白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

文字の大きさ
48 / 81
在処のはじまり

44 事故

しおりを挟む
 リースたちは翌日、ルードヴィクの家の改装を開始した。

 専門の大工に依頼してもよかったが、根っからのケチなリースは自分たちで家とカフェの改装をうることにしたのだった。

 すぐに後悔する羽目になろうとも知らずに。

 DIYに憧れを抱いていたリースはいかにDIYが難しいかを身をもって体験する羽目になったのだった。

 2回の壁紙の色でアインスとツヴァイが喧嘩し、仲裁に入ったルルリアナがペンキの入った缶を盛大にぶちまけてしまったのだ。

 マーカスは長さも図らず壁に穴をあけ、壁はいらない穴がいくつも空いている。

 極めつけがルードヴィクだった。ルードヴィクが出来ると豪語した2階の浴室作りは、パイプ管から盛大に水漏れし2回丸ごと水漏れしてしまったのだ。しかもペンキと混ざり合いぐちゃぐちゃだ。

「もう!みんな、何してるのよ!」

「そういうリースだって、棚が歪んでいるわよ」

 アインスの言うとおり、リースが作った棚はなぜか歪んでいて、ものが簡単に落ちてしまいそうに見える。

 ルードヴィクが耳障りなため息を吐く。

「やはり最初からプロに任せた方がいいと私は言ったんだ」

「良く言うよ。ヴックだって自分にまかせておけば、配管工事なんて簡単だって言ってたでしょ?」

 リースのもっともな突っ込みに、ルードヴィクは珍しく後ろめたそうにしている。

「でも、大工さんに任せるにしてもここを片付けないことには始まりませんよね」

 二階から一階にかけて様々な色に染まってしまった木の床を、七人は絶望の眼差しで見つめる。

「もしかしたらこれは余計にお金がかかるかもしれないってことだろう?」

 マーカスの言葉がリースに止めを刺した瞬間だった。

「大丈夫。これくらいの家を何度でも改装できるほどの隠し財産はあるからね」

「でも…ヴィク、様?そのお金はヴィク様が王国を取りも同時に必要なお金なんでは?」

 ツヴァイがしおらしくルードヴィクに尋ね、その様子をみたアインスの目元がぴくぴくと動いている。

「彼女、一体どうなっちゃったの?本当にルードヴィクに恋してるのかしら?」

 フンと鼻を鳴らし、アインスがリースの問いに答える。

「彼はロクストシティリにそっくり。瓜二つと言ってもいいわ。ロクストシティリの血を引いているエギザベリアの王族よりも彼にそっくりなんてなんて皮肉なのかしらね」

 確かにアインスの言ったとおり、教会でちらりと見たロクストシティリ神の石像にそっくりだった。

「失った恋にうつつを抜かしているだけだから気にしない方がいいわよ。あれは一時の流行り病みたいなものだから。彼は顔はそっくりでもロクストシティリじゃないとすぐに気が付くわよ」

 リースの口から乾いた笑いが漏れる。

「恋を流行り病だなんて、アインスは愛を信じていないの?」

 少しの間、アインスは過去を思い出すようなまなざしを見せ、リースの目を見て答える。

「信じているわ。でも永遠の愛なんてこの世界には存在しないの。あるのはすぐに治る病みたいなものだけ。治れば人は簡単に忘れるのよ。人を愛していたなんてことはね」

「私と夫の愛は永遠だと思うけど?」

「夫?」

 リースはニコリと笑う。

「えぇ、私にも夫がいたの。世界で一番ステキな夫がね」

「でも、死んだんでしょ?あなたを残して」

「えぇ、そうね」

「ホラ、永遠の愛なんてないでしょ?待って」アインスは話そうとしたリースを手で制する。「思い出の中に愛は生き残ってるというのは聞き飽きたからね。そういうのは紙に記して終わりにしてくれない?おして宝箱にでも厳重にしまっておいて」

「宝箱!」

 突然叫んだリースにアインスは一歩後ろに下がる。

「何よ、突然!」

「私にはあの宝箱があったわ!」

 そう叫んだリースを部屋の中にいた六人はきょとんとした顔でただ見つめていて、リースだけが一人ハイテンションであった。

 ハイテンションなリースはゲームの中のあるアイテムの存在を思い出していた。

 それは、「アイス・エンド・ワールド」のスマホ版に登場した巻物で、好きなように部屋を改装できるといったアイテムだった。

 その巻物があれば、現実世界でも好きにインテリアを変えることができるに違いない。

 巻物は北西のリーネア陸地にあるコロッセオに保管され、強力な守護者によって守られている。

 しかしこちらにも蒼し魔女と赫き魔女が存在するのだ。きっとその守護者など簡単に倒せるに違いないのだ。

 巻物を手に入れれば、簡単に失敗することなく理想の家とカフェを手に入れることができる。

 リースの頭の中は家とカフェをどのようなものにするかという空想でいっぱいになったのだった。

 巻物を手にする代わりに、魔女たちとの関係を破滅に追いやる爆弾を抱えることになるとも知らずに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...