魂選塔

思い出が重なる

七

「家の前は墓で、寂しさと恐怖でやがて心細くなってしまう。親はいつまで経っても家を入れてくれない、空はどこまでも黒くて、星が呑気に瞬いている。哀れな少女とぬいぐるみを知らないように……。そんな時あなたはムージの手を握ったんだよ」


「この子の、手を……」


私の持っていたムージを彼女は触れた。そうだよ、私が頷くと一瞬目が合って、カツギは丸い手を握った。


「そうだ……どこにも行けなくて……ヒロタにも、会うなって言われて……」


私は頷いた。


「あそこの親子とは会うなって言われたんだよね。だからあなたたちは交換日記を始めた。一方で、ムージを更に大切にするようになった。勉強をする時も、マラソンをする時だって、あなたたちはずっと一緒だった。初めの内は、そう、ただヒロタと繋がっている気がしたから。でもやがて、あなたがこのムージ自体に愛を感じ始めるんだ。あなたたちは誰よりも強い繋がりが出来ていたんだよ」


カツギの目には、もうムージしか映っていなかった。私から奪うとムージを力強く抱きしめる。ムージ、ムージ、そう呼んだかと思いきや、唐突に突き放した。


厳しい目をして、ムージを睨みつけた。