金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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グロイスター公からの手紙

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その日の夜、ミキ様は酷くうなされていたという。


翌日にはいつもの彼女に戻っていたが、サヨが心配そうにしていた。


初めて人を殺したのだ。しかも彼女は平和な場所から来たという。その心労は計り知れない。


休め、という第2王子からの命令があり、彼女は暫く天幕にいることとなった。


私はというと、仕方なく作戦に参加する日々が続いていた。それでも野営地に戻って来れているのだからマシな方だ。

通常の者では魔法が使えないため、広い戦場を行き来することは難しい。


私やマスター、ロア君は私の転移魔法や飛翔魔法の機動力を使っているため、戦場を移ることか出来る。

安全な場所で休むことが出来ているのもこの魔法のお陰であった。


そんなある日、久方ぶりに公娼としての仕事が入った。




『戦士に癒しを。


 まずは私の所へ顔を出せ。


 四人のうち一人は必ず来い。


 

 グロイスター公爵 ヘンリー』




短く書かれた手紙を読んで燃やす。




「お姉様!!いらっしゃいます?!お話がありますわ!」



私を呼ぶラダの声が聞こえて、天幕の外に出た。話とは今の手紙のことだろう。

人目の付かない場所に移動して、2人顔を見合わせる。



「これってどういうことですの。」



怒り心頭といった具合の彼女と私が貰ったのと同じようなことの書いてある手紙を見比べて溜息を吐く。



「ラダ、その手紙は早く燃やしなさい。誰かに見られては面倒です。」



はっとしたラダが手紙を燃やすのを見届けた。

一体、どういうことだろうと言われても、私のほうが聞きたい。

まさか公娼に戦場で身体を売れと言うのだろうか。


他の公娼達がそんな扱いを受けることを承知すると思えないし私とて承服しかねる。ラダも同じ気持ちだろう。

戦場にでた娼婦がどのような目に遭うか、想像に難くない。

古来より、戰場と売春は関わりが深いというが…私達に命じるとは。



「…わたくしにだって、プライドがありますわ。こんな…こんな手紙一つで軽々しく扱われて、はいそうですかなんて言えませんわ。確かに、わたくしのお客様もこの戦場にいらっしゃいますが…。」



困ったように眉を下げるラダに、私はため息を吐いた。



「承服しかねますが…仕方ないでしょう。私が行きます。逆らえば、どんな目に遭うか分かりません。」



グロイスター公の名前で書かれてはいるが要は王命だ。逆らっても良いことはない。



「…それに私、グロイスター公にはお会いしてみたかったんです。今まで読んでくれたことも無かったのに、どういう気持ちの変化かは分かりませんが…行ってみようと思います。」



不安そうな彼女を諌めるために言った事だが、ラダはこちらをキッと睨みつける。



「お姉様が戦場に出ないだけで、どれだけ味方の被害が出ると思っていますの?!わたくしは反対ですわ!マスターやあの人だって、お姉様がいないと…。」



あの人、とはロア君のことだろうか。ラダは何故かロア君のことを名前では呼ばない。これは出会った当初からで、初めは私と行動できるロア君に嫉妬しているようだったが、最近は違うような気がする。


もう出会って数年経つ。


ロア君が私を様付けで呼ばなくなったように、二人の間にも変化があっておかしくない。

親しくなった人が危険な場所にいるのなら、不安にもなるだろう。



「…何日もそちらの仕事に就くわけではありません。少しの間だけです。夜に行って、朝には帰ってくることも出来ますが…。そんなに心配なら、貴女が共に行けば良いのでは?転移魔法、飛翔魔法、回復魔法、どれも使えますよね?魔法使いが一人で不安だと言うのなら…あの子達を連れていきなさい。」



ラダがはっと息を呑んだ。



「…お姉様は、皆を守るために連れて来たのではないのですか。」


「目の届かない所にいるよりはこちらの方が安全と判断したのもありますが…あの子達が望んだことです。もう子供ではないのですし、此処にいるということはそういうことなのだと、そろそろ分かって貰わないといけません。……第2王子殿下にも伝えておきますので。」



戦場に付いてきたのにも関わらず、彼らもラダも未だに敵と戦ってはいなかった。

一度も戦争での戦闘を経験していない彼らにも、そろそろ経験させようと思っていたところだ。

いざというとき、自分の身を守るために人を殺すという選択肢が出来ないようでは困る。


彼らを戦力と見て面倒を見てくれた第2王子にも申し訳が立たない。


そう説明すれば諦めたように、肩を落とされる。





「………分かりました。だけどお姉様、グロイスター公は良い噂の聞かない方です。よくよくお気を付けてくださいませ。」




心配そうなラダに私は自分の中の不安を隠し、頷いてみせるのだった。


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