生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第9章 未来のために

閑話:里帰り(8)

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 side:バルドル


 どうする。
 完全に動揺して足が止まり、咄嗟には次に取るべき行動が選択出来なかった。
 昨日、もしかしたらおまえの元パーティメンバーを見かけたかもしれないなんて言いたくない。冒険者ギルドに行くのも止めた方が良いのか。いや、今日から4日間は薬師の護衛でダンジョンに入ると言っていたんだから逆に考えれば4日間は安全ってことになる。
 ……もう昼を過ぎているんだ、さすがに移動した後だよな?

「バル?」
「あ、……いや、すまん。なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないよ」

 だよな。
 自覚はある。
 しかもここから誤魔化そうなんてしたら今後の信頼関係を損なう気しかしないんだが。

「あー……おまえにはあまり良くない話だと思うんだが」
「……隠されるよりは良いと思う」

 判る。
 そう言うと思っていた。




 かと言って俺たちだけの話にするわけにもいかなければ、再度同じ説明をするのも何なんで、さっきのメッセンジャーが返って来るなり集合を掛けた。
「情報の齟齬が出るのは避けたいから全員揃うまで待ってくれるか」と訊いたら、これには迷わず頷いでくれたんでホッとする。
 それからエニス、ウーガ、ドーガが合流するまで五分も掛からなかった。予想はしていたが、やはりやることもなくて暇だと集まっていたらしい。

「もういっそ3人で依頼受けようかって話してたよ」
「で、話って? 墓参りの予定を決めるだけじゃないだろ」
「ああ……」

 無意識にクルトへ視線を向けてしまう。
 聞きたくないだろうな。
 ……違うか。
 もう吹っ切れているとは思うが、クルトに近付けるきっかけにもなったあの夜の、あの涙を思い出すと、俺個人の感情があいつらの情報なんて欠片もクルトに聞かせたくないんだ。
 かと言って誤魔化しや隠し事で今後の俺たちの関係にケチがつくのは絶対に嫌だ。
 あぁくそっ、なんでニアミスなんかしたかな。

「バル?」

 そんな目で見ないでくれ。
 もうほとんど八つ当たり気味に自分の頭を掻き乱して、諦める。

「クルト。たぶん……いや、間違いなく。おまえの元パーティメンバーがこの町にいる」
「へ?」

 声を発したのはウーガだ。
 クルトはただ目を丸くした。

「元って、え?」
「……よく判ったな。俺は名前も覚えてないんだが」

 エニスが感心と疑いを混ぜたような顔で言う。
 俺も忘れていたかった。

「パーティリーダーの名前くらいは覚えてる。けど昨日気になったきっかけは声で、さっきクルトが名前を出した時に思い出した」
「声って。それこそよく覚えてたね」
「……クルトとよく喋ってた奴だったから」

 言いたくないと思いつつも白状したら「うっわ、出たストーカー」「引くわぁ」って兄弟。
 俺も出来れば言いたくなかったんだがな!
 そもそもストーキングなんてしてない。たまにしか見かけなかったから、貴重な機会に声だけでも聞きたいと思って近くを通り過ぎただけで、わざと聞き耳立てたわけでもなく……!

「バルドルが粘着系なのはともかく」
「粘着言うな」

 エニスの痛恨の一撃に、不安になってクルトを見るも、視点の定まらない表情でぼぉっとしている。

「クルト?」

 呼び掛けても反応がない。
 顔の前で手を振る。

「クルト」
「っ、え、あ……」
「大丈夫か?」
「ああ……いや、うん。ちょっとびっくりしただけで」
「びっくり」

 ウーガが繰り返す。
 クルトが苦笑した。

「そりゃ驚くよ。まさか……」

 言い掛けて、口が閉ざされる。
 何て言いたかったんだろう。
 まさか、また会うとは思わなかった?
 それとも。

「……で、話を続けるが。今日から4日間は薬師の護衛で「サンコティオン」なんだと」
「え。ダンジョンにこもってんの?」
「なんだ、じゃあ会わずに済むじゃん」

 コロッと態度が変わったのは兄弟だ。

「もうおじさんおばさんとは挨拶済んだんでしょ? お姉さんは?」
「今夜一緒に飯食う予定だ」
「じゃあ4日間の間に他の用事も済ませてさ、さっさと帰ろ。あ、帰るんじゃなくて「セーズ」に行こうか」
「どっちでもいいよ。とにかく此処は出よう」

 これにはクルトが驚く。

「待って。せっかく実家に帰って来たのに。もっと家族と――」
「妹三人の相手マジでしんどいから」
「もう充分。ほんともう無理」

 ウーガが余計なことを言って、ヒユナの件含め話せと詰め寄られたんだろう光景が目に浮かぶ。
 それはもう大変だったことだろう。
 エニスは何も言わないが、こいつの家は家族全員が互いに不干渉なんで、例えば今すぐ出発すると言っても何の問題もないはずだ。
 と、ウーガ。

「それにさ。クルトが会いたいって言うなら良いけど、会いたくないなら、会わずに済むよう俺らが協力するのは当然でしょ」
「あんまり良くない別れ方だったのは、部外者だった俺たちにも判るし」
「だな。しかも今は完全な身内だ」

 ドーガ、エニスにまでそう続けられたら、それこそクルトはぐっと声を詰まらせたようだった。
 きっとただでさえ複雑な感情が更に複雑になったんだろう。
 それに追い打ちを掛けるのは本意ではないんだが……。

「クルト。会いたいと思うなら、たぶん今しかないぞ」
「え?」
「レンと別行動を取ることなんて今後そうは無いからな?」

 言ったら、真っ先に反応したのはやはりと言うべきかウーガだ。

「怒りで暴れ狂うレンが見えるわー」
「ギルドでめっちゃ怒ってたもんなぁ」

 全員が思い出すのは3年前のあの夜、ギルドの酒場で喧嘩を始めたクルトとレンの姿だ。さすがに正確なセリフまでは覚えていないが、クルトを捨てて逃げた連中を許さんとか、ムカつくって叫んでいたように思う。

「そう考えるとニアミスしたのがレンのいない今で良かったな」
「確かに」

 皆で笑って、それから沈黙する。
 クルトは答えを出せずにいる。

「……とりあえず、俺がすれ違った連中が本当にクルトの元パーティメンバーなのかも含めて、調べてみるか?」

 そして本当にあいつらなら、マリーの他に誰がいるのか。
 何人いるのか。
 どこに住んでいるのか、他にもいろいろ……ここ数年で流れ着いた冒険者よりも、ここが故郷である自分たちの方が横の繋がりは広い。情報は幾らでも集められるだろう。

「実際に会うかどうかはその後で決めても良いんじゃないか」
「……俺が選んでいいの?」
「当然。おまえのことなんだから」
「だよだよ。それに暇してたからやること出来て面白くなって来た!」
「面白いはさすがに不謹慎だろ」
「難しい顔突き合わせるよりマシだってば」

 緊張感のない兄弟。
 静かに見守る姿勢に入ってるエニス。
 俺は落ち込んでいるようにも見えるクルトの頭を撫でる。どうしたいのか、……ゆっくり考えてくれれば良いと思う。
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