白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅢ DISC‐1

57 予告

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 ロークは相棒である飛龍の背に乗り、デビルマ山脈を焼き尽くそうとしている山火事を見下ろす。

 「カルマ」と名付けられたこの山火事は、落雷から発生し三日間で百八十ヘクタールあまりを焼き尽くしている。幸いけが人や死人は出ていないが、それも時間の問題だろうとロークは結論づける。

 空高く飛龍に乗って飛ぶロークの目に、カルマがその魔の手をサバウェイ山の斜面へ伸ばそうと燃え盛る様子がはっきりと映った。

 しかも、日当たりが良く乾燥している草木が生茂る南側の斜面に。

 山火事は山の斜面で急激に燃え広がる。

 サバウェイ山の向こう側には砂漠化した土地から移り住んだ人々が築き上げた街「セナカ」があった。セナカの人口は約四万人。

 つまりカルマをここで鎮火させないと、四万の人々の命と暮らしが脅かされることになるのだ。

 ロークはいつも通り、魔石が込められた通信機で仲間である「ホットショット」に連絡を図ろうとする。

 しかし、風の属性を持つザカリアは休暇中で、ザカリアが休暇を伸ばしたため通信機の魔石が魔力を失っていることを思い出す。風の魔石が込められた通信機ははっきりと自分の声を仲間に伝えることができ、暗号で簡潔に話すよりも詳細な山火事の情報を伝えることができるのだ。

「クソっ、ザカリアの奴!いつまで休んでやがる」

 ロークはまるで役に立たない通信機を空から投げ捨てる。

 通信機は一瞬にしてカルマに飲み込まれ、鉄の塊になってしまったことだろう。

 ロークは通信機をポケットに戻すと、反対のポケットから無線機を取り出し三桁の数字をいくつか口にし、簡潔に山火事の状況を伝える。

 ホットショット本部はカルマをサバウェイ山の山頂で食い止めるという結論に至ったらしい。

「了解」と短く返答し、ロークは飛龍の背中を撫で山頂に飛ぶように伝える。

「アストリア、俺たちも仲間と合流しよう」

 肺を焼き尽くしそうな高熱の風に煽られながら、ロークと相棒の飛龍アストリアはサバウェイ山の山頂を目指す。

 空から仲間のホットショットたちが山頂よりも少し下の位置で、斜面の高い位置の木々を燃やすべく火を放っている姿を発見する。ロークはアストリアに仲間たちの側に降りるように指示を出す。

「ローク!カルマは最高にいい女だろう?激しく燃えるいい女だ!」

「俺には少しじゃじゃ馬すぎる。俺はもっとおしとやかな女が好きだ」

「カルマを乗りこなせる男なんて、お前の兄さんくらいだろうよ」

 口が悪いドミニクにロークは冗談で返す。

「兄さんにカルマは絶対に紹介しない!」

「嫉妬深い男は女に嫌われるぞ」

 ドミニクは希少な火の属性の使い手でこのホットショットの隊長でもある。ドミニクは両手を上に翳し火炎魔法で周囲の木々に火を放っている。

 水が乏しいペンタゴーヌム陸地では「迎え火」という方法で山火事を消化する。迎え火というのは山火事の進行方向にある草木を人工的に燃やし尽くし、延焼を食い止めるというやり方だ。

 ロークたちホットショットはサバウェイ山の南の斜面を燃やす尽くすことで、サバウェイ山の北の斜面及びセナカを守る作戦なのだ。

 ロークは山頂の木々を薙ぎ払っている大男タイランの作業を手伝べく、タイランに話しかける。

「タイラン、俺はどこを担当したらいい?」

「ここは俺とキューリーに任せてくれ、あと少しで終わる」

 タイランとキューリーは土属性で、タイランは飛び火を防ぐべく山頂の木々を根っこから掘り起こしており、キューリーは防火帯を掘っている。

 タイランの言うとおりのこぎりで木々を切り倒すよりも、魔法で作業した方が早いし安全だろう。ロークに気を遣わず、無遠慮に薙ぎ払えばいいのだから。

 ロークは水属性であり、山火事を鎮火するべく働く仲間たちを前に何もできない自分が時々どうしようもないほど嫌になるのだった。

 水で山火事を鎮火させればいいと思うだろうが、山火事の後の焼け野原に多量の水を受け止める度量はなく土砂崩れの原因になったりするため、多量の水で消化することはなかなか危険なのだ。

 そのため乾燥激しいペンタゴーヌム陸地での山火事は、迎え火で消化するのが常識なのだ。水は火の勢いを殺すときにしか使用されないのだ。

 ロークは一歩引いたところで、防火帯や草木を燃やしている仲間たちを眺めているしかできないのだった。

 アストリアが慰めるようにザラザラした鱗の生えた顔をロークの顔に押し付ける。いつもならアストリアに辞めるように言うロークは、アストリアの好きなようにさせた。多少鱗で肌が切れ血が滲んでいたが、ロークはそんなことを気にする心の余裕はなかったのだ。
激しく握られ爪が食い込んだ拳の方が痛かったのだから。

 ロークのポケットの中の無線機が激しく鳴り、ロークは素早く無線機に応答する。

 無線機の向こうからノイズまじりの人命救助の指示を出す本部の数字が聞こえる。しかし、ノイズがひどいのと三桁の数字だけは救護ポイントの場所が大まかにしかわからなかった。

「クソっ!ザカリアの奴!助けられなかったらぶんなぐってやる」

「ザカリアは違う女と激しい恋を燃やしている最中なんだ。そう嫉妬するなよ!」

「あいつが勝手に休暇伸ばしたせいで、うちの帯は通信機の魔石が魔力切れで、旧式の無線機でしかやりとりできないんだぞ!」

 素早くアストリアの乗り込み、ロークはドミニクに怒鳴る。

「運命の相手に出会っちゃ仕方ないさ」

「あいつの運命の女が何人いるか、隊長だって知ってるだろう?」

「でも、女のために休暇を延長したのは初めてだろう?あのお祭り大好きな馬鹿野郎がよ」

 ドミニクの問いに答えず、ロークは空へと舞い上がる。

 ロークは本部の告げられた場所まで急いで向かい、救護者を見つけるために空から目を凝らす。

 本部の指示のよると救護者は木こりで、山火事から逃げ遅れた五十代男性とのことだった。

 山火事は燃え盛る火による騒音も激しいため、助けを求める声を聞くことはできない。目による捜索だけが頼りなのだ。

「アストリア!できるだけ低く飛んでくれ」

 舞い上がる風流で飛ぶことも難しい中、アストリアはできるだけロークの負担にならないようにバランスを保ちながら地面近くを飛ぶ。肌が熱でチリチリと焼かれ、これ以上近づくとロークとアストリアの命も危うい。

 ロークは炎に包まれた山小屋を発見する。山小屋の近くには小さな貯水池があり、その近くにうずくまっている人影を発見した。

 木こりを助けるために周囲の火に魔法で多量の水を掛け、ロークはアストリアの背に乗ったまま木こりに近づく。

 木こりは意識不明でロークが怒鳴っても意識は戻らず、服に包まれていない肌が山火事の熱で火傷し赤く変色している。

 ロークは木こりが意識を失っていることに感謝し、木こりをアストリアの背中に乗せる。意識を失っていなければ触れられたことでの激痛や、燃え盛る火の海を飛ぶ恐怖に耐えられなかっただろう。

 木こりを安全地帯の病院へと運ぶべく、ロークは空高く舞い現場から離れる。

 サバウェイ山を名残惜しく振り返ったロークは、カルマが予測よりも早くサバウェイ山の傾斜を駆け上る様子をただ見つめているしかなかった。

 今日は気温も高く乾燥しているため、予想よりも火の燃え上がるスピードが激しかったのだ。

「やばいな」

 ロークは急いで使い仲間たちにカルマの様子を告げようと無線機を取り出す。

 しかし、ロークが無線機に話しかける前に大きな火の龍がカルマに向かって遅いかかる。カルマは火の龍に飲み込められるような形となり、徐々に勢いを失う。

 火の龍が鎌首をもたげるころには、カルマは小さな残り火を残すだけになっていた。

 ロークの無線機を持つ手が力なくだらりと下げられる。

「…兄さんが来たのか」

 ロークはそう囁くと、二度とサバウェイ山を振り返ることなく助かるかもわからない木こりを載せ、現場を離れたのだった。

 翌日の新聞には山火事「カルマ」を鎮火させた英雄としてロークの兄であるワインズの名前と写真が一面にでかでかと載っていた。

 ロークが助けた木こりが病院で亡くなったという記事はほんの片隅に乗せられ、ロークやロークの仲間たちの名前が新聞に載ることはなかった。

 その新聞記事を読みながら、ロークは悔しそうに新聞をくしゃくしゃに丸める。

俺も兄みたいに英雄になりたい。人を大勢救える人間に。たった一つの命も救えない人間ではなくて。








ロークが主役となる「水の火消」本編の予告となります。
本編は……いつになるかわかりませんがお待ちください。



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