この青く美しい空の下で

しんた

文字の大きさ
9 / 11

少女が"選んだ"もの

しおりを挟む

「イリスさんはどんな能力がいいですか? お勧めは"身体能力上昇"です。
 この能力は言葉通り身体機能を上昇させる効果があります。当然、凄まじい能力はありませんが、あると色々便利だと思います。
 例えば、ちょっと走った程度では疲れなくなったり、普段よりちょっと重い荷物を持てるようになったり、ある程度の身体的な丈夫さは手に入れる事が出来ますよ。
 他は何が良いですかね。……武術能力上昇とかも良いかもしれませんね。旅をしてると出会うであろう魔物に対処するには、ある程度武器を扱う能力が必要になります。
 この能力は先ほどの身体能力上昇の、武器や防具の扱いが高くなる能力と思って頂いて構いません」

 さりげなく勧めるこの能力は特別製だ。これさえあれば、生きるのに必要な力を全て含めてある。
 これを選んでくれるのなら、通常の魔物の扱いをされていない、特殊な強さの魔物でも戦える術を身に付ける事が出来る。
 そして、鍛えれば鍛えるだけ強くなれるようにエリーは調整をするつもりだ。あくまで"エリルディール"に生きている人の中でも辿り着ける領域までという制限はあるが、必要以上の強さは却って敵を作りかねない。この辺りが丁度良いだろう。
 これは本人の意思次第で強さを手に入れられる能力で、最初から強い訳でもない。流石に行き成り最強の力などを与える事は出来ないが、これなら悪目立ちはしないはず。
 丁度良い強さというだけではなく、本人が強く望むのならば、望んだ分だけその強さに辿り着く事が出来る。これならばポワルも安心して送り出せるだろう。

 少女は考えていた。何が自分に必要なのかを。
 その瞳を見たエリーは不安を感じてしまう。
 確証は持てないものの、胸騒ぎがする。
 そう思わせる瞳の色をイリスはしていた。

 暫し考えていたイリスは、エリーへと質問をした。

「こういった能力は、"エリルディール"にいる人たちも、持っているものなのでしょうか?」

 びたっと固まってしまうエリー。
 イリスはポワルから賢い賢いとしつこく聞いていたが、どうやらその程度では収まらない聡明さを持っているようだ。
 そしてこの子は、心の何処かでそれに気が付いているのだろう。
 こんな能力を世界にいる人々は、誰一人として持っていないのだという事実に。

 言葉に詰まらせるながらも答えるが、雲行きが怪しくなってきてしまう。

「いいえ、この世界にいる殆どの人は、能力を持っていません」

 咄嗟に嘘をついてしまうエリー。なるべく当たり障りの無いように話したつもりではあったのだが、イリスにはそれが通じないようで、どんどん悪い方向へと進んでいってしまう。

「えっと、ということは、つまり……。ずるいことなんじゃ――」

 イリスがそう言いかけた瞬間、今まで静かに聴いていたポワルが強い口調でイリスに反論していった。
 その瞳と表情はとても必死な、今にも泣きそうな顔をしていた。

「ずるくないよ! イリスちゃんは何にも知らない場所に放り出されるんだよ!? 
 知識はあっても今までの常識は通用しなくなっちゃうんだよ!? 
 魔物がいない世界の住人が、行き成りそんな所に落っことされたら、
 不安になって怖くなるのが当たり前なんだよ!?
 ……魔物に追っかけられて逃げるイリスちゃんなんて、見たくないよ……」

 次第に勢いが無くなっていくポワル。
 その表情はとても寂しそうな顔をしていた。
 それはイリスを心から心配している気持ちがはっきりと伝わり、とても嬉しくも思うも悲しい想いをさせてしまっている事に、申し訳なさを感じてしまうイリスだった。

 ポワルは心を落ち着かせて言葉を続けていく。
 その声はとても悲しそうな声だった。

「お願いだから、そんな風に考えないで? 
 ……ね? 何か能力を持っていないと、本当に危ないから」
「……ポワル様」

 今にも泣きそうなポワルの顔に、イリスはズキンと胸が痛くなる。
 そんな悲しい顔で懇願されるように言われては、流石に心が揺らぐイリスであったが、どうしても伝えるべき言葉が出来てしまっていた。

 イリスはゆっくりと、丁寧に言葉を話し始めていく。
 はっきりとした口調で。でも、しっかりと理解して貰えるように。

「ごめんなさい、ポワル様。それでも私は受け取れません。
 何か能力を貰ってしまったら、私はきっと後悔するような気がするんです。
 "持っていない人たち"がいる世界で、"持っている私"がいると、
 私自身が許せなくなるような、そんな気がするんです。
 その世界に立つのなら、同じ条件で立ちたいから」

 この選択に後悔はしない。自分で考え、選んだことなのだから。
 そしてこれはきっと、やってはいけないことなんだ。
 そう思いながら、イリスは言葉を丁寧に紡いでいく。

「"努力した"人達が必死で手に入れたものを、
 "努力なし"で軽々しく手に入れて良いものではないと思うから」

 ――だから、とイリスは言葉を続ける。
 自分の口から言わなければならない。
 これは私の覚悟にもなるのだから。

 そしてイリスは、はっきりとした声で、二柱の女神に宣言していく。

「能力はいりません」

 しんとした管理世界に響く少女の声と、その名を小さく呼ぶポワルの声。
 少女の瞳は今まで過ごしてきた平和な世界の出身者では、
 とても出来ない様な美しい決意の色をしていた。
 その輝きにポワルは一瞬どきっとするも、しっかりと少女の言葉を聞いていく。
 表情はやはり、とても寂しそうな顔をしているようだ。

 エリーは少女の、まるで光り輝くようなその美しい瞳を真っ直ぐ見つめていた。
 その瞳の奥には揺らがぬ決意の色に見え、彼女の意思はとても固く心を決めてしまっているのが、手に取るように理解出来た。

 静かに瞳を閉じ、考えるエリー。

(本当に後悔しない? ……いえ、貴女はきっとしないわね。後悔するのは、きっと私。それなら――)

 ゆっくりと静かに口を開いていく。
 なるべく優しく、穏やかな声で。
 でも、覚悟を確認出来る強さで。
 そして少女を怖がらせない様に。

「イリスさん」
「はい」

 瞳を開け、エリーは告げる。この世界の"真実"を。

「この世界はイリスさんが思っている以上に、辛く、厳しく、残酷で、無慈悲です。……それでも」

 彼女の瞳は、真っ直ぐエリーを見つめていた。その瞳の色になんと美しい色なのだろうかと思うエリー。
 それでもエリーは聞かなくてはならない。イリスの意思を。そして覚悟を。

「それでも、能力はいりませんか?」

 イリスは瞳を閉じ考える。もし覆したとしても、誰もそれを責められない。
 この世界、エリルディールは理不尽・・・だ。努力で為し得たものですら、軽々と踏み躙るほどに。魔物に倒される大人など珍しくない。寧ろ武芸に秀でた者でなければ、退く事が出来ない程の強さだ。

 それだけではない。魔物がいる程度・・では、エリーはここまでの心配はしない。
 理由はもっと別にある。だがこの子にはそれを伝えていない。
 いや、今のイリスには伝える事が出来ない事実が魔物にはあった。
 もしそれを知ればイリスは、心が折れてしまうかもしれない。

 ポワルもそれを知っている。だからこそ、"エリルディール"に向かうと知った時、取り乱すように驚いてしまったのだ。
 ここで魔物について教えてしまうと、将来の可能性をいくつか消してしまう事になってしまう。エリーは魔物についてイリスに詳しく教えるべきだろうかとポワルを一瞥すると、それを察したように彼女は首を横に少しだけ振る。
 そしてその瞳が語っている。イリスなら大丈夫だと。それを信じていると。

 信頼している彼女の瞳にも戸惑うエリーは、それでも思わずにはいられない。
 能力を貰ってくれた方が安心する、と。それほどまでに厳しい世界なのだから。

 ゆっくりと開かれる彼女の瞳には、決して揺らがぬ決意が見て取れた。
 エリーは思う。ああ、決意も覚悟も足りないのは私の方なのね、と。

 そして少女は答えていく。

「はい。能力はいりません」

 その言葉にもう誰も口を挟む事は出来なかった。

「そうですか。わかりました」

 瞳を閉じながら、静かに答えるエリー。
 そのまま事間を続けていった。

「ではイリスさん。これから貴女を、"エリルディール"へ送ります。
 辛く、厳しい事が貴女を待ってるやもしれません。ですが――」

 瞳をゆっくりと開き、とても穏やかで優しい表情で伝えていく。

「貴女ならきっと大丈夫。どんな困難に突き当たっても、貴女なら乗り越えられると信じています」
「ありがとうございます」

 目を細めて答えるイリスに釣られ、微笑んでしまった。

「イリスちゃん」
「ポワル様」

 もうじき別れなければならないと感じてしまい、急に寂しくなってしまう。
 そんなイリスへポワルはとても美しい笑顔で微笑みながら話していった。

「タウマスとエレクトラから、言葉を貰って来てるよ」
「え? お父さんとお母さんから?」

 言葉とはどういう意味だろうか。お手紙だろうかとイリスは思っていたが、どうやら言葉通りのものらしい。

「ちゃんとした"言葉"を預かっているよ。聞いてあげてね」
「はい」

 イリスにその意味は理解出来ないが、暫くするとポワルの胸の前に出した両手がやんわりと優しい光に包まれて、
 次第に優しく、大好きな父の声が響いてきた。

『――イリス。父さんだ』


 *  *   


 次第に光は収まっていき、大切な"言葉"を受け取ったイリスは、涙が止め処なく流れていた。今まで気が付かなかった。気づく事すら出来なかった、その大切な想いに。
 イリスはこんな事になって初めて、自分がこんなにも愛されていたという事を知った。止まらない涙を流しながら瞳を閉じた少女は、胸に両手を当てながら呟くように言葉を紡いでいく。

「ごめんなさい、おとうさん、おかあさん。気づいてあげられなくて。……だいすきです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜

黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。 ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。 彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。 賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。 地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す! 森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。 美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。 さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる! 剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。 窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

処理中です...