ロスハイムストーリー(異世界で少年少女が出逢い、周りを巻き込んで成長していくお話)

水渕成分

文字の大きさ
6 / 36
第一章 感情をなくした少年冒険者が笑顔を取り戻すまでのお話

第6話

しおりを挟む
 「もう一度だけ、聞かせて下さい。私に治癒魔法を使っちゃって大丈夫だったんですか?」

 デリアの質問に僕は答えた。
 「大丈夫」

 治癒魔法の残りは3回。もう1回戦闘があってもこれだけ残っていれば、大丈夫だろう。

 デリアは笑顔で言った。
 「また、笑顔で言ってくれましたね。ありがとうございます」

 今の僕は笑顔だったのか。自分ではよく分からなかった。

 ◇◇◇

 陽は沈んでしまった。

 だけど、僕たちの目の前には城内でいくつもの篝火を焚くノルデイッヒの町があった。

 間にあった……のだろう。

 僕はロスハイムのギルドの所属証があるし、デリアはもともとノルデイッヒの市民だから、やはり所属証明を持っている。

 城門さえくぐればクエスト達成コンプリートだ。そして、その城門はすぐそこに見えている。

 やっと終わった。そう思った。その時……

 ◇◇◇

 「キャーッ」
 デリアの悲鳴が上がった。

 何事かと振り向いた僕のの右肩にもその一撃は襲った。

 ぐっ、これは「矢!」

 城門が見えて気が緩む瞬間を狙って待ち伏せしてやがったのか。なんて性質たちの悪い。だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
 「デリア。矢が狙っている。伏せてっ!」

 デリアが伏せたのを確認してから、僕は周囲を確認した。僕たちを初撃で倒せなかったことを知った敵は更に射撃を加えてくる。

 だが、敵ほど夜目の利かない僕にとって、相手の位置の手掛かりにもなる。

 僕はスピアを振り回し、矢を撥ね返しながら、矢の飛んで来る方向に突進した。

 僕は超人じゃない。スピアの回転で、全ての矢を叩き落とすことなど出来なかった。

 いくつもの矢が僕の体のあちこちに刺さった。僕は心臓や喉の急所にだけは当たらないように気を付けて、突進を続けた。

 最後の最後で気を緩めたのは、明らかに僕のミスだ。だけど、引き受けたクエストは何としても達成コンプリートしなければならない。

 それは僕が誇り高いロスハイムのギルドの一員だからだ。僕が『無謀死にぞこないのグスタフ』の弟子だからだ。そして、僕の大事な依頼主クライアントデリアを守りたいからだ。

 僕の突進にもかかわらず、敵は射撃を続け、僕の体はハリネズミのようになった。

 それでも突進を止めない僕に、ついに敵は逃走を開始した。その時にはもう僕は敵が視認できるところまで近づいていた。

 「ここまで好き放題やってくれて、逃げられてたまるかよっ!」
 僕が投げたスピアは敵の胴体を貫き、敵はドウッと音を立てて倒れた。

 僕は敵に刺さったスピアを引き抜き、背中から心臓の位置に正確に刺し直した。

 心臓から噴水のように血液が噴き出した。

 ◇◇◇

 僕はスピアを杖代わりにして、やっとデリアの所へたどり着いた。

 「デリア。起きて。もう、敵は倒したよ」

 むっくりと起き上がったデリアは僕の姿を見て、驚愕した。
 「クルト君。そのたくさんの刺さっている矢は?」

 「僕は大丈夫。さあ、デリアに刺さっている矢を抜くよ。ちょっと痛いけど我慢して」

 僕はデリアに刺さっていた矢を一気に抜いた。デリアの悲鳴が上がる。

 そして、僕はデリアに残っていた治癒魔法3回を全部かけた。
 「もうこれで大丈夫。痛くもないし、傷跡も残らない」

 「そんなことより、クルト君っ、クルト君は大丈夫なんですか?」
 
 「僕は大丈夫。でも、ちょっと疲れた。少しだけ休ませて」
 僕はそのまま気を失った。










 ◇◇◇

 目を覚ました僕が見たのは、魔法の火が灯るシャンデリアの下がった豪華な天井だった。

 ここはロスハイムにあった僕の家? いや、そんな筈はない。あの家は「売掛金のカタ」として取り上げられた筈だ。

 僕はむっくりと起き上がった。凄く綺麗な寝台。だが、ロスハイムの屋敷にあったものとは種類が違う。傷跡が痛む。でも、15個もっている治癒魔法は全て使えるようになっていた。いい休養がとれたらしい。

 僕は自らに3回治癒魔法をかけた。痛みは完全にひき、傷跡も消え失せた。

 だけど、それにしてもここはどこなのだ? 宿屋だとするとまずい。多分、宿泊費で今回の報酬は全て消し飛ぶ。いや、下手すると不足分が出る。困った。ノルデイッヒのギルドで金を借りるか。嫌だな。自分が所属する所以外のギルドで金を借りると利息が高いんだ。

 僕がそんなことを考えながら佇んでいると、僕に気が付いた使用人らしき人が、奥に向かって声をかけた。

 「お嬢様。お客様がお目覚めになりましたよ」

 ◇◇◇

 その「お嬢様」は全速力で僕のいる部屋に駆け込んで来た。
 「クルト君。良かった。気が付いたんですね」

 デリア。ここはデリアの家? ということは、僕はデリアに助けられた? となると・・・・・・

 「うわああ。今回のクエストの報酬はパーか」
 僕は頭を搔きむしった。

 「どうしてそうなるんですか? クルト君は私をノルデイッヒまで護衛してくれたじゃないですか? そのクエストの報酬は支払いますよ。私も商人の娘です。契約は遵守します」

 「違うよ。そういうことじゃないんだ」
 僕はデリアに説明した。

 第一に僕がデリアを護衛したのはノルデイッヒの城門前までであって、ノルデイッヒそのものではない。
 第二に僕はデリアの家まで運んでもらった上、休養場所の提供を受けた。また、刺さっていた矢を抜いてもらうという治療行為を受けた。これには対価を支払わねばならない。

 「ふぅー」
 デリアは大きな溜息を吐いた。
 「クルト君は本当に真面目ですねえ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...