白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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女達のはじまり

30 教会

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 リースたちは「鈍の狼」にほぼ連行される形で、「鈍の狼」が拠点としているソテリア教会を訪れていた。

 ソテリア教会はエギザベリア神国とクアドラーツゥム陸地の国境近くにある小さな教会で、かろうじてソテリア教会はエギザベリア神国に属している。

 小さな礼拝堂に孤児院が隣接されたその教会は教会にしては珍しい薄緑色の外壁に、赤い屋根の教会だ。年月を感じさせる古き良き質素な教会は、ボロボロながらもよく手入れがされていた。

 ケイントがその教会の扉をノックすると、灰色の修道女服に身を包んだ30代半ばの女性がそっと扉を開ける。

 女性はベールをしっかり被っており髪が何色か確認できなかったが、透き通った綺麗なアクアグリーンの瞳を持った控えめな美女だった。

 リースはその女性が何者なのか知っていた。

 女性の名前はサラ、ただのサラだ。ソテリア教会のたった一人の聖職者で、孤児院を細々と経営している。心優しいサラはロック、スパーク、ピスタ、そしてシーズンワンのヒロインであるリアーナの母親代わりでもあった。

 そして、ケイントの想い人でもある。

 この教会の維持費のほとんどはケイントによって賄われている。しかし、そのことをサラは知らず、見知らぬ寄付者に「神の御心」と呼び崇めているのだ。

 扉を開けたサラの肩から、ピンクの髪にコーラルグリーンの瞳を持つ愛らしい顔つきのリアーナが顔出す。

「ピスタ!ケガしてないわよね?」

 ピスタの顔を見るなり、リアーナがピスタに駆け寄りくるくる回ってピスタに怪我がないか確認している。

 それをロックが少し寂しそうな表情で見つめているが、リアーナが気が付くことなはい。

 そういえば三角関係だったな、この三人は…とリースは思い出したのだった。

「俺はケガしてないよ!」

「ロック、貴方には聞いてないわ!」

 ツーンとリアーナは可愛らしく形の良い顎を上げる。

「それで、後ろの方々たちは?」

 サラが不安げにリースたちを見てケイントへ尋ねる。

「こいつらは今回の任務で一緒になった五人組だ。怪しい奴らだが、害はないから気にするな」




――――――――――――



 リースはサラの料理の腕が激マズ設定だったことを思い出し、代わりに台所に立ち料理をしていた。

 教会の台所はサラもリアーナも料理が苦手なためか、フライパンも大きなものが一つと鍋が小さなものが一つあるだけで、調味料も塩、胡椒しかない。唐辛子とニンニクを見つけたとき、リースは神に感謝したくらいだ。

 台所に立つリースをピスタが手伝おうと申しでる。

 しかし、ピスタの料理の腕はかなり不慣れで、リースを見張るために手伝いを申し出たと言っているようだった。

 きょうのメニューは隣の農家から大量に差し入れされたブロッコリーを中心としたメニューにすることにしたのだった。

 里紗は料理が上手くはなかったが、亡くなった夫が「君は絶対に料理が上手なはずだ。それこそ喫茶店を開けるほどに上手くなるよ」とおだてられ、料理教室に通いだしたのだった。そして、料理教室のライセンスまで獲得してしまったのだ。豚もおだてりゃなんとやらである。

 そのため、リースは料理をすることが嫌いではなかった。

 慣れた手つきでブロッコリーの料理を次々と作っていく。

 ミニトマトとブロッコリーの肉巻き
 ブロッコリーとエビのパスタ
 じゃがいもとブロッコリーのスパイシーサラダ(子供もいるので辛さはずいぶんと控えめ)

「本当に料理が得意だったんだな」

「そうね。でも隠し味は毒薬だからお気をつけて」

「サラの料理よりは毒じゃないと思うけど?」

「アハハハハハ」

 台所にはサラが作ったと思われる破裂したパンがあった。パンはなぜか中が黒焦げで、表面はまだ生っぽかった。どうしたらどのように作れるのか…なぞである。

「孤児院の子供はサラの毒で慣れてるから、ちょっとした毒じゃ死なない」

 笑えない冗談である。ゲーム内で猛毒を盛られたピスタがピンピンしているエピソードがあった。その時、鈍の狼はサラのおかげで助かったと口にしていた。

 それほどサラの料理は毒に近いのかと思ったが、パンらしきなぞの物体を目の前にすると納得してしまう、リースがいるのも事実だった。

 料理が出来上がったことで、ルルリアナに本を読んでもらっていた子供たちが我先にとテーブルへ座る。

 サラの祈りとともにロクストシティリ神に捧げる短い祈りを捧げて(アインスとツヴァイは呆れて天を仰いでいた)、山のようにブロッコリーを使った料理をリースたちは鈍の狼のメンバーと教会の子供たちと食べ始める。

「美味しい!」
「こんなおいしい料理初めて!」

 料理を口に入れるなり子供たちがリースの料理を絶賛する。

 孤児院には五歳から十歳くらいの子供たちが十二人所属していた。

一番小さい子供は五歳のリッキーだ。リッキーはパスタからブロッコリーを取り分けるのを諦め、欠けた前歯の隙間から器用にパスタを食べている。にっこりと欠けた前歯で笑うリッキーは可愛らしい男の子だった。赤毛に散ったそばかすがポイントで、リースは某有名ミュージカルの女の子を思い浮かべてしまったのだった。男の子なのにごめんと心の中で謝る。

「それは良かった」

 リースがニコリと子供たちに微笑めば、ケイントが野菜を残さず食べた子供にはお土産のお菓子があるといったものだから、子供たちが食べるスピードが速くなる。

「落ち着いて食べなさい!」と、サラが優しく子供たちを注意するのだった。

「野菜を嫌いな子供たちも食べていてすごいですね」

「私も子供に野菜を食べさせるのを苦労したんだよね!でもコツがあって、子供に野菜を食べさせたかったら可愛く作るのが一つのコツだと思うの!あとはお肉でぐるぐる巻きにして隠すとかね!それとこのパスタみたいに避けられないほど細かく刻むとかね!」

「お前…そんなに若いのに子供がいるのか……」

 パスタを口に入れながらロックが突っ込む。

「あっ…つ。子供がいたらどうやって野菜を食べさせようかと考えていたから…。そう言いたかったの!」

「なるほど」

 席が離れているというのにピスタには会話がしっかりと聞かれていたようだ。油断できないとリースは思い、これ以上何も話さないようにしようと心に決める。

「そう言えばスパークにあなたの伯爵令嬢からお便りが来ていたわよ」

「だから、俺の伯爵令嬢じゃないって!……いm」

「今はって言うんでしょ?暖炉の上に置いてあるから」

 食事中だというのにスパークはリアーナがそう話すなり暖炉に伯爵令嬢の手紙を取りに向かう。

 可愛らしい鳥が描かれたピンクの便箋を手にしたスパークは、その手紙を読むなり毒づく。

「ミナの奴、学校を退学してあの貴族のボンボンと婚約破棄するみたいだ!そんあことしたら伯爵様に勘当されるに決まってるのに!」

「あ~あ、先を越されたのか、スパーク。どうせお前が横からかっさらう気でいたんだから、いいじゃないか」

 ケイントが大人らしく血の青いガキの色恋沙汰にニヤニヤしている。

「ちっとも良くない!S級の冒険者になって堂々とプロポーズするはずだったのに!俺の契約が台無しだ!」

「スパークはプロポーズの言葉まで考えていましたもんね」

「いいなぁ~。私も好きな人が一生懸命に考えた言葉でプロポーズされたいなぁ~」

 ピスタの言葉にリアーナがうっとりとした表情を浮かべ、ちらちらとピスタを見ながら口にする。

 残念ながらピスタはそのことに気が付かず、リアーナに想いを寄せるロックが気が付く。

 典型的な三角関係にリースは苦笑いを浮かべる。恋の結末を知っているリースは、心の中でとりあえずロックにエールを送る。ロックを見ていたことがバレたのか、ロックがリースを見て顔を顰めたためリースは何?っとひょうきんな顔をしてごまかすのだった。

「それで、鈍の狼は次はどこに向かうのかしら?」

 サラがさりげなくケイントに質問するが、表情からケイントたち鈍の狼を心配していることがありありと伝わる。サラはケイントに冒険者業から引退して側にいてほしいのだ。

「そうだな、次は久しぶりにヘクサゴーヌム陸地の方へ行ってみようかと思っている。あいつらの安否も気になるしな」

 ヘクサゴーヌムとはアイスクリスタの南東に枝を伸ばしている陸地のことだ。

「ヘクサゴーヌムは…やめておいた方がいいわ」

「どうして?」

「昨日の新聞にアモミカの王様夫妻が暗殺されたって載っていたから。きっと混乱していると思うの。危険だわ」

 リースはサラの言葉を聞いて、リースの口に入れるはずだったブロッコリーがコロコロと床に転がる。

 アモミカ王国はヘクサゴーヌム陸地の覇権を担う大国だ。

 そして、そのアモミカ王国の王様夫妻が殺害されたということは、「アイス・エンド・ワールド」のシーズンスリーの賽は投げられたことを意味しているのだから。
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