119 / 136
あの人はどこに
しおりを挟む遠くに魔力の蠢きを感じた。私の知っている魔力は無い。何回目かのそれに、私は苛立ちも感じつつも、ほっと息を吐いた。
「また外れですわ。」
ラダの気落ちしたような声が、周辺に落ちた。
外れ…第一王子も勇者もいないその軍は、私達を撹乱させるためのものなのか、王国の各地に配置されていた。
当初、いると思っていた場所には第一王子はおらず、私達は数週間をかけて彼らの行方を追った。
このような策を講じるような人がまだあの軍に残っていたとは…と驚きつつも、彼と会わなくて良いことに安心ている自分がいた。
しかし…と私は後ろを振り返った。
そこには一万ほどの兵達が軍列を成していた。
しかし、これは集まった義勇軍の一部に過ぎない。
初めは何も無い荒原で行っていたこの戦は、次第に王国の中へと戦場を移した。
数ある砦を帝国軍はあっという間に制圧してしまった。私達も全く貢献していない訳ではないが、その殆どを帝国の将軍たちが率い、戦果を挙げていた。
彼らはまず、放っていた密偵を使った。王国の各地にいた奴隷達に呼びかけ、蜂起させたのだ。自分の国に帰るのだと勇んだ奴隷達は強かった。
そして、吟遊詩人を用いて私の悲劇が脚色されて各地で語られるようになると、民衆は私に同情した。更に、真の勇者ミキ様が王国から受けた非礼の数々が伝わると、帝国軍に合流する者が続々と現れ始めた。
そしてこちらが有利だと知るや、合流していた貴族達も多かった。
私達が帝国軍に付くと見ていた皇帝が用意していた策だと言う。合流しなければしなかったで、別の策を考えていたと言うのだから、あの皇帝はかなりのものだと思う。
これでは、第一王子に抗う術は無い。
王国内を逃げ回るように移動する第一王子だが、次第に勢いを落としていた。
帝国軍はと言えば、元よりグロイスター公やティーザー侯の土地は豊かであり、二つの領地で王国の持つ穀倉地帯の六割を占めている。数万の兵を食べさせるのに困ることは無かった。
「アドラー公爵閣下。」
細身の男が恐る恐る私に声を掛けた。
「あ、アスパラガス伯爵だ。」
すかさずそう言うのはミキ様だ。どうやらミキ様の世界にあったアスパラガスという野菜に似ているのだとかでそう呼んでいる。
彼も、1週間ほど前に合流した貴族だった。といっても、信用にある人物かどうかは怪しいもので、第二王子は暫く彼を重用するつもりは無いようで、任されているのは専ら雑用だった。
「どうかしましたか。」
「殿下より、ここの制圧を頼むとのことでした。」
諾と答えて、私はその第一王子がいない軍へと向かっていくのだった。
16
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる
玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。
カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。
目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。
憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。
ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。
※内容の一部に残酷描写が含まれます。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】愛する夫の務めとは
Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。
政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。
しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。
その後……
城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。
※完結予約済み
※全6話+おまけ2話
※ご都合主義の創作ファンタジー
※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます
※ヒーローは変態です
※セカンドヒーロー、途中まで空気です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる