35 / 36
第四章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと
第35話
しおりを挟む
その後、トマスさんとアンナさんの家で朝食をもらった私たちは、トマスさんと一緒にノルデイッヒのギルドに入った。
「ゼップ、すまないが、ノルデイッヒのギルドメンバーにも話を聞いてもらっていいか? ことはこの地方全体に影響があると思ってるんだ」
「トマス。実はわしもそう思っていた。おまえさんも知ってのとおり、デリアはノルデイッヒの市民権を持っていたことがあるし、クルトはロスハイムの出身、ヨハンとパウラはオーベルタールの出身だし、カールはファスビンダーから来た。カトリナはカロッテ村の村長の娘だ」
「オールスターだな。そのためのパーティーメンバー選抜か?」
「それもあるが、こいつらはみんな将来有望だ。10年後の最強パーティーだ」
「そうか。ゼップがうらやましいよ。伊達に『ギルドの新しい波』と呼ばれてないな」
「いや、トマスのところだって有望なのはいる筈だ。事情が許さないのだろう。詳しく話してくれないか?」
「分かった」
トマスさんはちらりと私を見る。
「すまない。君には相当つらい話になってしまうと思う。だが、君のことは全く責めているつもりがない」
私は答えた。
「いえ、気にしないでください」
全く父も母も兄も何をやったのだろう。
「では、話を始める。ファーレンハイト商会はロスハイムではどのくらいのシェアを取っているんだ?」
トマスさんの問いにゼップさんが答える。
「4強の一角と言われているが、まあ、2割と言ったところだな」
「そうか。ノルデイッヒは町の規模が小さいこともあるが、ほぼファーレンハイト商会の独占状態だ」
「何? よく他の商人がそれを許したな」
「契約した傭兵を使い、かなり脅迫して、取引から手を引かせたようだ」
「警備隊はどうした?」
「そっちは『袖の下』だ。最初は、金に糸目をつけないやり方で骨抜きにされた。気付いた時にはもう警備隊はファーレンハイト商会の傭兵に手も足も出なくなっていた。もはや機能していない」
「そうなると…… ノルデイッヒ自体がファーレンハイト商会に私物化されてるってことか」
トマスさんは黙って頷いた。
私はもう我慢できなくなり、大声を出した。
「そんなのおかしいですよっ! そんなの『ファーレンハイト商会』じゃないっ!」
◇◇◇
「お嬢ちゃん……」
私の剣幕にトマスさんは思わず声をかけた。
「トマス。すまん」
ゼップさんがトマスさんに頭を下げた。
「強制された花嫁修業に反発して家を飛び出したとは言え、デリアはファーレンハイトの娘だ。ここは話させてもらえないか」
「あ、ああ」
トマスさんは頷いた。
私は一礼すると話し始めた。
「私はファーレンハイト家を花嫁修業の強要が嫌で飛び出しました。だけど、ファーレンハイト家の家訓は『共存共栄』です。私はこの言葉は今でも座右の銘にしています」
「……」
「亡くなったおじいちゃんもおばあちゃんも『利益を独り占めしていると伸びは止まる。領主とも警備隊ともギルドとも他の商家とも共に栄えて行くようにすることだ。そうすることでこの商会は安泰となる』。よくそう言ってたんです」
トマスさんは大きく息を吐いてから言った。
「その通りだよ。亡くなられた君のおばあさん、ベルタさんはそういう人だった。わしは今でも尊敬しとるよ」
「……」
「だが、ファーレンハイト商会は変わってしまった。ベルタさんが死の病に臥してから……」
私は最後におばあちゃんに最後に会った時のことを思い出していた。おばあちゃんはどんなに悲しい気持ちで人生最期の日々を送ったのだろう。
おばあちゃん。私の目からまた涙が流れ出した。
◇◇◇
ゼップさんはしばらく私のことを見守ってくれた後、トマスさんへの質問を再開した。
「それでその後、ノルデイッヒのギルドはどうなったんだ?」
「それがまた、ひでえもんだ」
トマスさんは溜息をついた。
「安く契約した傭兵がいるから、これからギルドは一切頼らないと一方的に言ってきやがって、仕事がなくなっちまった」
「いや、待てよ」
ゼップさんはさすがに疑問をもったようだ。
「独占状態の商会との取引がなくなるのは確かに大打撃だが、他にも公的なものから『討伐依頼』や一般のものからの『配達依頼』はあるんじゃないか?」
「いいや」
トマスさんは首を横に振った。
「公的なものは警備隊が骨抜きにされたようにもう機能していない。一般からの依頼はなくはないが、数としては知れている」
「そうか」
頷くゼップさんに、トマスさんは切り出した。
「ところで、ゼップ。頼みがある」
◇◇◇
「何だ?」
「オーベルタールの若い者を随分ロスハイムのギルドは受け入れているそうじゃないか?」
「まあな。娘のシモーネと娘婿のグスタフが送り込んで来るんだよ」
「ノルデイッヒの若いのも受け入れてほしい。もう請け負わせることが出来る仕事がいくらもないんだ」
「…… そこまで追い詰められているのか?」
「ああ。実はレベルが高い奴らはもうオーベルタールの警備隊員として受け入れてもらった。グスタフに無理を言ってな」
「おいおい。それじゃあ、ノルデイッヒのギルドは消えちまうじゃないか?」
◇◇◇
「ああ」
トマスさんは寂しそうに苦笑した。
「仕方ないんだ。食わせることが出来ないんだからな……」
「ゼップ、すまないが、ノルデイッヒのギルドメンバーにも話を聞いてもらっていいか? ことはこの地方全体に影響があると思ってるんだ」
「トマス。実はわしもそう思っていた。おまえさんも知ってのとおり、デリアはノルデイッヒの市民権を持っていたことがあるし、クルトはロスハイムの出身、ヨハンとパウラはオーベルタールの出身だし、カールはファスビンダーから来た。カトリナはカロッテ村の村長の娘だ」
「オールスターだな。そのためのパーティーメンバー選抜か?」
「それもあるが、こいつらはみんな将来有望だ。10年後の最強パーティーだ」
「そうか。ゼップがうらやましいよ。伊達に『ギルドの新しい波』と呼ばれてないな」
「いや、トマスのところだって有望なのはいる筈だ。事情が許さないのだろう。詳しく話してくれないか?」
「分かった」
トマスさんはちらりと私を見る。
「すまない。君には相当つらい話になってしまうと思う。だが、君のことは全く責めているつもりがない」
私は答えた。
「いえ、気にしないでください」
全く父も母も兄も何をやったのだろう。
「では、話を始める。ファーレンハイト商会はロスハイムではどのくらいのシェアを取っているんだ?」
トマスさんの問いにゼップさんが答える。
「4強の一角と言われているが、まあ、2割と言ったところだな」
「そうか。ノルデイッヒは町の規模が小さいこともあるが、ほぼファーレンハイト商会の独占状態だ」
「何? よく他の商人がそれを許したな」
「契約した傭兵を使い、かなり脅迫して、取引から手を引かせたようだ」
「警備隊はどうした?」
「そっちは『袖の下』だ。最初は、金に糸目をつけないやり方で骨抜きにされた。気付いた時にはもう警備隊はファーレンハイト商会の傭兵に手も足も出なくなっていた。もはや機能していない」
「そうなると…… ノルデイッヒ自体がファーレンハイト商会に私物化されてるってことか」
トマスさんは黙って頷いた。
私はもう我慢できなくなり、大声を出した。
「そんなのおかしいですよっ! そんなの『ファーレンハイト商会』じゃないっ!」
◇◇◇
「お嬢ちゃん……」
私の剣幕にトマスさんは思わず声をかけた。
「トマス。すまん」
ゼップさんがトマスさんに頭を下げた。
「強制された花嫁修業に反発して家を飛び出したとは言え、デリアはファーレンハイトの娘だ。ここは話させてもらえないか」
「あ、ああ」
トマスさんは頷いた。
私は一礼すると話し始めた。
「私はファーレンハイト家を花嫁修業の強要が嫌で飛び出しました。だけど、ファーレンハイト家の家訓は『共存共栄』です。私はこの言葉は今でも座右の銘にしています」
「……」
「亡くなったおじいちゃんもおばあちゃんも『利益を独り占めしていると伸びは止まる。領主とも警備隊ともギルドとも他の商家とも共に栄えて行くようにすることだ。そうすることでこの商会は安泰となる』。よくそう言ってたんです」
トマスさんは大きく息を吐いてから言った。
「その通りだよ。亡くなられた君のおばあさん、ベルタさんはそういう人だった。わしは今でも尊敬しとるよ」
「……」
「だが、ファーレンハイト商会は変わってしまった。ベルタさんが死の病に臥してから……」
私は最後におばあちゃんに最後に会った時のことを思い出していた。おばあちゃんはどんなに悲しい気持ちで人生最期の日々を送ったのだろう。
おばあちゃん。私の目からまた涙が流れ出した。
◇◇◇
ゼップさんはしばらく私のことを見守ってくれた後、トマスさんへの質問を再開した。
「それでその後、ノルデイッヒのギルドはどうなったんだ?」
「それがまた、ひでえもんだ」
トマスさんは溜息をついた。
「安く契約した傭兵がいるから、これからギルドは一切頼らないと一方的に言ってきやがって、仕事がなくなっちまった」
「いや、待てよ」
ゼップさんはさすがに疑問をもったようだ。
「独占状態の商会との取引がなくなるのは確かに大打撃だが、他にも公的なものから『討伐依頼』や一般のものからの『配達依頼』はあるんじゃないか?」
「いいや」
トマスさんは首を横に振った。
「公的なものは警備隊が骨抜きにされたようにもう機能していない。一般からの依頼はなくはないが、数としては知れている」
「そうか」
頷くゼップさんに、トマスさんは切り出した。
「ところで、ゼップ。頼みがある」
◇◇◇
「何だ?」
「オーベルタールの若い者を随分ロスハイムのギルドは受け入れているそうじゃないか?」
「まあな。娘のシモーネと娘婿のグスタフが送り込んで来るんだよ」
「ノルデイッヒの若いのも受け入れてほしい。もう請け負わせることが出来る仕事がいくらもないんだ」
「…… そこまで追い詰められているのか?」
「ああ。実はレベルが高い奴らはもうオーベルタールの警備隊員として受け入れてもらった。グスタフに無理を言ってな」
「おいおい。それじゃあ、ノルデイッヒのギルドは消えちまうじゃないか?」
◇◇◇
「ああ」
トマスさんは寂しそうに苦笑した。
「仕方ないんだ。食わせることが出来ないんだからな……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる