れた場所にいてもらい、イーちゃんのお守りをお願いする予定だ。
ダンジョン内の地図と空中に浮かぶ画面を見る限り、たぶん今のハーネの速度であれば一時間ほどで目的地に着きそうだ。
移動中は、ハーネが疲れないように回復系の魔法薬を与えたり、イーちゃん達に間食を与えたりしながらまったりと過ごした。
途中変な魔獣に絡まれそうになることもあったけれど、それらも上手く回避出来て、僕達はついに『タッティユ』の巣の周辺にやってきたのだった。
巣から少し離れた場所に着陸して、まずはイーちゃんとレーヌ、エクエスを安全な場所に避難させる。
「さてと……それじゃあ討伐を開始しますか!」
ハーネの背中から降りて、周囲を確認すると、危険そうな魔獣を画面上で発見した。
でもどうやら、僕達とは真逆の方に向かっていたので、こちらから近付けなければ大丈夫そうだ。
魔法薬を補充しながら、危険を感じたらすぐに離脱するようにハーネとライに指示を出す。
『タッティユ』はとても気配に敏感らしいから、影を移動することが出来る不思議なアプリ『影渡り』を『傀儡師』と併用して、地面の中から『タッティユ』に近付こうと考えていると――
《主~!》
《『タッティユ』、出てきた!》
「えぇっ!?」
ハーネとライに言われて『タッティユ』の巣がある方へ視線を向けると、マンモス級にデカい『タッティユ』が、周囲を警戒しつつ洞窟の穴から顔を出していた。
今まで感知したことのない僕達の気配を怪しがって、出てきたのかもしれない。
視力もかなり高いのか、辺りをしばらく見回していたと思ったら、かなり離れた位置にいたはずの僕達に目を合わせた。上空で待機していたハーネも視認したようだった。
この距離でも気付かれるなんて……
これは難しい戦いになりそうだな。
僕はパシパシッと両頬を叩き、自分に気合を入れた。
「よしっ、行くぞ!」
その言葉とともに『タッティユ』がいる方へと駆け出す。
隠れていた場所から僕とライが二手に分かれて接近すると、『タッティユ』は唸り声を上げながら前足で地面をドンドンッと蹴り上げる。
同時に、『タッティユ』の足元から土で出来た鋭い棘のようなものが地面から盛り上がり、僕とライに向かってすごい速さで襲いかかってきた。
僕もライもそれを俊敏な動きで避けて、『タッティユ』との距離を縮める。
ただ、土の棘が『タッティユ』を護るように周囲にも生えていたため、容易には近付けない。
《これでもくらえ~!》
上空で待機していたハーネが超特急で突っ込んできて、小回りを利かせながら氷のブレスを吐いた。
『タッティユ』を地面に縫い付けるように、足元を凍らせていく。
ブレスを食らった『タッティユ』は大激怒して、長い鼻で足元の氷をバシバシ叩いて砕いていった。
しかしハーネも負けじと、壊れたところを片っ端から凍らせている。
ハーネが長い鼻で攻撃されそうになっている時は、ライがそれを護るように棘の外から雷攻撃を仕掛けていた。
良い連携を保っている。
その隙に、僕は『影渡り』で地面に潜り、棘になっている地面の下をスイスイと移動していく。
地上を走るより少し遅いけど、思ったより早く『タッティユ』の近くまでやってきた。
影の中から真上を見れば、ハーネとライの攻撃を受けて『タッティユ』が激しく怒りながら、鼻をぶん回している姿が目に飛び込んできた。
近くを飛ぶハーネを攻撃しているけど、彼は余裕綽々な感じで逃げ回っていた。
その様子がさらに『タッティユ』を怒らせているようだ。
ともかく、今は僕への注意がいい感じに逸れている。
今がチャンス!
僕は『タッティユ』の真後ろへ回り込むと、『魔獣合成』で背中に翼を生やした。
音を立てないように翼をそっと動かして、影の中から『タッティユ』の背中目がけて飛び出す。首の近くに着地してから、腰の剣を鞘から引き抜く。
同時に、使わなくなった『影渡り』と『魔獣合成』のアプリを閉じた。
一時的にとはいえ、『危険察知注意報』を常に開きながら『傀儡師』、『影渡り』、『魔獣合成』と一緒にアプリを起動させていたので、魔力の消費量がとんでもないことになっていたからだ。
危うく『タッティユ』を倒す前に魔力切れで倒れるところだった。
それから『タッティユ』の頭頂部目がけて剣を振り下ろしたんだけど――
硬くて厚みのある毛皮によって傷一つ付けることが出来ない。
案外すんなりと終わりそうだと期待していたのだが、これは困ったな。
それなら、と持ち方を変えて剣先を頭の上に突き立てようとしたけれど、柔らかいゴムみたいなものに弾かれて、全くダメージを与えることが出来なかった。
「嘘でしょ!?」
僕が呆然としていると、近くを飛んでいたハーネが叫ぶ。
《主、危ないっ!》
ハッと顔を上げた時には、『タッティユ』の長い鼻が鞭のようにしなって僕に襲いかかっていた。
『タッティユ』の頭から素早く離れようとしたものの、鼻が思ったより長く、すごい勢いで迫っていたので、避けることが出来なかった。
なんとか防御態勢に入ったが、それと同時に、バシンッという音と衝撃が右半身に走り、僕の身体がすごい勢いで弾き飛ばされる。
《我が主を護れ!》
レーヌの声が聞こえたと思ったら、土の棘に串刺しになりそうだった僕の体をアーフェレスティスの集団が受け止めてくれた。
そのまま僕は安全な場所に持ち運ばれる。
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