生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第9章 未来のために

256.ご報告

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 それぞれ別行動で、ヒユナさん、ドーガさんと3人で師匠に会いに行ったらタイミングが悪かったみたいで不在だった。
 メッセンジャーを送ったら「花火」の製造に関わっている関係で戻るまで時間が掛かるとのこと。
 結果、3日後に師匠がクランハウスに来てくれることになった。
 仕方ないからそのまま帰宅。
 ヒユナさんを送って来るというドーガさんとクランハウスの前で別れて中に入ると、途端にゲンジャルさんの双子の娘さんたちに抱き着かれた。

「お帰りなさい!」

 息もぴったりのお出迎えに、俺も嬉しくなる。

「ただいま! もうゲンジャルさんとは会えた?」
「うんっ。たくさんギューッてしてくれた!」
「いまはママとらぶらぶ!」
「そっか」

 いつも通りの仲良し一家にほっこりした気持ちになりながら「また夕飯の時間にね」と声を掛けてバルドルパーティ用の棟に移動する。
 俺たちが間借りしているのは北東側の別棟3階。日当たりこそ良くはないが、5つの個室と、大人3人くらいは余裕で一緒に入れる風呂と、洗濯機が置かれた脱衣所、そしてトイレが、皆が集まって過ごせる広いリビングにL字を書くように並んでいる。
 個室の不足はL字の角に当たる広い主寝室をウーガ・ドーガ兄弟が共有することで補っている。

「……ん?」

 鍵が開いていたので誰かしら帰宅済みなのだろうと思って中に入ると途端に大きな物音が聴こえて来た。
 それぞれ個人の好みで置かれた椅子やソファのせいで雑多な印象を受けるリビングが、今日はそれ以外の家具で溢れている。

「どうしたんですか、これ」
「あ。お帰りレン!」

 真っ先に気付いたのは足元に魔豹ゲパールの雷神が座っているウーガさん。

「ただいま」

 応えると同時、雷神の頭を撫でて魔力も補充。
 気持ち良さそうに喉を鳴らしている。

「で、これは何事ですか?」
「部屋の引っ越し! レンのおかげでライジンが一緒に寝てくれるならウーガを抱き枕にしなくても良くなったじゃん? だから主寝室はバルドルとクルトに譲ることにした!」
「あ……なるほど。でもドーガさんがいないのに」
「問題ナイナイ、ただでさえ私物なんてほとんどないし、今なら1年近く不在にしていたこともあって匂いとかキレーに消えてンだもん。引っ越しするなら今でしょ」

 確かに。
 寝具なんかの布関係も全部まとめて出発前に片付けてあるが埃などはどうしたって降り積もる。またここで生活するんだから掃除は必須だし、匂いに敏感なイヌ科シアンのメンバーにとってはいまが絶好のタイミングなのかもしれない。彼らの顔を見ているとそう納得しないわけにはいかなかった。

「それで主寝室にバルドルさんとクルトさん、隣に……俺ですか」

 よく見たら俺の部屋の家具も移動していた。
 うん、俺のと言えるほど使ったこともないのだけど。

「二人の隣には誰もなりたくないって。レンなら主神様との家に帰るから気にならないっしょ?」
「それを言うなら俺には部屋が要らないんですが」

 全部バレているんだし扉一枚分の壁を占有させてもらえればそこに神具『住居兼用移動車両』Ex.の扉を顕現して解決だ。

「使わないのに一室占有するのは勿体ないです」
「いーのいーの、レンだって主神様と喧嘩して帰り辛くなることがあるかもしれないじゃん」
「えー……あ、そっか。バルドルさんと喧嘩した時にクルトさんが籠もれるよう整えておけば」
「怖いこと言うな」

 ポカリと叩かれた。
 バルドルさんだ。
 ウーガさんは愉快そうに笑ってる。

「バルドルの後追いから逃げるためとかもアリだよね」
「あ。それ大事じゃないですか、そうしましょ」
「だから止めろって」

 すごく嫌そうな顔をしているバルドルさんの後ろでは肩を震わせて笑っているクルトさん。うん、こっちも幸せそう。
 そうして改めて部屋を見渡せば、バルドルさんとクルトさん、隣が俺の部屋で、その横がエニスさんの部屋。そして主寝室の反対側隣は水回りで、ウーガさん、ドーガさんだ。

「いっそ改装の許可を貰って、俺の部屋に魔導キッチンを設置するのもアリでは?」
「それも良いがこれから次々とダンジョンに挑むことを考えると金と手間を掛けて改装するのも、な」
「そうそう」
「ふむ」

 言い合っていたら、エニスさんも部屋から出て来る。

「おい、運び出しが終わったら今度は……おう、お帰りレン。早かったな」
「ただいまです」
「そういえばセルリーさんの所に行くって言ってたのに早過ぎない?」
「ドーガは? あいつ、まさか色ボケしてレンを放っているわけじゃないだろうね」

 色ボケとは。
 疑問はあったものの「花火」の開発で不在だったセルリーとは3日後に会う約束をしたこと。ドーガさんとはクランハウスの前で別れたことを説明すると皆が納得した顔になった。

「まぁ、それならいいか」
「お仕置き案件じゃなくて良かった」
「だな。じゃあ作業を続けよう。各自部屋の掃除。1年分の埃なんかを取り終わったら、今度は自分の家具を運び入れるぞ」
「はーい」
「おう」

 俺も皆に倣って、自分の部屋だったそこに立ち入る。
 元々神具『住居兼用移動車両』Ex.の扉を設置するためだけに通り過ぎていた部屋だから私物の一つもなければ設置されていた家具に愛着もない。
 それはバルドルさんたちも把握済み。
 ましてや他大陸からゲンジャルさんたちを此処に送り届けるために扉を部屋から中央等の広間に移設した。その時に入口を開きっ放しにしてあったから、案の定、その部屋はすっかり空っぽになっていた。
 代わりに家具を運び出した誰かの足跡が付くほど床に降り積もった埃がほこりが僅かな動作でも舞い上がる。
 窓枠も真っ白だし、1年近く不在にしたんだから当然だね。
 バケツ、雑巾、箒にモップ。
 共用の掃除道具を交代で使いながらどんどん綺麗にしていく。

「家具を運ぶときは手伝うから言え」
「じゃあ全員分のマットレスをベランダに出して! 片っ端から叩くよ!」

 満面の笑みを浮かべたウーガさんが、布団叩きみたいな、先が広がった棒を持って宣言する。
 んー、叩くのを楽しみにしているみたいだけど、手間は減らした方が良いだろう。

「俺はベッド使わないので倉庫に戻してもらえますか? ……あ、ケンカした時のクルトさんのためには置いておいた方が良いのかな?」
「まだ言うか」
「いくら相思相愛でもずっと一緒じゃ気が滅入るよねぇ。番でもなし」
「それ、は……」
「それはー?」

 ニシシッ、てウーガさんが笑う。
 俺はリーデン様とならずっと一緒にいたいけどなぁ……と心の中で思っていたら、クルトさんに肩を叩かれた。

「ん、どうしたんですか?」
「あのね。皆に報告が……俺としてはレンくんに一番に伝えたくて」

 クルトさんと目で会話したらしいバルドルさんがその横に並ぶ。
 俺の前に、二人が。

「??」

 何事、と思うが早いか告げられたご報告。

「俺たち、今年の界渡りの祝日に婚姻の儀を受けることにした」
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