金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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一時の別れ

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一週間経つと、ラダはアルムブルクを去った。



「また近いうちにお会いしましょう。」



そう言ってギルドの人達やパーティーのメンバーに挨拶をするラダに、私は頑張れと応援し見送った。



最初に会った時よりも晴れやかな顔をしていたのが印象的だった。



私の決めた休息期間も残り一週間程になる。



もうすっかり冬になり、羽織るローブも冬用の物に取り換えた。



数週間、依頼を受けて受けて受けて、何とか消費してやっと高ランク依頼も終わりが見えてきた。



この街の冒険者不足の抜本的な解決にはなっていないが、取り敢えず暫くは大丈夫だろう。



新しいダンジョンでも見つかれば人も入ってくるだろうが、一番近くにあるダンジョンは既に殆ど攻略が終わっている。

そして完全攻略に踏破する必要のある最深部はSランク冒険者しか入れないよう、結界が貼られており私も入ったことはなかった。



マスターは行ったことがあるらしいが、



『あ~、あんまり行きたくないかな。』



珍しく歯切れの悪いマスターに特に何があったかは聞かなかった。

ただでさえマスターには早くSランクになれとせっつかれている。興味があると思われれば無理矢理試験を受けさせられることもあるだろう。



Sランクになんてなったらどんなことになるか、考えたくもなかった。

それに私ではとてもではないが実力が足りない。余り訓練や依頼に時間が割けない。それにこれ以上強くなれるかもと自分を過信するのは現実的ではなかった。







「踊り子ぴょん!依頼行こう!」



「踊り子さん、依頼に行きませんか?」



マスターと少年剣士から同時に依頼に誘われる。

ここ一週間程は一人で依頼に行くことが減り、マスターか少年と行くことが多かった。



尚、少年の名前はロアというらしい。

三回一緒に依頼に行ってやっと覚えることが出来た。



お客様の名前はすぐに覚えることが出来るのに、普段会う人の名前を覚えるのはどうにも苦手だった。

覚える気が余り無いのだろうと自分でも思う。



因みにマスターの名前も以前聞いたことがあったが、すぐに忘れてしまった。



マスターや蒼の使者で困ってないので忘れても問題はないと思っている。



「ロアくん?此処は先輩に譲るべきじゃない?」



「す、すみません!でもその....」



困ったように眉を下げるロア君。

相変わらず自分の意見が言えないようでマスターの圧に負けそうになっている。



「マスターは一人で行けるから良いじゃ無いですか。まあどちらにせよ依頼の内容を聞いてから私が決めます。」



ロア君が持っているのはAAランクの依頼だ。指定された討伐数が多いようで、私がいればと思って声を掛けてきたようだ。



マスターのはやっぱりというかSランクの依頼で、最近近くで銀色の狼型の魔獣が暴れているからその調査に向かえとのことであった。



「調査でSランク?」



討伐でもなく調査。

普通にCランクくらいの依頼に見えたが。

話を聞くと受けた冒険者が悉く失敗して戻ってくるのでSランク依頼としてマスターが調査に赴くことになったらしい。



「だからお願い!一緒に来てよー。」



「いや、それマスターの指名依頼ですよね。行きませんよ。」



依頼書を見ると指名依頼と書かれていた。

別に指名依頼にパーティーを組んで行ってはいけないという決まりはないが、望ましくないとされている。

メンバーによるトラブルがあった時の責任が連れていった指名者になることもあるからだ。



「ちぇー。けちー。けちー。」



ふてくされたマスターを置いて、戸惑うロア君と依頼に行くことにした。















「良かったのですか?」



依頼の討伐対象である熊型の魔術を解体しつつ、ロア君が言う。



「良いんですよ。そもそもマスターは私なんかいなくても困ることなんて殆ど無いですから。」



どちらかと言うと元々パーティーで活動していたのに今は一人でいるロア君の方が困ることも多いだろう。

それにマスターの強さは私も良く知っている。

危険な目に遭うことも余りない。



熊の首を筋を切りながら切り落としていると、切るところを間違えたのか血が跳ねた。



仮面にべちゃり、と音を立てて付着した。



「うわー。拭きましょうか?」



「まあ付いたものは付けておきましょう。後で自分で拭きますので。」



血生臭いが我慢だ。

『リリス』の姿絵が売られていることがあるので、人前で仮面を外したくない。



顔を変える魔法があれば良いのだが、残念なことに私はその存在すら知らない。

髪の毛くらい目立たない色に染めたいが、私の髪色を気に入って呼んでくれるお客様もいるのでそう簡単に染めることも出来ずにいる。

染めて簡単に落とせるのなら良いのだけれどもそういうわけでもない。



魔法で出来れば良いのになと常々思う。

本当に魔法というのは便利そうに見えて意外とそうでもない。



「踊り子さんも、もう少しで街を出るのですよね?」



きっと血まみれだろう私のお面を真剣な表情で見つめながらロア君が言った。



「寂しくなりますね。」



「またすぐ顔を出しますよ。」



「それでも高ランクの依頼で安心して背中を任せられる魔法職の方は少ないですから、踊り子さんがいなくなるのは僕にとっては死活問題ですよ。」



冗談なのか本気なのかは分からない口調で告げられる。

一週間前までは一人で依頼を受けることもあったのだろうから、問題はないと思う。



それでも、何があるか分からないのが冒険者だ。

確かに安心して任せられる仲間がいれば心持ちは違うだろう。



まあこんなことを推測したからといって私には出来ることはない。



「貴方なら一人でもどうにか出来ますよ。」



突き放すような言い方になってしまった。と言ってから後悔する。

ロア君を見ると、少し落ち込んだような表情をしていた。



「やっぱり、僕じゃ頼りないですよね。前のパーティーでも言われたんです。一人じゃ何も出来ない愚図だから、前衛に求める信頼感に足りないって。」



マックスマッハ号という絶妙にダサい名前のパーティーであったことか。

ロア君と魔法職の貴族の次男坊、その妹と弓使いのパーティーだったと記憶している。

妹とやらが何職なのかは推測だが、噂で聞いた回復術士とやらがそうなのではないだろうか。貴族のお嬢様が前衛職をやるとは考えにくい。



おそらく今頃は前衛がいなくて困っているのではないだろうか。



「ロア君は前衛職に求めることを充分にこなしてくれているし、こちらの言うことをすぐに察してくれ優秀だと思います。もっと自信を持ってください。」



「ありがとうございます。.....でもやっぱり、まだ前のパーティーでのことが引っ掛かってしまって。」



さらりと、ロア君の綺麗な髪の毛が頬を滑る。

男の子だと言うのに本当に女の子みたいだ。大きな瞳に長い睫毛。女であったら公娼にスカウトしていたかもしれない。



「もう気に病まなくて良いと言っても気にするのでしょうね。私は貴方のこと、結構気に入っていますけど。前衛としての実力も勿論ですが、女性差別をしないじゃないですか。」



うちのギルドはマスターが作った女性に優しいギルドだ。登録者に女性が多いのもそうだが、余りにも差別思想の酷い者は登録の時点で弾かれる。



だけども、やっぱりどこかで『女だから』と見下されることもあるのだが、それがロア君には全く無かった。とても新鮮だ。



「僕は当たり前のことをしているだけです。この国の女性に対する扱いには思うこともあるので。」



「本当に素晴らしいと思います。」



心底心を込めて言えば苦笑いされる。こんな人ばかりになれば良いのに、世の中そううまくはいかない。

かなり尊大に振るわれることも多いし、女性が一人で歩くのも良しとされない地域もあるくらいだ。



マックスマッハ号のいるラクシャはどちらかというとそういう気質の強い地域で、女性が冒険者登録をすることも難しいと聞く。

ラクシャでも一つだけ女性でも登録出来るギルドがあるが、そこは男性の保証人が必要だとか面倒臭いルールがあった気がする。



基本的に冒険者は拠点を移動すると、最寄りのギルドで登録し直す必要がある。

ランクの昇給は共通のテストのようなものがあるので、以前の所属ギルドでの功績も考慮されるらしいが、実際どうなのかは、したことがないので分からない。

ラクシャに移ったのは男性が多いが、何人か顔見知りの女性冒険者がいなくなっていた。

パーティーメンバーに付いていったのだろうが、彼女達はまともな待遇を受けているだろうか、と少し心配になる。



何とか上手くやってると良いのだけれども。



「踊り子さん、アルムブルクに来たときは僕とまたパーティーを組んでくれますか?」



「勿論。私も見かけたら声を掛けるようにしますね。」



「次お会いするまでに、ランクを上げておきます。もっと高いランクの依頼に行けるように。」 



依頼は基本的に高ランクのものほど報酬が高いので、その申し出は有り難い。今ロア君が受注出来るのはAAランクの依頼までなので、危険性を無視すればSランクも行ける私としては、少し報酬の低さが気になるところだった。

やる気があるのは良いことだ。

彼には是非とも頑張って欲しい。



「楽しみにしていますが、無理せず頑張ってくださいね。」



冒険者は身体が資本だ。怪我したら元も子もない。



「はい!」



少し呆けたロア君が笑顔になって頷いた。





















そこから一週間前、変わらない日々を過ごした。

マスターは何かあったらしく、珍しく真面目に会議に参加していて、余り会えなかったけれど最終日はしっかりと私に挨拶をしに顔を出してくれた。



「あんまり構ってあげられなくてごめんね~。寂しかったよね~。ほんと、忙しくてさあ。」



頭をポリポリと掻きながら言うマスターは、少し疲れているのだろうか、目の下に隈があった。

忙しいのなら無理する程の事でもないのだけれど、いつもの調子のマスターに、少し安心する。



「貴女はマスターなのですから忙しくて当然です。私に構っている時間など無いでしょう。余り無理しないでくださいね。取り敢えず寝てください。」



出会った頃は、ギルドも今より小さかった。

職員は三人しかいなかったし、ギルドの所属の冒険者も20人程で、皆で助け合いながら依頼をこなしていたような状態で、マスターも余裕があって私なんかに構うことが出来たのだ。



「踊り子ぴょんのツンとデレが心に染みるよ~。」



ガバッと抱き付いて来たので避ける。



ヘロヘロのマスターはそのまま床に突っ伏す。全くこの人は何をしているのやら。



「踊り子さん、お元気で。」



「ロア君も元気でいてくださいね。お世話になりました。」



握手をして、職員の方々にもお礼を言う。



どうせまた来るのに、どうして毎回今生の別れみたいな挨拶をしなければならないのだろうか。と思うが、以前何も言わないままいなくなって大騒ぎになっていたことがあった。

次に行った時、泣きながら生きていることを喜ばれたことは軽くトラウマだ。

因みに、騒いでいたのは主にマスターだった。



それ以来、なるべく挨拶をしてから出るようにしている。



「また、来ます。だから皆様怪我などしないようにしてくださいね。私の前に立てる人は希少なのですなら。」



「分かった!!私頑張る!」



ぬくっと起き上がったマスターが元気良く言った。



「貴女は周りに迷惑を掛けないことを一番最初に頑張ってください。」



「ふぇーん。踊り子ぴょんが冷たいよ~。」



およよと泣き真似をするマスターは無視だ。無視。



もう一度皆に挨拶をして、頭を下げて出ていく。



「踊り子ぴょん!次に来たときは昇給試験受けてね!」



ドアを閉める瞬間、不穏な言葉を聞いた気がしたが聞こえなかったことにしよう。


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