魂選塔

怖い人だけど

三

あたしは息を飲み、目を見開いた。テーブルに置かれた包丁。口角を上げ、目を細めて、真実だと言わんばかりに語った彼女がやっと気が狂っていることに気付く。


「いやだ！　あたしは、まだ死にたくない！」


ユウカを突き飛ばし、あたしは彼女の部屋から飛び出した。階段を駆け降りて扉を勢いよく開けて家から逃げ出す。こら待ちなさい、リスリ、と後方から怒声が聞こえた。


振り向くと鬼の形相をしたユウカが追いかけていた。怖くなってあたしはスピードを早めた。これまでずっと本気で走ったことなんかなかったのに、人にぶつかっても、転びそうになっても、あたしは走り続けた。


ついに交差点に差しかかる。ちょうど青信号で無我夢中で走った。ユウカの声はまだしていた。思っていたよりもあたしは走るのが遅くて、ユウカは早かったのだ。


「リスリ！　待ちなさい！」


渡りきって振り向くと、彼女は赤信号なのに走ってきていた。あたしは立ち止まることをせずに走り続けた。そうすることしか出来なかった。