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続・愛への誤ち
said 梨衣
しおりを挟む例え人見知りだとしても、慧介の素っ気ない態度は可哀想だなって思ってた。
思ってたけど・・・
「けーくん!これ、こないだ乗ったの!」
「お~新幹線か。かっこいいよなぁ」
「うん!かこよかった!」
まさか短時間でこんなに仲良くなるなんて誰が想像するだろうか。
二人は慧介のコレクションのミニカーで何やら遊んでる。
初対面の時が嘘のように慧介はけーくん、けーくんとしきりに話しかけていて、慧くんも慧介も笑顔が止まらない。
なんだか胸にモヤモヤするな、と思っていた時母が帰宅した。今母はパートで働いている。
「あら、お客さん?」
「お母さんおかえり。こちら神里 慧くん。えっと・・・」
慧介の父親です、と言わなきゃいけないのだろうけど、慧介の前で話すわけにもいかず私は言葉に詰まる。
もごもごしている私を不思議そうに見ている母に慧くんはすっと近寄り、手土産を渡しつつ頭を下げた。
「初めまして。神里 慧です。今日はお話したい事があってお邪魔させて頂きました」
「初めまして、梨衣の母の依子です。えっと・・・お話とは?」
状況が理解できないのか、母は頬に手を当てて首を傾げた。
頭を上げた慧くんは真剣な表情だった。
「はい、慧介くんの前で話す事ではないので・・・場所を移してもいいでしょうか?」
その一言で察したのか、ハッとした母は私をチラリと見た。
「慧介、ご飯食べる前にママとお風呂入ろっか」
「え~けーくんと入る!」
「慧くんはばぁばとお話するんだって。だから今日はママと入ろ?ね?」
「う~」
「慧介くん、今度一緒に入ろうか」
「ほんと?」
「うん、だからママと入っておいで」
「わかた!」
慧介を何とか説得してお風呂場に連れて行く。本当は私も同席した方がいいのだろうけど、こればっかりは仕方がない。
私は母に元彼との子とだけ伝えていた。勿論慧くんの名前も言っていない。
父との事もあり、母もあまり深くは聞いてこなかった。
認知についても慧くんから話したいと言われていたから、母からしたら突然の事でびっくりするだろう。
母がどう思うのか不安でしかなかった。
ゆっくりお風呂に入り、ドキドキしながらリビングに戻ると母と慧くんは意外にも楽しそうに話をしていた。
「けーく~ん!」
慧介がソファに座る慧くんにピタリと引っ付く。それを笑顔で受け止める慧くんはどこかスッキリしたような表情をしていた。
「慧介くん、ちゃんと肩まで温まったか?」
「うん!」
「梨衣、慧さんにも夕飯食べてって貰う事にしたからね」
「あ、うん・・・」
想像と全く違う和気藹々とした雰囲気に呆然としていた私に母は笑顔で言った。
ーー何?何でこんなに普通なの?
私の予想では母は泣くか怒るかのどちらかだった。父が愛人宅に入り浸ってるような人だったから、慧くんが浮気をして私が消えた事を聞いたら自分と重ねるんじゃないのかと思っていたから。
「慧さん、申し訳ないけど慧介の面倒見てて貰えます?私と梨衣は夕飯の支度しちゃうんで」
「勿論です。こちらこそ、急にすみません」
「いいのよ、気にしないで。さ、梨衣さっさと支度しちゃいましょう」
母の目は明らかに「話がある」と告げていた。
大人しく母の言う通りに従い、私たちはキッチンで夕飯の支度を始めた。
「慧さん、慧介の父親になりたいんですって」
「うん・・・」
「大切な娘さんを悲しませて申し訳ありませんでしたって土下座してきたわ」
「え!?」
まさか土下座までしているとは思わず、支度の手を止めてしまう。そんな私を母はふっと笑い、続けた。
「母さんもね・・・最初は浮気しといて何を言っているんだって思ったわ。今までのあんたの苦労も見てるし・・・何よりアイツの事もあったからね」
母が言うアイツとは父の事だろう。やはり母は父を恨んでいると思った。
「だけどね、アイツと慧さんは違うんだって話を聞いてて思ったよ」
「え・・・何が?」
どちらも浮気をした最低な奴ではないだろうか?私にとってはどちらも同じだと感じている。
「アイツの心はあの女にあった。だけどね、慧さんの心はずっとあんたにあるんだよ」
「・・・・・・」
「梨衣がいなくなってからずっと一人だったんだって。忘れられなくて。後悔しかなくて、何度も時間を戻せたらって思ったらしいよ。あの見た目なんだし、消えた女なんか忘れて他の人にいってたっておかしくないでしょ?だけど梨衣がいいって、梨衣じゃなきゃ駄目なんだって謝られた」
「・・・そう、なんだ」
私は私自身が慧くんの足枷になるんだと思ってた。七個も年上の女が妊娠したからって、未来のある慧くんを縛り付けるなんて出来ないと思ってた。
だから慧くんの前から消えた。お腹の子ーー慧介さえいれば生きていけると思ったから。
「梨衣はさ、慧介が慧さんの邪魔になると思ったんでしょ?」
「え・・・」
「母親なんだからわかるよ。でもさ、それは慧さんがそう言ったの?それって慧介を侮辱してるんじゃないの?」
真っ直ぐな母の視線に私はその場からピクリとも動けなくなった。
「あんたに付き合ってる人がいるなら別だけど」
「付き合ってる人なんか・・・いないよ」
「いい?私は先に死ぬんだよ?そして慧介は巣立っていく。じゃあ梨衣は?ずっと慧介と一緒にはいられないんだ。私はあんたが可愛いからね、一緒にいてくれる人がいたらその方が安心するよ」
眉を下げ、笑う母は慧介は勿論私の事も考えて慧くんを受け入れたと知った。
「無理に受け入れろとは言わないよ。ただ・・・しっかり話をしなさい。慧さんにはその資格がある」
「はい・・・」
それから無言で支度を進めながら、私は母に言われた言葉を頭の中で繰り返していた。
慧介の為なんて言いつつ、結局は自分の気持ちが優先だったんだ。
慧くんの粗探しばかりして最初から話を聞こうともしていなかった。
リビングにいる二人に目を向ける。
ミニカー遊びはやめて、今はお絵描きをしているようだった。楽しそうに笑い合っている二人。
そんな二人を見て私は幸せなような、悲しいような複雑な気持ちになった。
慧介の大好物だからと決めた煮込みハンバーグを、慧くんは嬉しそう食べていた。
煮込みハンバーグは慧くんも大好きだと言っていた事をふと思い出す。
あの頃しっかり話し合っていれば今とは違う未来があったのだろうかと、無意味に私は考えてしまった。
夕飯を食べ終わり、慧介がウトウトし出した頃慧くんが帰ると言い出した。
「え?今から東京に?」
「まさか。駅の近くのビジホに予約いれてあるからそろそろ行かないと」
「まぁ。うちに泊まればいいのに」
母はもう完全に慧くんを受け入れているのだろう。泊まっていけと言う母と困ったように笑っている慧くん。
私もてっきりうちに泊まると思っていたけど、慧くんはそんな事一言も言っていない。
勝手に思い込んで、しかも泊まらせるのが当たり前だと思っていた自分が一気に恥ずかしくなった。
「さすがにそこまでは・・・。お気持ちだけ有難く頂きます」
ホテルまで送ると言った私の申し出を慧くんは断り、タクシーを呼び出した。
タクシーはすぐ到着し、見送る為に家の前まで私も出る。
「梨衣、今日は本当にありがとう」
「ううん、こちらこそ・・・。あのね、明日の昼二人で会える?」
「え・・・でも慧介が・・・」
「お母さんに頼むから。二人でちゃんと話がしたいの」
「・・・わかった。じゃ明日また連絡するよ」
片手を上げ、タクシーに乗り込む慧くんを見送りながら私は話し合う覚悟を決めた。
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