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少女は"旅"に出る
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少女は目を開くと、とても見通しの良い広い草原に立っていた。
空は青く雲は高く、穏やかな春の風に包まれる美しい世界。
思わず言葉が小さく零れてしまった。
「ここが、"エリルディール"。……綺麗」
エリーに戴いた知識によると、少女の目の前に見える街はフィルベルグ王国という大きな国らしい。緑と水の豊かな大地の国なのだそうだ。まずはその国の冒険者ギルドへ向かう事にした。
魔物の影は見えない。
ホッと安心する少女は歩きながら空を見上げ、両親の言葉を思い出していた。
それはまるで心に刻み込むように、一言一句大切に、とても大切に思い出していた。
『――イリス。父さんだ。
今、ポワル様からお話を伺ったよ。
正直父さんにはよくわからなかった。
頭悪いからなぁ、はははっ……。
でもイリスが今とても大変な事と、
これから先も大変な事だけはよくわかった。
こんな状況になってしまうと、
もう父さんには何にもしてあげられないんだなって、
今更ながら後悔しているよ。
もっと色んなことを教えてあげたかった。
もっと楽しいことを教えてあげたかった。
――イリス。
これからイリスは、父さんと母さんに頼れずに
生きていかなければならなくなってしまったけれど、
イリスなら大丈夫だって信じてる。
イリスは父さんの子で、
そして母さんの子なのだから。
ちょっとやそっとの苦労じゃめげないんだって、
大丈夫なんだって信じてる。
――だからイリス。
自由に生きなさい。
無理なんてしなくていい。
無茶なんかしちゃ駄目だ。
ただ自由に生きなさい。
そして"幸せ"になりなさい。
それが、それこそが、
最高の親孝行なんだよ。
娘が幸せに生きている。
これ以上に喜ばしい事を父さんは知らない。
――イリス。
愛してる。心から。
父さんは、イリスの父親になれたことを誇りに思うよ。
それじゃあ、身体に気をつけるんだよ?』
イリスは想う。私は父に何かをしてあげられたのだろうかと。
何もせず、何も出来ずに別れてしまったのではないだろうかと。
それでも父は、私が幸せになることを心から願ってくれている。
それが最高の親孝行なのだと、優しい声で言ってくれている。
ならば私は、生きなければならない。
そして幸せにならなければならない。
大好きな父を悲しませないように。
『イリス? お母さんよ。
……たーくんが言いたい事を全部言っちゃったから、
言う事がなくなっちゃったじゃない! もー!〔ごめんよ、えーちゃん〕
うーん。そうねー。
……正直お母さんはイリスのこと安心して送り出せるのよねー。
イリスはしっかりしてるし、賢いし、気配りも出来るし、家事も覚えさせたし。
お母さんはイリスがちゃんとやっていけるって信じてるし、
イリスならきっと大丈夫だって思ってるよ。
……そうね。ただひとつ心残りなのは……。
もっとお母さんに甘えて欲しかったな。
いっつもポワル様とべったりなんだもん! お母さん寂しかったんだよー?
……あ、ポワル様が悪いわけでは決してないですからね?
あぁぁ、そんな悲しそうなお顔しないでくださいよっ。
……お母さんね、ずっとイリスとポワル様が羨ましかったんだよ?
一緒に遊んだり、一緒にお出かけしたり、一緒に眠ったり。
私がしたかった事ぜーんぶポワル様に取られちゃうんだもん!
ポワル様は綺麗だし、素敵だし、優しいし、とっても魅力的だよね。
イリスは"祝福された子"だから、
ポワル様と惹かれ合ってしまうのは仕方ないんだけど。
……それでもお母さんは寂しかったよ。
今思えば三人で眠ればよかったのよねー。何で思いつかなかったのかしら!〔えーちゃん、俺は一緒じゃ駄目なの?〕たーくんは男の子なんだから一人でも大丈夫でしょ?〔えぇぇぇ〕
あとはー、そうねー。
――イリス。
頑張らなくていいわ。
イリスは頑張り屋さんだから、
これ以上頑張らなくていい。
のんびりゆっくり歩いていきなさい。
走ってると疲れちゃうんだよ? 知ってた?
イリスはまだ十三歳なんだから、
無理せずゆっくり歩いていきなさい。
それでも――
歩いてても転んじゃう時があると思うの。
辛くて、苦しくて、寂しくて、泣きたくなったら……。
――空を見上げなさい。
顔を下に向けずに空を見上げなさい。
そこにはきっと、美しい青い空が広がっているから。
どうしても辛くなったら、空を見上げて、
またゆっくり歩いて行きなさい。
ポワル様が仰ってた、異世界っていうのは、
あまりよく分らなかったけど。
それでも……。
空は繋がっていると思うから。
どんなに遠く離れていても、
どんなに会えない距離だったとしても、
私は、この空の下で繋がってるって思えるから。
――イリス。
愛してるわ。心から。
あなたのお母さんになれて本当によかった。
……元気でね、イリス――』
「ありがとう。お父さん、お母さん」
少女は呟きながら一路王都を目指す。
この世界に両親はいない。大切なひともいない。
友人も、自分を知る者も誰もいない。
寂しさで押し潰されてしまいそうになる心を奮い立たせ、
それでも前を向いて歩いていった。
少女には託してくれた、たくさんのひとの想いで溢れている。
大丈夫、不安はあるけど、きっと大丈夫。歩いていけるはずだ。
次第に目の前に見えてくる大きな城門を見ながら、
少女は気合を入れ直し歩いていく。
何処を見ても知らない世界。知らない場所。知らない人々。
なら、逆に楽しめばいい。
知らない世界を見て、知らない場所に行き、知らない人達と出会おう。
父は言ってくれた、無理なんてしなくていいと。
母は言ってくれた、ゆっくり歩いていきなさいと。
大切なひとにもう一度会う方法なんて、今はまるで思いも寄らない事だけど、
もしかしたらこの世界のどこかに、その手がかりがあるかもしれない。
世界はとても広いのだから、きっとどこかにあるはずだ。
もし無かったとしても、自分で何とかすれば良い。
どうすればいいのかなんて、今は考えなくて良い。
まずは歩いていこう。ゆっくり、のんびり、無理をせずに。
そうすれば、きっといつかは辿り着ける気がする。
どんな困難な道であったとしても、一歩ずつ前に進めばきっと。
そんな想いを胸に抱きながら、少女は歩いてく。
これから彼女は、様々な人と出会い、様々な人の想いを知り、
そして様々な事を学んでいくだろう。
だがそれは、決して楽な道ではない事となるかもしれない。
辛い事、悲しい事、痛い事、涙が出る事。様々あるだろう。
それでも少女の瞳は真っ直ぐと前を向き、歩いていく。
父と母が残してくれた想いを胸に。
大切なひととの約束を果たす為に――。
空は青く雲は高く、穏やかな春の風に包まれる美しい世界。
思わず言葉が小さく零れてしまった。
「ここが、"エリルディール"。……綺麗」
エリーに戴いた知識によると、少女の目の前に見える街はフィルベルグ王国という大きな国らしい。緑と水の豊かな大地の国なのだそうだ。まずはその国の冒険者ギルドへ向かう事にした。
魔物の影は見えない。
ホッと安心する少女は歩きながら空を見上げ、両親の言葉を思い出していた。
それはまるで心に刻み込むように、一言一句大切に、とても大切に思い出していた。
『――イリス。父さんだ。
今、ポワル様からお話を伺ったよ。
正直父さんにはよくわからなかった。
頭悪いからなぁ、はははっ……。
でもイリスが今とても大変な事と、
これから先も大変な事だけはよくわかった。
こんな状況になってしまうと、
もう父さんには何にもしてあげられないんだなって、
今更ながら後悔しているよ。
もっと色んなことを教えてあげたかった。
もっと楽しいことを教えてあげたかった。
――イリス。
これからイリスは、父さんと母さんに頼れずに
生きていかなければならなくなってしまったけれど、
イリスなら大丈夫だって信じてる。
イリスは父さんの子で、
そして母さんの子なのだから。
ちょっとやそっとの苦労じゃめげないんだって、
大丈夫なんだって信じてる。
――だからイリス。
自由に生きなさい。
無理なんてしなくていい。
無茶なんかしちゃ駄目だ。
ただ自由に生きなさい。
そして"幸せ"になりなさい。
それが、それこそが、
最高の親孝行なんだよ。
娘が幸せに生きている。
これ以上に喜ばしい事を父さんは知らない。
――イリス。
愛してる。心から。
父さんは、イリスの父親になれたことを誇りに思うよ。
それじゃあ、身体に気をつけるんだよ?』
イリスは想う。私は父に何かをしてあげられたのだろうかと。
何もせず、何も出来ずに別れてしまったのではないだろうかと。
それでも父は、私が幸せになることを心から願ってくれている。
それが最高の親孝行なのだと、優しい声で言ってくれている。
ならば私は、生きなければならない。
そして幸せにならなければならない。
大好きな父を悲しませないように。
『イリス? お母さんよ。
……たーくんが言いたい事を全部言っちゃったから、
言う事がなくなっちゃったじゃない! もー!〔ごめんよ、えーちゃん〕
うーん。そうねー。
……正直お母さんはイリスのこと安心して送り出せるのよねー。
イリスはしっかりしてるし、賢いし、気配りも出来るし、家事も覚えさせたし。
お母さんはイリスがちゃんとやっていけるって信じてるし、
イリスならきっと大丈夫だって思ってるよ。
……そうね。ただひとつ心残りなのは……。
もっとお母さんに甘えて欲しかったな。
いっつもポワル様とべったりなんだもん! お母さん寂しかったんだよー?
……あ、ポワル様が悪いわけでは決してないですからね?
あぁぁ、そんな悲しそうなお顔しないでくださいよっ。
……お母さんね、ずっとイリスとポワル様が羨ましかったんだよ?
一緒に遊んだり、一緒にお出かけしたり、一緒に眠ったり。
私がしたかった事ぜーんぶポワル様に取られちゃうんだもん!
ポワル様は綺麗だし、素敵だし、優しいし、とっても魅力的だよね。
イリスは"祝福された子"だから、
ポワル様と惹かれ合ってしまうのは仕方ないんだけど。
……それでもお母さんは寂しかったよ。
今思えば三人で眠ればよかったのよねー。何で思いつかなかったのかしら!〔えーちゃん、俺は一緒じゃ駄目なの?〕たーくんは男の子なんだから一人でも大丈夫でしょ?〔えぇぇぇ〕
あとはー、そうねー。
――イリス。
頑張らなくていいわ。
イリスは頑張り屋さんだから、
これ以上頑張らなくていい。
のんびりゆっくり歩いていきなさい。
走ってると疲れちゃうんだよ? 知ってた?
イリスはまだ十三歳なんだから、
無理せずゆっくり歩いていきなさい。
それでも――
歩いてても転んじゃう時があると思うの。
辛くて、苦しくて、寂しくて、泣きたくなったら……。
――空を見上げなさい。
顔を下に向けずに空を見上げなさい。
そこにはきっと、美しい青い空が広がっているから。
どうしても辛くなったら、空を見上げて、
またゆっくり歩いて行きなさい。
ポワル様が仰ってた、異世界っていうのは、
あまりよく分らなかったけど。
それでも……。
空は繋がっていると思うから。
どんなに遠く離れていても、
どんなに会えない距離だったとしても、
私は、この空の下で繋がってるって思えるから。
――イリス。
愛してるわ。心から。
あなたのお母さんになれて本当によかった。
……元気でね、イリス――』
「ありがとう。お父さん、お母さん」
少女は呟きながら一路王都を目指す。
この世界に両親はいない。大切なひともいない。
友人も、自分を知る者も誰もいない。
寂しさで押し潰されてしまいそうになる心を奮い立たせ、
それでも前を向いて歩いていった。
少女には託してくれた、たくさんのひとの想いで溢れている。
大丈夫、不安はあるけど、きっと大丈夫。歩いていけるはずだ。
次第に目の前に見えてくる大きな城門を見ながら、
少女は気合を入れ直し歩いていく。
何処を見ても知らない世界。知らない場所。知らない人々。
なら、逆に楽しめばいい。
知らない世界を見て、知らない場所に行き、知らない人達と出会おう。
父は言ってくれた、無理なんてしなくていいと。
母は言ってくれた、ゆっくり歩いていきなさいと。
大切なひとにもう一度会う方法なんて、今はまるで思いも寄らない事だけど、
もしかしたらこの世界のどこかに、その手がかりがあるかもしれない。
世界はとても広いのだから、きっとどこかにあるはずだ。
もし無かったとしても、自分で何とかすれば良い。
どうすればいいのかなんて、今は考えなくて良い。
まずは歩いていこう。ゆっくり、のんびり、無理をせずに。
そうすれば、きっといつかは辿り着ける気がする。
どんな困難な道であったとしても、一歩ずつ前に進めばきっと。
そんな想いを胸に抱きながら、少女は歩いてく。
これから彼女は、様々な人と出会い、様々な人の想いを知り、
そして様々な事を学んでいくだろう。
だがそれは、決して楽な道ではない事となるかもしれない。
辛い事、悲しい事、痛い事、涙が出る事。様々あるだろう。
それでも少女の瞳は真っ直ぐと前を向き、歩いていく。
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