金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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愛の女神の名前を付けられた彼女

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数日間、私は毎日2~3件の依頼をこなす日が続いた。マスターの依頼の手伝いをすることもしばしばで、思い切り暴れ魔物にイライラをぶつけられる。そんな日常が荒んだ心を少し癒してくれた。


そんな中、宿でゴロゴロしているときに第一王子からの手紙が届いた。


どうやらバルド伯爵領でのリリスの噂を聞いたらしい。身体は大丈夫か。辛くないか。何かあったらいつでも言って欲しい。出来れば会いたい。と鳥型の魔獣が運んできた手紙には書いてあった。


第一王子は何故か私に惚れている。

そして私は彼を利用して、私の家が没落した本当の理由を探ろうとしていた。

探ると言っても、下手に怪しまれてはいけない。怪しまれて探られれば、私はまたいつ殺されるか分からない生活を送ることになるかも知れない。


『アドラー公爵家の令嬢』はもう死んでいる。今更生きているかもなんて思われる方が迷惑だ。


第一王子に何と返信をしようか考える。

まだ暫く休みたい気持ちが大きい。それにギルドの依頼も溜まっているので消費したい。


『親愛なる第一王子様。

私のことで心労を掛けてしまったようで、大変申し訳ありません。

殿下にご心配頂け、私も幸せにございます。

しかし、先日の仕事で出来た傷がまだ少し痛みますので、もう暫くお休みを頂ければと思います。

雪の降り積もる前にはお逢い出来るように身体を癒します。

殿下に会えるのが今からとても楽しみです。

これから寒くなりますので殿下もご自愛くださいね。』


本当は傷なんか跡形も無く治っているし、もう痛まないが、リリスは回復魔法が使えないことになっている。バルド伯爵の仕打ちがあまりに酷くて一度使ってしまったような気がするが、バレてなかったので大丈夫だろう。


回復魔法が使えないのならばまだ治っていない程に痛め付けられていた。それは第一王子も聞いていたのだろう。手紙の内容もかなり心配しているのが分かる。これでバルド伯爵が王子から不信感を持たれて派閥が崩壊してしまえば良いのに。


高い金を払ってるんだから、と酷く扱う客は他にもいるがあそこまで腐った奴は中々いない。


他の『公娼』に比べて私にはそういった手合いの客が多いように思う。


そう言えば、久しく他の公娼達には会ってない。

元気にしているだろうか。


彼女達は商売敵だが、お互い仲が悪いということはない。久し振りに会いたいなと思うが、王都に定住しているのが一人で他は私と同じように旅をしている。

それにお互い忙しいため、会うのも中々難しかった。






ギルドに向かう為に街に出れば、人だかりが出来ていた。

どうしたのだろうと野次馬に混ざって見てみると、女が一人、冒険者の男と言い争いをしている。


「ぶつかってきたのはそちらでなくて?」


顔の半分をベールで覆った女が言った。この辺りでは見たことがない。他の街から来たのだろう。

移民なのだろうか。この国では余り見られない浅黒い肌の色をしている。

ただの揉め事のようだ。すぐに衛兵が来るだろう。放っておいても平気そうだなと思っていると、女が何故か私を見て近付き腕を引かれた。


「金色の踊り子様!わたくし言い掛かりを付けられて困っていますの。助けて頂けませんか?」


私はそれなりに有名人だが、それでも街の外から来た人間が一目見てそれと分かるだろうか。

疑問に思うが、冒険者と対峙する形になってしまった私は面倒事に巻き込まれてため息を吐いた。


私を見た冒険者はビクリと肩を動かす。身に付けている紋章が違うので他のギルドのメンバーのようだが、向こうは私を知っているらしい。


「二人とも別に怪我をしているというわけではなさそうなので、お互い様ということで引いて頂けませんか?」


仲裁をするのも面倒臭くて、取り敢えず強引に終了させてみる。

冒険者の方はすんなり引いた。舌打ちをして人混みに紛れていく。別のギルドメンバーと揉め事をするのは誉められた事ではない。

下手をするとギルド同士の揉め事になる。今この状況下でそれは望ましくなかった。


引いてくれて私の方も安心する。

冒険者が立ち去ると、集まっていた野次馬も散っていった。


「ありがとうございます。」


女の方もほっと息を吐くと、私に向かい礼を言った。それじゃあと立ち去ろうとするも、腕を引かれる。

バランスを崩した私の耳元で、


「流石リリスお姉様ですわ。」


と言われた。


リリスお姉様。私のことをそう呼ぶのは一人しかいない。


私は急いで彼女の手を引いて、人気のない路地裏に入る。彼女の顔に掛かるベールを剥ぎ取り、確信した。


「貴女、もしかして、ラダですか?」


愛の女神の名前を付けられた彼女は、私の記憶ではまだ幼さを残した少女であった。


「覚えていてくださいましたのね!」


嬉しそうに笑うラダ。

確かに幼い頃の面影はあるような気がする。私が最後に会ったのは彼女が公娼になってすぐの事だったので、もう三年も前だろうか。


当時まだ14歳だった彼女は、娼婦として売り出される前に公娼になった謂わば特例中の特例で、現在最年少の公娼だ。


当時はまだつるぺただった部分が大きな果実となり、大人の色気のような物を身に付け始めていた。


三年も会っていなければ、一目ではそれと気が付かない程に、女というものは変化する生き物だ。


少し尖った耳が特徴的なこの少女は、ダークエルフとの間の子ということで、整った顔立ちをしていた。

この世界にはエルフや獣人などの亜人というものがいる。

この国では激しく差別されているため、亜人達も他国に移動してしまい見掛けないが、差別の薄い他国では珍しくもないらしい。

私もラダ以外では見たことも無かった。


ラダは他国の商人からの献上品として王に捧げられたのだが、王に幼女趣味はなく公娼として臣下に下げ渡された。それが彼女が公娼となった経緯であった。


「貴女のことを忘れるわけがありません。」


苦笑いして言えば、フフッと笑う彼女。


「どうして私だと分かったのですか?」


「お姉様の魔力ですもの。間違える筈がありませんわ。」


エルフというのは、魔力の扱いに長けた種族だ。それはダークエルフの血を引くラダも同様で、魔力によって人を判別出来るらしい。

私も魔力の扱いには慣れている方だとは思うが、これは人間、これは魔物というようなざっくりした物しか分からない。

一度体内に取り込んだ者の魔力、つまり身体を交えた男のものであれば判別は付くがそれ以外だとさっぱりである。


「たまたま立ち寄ったこの街でお会い出来て嬉しいですわ。」


ガバッと抱き付かれる。

それで彼女はかなり距離の近い子であったのを思い出す。見た目は大人になったというのに、変わってないのだなとまた苦笑いをしながら身体から剥がした。


「でもどうして私が『金色の踊り子』だと?」


彼女は最初、私のことを『金色の踊り子様』と呼んだ。冒険者をやっていることは言ってなかった筈だ。


「お姉様は他の街でも、たまに依頼を受ける金色のお面を被った腕の立つ冒険者がいると有名ですから。それがまさかお姉様だとは思いませんでしたが。」


どこかで私の噂を聞いたのだろう。

近隣の街にも話がいっているとは思わなかったが。

最近依頼を受けまくっていることも起因しているのだろう。


「美しいだけでなくてお強いなんて、流石お姉様ですわ。」


自分の事のように誇らしそうに言うラダに少し照れてしまう。


「ラダはこの街に何の用事で来たのですか?」


この街には客になるような貴族はいない。

こんな片田舎に用のある公娼なんて私以外にいないだろうと思っていたのだが。


「少し、疲れてしまいましたの。お客様には悪いとは思うのですが、少し田舎で休息を取りたくて。」


掠れた囁き声で、ラダが言う。


「仕事が辛いですか?」


聞けば首を振って否定した。


「ただ疲れただけですわ。」


先程は否定していたが、きっと何か嫌なことでもあったのだろう。表情が暗いように思えた。


「私達の仕事はたまには休息を取らなければ、持ちませんから、また頑張ろうと思えるまで休んでも良いとは思いますよ。」


「そう、ですわね。一週間ほどお休みしようと思っていますの。」


意に沿わないことも、客の要望によってはしなくてはならない。

客を取らずにいることは出来るが、金を稼いで借金の返済をしなければいつまで経ってもこの仕事に縛られ続けてしまう。

休み続けることが出来ないのは私も同じだった。


「お姉様も暫くお休みに?」


「あと半月程休みを取ろうと思っています。」


仕事に戻りたくはないが、そう言ってもいられない。雪が降り積もる時期になれば、客からの連絡も減る。その時にまた休息を取れば良い。


「わたしくしもお姉様と一緒に、この街で滞在してもよろしいでしょうか?」


「良いですけど、私は冒険者としての活動もあるので余り一緒にいることは出来ませんよ?」


冒険者、とラダが呟く。


「わたくしもやってみようかしら。良い憂さ晴らしになりそうですわ。」


「んー、あなた戦闘用の魔法使えましたっけ。」


ラダも私と同じく、魔法使いだ。ダークエルフの血を継いではいるが、人間の血も濃いのだろう。魔力はそこまで多くはない。

普段は転移魔法で移動しながら旅をしているため、ある程度の魔法は使えるのだが、戦闘用の魔法が使えたかどうかは記憶になかった。


「一人で旅をしているのですもの。中級くらいまでなら使えますわ。上級から上の魔法は魔導書が高くて買えませんの。」


魔法とは魔導書を用いて覚えることが多い。そして魔導書は魔法の難易度と共に値段が高くなっていく。

私は公爵家にあった魔導書の内容を小さな頃から見て覚えていた為、特級の魔法まで使えるようになってはいるが、少なくとも公娼の給料でも簡単に買えような金額ではない。

しかし、中級魔法まで使えれば冒険者としては十分だ。


「成る程。それなら何とかなりそうですね。」


一緒に行ってみます?と聞けば嬉しそうに頷いた。



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