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元国王
しおりを挟む外の護衛に金貨を握らせて立ち去るように命ずる。
カチャン。
鍵を開けると、それがのろのろと動くのが見えた。
「シャーロット。やっと来てくれたのか。やっと…!!!やっと余の物に!!」
血走った目で見られ、鳥肌が立つ。
「…私は母ではありません。母は、もう死にました。死の原因を作ったあなたがそれをお忘れになったのですか?」
ぎょろりとした目が、少し落ち着きを戻し、もう一度私を上から下まで舐めるようにして眺めた。
暫く沈黙が続く。
「アドラー…。」
私の身に纏うマントに付けられた紋章を目にして、憎々しげに唸る。
そして再度、私をしっかりと見て突然高笑いを始める。その瞳には、馬鹿にしたような色を浮かべた。
「成る程、そうだったか。『お前』が、アドラーの娘だったのだな。…………リリス。」
リリス、そう呼ばれても覚えていたのか、位にしか思わなかった。この人は私には興味ないと思っていた。興味のないものは覚えていないのではと。
しかし、何だかんだ彼は一度だけ見たリリスのことを覚えていたようだ。
「何のことでしょう。」
しらばっくれるが、そんなものは彼には意味がない。確信めいた口調ではっきりと私をもう一度、リリスと呼んだ。
「この売女め!!復讐の為に身体を売ったのか…?あんなにあいつが大事にしていたお前がか!!!はっはっはっ…!!!これは傑作だ!!!お前の家族を殺した男達の『モノ』は美味かったか?」
下卑た笑いを浮かべながら、
「かなりシャーロットに似てきたな。今なら抱いてやるがどうだ?」
そんな事を言われる。
「私は、あなたの寵愛なんていりません。」
前国王を魔法で拘束する。
そして…。
毒薬をその口に注ぎ込んだ。彼には『病死』して貰わねばならない。
現国王と帝国皇帝からの命令だった。
「がっ!!!ごほっ!!!」
顔色を悪くする男に、私は思わず笑みを浮かべた。この男のことは決して許せない。殺すことに、何の戸惑いも無かった。
「無礼者め…!!!女が私にこんなことをして許されるとでも…!!」
「許されなくて結構です。」
「この事が世間に明るみに出れば、お前も破滅するだろう…!」
「明るみに出さなければ良いのです。それにそのくらい、覚悟の上です。」
退いた後とは言え、国王を手に掛けた実行犯であることが誰かに知られてしまえば死刑は確実だ。
「折角復興したアドラー公爵家も、取り潰しになるぞ…。」
「なりません。既に私はグロイスター公爵の忘れ形見であるチャーリー様を養子としてお迎えしています。私に何かあったとして、彼がアドラー公爵家の後を継ぎますから。」
アドラー公爵家を私が継ぐことの条件として、こちらに寝返った元他派閥の貴族達の多くが残った王族の子どものうちの誰かを養子とし、それを後継とすることを求めた。
私としても今更誰かと婚姻する気など無い。好都合だとその提案に乗ることになり、まだ幼いチャーリーを引き取ることになった。
彼の母親には、生涯貴族の女として生きるのに困ることのない生活の援助を約束した。彼女の実家も此度の戦争で最終的に第一王子の方に付いており現在判決待ちで頼ることが出来ない。私の話は渡りに船だったろう。チャーリーとは好きなだけ会えば良いと伝えると泣きながら感謝していた。
それに、もし私が死刑となっても、家を取り潰さないと国王陛下は約束をしてくれた。私が立てた功績からしても、アドラー家の取り潰しをされることは暫くは無いだろう。
グロイスター公爵の後を継ぐ者はいなくなったが…亡くなる前の彼を知っている人々からは、そのことについて特段何の意見もいなかった。グロイスターとは元々歴代王族の誰かが継ぐ土地であり、グロイスター公爵がいなくなったとして、第二王子の子どものうちの誰かが継げば良い。
「…チャーリー、か。そういえばそんなのが弟の所にのいたな。」
自分の甥のことなど、どうでも良いようだ。彼にとって、もしかしたらどうしても手に入れたかった私の母と、それを奪った父以外は大して重要ではないのかも知れない。
ふつふつと怒りがまた湧いてきた。
「あなたは…自分の子供や孫たちのことは心配ではないのですか。」
第一王子…クロウ様はもういない。対立したとはいえ国王陛下は、彼の子供達までは殺しはしなかった。
彼の子供達のうち年長者は帝国へと留学に行くことが決まっていた…実質人質だ。あの皇帝は完全には私たちのことを信頼しているわけではない。だからこそ、身分の高い誰かが人質となる必要があった。
国内でも生かしておくべきでは無いという意見と、数少ない王族として扱うべきという意見が分かれた。このまま国に置いておいては、また争いの火種になるかもしれないと、帝国に逃すこととなったのだ。まだ幼い子供達はそれぞれ養子に出されることになった。
養子先に私も上がり、まだ四歳になったばかりの女の子を一人引き取ることになった。
その子の母親は第一王子派の貴族で、バルド伯爵の姪であり、バルド伯爵のしたことを鑑みて国外に追放することが決まっている。幼い子供を母と引き離すのは心苦しいものだ。
彼女の母親にも少なからず援助をすることを約束し、「あの子をお願いします。」と頼まれた。
「……別に、何とも思わんな。」
しかし、この男は特に何も気にしてない。
きっとクロウ様が死んだこともどうでも良いと思っているだろう。
「弱いから負けた。敗者の未来は暗い。それたけのことだ。………最後まで役立たずの弟と息子達だったな。アドラーの娘に誑されるとは。」
前国王の顔色はかなりわるくなってきており、舌も徐々に回らなくなってきているのか、聞き取りにくかったがそう言っているようであった。
「そうですか。」
これ以上、ここにいる意味もない。
彼は放っておけば死ぬのだ。
それに私にはまだ行く場所があった。
私は重たい扉を開き、そしてまた鍵を掛けたのだった。
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