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物語のはじまり
12 銀髪
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「でも本当に逃げられるのですか?」
濡れそぼった髪のルルリアナが不安そうにかすれた声で尋ねるものだから、リースは早くその不安を払拭したくて仕方がなかった。
今は髪を拭くことしかできないので、リースはふわふわのタオルでルルリアナの髪を拭いていく。
濡れたルルリアナの髪は細い銀糸のように、普段よりも濃い銀色となっていた。
「大丈夫、私にはこの世界に関する知識が誰よりもあるから」
ルルリアナに不器用にウィンクする。
醜く歪んだだけのリースの顔にルルリアナは微笑んでしまう。
「何か考えがおありなのですね?」
「そう、まずはチート能力を手にいれないと」
「チート?」
「そう、チート」
--------------------
ルルリアナの強い希望で、リースが今晩ルルリアナの部屋に泊まることとなった。これも作戦と思いつつも、ルルリアナは初めての友達と過ごす夜に心が弾んでいた。
どんなに体調が悪くても気丈に振舞い冷静沈着なルルリアナが倒れ、涙を見せたことは周囲の人間を少なからず動揺させていた。
それでも神官、侍女長、護衛兵からは反対の声が上がったが、レオザルト殿下がそれを一蹴し特別に一晩だけとリースの宿泊が許可されたのである。
雪の華の歴史からみても異例の出来事であった。
騎士科寮の自室に着替えを取りに戻るというリースに、ルルリアナは少しも離れたくないとリースの手をいつまでも離さなかった。
それをレオザルト殿下とディランが嫉妬し苦々しく見つめている。ルルリアナはそれに気が付かなかったが、リースはあざとく気が付き二人にほくそ笑んだのだった。
リースはルルリアナの分の着替えも持ってきており、その着替えは男性市民が着る目立たない服であった。安物の裏地がゴワゴワする安物のグレーのトレーナーにジーンスだ。
この世界の服装は街並みは中世のよきヨーロッパ時代なのに、服装だけは現代に近いものとなっている。へそ出しもありだし、ミニスカートもありだった。
ただ、修道服しか着たことのないルルリアナにとってはとても珍しく、ルルリアナはリースに手伝われながらその服に着替える。
初めて着るズボンの感触が気持ち悪くて、ルルリアナはもじもじと足をすり合わせる。その感触にルルリアナは眉間に皺を寄せる。
「慣れない?」
「えぇ、なんだかゴワゴワしていて…少し落ち着きません」
確かに修道服はデザインこそ貧乏くさいが素材は最高級のシルクで、安物の今着ている服とは比べ物にならないだろう。
「そのうち慣れると思うよ。最悪の感触だと思うけど」
「えぇ、そうですね。でも市民はこの服を着ていると思と、自分の生活は恵まれていたのですね」
「一部部分の物質的にはね。それでね…ルルリアナ様」
「ルルリアナで構いません、リースは私のお友達ですから」
「…ありがとう。え~とね、ルルリアナ…言いにくいんだけど」
リースは神殿から脱走し市民に紛れて生活していくうえで、邪魔になるであろうルルリアナの長くて綺麗な髪を切る必要があるのだと、どうやってルルリアナに伝えようか悩んでいた。
貴族にとって綺麗な長髪は美と富の象徴でもある。神殿においては神聖さの現れでもある。
ルルリアナは髪を切ることを納得するだろうか?
市民服に着替えたルルリアナは姿見に映る自分の姿を真剣に見つめている。伸びない服なのに、精一杯腕を広げている。
「ルルリアナ。あのね、言いにくいのだけど、その長くて綺麗な髪を切る必要があるの…。なぜなら「市民にこんなに髪が長い人はいないから…ですよね?」
そう言うとルルリアナはおもむろに机から鋏を取り出し、リースに鋏を差し出す。
鋏は繊細な模様が描かれた金の鋏で、実用性は考慮されていない。これで髪を切ったら切れ味が悪くて毛先がギザギザになりそうだ。
「ちょっと、私にルルリアナの髪を切れっていうの?」
「…ダメでしょうか?ここには私とあなたしかいないし…。この髪には思い出があって、とても自分では切れそうにありません。なので、リースが私の髪を切ってくれませんか?」
「本当に私でいいの?すっごい下手くそだし失敗するかもしれないよ?」
ルルリアナは一度も髪を切ったことがない。そのためルルリアナにとって髪はレオザルト殿下がルルリアナを幸せにすると誓ったキスがされた神聖な場所でもあった。その思い出が詰まった髪を自分の手で切り捨てることができなかったのだ。
ルルリアナはそのことをリースに説明する。
リースの目がきつく細められ、鋏をもつ手に力がこもる。
「そんな誓いごとさっさと髪を切ろう!うん、切った方がいいね!あいつとの縁と一緒にね!」
リースは鋏でばっさりとルルリアナの髪を切り捨てる。長い髪がするすると床へと落ちていく。
ジョキジョキと躊躇なくリースはルルリアナの髪を切り続けていく。
床の上に落ちる髪をルルリアナは少し寂しい気持ちを抱きながら見つめていた。
「私とレオザルト殿下の絆もリースの言うとおり本当に切れてしまったでしょうか?」
鏡でバランスを確認しながら、リースはルルリアナの髪形を整えていく。体を斜めにして鏡を覗き込んでいる。
「人生をかけて誓った誓いも果たせない男との絆なんて、バッサリ切り捨てた方がいい。思い出はいつまでも綺麗だけど、現実はいつまでもあなたを幸せにはしてくれない」
「レオザルト殿下がいないのに…幸せになれるとは思いません」
首に巻いてあるタオルに落ちた髪をくるくると廻しながらルルリアナが言う。
「はぁ~。これは重症だ…」
チョキチョキと鋏を動かし、髪を整………整えているはずのリースの手は一向に止まる様子がない。ルルリアナの髪はこっちが長すぎたり、そっちが短すぎたりと長さが一向に揃わないのだ。長さを合わせているうちにルルリアナの髪はベリーショートになっていた。最初はセミショートくらいだったのに。
そのことに気が付いたルルリアナは慌ててリースを止める。
「あ、あの、リース?少し髪を切りすぎていると思いますが…」
ルルリアナに声を掛けられ、初めてルルリアナの髪形の全体を見たリースは自分のしでかしてしまったことに驚愕する。
ルルリアナの髪は男性でもしないくらい短く切られ、前髪も微妙に斜めになっている。毛先も長さがばらばらでまるでたわしの様になっていたのだ。
「ルルリアナ…その、本当にごめんなさい!」
リースはルルリアナの銀髪に顔を埋めて土下座する。
「顔をあげてください、リース。私は気にしていませんから」
そう優しくリースを許すが、ルルリアナの目は無残にも切り裂かれた髪を悲しんでいた。
「あぁ、本当にごめん。ごめんね、ルルリアナ…」
リースの方が涙目だ。
「私がリースに髪を切るようにお願いしたのですから、そんなに気にしないでください」
「それにしてもひどすぎるよ」
リースは自分がしでかしてしまったことの重大に嘆く。
リースの頭は以前と下げられたままで、ルルリアナがいくら顔をあげてとお願いしても下げられたままだった
「…そうですね!お詫びとして可愛い髪飾りでも買ってください。女生徒や侍女たちが付けている髪飾り、私も前から欲しいと思っていたんです」
ぱっと顔をあげたリースの額は真っ赤になっていた。
「うん!いくらでも買ってあげるし、なんなら私が作ってあげる!こう見えて入院生活が長かったからハンドメイド得意なの!」
「ハンドメイド?」
「刺繍とか裁縫ってこと」
「あぁ!楽しみにしていますね」
ニコリと微笑んだルルリアナは、「どんなの作ろうかな~」と悩むリースを楽し気に見つめていた。
濡れそぼった髪のルルリアナが不安そうにかすれた声で尋ねるものだから、リースは早くその不安を払拭したくて仕方がなかった。
今は髪を拭くことしかできないので、リースはふわふわのタオルでルルリアナの髪を拭いていく。
濡れたルルリアナの髪は細い銀糸のように、普段よりも濃い銀色となっていた。
「大丈夫、私にはこの世界に関する知識が誰よりもあるから」
ルルリアナに不器用にウィンクする。
醜く歪んだだけのリースの顔にルルリアナは微笑んでしまう。
「何か考えがおありなのですね?」
「そう、まずはチート能力を手にいれないと」
「チート?」
「そう、チート」
--------------------
ルルリアナの強い希望で、リースが今晩ルルリアナの部屋に泊まることとなった。これも作戦と思いつつも、ルルリアナは初めての友達と過ごす夜に心が弾んでいた。
どんなに体調が悪くても気丈に振舞い冷静沈着なルルリアナが倒れ、涙を見せたことは周囲の人間を少なからず動揺させていた。
それでも神官、侍女長、護衛兵からは反対の声が上がったが、レオザルト殿下がそれを一蹴し特別に一晩だけとリースの宿泊が許可されたのである。
雪の華の歴史からみても異例の出来事であった。
騎士科寮の自室に着替えを取りに戻るというリースに、ルルリアナは少しも離れたくないとリースの手をいつまでも離さなかった。
それをレオザルト殿下とディランが嫉妬し苦々しく見つめている。ルルリアナはそれに気が付かなかったが、リースはあざとく気が付き二人にほくそ笑んだのだった。
リースはルルリアナの分の着替えも持ってきており、その着替えは男性市民が着る目立たない服であった。安物の裏地がゴワゴワする安物のグレーのトレーナーにジーンスだ。
この世界の服装は街並みは中世のよきヨーロッパ時代なのに、服装だけは現代に近いものとなっている。へそ出しもありだし、ミニスカートもありだった。
ただ、修道服しか着たことのないルルリアナにとってはとても珍しく、ルルリアナはリースに手伝われながらその服に着替える。
初めて着るズボンの感触が気持ち悪くて、ルルリアナはもじもじと足をすり合わせる。その感触にルルリアナは眉間に皺を寄せる。
「慣れない?」
「えぇ、なんだかゴワゴワしていて…少し落ち着きません」
確かに修道服はデザインこそ貧乏くさいが素材は最高級のシルクで、安物の今着ている服とは比べ物にならないだろう。
「そのうち慣れると思うよ。最悪の感触だと思うけど」
「えぇ、そうですね。でも市民はこの服を着ていると思と、自分の生活は恵まれていたのですね」
「一部部分の物質的にはね。それでね…ルルリアナ様」
「ルルリアナで構いません、リースは私のお友達ですから」
「…ありがとう。え~とね、ルルリアナ…言いにくいんだけど」
リースは神殿から脱走し市民に紛れて生活していくうえで、邪魔になるであろうルルリアナの長くて綺麗な髪を切る必要があるのだと、どうやってルルリアナに伝えようか悩んでいた。
貴族にとって綺麗な長髪は美と富の象徴でもある。神殿においては神聖さの現れでもある。
ルルリアナは髪を切ることを納得するだろうか?
市民服に着替えたルルリアナは姿見に映る自分の姿を真剣に見つめている。伸びない服なのに、精一杯腕を広げている。
「ルルリアナ。あのね、言いにくいのだけど、その長くて綺麗な髪を切る必要があるの…。なぜなら「市民にこんなに髪が長い人はいないから…ですよね?」
そう言うとルルリアナはおもむろに机から鋏を取り出し、リースに鋏を差し出す。
鋏は繊細な模様が描かれた金の鋏で、実用性は考慮されていない。これで髪を切ったら切れ味が悪くて毛先がギザギザになりそうだ。
「ちょっと、私にルルリアナの髪を切れっていうの?」
「…ダメでしょうか?ここには私とあなたしかいないし…。この髪には思い出があって、とても自分では切れそうにありません。なので、リースが私の髪を切ってくれませんか?」
「本当に私でいいの?すっごい下手くそだし失敗するかもしれないよ?」
ルルリアナは一度も髪を切ったことがない。そのためルルリアナにとって髪はレオザルト殿下がルルリアナを幸せにすると誓ったキスがされた神聖な場所でもあった。その思い出が詰まった髪を自分の手で切り捨てることができなかったのだ。
ルルリアナはそのことをリースに説明する。
リースの目がきつく細められ、鋏をもつ手に力がこもる。
「そんな誓いごとさっさと髪を切ろう!うん、切った方がいいね!あいつとの縁と一緒にね!」
リースは鋏でばっさりとルルリアナの髪を切り捨てる。長い髪がするすると床へと落ちていく。
ジョキジョキと躊躇なくリースはルルリアナの髪を切り続けていく。
床の上に落ちる髪をルルリアナは少し寂しい気持ちを抱きながら見つめていた。
「私とレオザルト殿下の絆もリースの言うとおり本当に切れてしまったでしょうか?」
鏡でバランスを確認しながら、リースはルルリアナの髪形を整えていく。体を斜めにして鏡を覗き込んでいる。
「人生をかけて誓った誓いも果たせない男との絆なんて、バッサリ切り捨てた方がいい。思い出はいつまでも綺麗だけど、現実はいつまでもあなたを幸せにはしてくれない」
「レオザルト殿下がいないのに…幸せになれるとは思いません」
首に巻いてあるタオルに落ちた髪をくるくると廻しながらルルリアナが言う。
「はぁ~。これは重症だ…」
チョキチョキと鋏を動かし、髪を整………整えているはずのリースの手は一向に止まる様子がない。ルルリアナの髪はこっちが長すぎたり、そっちが短すぎたりと長さが一向に揃わないのだ。長さを合わせているうちにルルリアナの髪はベリーショートになっていた。最初はセミショートくらいだったのに。
そのことに気が付いたルルリアナは慌ててリースを止める。
「あ、あの、リース?少し髪を切りすぎていると思いますが…」
ルルリアナに声を掛けられ、初めてルルリアナの髪形の全体を見たリースは自分のしでかしてしまったことに驚愕する。
ルルリアナの髪は男性でもしないくらい短く切られ、前髪も微妙に斜めになっている。毛先も長さがばらばらでまるでたわしの様になっていたのだ。
「ルルリアナ…その、本当にごめんなさい!」
リースはルルリアナの銀髪に顔を埋めて土下座する。
「顔をあげてください、リース。私は気にしていませんから」
そう優しくリースを許すが、ルルリアナの目は無残にも切り裂かれた髪を悲しんでいた。
「あぁ、本当にごめん。ごめんね、ルルリアナ…」
リースの方が涙目だ。
「私がリースに髪を切るようにお願いしたのですから、そんなに気にしないでください」
「それにしてもひどすぎるよ」
リースは自分がしでかしてしまったことの重大に嘆く。
リースの頭は以前と下げられたままで、ルルリアナがいくら顔をあげてとお願いしても下げられたままだった
「…そうですね!お詫びとして可愛い髪飾りでも買ってください。女生徒や侍女たちが付けている髪飾り、私も前から欲しいと思っていたんです」
ぱっと顔をあげたリースの額は真っ赤になっていた。
「うん!いくらでも買ってあげるし、なんなら私が作ってあげる!こう見えて入院生活が長かったからハンドメイド得意なの!」
「ハンドメイド?」
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