105 / 136
守られていた公爵令嬢
しおりを挟むバルド伯爵の死体はそのまま戦場で打ち捨てられた。あそこまで惨いことをする必要があったのかと言われると考えてしまうものがある。
エイデンお兄様には報告済みで、一言、
「そうか。」
とだけ言っていた。
伯爵が叫んだエミリア・ジェーン・アドラー。
今の私の名前だ。
もう名乗ることも呼ばれることも無いと思っていた名前。妹や母は死体が確認されていたのだろう…アドラーの家紋を見て伯爵ははっきりと、私がエミリアだと認識したようだった。
あの後、マスターの様子はいつもと変わりなかった。それが逆に、彼女の精神面を心配させる。
しかし、そればかり気にしていられる訳ではないのが今の現状だ。
私達は無事にティーザー侯、ダルボット公と合流した。勿論、子供達とも。
皆に事実を話すと驚かれたが、子供達はすんなりと受け入れてくれた。
「リル様は貴族だったのかー!どーりで動作が綺麗な訳だな!!」
ディーンの言葉に皆で頷いていた。
ルイは私が貴族だと知って、納得した反面複雑そうな顔をしていた。
それでも、私が誰であろうと関係ないと言ってくれた。
ディーン侯爵は、私に対し礼節を尽くしてくれるようになった。娼婦ではなく、公爵として扱ってくれた。勿論、未練が無いわけではないようだが…それでも立場を理解してくれた。
ダルボット公爵は…。
「そうか。大変だったな。アドラー公爵とは親しくしていた。これからは私が貴女の後見となろう。」
そう言ってくれた。
彼が後見となってくれるのならば心強い。娼婦として彼に接していた日々があるだけに、貴族として扱われることに対して自分の中で違和感があったが、それでもやっと戻ってこれたのだという安堵もあった。
「ダルボット公爵様、ティーザー侯爵様、有難うございます。」
そう言うと二人で顔を和ませた。
「アドラー公爵は…貴方を隠して正解だったな。」
ダルボット公爵がふと、そんなことを言った。
「隠していた…?お父様が私を?」
「貴族令嬢だった頃、他の貴族とは滅多に会わなかっただろう?」
「はい…令嬢としてそれが当たり前と言われていました。」
「それは違う。有力な貴族であれば、家にとって有意になる存在には娘を紹介するものだ…それを会わせなかったということは、貴女は守られていたのだよ。美しい貴女を狙う他の貴族からな。母君の二の舞いになはしないように気を付けたのだろうが…。」
ダルボット公爵にしては酷く雄弁だった。
そして父の想いを知り、胸が熱くなった。
お父様…。
そして、過去の母や父を知っているような口振りに不思議に思う。
「父と、母のことをご存知で?」
「ああ…貴女は聞いていないのか。あの時はまだ少女だったものな…。」
ティーザー侯爵と二人で、過去のことを少し、語ってくれた。
16
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる
玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。
カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。
目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。
憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。
ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。
※内容の一部に残酷描写が含まれます。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】愛する夫の務めとは
Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。
政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。
しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。
その後……
城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。
※完結予約済み
※全6話+おまけ2話
※ご都合主義の創作ファンタジー
※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます
※ヒーローは変態です
※セカンドヒーロー、途中まで空気です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる