君は僕のヒーローだ

片柳りお那

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第二章

困惑

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『この公式はテストに出るから、覚えておくように。』
 淡々と話す教師の言葉を右から左に、真散はふくれっ面をしながら龍太の居る方を見ていた。騒がしく話しているグループ、退屈そうに欠伸をしている者が大半のクラスの中、彼だけは教師の言葉に頷きながらノートをとっている。
(何だよ、久しぶりに会ったってのに。)
『お前とつるむ気は無い。』
 彼からの言葉に胸がズキンと痛む。
視線に気づいたのか龍太がチラリと真散を見るが、すぐに黒板へと戻っていった。
 無視しやがったな……!
(何だよ、りゅうちゃんの阿呆!)
 いつの間にか授業は終わり、モヤモヤした気持ちのまま机に突っ伏した。
「どうしたんだよ、真散。」
 声を掛けられ顔を上げると、隣のクラスの木野翔吾きのしょうごが話しかけてきた。彼とは中学からの付き合いで、時折こうして遊びに来る。
「腹でも減ったか?」
「ちげぇよ。」
「何だよ、やけにイライラしてんな。……なぁ、今日転校生来たんだろ?どんな奴?」
 翔吾が龍太の方を指さす。彼は家から持ってきたであろう本を読み過ごしていた。
「とりあえず此処の生徒らしくないってのは分かるけど。」
「……知らねぇ。」
 胸のモヤモヤは次第に怒りへと変わってきた。したくてしたかった訳じゃないのに何故あんな風に言われる必要があるのか。龍太を視界に入れぬようそっぽを向いて窓の外を眺めていた。
 ガラガラ、バンッ!!
「並木真散はいるか?」
 勢いよく教室の扉が開くと図体のデカい男が立っていた。首元のバッジは三年の物だ。
「高野さんだ。」
「ついに来たか……。」
 教室がザワザワと騒ぎだす。高野と呼ばれた人物は辺りを見渡し真散を発見するとズカズカと入り込んできた。
 警戒する翔吾に対し、真散は未だ窓の外を見続ける。
「ちょっと面、貸せや。」
 威圧感のある低音。周りの一部のもの達はビクッと身体が震えていた。
 朝といい今といい、今日はそんな気分じゃないってのに。
 番長という肩書きが、この様な事態をよく招く。年下が頭を張る事は最上学年のプライドが許さないのだろう。
(あぁ、面倒臭い。)
 ふぁあ~、と欠伸をしながら背伸びをした瞬間だった。
 ドゴォッ!!
 たった今まで寝ていた机が宙を舞い、窓際に飛ばされた。
「ふざけてんじゃねぇぞ。」
 激昂した高野に胸倉を掴まれる。ふざけてる訳じゃない。ただ本当に面倒臭いのだ。
『暴力は大嫌いだ』
 決して、彼の言葉が引っ掛かるからではない。
「分かりましたよ。」
 胸倉を掴む高野の手を払いのけ、はぁ、と諦めのため息。さっさと終わらせてしまおう。
「なぁ、俺も一緒に行こうか?」
「いらねぇよ。」
「そうか?けど、あちらさんはギャラリー居るみたいだけど。」
 よく見れば高野の後ろ、教室外から数人の学生がこちらを睨んでいた。高野の舎弟だろうか。気付けばクラスメイト達も戦闘態勢だ。
「安心しろ。やるのは俺一人だ。」
 高野が強く拳を握る。この場でやる気だ。
「そうですか、なら俺も見学という事で。良いだろ、真散。」
「好きにしてくれよ。」
 高野の前にたち直り、構える。面倒でも売られた以上は買ってやる。
「ほらほらお前ら、そこ広げてくれ。」
 翔吾の掛け声にクラスメイト達は一斉に机や椅子を乱雑に教室の隅へ移動させ、円を描くようにぐるりと真散と高野を囲った。
 ある一席を除いて。
「えーっと、転校生くん?邪魔だよ、そこ。」
 ただ一人、龍太だけはそこから動かず、翔吾の声掛けを無視して本を読み続けていた。まるで興味が無い様子だ。異様な光景に周りは何事かと騒ぎだす。
「どいてもらえる?」
「……断る。」
 その場にいた全員がはぁ?という顔をした。当然だ、そんな返答が来るとは誰が想像しただろうか。
「お前、状況分かってる?」
「分かってないのはお前らだ。」
 本を閉じ、翔吾の前に立ち上がる。
「此処は学習を本分とした学び舎だ。お前達のような人間が暴れる場では無い。」
 不愉快だ、と言わんばかりに不機嫌な顔をするこの男は一体何を言っているのだと誰もが思った。
「おい、ふざけんじゃねぇぞ!」
 真散を無視し、高野が龍太に拳を奮った。その瞬間、軽く彼の攻撃を躱して瞬時に背後に回り手首を掴みギリギリと締め上げた。
「痛ててててッ!!」
 何が起こったか分からない高野は締められた痛みに苦痛の表情をうかべた。
「騒がしい奴だ。」
 力を込め、更に強い力で彼の腕をしめながら周りを睨みつけた。
「てめぇ何しやがる!」
 外で待機していた舎弟達が龍太に向かって突撃してくる。掴んだ手を離し高野の背中を思いきり押すとバランスを崩した高野が舎弟達諸共床に倒れ込んだ。
「て、てめぇ……。」
「来るのなら、容赦はしない。」
 龍太が彼らに向かって構えたのを合図に高野達は一斉に襲い掛かった。
「りゅ……花岡!」
 真散も加勢しようと動くが、その必要は無かった。
「はあっ!」
 龍太が気合いを入れ、強く拳を握り真っ直ぐに放った。
「ごあっ!」
 真正面から受けた高野はその場に蹲る。そのまま後ろから来る者へ豪快に蹴りをお見舞いすると下方へ倒れ込んでいった。空手に似た作法だが詳しくは分からない。わかるのは、素早く繰り出される技に上級生達は早々に皆床に倒れていった事だけだった。
「消えろ。」
 冷たく言い放つと再び席につき本を開いた。
「くそっ……!」
 これ以上は危険と判断し、高野達は引き下がっていった。
「お前達も、これ以上騒がしくするなら許さん。さっさと元に戻せ。」
 周りの皆は、目を丸くしていた。翔吾も、真散も。
(りゅうちゃん、強ぇ……。)
 龍太を除く全員が教室を元に戻していく中、誰もが花岡龍太という存在に困惑していた。
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