生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第7章 呪われた血筋

218.決戦(2)

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浄化ピュリフィカシオン!」

 もう何度目になるかも判らない浄化ピュリフィカシオンによってゾンビだけでなく大気中の黒い靄が消えていく。
 少しずつ、……本当に少しずつ王都が本来の姿を取り戻していくけれど、ここで暮らしていた人たちはもういない。浄化ピュリフィカシオンして、風呂洗濯消臭乾燥をして街が綺麗になっても、此処が再び国として栄える未来は今は誰も想像出来ない。

「右!」
「っ」
「俺が」

 短いやり取りでウーガさんが身を縮め一瞬前まで彼の頭があった場所をエニスさんの剣が奔った。と、首を飛ばされるゾンビ。
 腐った肉片が飛び散った。

「くさっ! ホントこれ腹立つんだけど!」

 判る。
 ただでさえひどい匂いなのに斬ったり燃やしたり、攻撃を加えると、武器などに臭いが移って広がるんだ。

「グルルァァアア!」
炎球バルフレム!」

 ユキが威嚇、尻尾で吹っ飛ばした複数のゾンビをウーガさんの矢とドーガさんの火魔法が滅する。飛び散った肉片までも消し炭にするが既に充満している臭いはまったく薄まらない。

「鼻が麻痺しそう」
「俺たちでコレだからなぁ」

 イヌ科の3人を見てみると、なんとも言えない顔をしている。

「そういえば死臭に混じって変な臭いがするっていってた件はどうですか?」

 俺にはただただ酷い臭いでしかないのだが3人とも嗅ぎ分けは出来るという。

「ただそれが何かって言われると困る」
「だねぇ。こっちもかなり濃いから臭いの素が大量にあるのかなって予想は出来るけど、それだけー」
「同じく」

 言っていたらメッセンジャーが肩に下りて来た。

『レン、24番地区の捜索完了。後は頼む』
「了解です!」
「進度が早いな。少しペース上げていくか」

 地区の数字は多少前後するが小さい数字からほぼ順番通りに要捕獲対象の捜索が進められている。
 捜索班が20もあれば、浄化ピュリフィカシオン出来るのが自分だけなら捜索完了地区が増える一方なのは当然だが、まだ11番地区なのは時間が掛かり過ぎかもしれない。
 捜索班だって、俺たちの浄化ピュリフィカシオンが済むまでは網や縄で捕縛したゾンビを監視してないとならないしね。

浄化ピュリフィカシオンの範囲広げていきます」
「頼む」
「でも無理しちゃダメだよ」

 心配してくれるクルトさんに笑顔で頷く。
 大丈夫。そのへんの調節はすごく巧くなったからね!




 魔豹ゲパールのユキが吼えた。
 本気の咆哮に網を引きちぎろうとしていたゾンビたちが硬直、そこにドーガさんら魔法使いたちの火魔法が何十発も降り注いだ。

「逃がすかよ!」

 逃れようとする敵の足元に矢を射て進路を妨害、躓いた連中をバルドルさんの剣が叩き斬る。

「あっちもヤバい」

 エニスさんの声に導かれるように振り向いた先では、縄でがっちり拘束されていたはずのゾンビたちがそれを解いて再び暴れ出そうとしていた。

「ゾンビ連中がだんだん強くなってやがる」

 メッセンジャー経由でレイナルドさんからも注意があったが、30番地区を越えた辺りから腕力が桁違いに上がっている。城に近付いているせいだろうと思われるが、言い換えれば誘い込まれているような気もする。
 クルトさんとエニスさんが切り伏せていく中で集中して唱える「浄化ピュリフィカシオン」――持って行かれる俺の神力の量も少しずつ増えている。

「みんな疲れてる……」

 適宜休息を取るよう言われているものの、もう間もなく昼になるのに要捕獲対象の捜索範囲はまだ半分も終わっていない。レイナルドさんたちもまだ城に入れていないから、出来れば今日中に終わらせたいこちら側には焦りが生まれて疲労の色が濃くなり始めている。
 王都全域に結界を張っている僧侶たちだって交代制だとは聞いているが疲労はかなりのものだろう。
 そして、どれだけの国民の命を犠牲にしてこの数のゾンビを王都に集めたんだろう。
 時間稼ぎ?
 酷い臭いでこちらが不調を来すのを期待した?
 獣人族ビーストの鼻を利かなくてして、……どんな罠を仕掛けているんだろう。

 ズゥン……ンン……ッ

 不意に地響きのような思い音が響き渡った。
 びっくりして音のした方を見たら、あまり遠くない位置で真っ黒な煙が上がっているのが見えた。

「煙……火……でも魔法使いの火じゃない……?」

 鳥肌が立った。
 嫌な予感がした、直後。

「!」

 別の場所から音がする。
 上る黒煙。

「……味方の攻撃っぽくないんだけど」

 ウーガさんが言う。
 俺もそう思う。
 かと言って勝手に動くわけにもいかず、誰もが不安を抱えながらその場の対応を進めていたら3度目の振動に体が震えた。
 更に1度目の音の方からメッセンジャーが飛んで来た。
 グランツェさんだった。

『レン、ヒユナが負傷した。治療を頼みたい。35番地区だ、来られるか』

 咄嗟にバルドルさんを見る。
 仲間と視線が重なり合う。

「行きます!」

 メッセンジャーが飛び立つのと同時に俺たちも走り出した。
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