うみ。

みやた にな

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序章

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夜になると不安な気持ちが押し寄せてくるのは何故だろう。そんな、なんの生産性もない考えを毎晩のように巡らせながら美波は寝返りを繰り返す。全く眠れる気配がしないまま時間だけがどんどん過ぎてゆく。こうしている間にも少しずつ、でも確実に別れや死に近付いているのだろうと、そんなことを気が付くと考えているのだ。なにが不安なのか?そう聞かれてもきっとはっきりとは答えられないだろう。なにかに追われているような気分とも言えるが、それだけでは言い表せない底知れぬ不安を感じているのだ。とにかく怖いのだ、時間の流れを感じるのが、別れを実感するのが、その日を無駄にしたと1日の終わりに実感することが、大好きな恋人に振られることが。
 そう、美波には恋人がいる。1つ歳上の優しい人だ。高校1年生の美波にとって大学受験は遠いのか近いのか今一度よくわからない、そんなところに位置するものである。しかし、1つ歳上、つまり高校2年生の恋人(以降遥人とする)にとって受験はちょうど1年後に迎える重大なイベントであり、なによりも大切な人生を左右するものなのだ。
 もちろんそれを自覚している美波は自分が邪魔者なのではないか、などと邪推を勝手に働かせ夜更けに1人、沈みこんでいるのである。
 そんなことをするなら勉強して少しでも遥人に近付けばいいもののそこまでの根性がその頃の美波にはなかった。
 もうすぐ付き合って半年を迎える彼等はいわゆる倦怠期や痴話喧嘩というものを1度も経てはいなかった。その、誰もが羨むであろう事実を美波は良いものとして受け止めてはいなかった。倦怠期や痴話喧嘩を経験しなかった恋人は脆いのではないか、そんな想いが彼女にはあり、なにより彼女自身、自分の容姿や性格に自信がなくどこかで劣等感を感じていたのだ。
 美波は生まれてきてから今まで、遥人以外に2人の人と付き合った過去を持っていた。1人目の彼氏は初恋の人で、名前は河村大雅といい、1ヶ月もせずに別れてしまった。しかし、美波自身も大雅もお互いをなかなか忘れることができず、美波に至っては計5年ほどの間好きでいたのだ。そして2人とも口にこそ出さないが、未だに心の隅にお互いのことが喉に引っ掛かって取れない魚の小骨のように在中しているのは明らかだった。
 続いて2人目の彼氏は中学2年生の時に付き合った澤村龍也だ。龍也とはかれこれ半年弱ほどの付き合いになったが溜まっていた想いに耐えきれなくなった美波が別れを切り出し、それ以来疎遠である。これが今現在、遥人と喧嘩をしていないことへの不安に繋がっているのではないか、と考察される。
 前置きが長くなってしまったが、この物語は美波の心を渦巻いているどろどろとした感情や人間関係、恋愛沙汰を描いたものである。少しばかりお付き合い願いたい。
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