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皇帝
しおりを挟むカーラ師はそのまま私達を転移させた。
変わった景色をまじまじと見つめる。
帝国軍の宿営地は王国側とはまた違った雰囲気だった。
戦場なので明るい雰囲気ということは無いのだが…絶対に勝てる、という自信があるように見えた。
戦況的には王国も帝国もどちらも余裕があるとは家ないのだが…。
「こっち。」
カーラ師に引き連れられて、私達は一際大きな天幕へと案内された。
「変なことしたら許さないから。」
ぼそり、と呟かれたその言葉はいつも掴みどころのない師のものとは違い、ぞっとした。
中へ入ると、その場にいた人々がこちらを一斉に振り返り…睨まれた。
「…カーラ。そいつらは…。」
ヒゲの生えた小さな老人が低い声で言った後、剣を引き抜こうした。
「待て。私が連れてこいと言ったのだ。」
それを止めたのは…若い男だった。
長い白髪を垂らし、毛の先の方で金属製の髪留めでまとめている。
耳の先が尖っていることから、エルフであることが伺えた。
これが、王国で魔王だと言われてる帝国の皇帝かと見つめていると目が合った。しかしすぐに逸らされる。
「お初にお目に掛かる、皇帝陛下。私は王国の第二王子、エイデン・オーガスタス・アーネスト、ヨウラドウにて領主を務めています。」
「そなたが名高い王国のヨウラドウ公か。」
第二王子の名前を聞いて、周囲の人間は更に警戒を強めた。帝国軍には第二王子は手強い敵のようだ。
「よろしく頼む。」
しかし皇帝はふっと笑うと、第二王子に握手を求めた。
「陛下!!」
臣下の止める声にも、
「カーラがいるんだ。大丈夫さ。」
そう言って臣下を宥めた。
二人が握手を交わすのを見て、妙に絵になるなと他人事のように思った。
「我らの子供がいるではないか!!!」
後ろにいた臣下の一人…ダークエフルらしき男が、ラダを見てそう言った。
「えっ!あっ……。」
ラダが困ったように耳を触る。普通の人間よりも少しだけ尖った耳だが、それは彼女が確かにダークエルフの血を引いている証だった。
「王国め…。」
憎々しげに呟く。王国はエルフを捕まえては奴隷としている様だった。憾まれても仕方ないと思う。
「落ち着け。その話は後にしろ。今は彼らと同盟を結ぶのが先だ。」
同盟…思わず繰り返してしまった。
「陛下!王国の者と同盟など!しかも彼らは我らの仲間を沢山殺している!信じられません!」
「落ち着けと言っているだろう。彼らとて兵を失っているのは一緒だ。痛手を負ったのは我らだけではない。」
皇帝が言うと、その臣下は引き下がる。
どこかの王とは違い、しっかりと臣下を制御出来るようだと感心した。
君主らしい君主…帝国の皇帝からはそのような印象を受けた。
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