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23 リント・バーディガル
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王弟殿下の発言に全部が飛んだ。
いや、話は聞こえているし意味も分かるんだが、理解する事を放棄した。
だって、ありえないだろう?
「ワーグマン様……いくら何でもそれは……」
「逃避しないでしっかりと考えろ馬鹿者。そもそも私達は謁見の間で六人揃い、誰一人欠けぬようにと神から加護を給わった。この六人で結界の強化を果たせと神託を授かったのだ。どちらのリント・バーディガルが本物か偽物かなど関係ない」
そこまで一息に言い放った王弟殿下はちらりと此方に視線を寄越し、微笑う。
「此処でおまえを欠くくらいなら、あの男爵令嬢に頭くらいいくらでも下げてやる」
「お供します!」
ニコラスが大声を張り上げた。
アメリアも大きく頷く。
「それにリントが『六花の神子』説、一理あると私も思うわよ」
「だろう?」
「ええ。だってリントのその紋こそ男爵令嬢に刻まれたわけじゃないんでしょう?」
「ぇ。あ、そう……かな?」
「だったら自分で自分に刻んだんでしょう?」
「え……」
そんなはずがない。
俺は自分が『六花の戦士』だと知っていたから確認しただけ。
原作で読んだから、自分がリント・バーディガルだと気付いた時点で「ある」と確信しただけーー。
「……俺が、自分で……?」
急にあの日の神様との会話を思い出す。
——ふふふ、君をこっちに喚んだのは正解だったみたいだね。一先ずは安心したよ
——つまり俺が此処に居る原因は神様ですか?
ーーうん
——……なんで俺を?
——純粋に原作を愛している子だったから、かな
神様はそう言った。
「……俺を呼んだのは神様……だ……?」
そうだ、リントじゃない。
原作小説の世界を愛していたから。
本気で恋していたから招いたのだと、俺は神様本人から聞かされていたはずだ。
ーー君を喚んだのは、その破滅を回避するためだよ
——君はあの世界のリント・バーディガルで、急に召喚されて来ましたなんて言っても信じてもらえないだろうから……
——魂を半分ちぎって来たんだ♪
「……え?」
「リント?」
呼ばれて見上げた先に、蒼い瞳。
ユージィンの眼に映る俺が、この世界のリント・バーディガル。
うふふん♪ そんなイラッとする含み笑いが聞こえた気がした。
神様、説明の仕方が逆だよ。
リントだったから魂半分だったのか、魂半分だったからリントだったのか、その後先はどちらでも構わないけれど、そこのところをもっとはっきり言ってくれたら良かったじゃないか。
半分だったんだ、俺も。リントも。
だから足して一つ。
「……もう……壊れていたんだな、リントの半分は……」
ーー……一つの強い気持ちが異変を起こすのは珍しくないってこと……
神様は幾つものヒントをとっくにくれていた。
世界を救うために俺を喚んだんだと明確な答えを最初にくれた上で、本当に幾つもの欠片を彼方此方に散りばめてくれていたのに、俺は——。
「ワーグマン様。ニコラス、アメリア、ルークレア、……ユージィン……本当にごめん……後で、本当に、たくさん話さなきゃならない事がある」
「だろうな」
「仕方ねぇ、付き合ってやるさ」
「私達を泣かせた分は別で償ってもらいますから!」
「私は泣いてはいないっ」
「ふふっ、恋バナでも盛り上がれそうね」
仲間達の優しさに。
愛情に、視界が潤む。
俺は、この人達こそを信じなければならなかった。
「……俺は確かに以前のリント・バーディガルじゃない。別人だ。文字通り人が変わったんだ……けど、いまは俺がリント・バーディガルだ」
「偽物が調子に乗ンなよ……?」
「おまえも、確かにリント・バーディガルだ。間違いなく以前の彼の一部だったんだろう」
原作の中で中ボスになったルークレアがそうだったように、彼もきっと本人で、その自覚もあるのだ。
彼にとっては自分が本物。
おかしな話じゃない。
当たり前なんだ。
だけど、俺も”俺”だ。
「俺の居場所を他人に譲る気はない……自分の責任を他に押し付ける気もない。俺は世界を救う。神様達に約束した。もう二度とその約束を違えるような真似はしない!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
お互いに構えた同じ剣。
だが、俺には仲間がいてくれる。
負けないし、負けられない。
「おおおおおお!!」
ルークレアの爪弾く音色が『六花の戦士』の力を増強させた。
赤い光。
緑の光。
黄の光。
青い光ーー力に次いで俊敏性、回避、そして癒し。
後方からの圧倒的な支援を受けながら跳躍したニコラスが、リントの頭上目掛けて全力の大剣を振り下ろす。
「うぜぇ!!」
一対一なら上空から攻めてくる相手は突き刺しやすかろう。だが視線が上を向けば上体を屈め接近していた俺が横から狙う。
それらを避けても外周を移動した王弟殿下の槍が襲い掛かる。
「失せろ目障りだ!!」
リントの背中から吹き出す真っ黒な瘴気。その波動だけで至近距離にいた俺達は吹っ飛ばされた。
「がっ」
「ぐっ」
岩壁に叩き付けられて嫌な音が体内から聞こえて来る。
すかさず治癒の光がルークレアから放たれるが、敵がそれを待つはずもなく。
かと言って『六花の戦士』は六人だ。
「させるものか!!」
直後に七本の矢が一度に射掛けられ肩から胸へ的中する。人間で言えば急所にも刺さっているだろうに、リントは苛立ったように素手て乱暴に抜いていく。
血の代わりに吹き出すのは瘴気。
それは、人間ではないのだ。
「『炎獄乱舞』!!」
「うぉぉおおおおおお!!」
噴火のごとき地面から吹き出す炎柱をリントの咆哮が震わせる。
しかし炎から逃れようとした足が矢で地面に拘束されていた。
「なっ……」
剣を持つ手首に複数の矢が立て続けに射られ、千切れ、そこからも瘴気が吹き出す。
「ニコラス!!」
「だああああああ!!」
両手剣の戦士が全力でもって襲い掛かる。
「くっ……!!」
抵抗しようとする瘴気を槍が穿ち、舞うように絡めとっていく。
「クソ……!!」
「ぐぅ、ぉ、ぅぉぉぉおおおおお!!」
ニコラスの大剣を腕で受け止めて耐えていたリントの顔色が変わる。
更に加わる圧力に確かに歪んでいく。
なくなった余裕と。
重なり加わっていく戦力。
「!! がっ……ぅぉの……れら……!!」
静かに、気付かれぬように背後から近付いた俺は、その体を背中から一気に刺し貫いた。
「これで、終わりだ」
「くそぉっ……くそおおおおおおおおお!!」
ぐっと力を籠めると、剣が光り出す。
リントを象っていたものは内部からの発光に耐え切れず叫び、黒い塵となって消えていく。
最後にカランと地面に転がったのは大きな魔石と、リントが使っていた、俺と同じ六花の剣ーー。
「……勝った、な?」
「勝っただろう」
二コラスがゆっくりと深呼吸しながら確認し、王弟殿下もゆっくりと周囲を確認してから応じる。
「……敵性反応、ありません。帰還玉も其処に……」
「続いて見えた洞窟もしっかりと行き止まりになったわね」
ルークレアとアメリアが言い、全員がそちらを振り返った。
——終わった。
「終わった……よな……?」
「まだ二十五階層だ」
「あと五つもこんなのが続くのかしら」
「三十階層は最後ですもの、これでも済まないかもしれません」
「マジかー」
ニコラスが情けない声を上げ、俺達は笑う。
恐らく二十六から二十九までは此処より全然楽だと思うが、それも一度戻ってから話すべきだろうと思い、地面に転がった魔石を拾い上げた。
「……この魔石は結界の強化用だと思うが、この剣は……」
どうしたものかと思い仲間達が見守る中でそれを手に取った俺は、次の瞬間、光りの中に呑み込まれていた。
いや、話は聞こえているし意味も分かるんだが、理解する事を放棄した。
だって、ありえないだろう?
「ワーグマン様……いくら何でもそれは……」
「逃避しないでしっかりと考えろ馬鹿者。そもそも私達は謁見の間で六人揃い、誰一人欠けぬようにと神から加護を給わった。この六人で結界の強化を果たせと神託を授かったのだ。どちらのリント・バーディガルが本物か偽物かなど関係ない」
そこまで一息に言い放った王弟殿下はちらりと此方に視線を寄越し、微笑う。
「此処でおまえを欠くくらいなら、あの男爵令嬢に頭くらいいくらでも下げてやる」
「お供します!」
ニコラスが大声を張り上げた。
アメリアも大きく頷く。
「それにリントが『六花の神子』説、一理あると私も思うわよ」
「だろう?」
「ええ。だってリントのその紋こそ男爵令嬢に刻まれたわけじゃないんでしょう?」
「ぇ。あ、そう……かな?」
「だったら自分で自分に刻んだんでしょう?」
「え……」
そんなはずがない。
俺は自分が『六花の戦士』だと知っていたから確認しただけ。
原作で読んだから、自分がリント・バーディガルだと気付いた時点で「ある」と確信しただけーー。
「……俺が、自分で……?」
急にあの日の神様との会話を思い出す。
——ふふふ、君をこっちに喚んだのは正解だったみたいだね。一先ずは安心したよ
——つまり俺が此処に居る原因は神様ですか?
ーーうん
——……なんで俺を?
——純粋に原作を愛している子だったから、かな
神様はそう言った。
「……俺を呼んだのは神様……だ……?」
そうだ、リントじゃない。
原作小説の世界を愛していたから。
本気で恋していたから招いたのだと、俺は神様本人から聞かされていたはずだ。
ーー君を喚んだのは、その破滅を回避するためだよ
——君はあの世界のリント・バーディガルで、急に召喚されて来ましたなんて言っても信じてもらえないだろうから……
——魂を半分ちぎって来たんだ♪
「……え?」
「リント?」
呼ばれて見上げた先に、蒼い瞳。
ユージィンの眼に映る俺が、この世界のリント・バーディガル。
うふふん♪ そんなイラッとする含み笑いが聞こえた気がした。
神様、説明の仕方が逆だよ。
リントだったから魂半分だったのか、魂半分だったからリントだったのか、その後先はどちらでも構わないけれど、そこのところをもっとはっきり言ってくれたら良かったじゃないか。
半分だったんだ、俺も。リントも。
だから足して一つ。
「……もう……壊れていたんだな、リントの半分は……」
ーー……一つの強い気持ちが異変を起こすのは珍しくないってこと……
神様は幾つものヒントをとっくにくれていた。
世界を救うために俺を喚んだんだと明確な答えを最初にくれた上で、本当に幾つもの欠片を彼方此方に散りばめてくれていたのに、俺は——。
「ワーグマン様。ニコラス、アメリア、ルークレア、……ユージィン……本当にごめん……後で、本当に、たくさん話さなきゃならない事がある」
「だろうな」
「仕方ねぇ、付き合ってやるさ」
「私達を泣かせた分は別で償ってもらいますから!」
「私は泣いてはいないっ」
「ふふっ、恋バナでも盛り上がれそうね」
仲間達の優しさに。
愛情に、視界が潤む。
俺は、この人達こそを信じなければならなかった。
「……俺は確かに以前のリント・バーディガルじゃない。別人だ。文字通り人が変わったんだ……けど、いまは俺がリント・バーディガルだ」
「偽物が調子に乗ンなよ……?」
「おまえも、確かにリント・バーディガルだ。間違いなく以前の彼の一部だったんだろう」
原作の中で中ボスになったルークレアがそうだったように、彼もきっと本人で、その自覚もあるのだ。
彼にとっては自分が本物。
おかしな話じゃない。
当たり前なんだ。
だけど、俺も”俺”だ。
「俺の居場所を他人に譲る気はない……自分の責任を他に押し付ける気もない。俺は世界を救う。神様達に約束した。もう二度とその約束を違えるような真似はしない!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
お互いに構えた同じ剣。
だが、俺には仲間がいてくれる。
負けないし、負けられない。
「おおおおおお!!」
ルークレアの爪弾く音色が『六花の戦士』の力を増強させた。
赤い光。
緑の光。
黄の光。
青い光ーー力に次いで俊敏性、回避、そして癒し。
後方からの圧倒的な支援を受けながら跳躍したニコラスが、リントの頭上目掛けて全力の大剣を振り下ろす。
「うぜぇ!!」
一対一なら上空から攻めてくる相手は突き刺しやすかろう。だが視線が上を向けば上体を屈め接近していた俺が横から狙う。
それらを避けても外周を移動した王弟殿下の槍が襲い掛かる。
「失せろ目障りだ!!」
リントの背中から吹き出す真っ黒な瘴気。その波動だけで至近距離にいた俺達は吹っ飛ばされた。
「がっ」
「ぐっ」
岩壁に叩き付けられて嫌な音が体内から聞こえて来る。
すかさず治癒の光がルークレアから放たれるが、敵がそれを待つはずもなく。
かと言って『六花の戦士』は六人だ。
「させるものか!!」
直後に七本の矢が一度に射掛けられ肩から胸へ的中する。人間で言えば急所にも刺さっているだろうに、リントは苛立ったように素手て乱暴に抜いていく。
血の代わりに吹き出すのは瘴気。
それは、人間ではないのだ。
「『炎獄乱舞』!!」
「うぉぉおおおおおお!!」
噴火のごとき地面から吹き出す炎柱をリントの咆哮が震わせる。
しかし炎から逃れようとした足が矢で地面に拘束されていた。
「なっ……」
剣を持つ手首に複数の矢が立て続けに射られ、千切れ、そこからも瘴気が吹き出す。
「ニコラス!!」
「だああああああ!!」
両手剣の戦士が全力でもって襲い掛かる。
「くっ……!!」
抵抗しようとする瘴気を槍が穿ち、舞うように絡めとっていく。
「クソ……!!」
「ぐぅ、ぉ、ぅぉぉぉおおおおお!!」
ニコラスの大剣を腕で受け止めて耐えていたリントの顔色が変わる。
更に加わる圧力に確かに歪んでいく。
なくなった余裕と。
重なり加わっていく戦力。
「!! がっ……ぅぉの……れら……!!」
静かに、気付かれぬように背後から近付いた俺は、その体を背中から一気に刺し貫いた。
「これで、終わりだ」
「くそぉっ……くそおおおおおおおおお!!」
ぐっと力を籠めると、剣が光り出す。
リントを象っていたものは内部からの発光に耐え切れず叫び、黒い塵となって消えていく。
最後にカランと地面に転がったのは大きな魔石と、リントが使っていた、俺と同じ六花の剣ーー。
「……勝った、な?」
「勝っただろう」
二コラスがゆっくりと深呼吸しながら確認し、王弟殿下もゆっくりと周囲を確認してから応じる。
「……敵性反応、ありません。帰還玉も其処に……」
「続いて見えた洞窟もしっかりと行き止まりになったわね」
ルークレアとアメリアが言い、全員がそちらを振り返った。
——終わった。
「終わった……よな……?」
「まだ二十五階層だ」
「あと五つもこんなのが続くのかしら」
「三十階層は最後ですもの、これでも済まないかもしれません」
「マジかー」
ニコラスが情けない声を上げ、俺達は笑う。
恐らく二十六から二十九までは此処より全然楽だと思うが、それも一度戻ってから話すべきだろうと思い、地面に転がった魔石を拾い上げた。
「……この魔石は結界の強化用だと思うが、この剣は……」
どうしたものかと思い仲間達が見守る中でそれを手に取った俺は、次の瞬間、光りの中に呑み込まれていた。
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