56 / 136
三人目の勇者?
しおりを挟むそれからも祭り騒ぎは続いた。
城内外問わずのその浮かれぶりに、私は背筋が凍るような思いがする。
先日までの小競り合いは帝国は本気ではなかった。
師匠がまだ本格的に動いていないのを見ても、その判断は間違えないだろうと思う。
私との戦闘なんて彼女は本気を出していない。
あの人が本気を出せば地形すら変わってしまうことを知っている分だけ、彼女のいる帝国軍に恐ろしさを感じる。
もしも帝国に師匠レベルの人が数人いるのならば、いくら勇者がいたとしても王国に勝ち目など無いのではないか。そんな風にも思ってしまう。
そして問題はその勇者だ。
聞けば宮廷魔法使いが使うのを見てすぐに上級レベルの魔法を使えたという話であるが、戦闘の経験は無いのだという。
城内の貴族達、ー主に第一王子派閥の貴族達だがーに囲われているというから詳細なことは分からない。
今後徐々に戦闘経験を積ませるという話であるが、戦闘の素人を戦争に巻き込んで大丈夫なのだろうか。
ある程度の戦闘経験を積んだSランク冒険者でさえ、戦争は辛いものだった。
マスターもロア君も停戦、と聞いてほっとした顔をしていたくらいだ。
私だって、帝国の人を殺す前の怯えたような瞳、憎しみの籠った瞳を忘れることが出来ない。
夜中に夢を見て飛び起きることだってある。
敵とは言え、人を殺すのだ。
果たして勇者達はそれに耐えられるのだろうか。
宿屋のベッドに横たわりながら、そんなことを考えていると、
「大変だ!急いで来てくれ。」
と第二王子の使い魔が飛んでくる。
何を、と思うが急ぎ準備して現在第二王子の滞在する彼が幼い頃に母君と過ごした別宮に向かった。
ーーーーー
「お呼びでしょうか。」
魔法で飛んでいき、窓から入る。
他の人には絶対しないが、第二王子は面倒な手順を踏むよりも早急な対応を求めることが多いため暗黙の了解でこういった常識から外れているような行動も許される。
「それが....。」
困ったように眉を下げる王子が、とんでもないことを言った。
「陛下が勇者のうちの一人を、公娼にしようと言うのだ。」
余りの意味不明さに、頭痛が痛いな、と訳の分からないことを思う。
一体、どうしたことだろうか。
「俺も事情を詳しくは知らないのだが.....どうやら勇者は二人ではなく、三人だったようで。」
そういえば、陛下が余分なものが一人付いてきた、と言っていた。
「まさかとは思いますが、その方は女性ですか?」
「良く分かったな。」
溜め息混じりで言われる言葉に、本当に頭痛がする。
つまりはこういうことだ。
実際には勇者は三人召喚された。うち二人は男だったので勇者として遇しているが、一人は女だったので公娼にしようと。
男尊女卑の強い国だからそんなこともあり得るかも、と思っていたことが事実だったことに絶望する。
「それってかなりまずいのでは?」
「まずいどころではないだろうな。お前や蒼の使者のような者もいるというのに。失策も失策だろう。」
「そうですよね。」
勇者として召喚されたのならその女性も同時に召喚された勇者と同様強くなる可能性があるのに一体何を考えているのだろう。
勝手に召喚したのに娼婦にするなんて倫理観の欠片もない。
この国のほとんどの男性には女性に対する倫理観なんて期待してないが余りにも酷いのではないか。
「本日会議にて可決されるらしいのだが、止めようと思ってな。お前も共に来い。」
「嫌です。何でですか。」
「女の有用性を証明するのに必要なんだ。」
そう言われれば納得するしかなく。私はまた宮廷に赴くことになるのだった。
18
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【完結】亡くなった妻の微笑み
彩華(あやはな)
恋愛
僕は妻の妹と関係を持っている。
旅行から帰ってくると妻はいなかった。次の朝、妻カメリアは川の中で浮いているのが発見された。
それから屋敷では妻の姿を見るようになる。僕は妻の影を追うようになっていく。
ホラー的にも感じると思いますが、一応、恋愛です。
腹黒気分時にしたためたため真っ黒の作品です。お気をつけてください。
6話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる